〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「今時のにしちゃ、えらく暗いトンネルだな」呟きながらもヘッドライトのスイッチを捻り、俺はその長いトンネルに車を乗り入れた。
山の中とは言え、よく整備された二車線の道路。そこに横たわる山に穿たれた暗い穴。オレンジ色の光が点々と、内部を照らしている。だが、どうかすると車のライトも要らないんじゃないかと思う位のトンネルもあるが、此処は……ヘッドライトの灯すら、心許ない。それ程、暗く、深い。出口を示す日の光は未だ見えもしない。
「よくこんな所にトンネル通したな」思わず独り言が漏れたのは、対向車すら無いという孤独感からだったろうか。「……本当にこの道、合ってんのか?」
心許ないながらもこんな山道を走っているのには訳がある。
この先には廃墟となったホテルがあるというのだ。所有者は荒らされるのを恐れてかなり厳重な戸締りがされている。それでもどうにか抜け道はあるが、大抵の者は先ず佇まいを見ただけで回れ右をしてしまうのだ、と。
そう俺は聞いた事があった。
今、そこで待っているとメールしてきた妹の恭子に。
山の中とは言え、よく整備された二車線の道路。そこに横たわる山に穿たれた暗い穴。オレンジ色の光が点々と、内部を照らしている。だが、どうかすると車のライトも要らないんじゃないかと思う位のトンネルもあるが、此処は……ヘッドライトの灯すら、心許ない。それ程、暗く、深い。出口を示す日の光は未だ見えもしない。
「よくこんな所にトンネル通したな」思わず独り言が漏れたのは、対向車すら無いという孤独感からだったろうか。「……本当にこの道、合ってんのか?」
心許ないながらもこんな山道を走っているのには訳がある。
この先には廃墟となったホテルがあるというのだ。所有者は荒らされるのを恐れてかなり厳重な戸締りがされている。それでもどうにか抜け道はあるが、大抵の者は先ず佇まいを見ただけで回れ右をしてしまうのだ、と。
そう俺は聞いた事があった。
今、そこで待っているとメールしてきた妹の恭子に。
ほんの数日前の事だった。
真冬に肝試しもないだろうと呆れる俺に、恭子は仲間に誘われたからと件のホテルへと足を運んだと話した。
山の上にあるホテルから眺める夜景は、空気の澄んだ冬の方が綺麗なんだって、と彼女は笑っていた。
確かに、山中には殆ど灯は無く、その最上階の窓から見下ろす下界は宝石をばら撒いた様に煌めいていたと言う。冷たく澄んだ空気が、尚その光を硬質に――丸でダイヤモンドの様に見せていた、と。
彼女等はは暫し、その光景に見蕩れていた……。
だが、いつ迄もそうしていられる気温でもない。一頻り景色とスリルを堪能すると、彼女達はは妙にはしゃぎながら車へと戻り、帰途へ着いたらしい。
それだけの筈だった。
なのに今日、突然のメールで俺はあのホテルに呼び出された。
〈きてくれないとこのこどうなってもしらないよ?〉
恭子らしくない、絵文字も顔文字も無い、平仮名だけの文面。それに「この子」って? 丸で人事の様じゃないか。俺は嫌な予感がして、今こうして車を走らせているという訳だった。
それにしても長いトンネルだ。未だ出口が見えない。日の光が恋しい。
思わずアクセルを踏む足に、力が入る。加速の所為なのか、トンネルの中には空気の唸りの様な音が満ち始めていた。
出口、出口、出口……。
いつしかそれだけを、俺は求めていた。対向車さえ無いトンネルは、本当に妹の待つホテルへと続いているのだろうか? どんどん暗くなってはいないか?
二車線ある道路――しかし本当は一方通行なんじゃないか? そんな不安感と焦燥感が湧き上がる。それでも、進むしかない。
出口を求めて。
と――。
場違いに陽気な着信音に、極度の緊張を破られた俺はシートの上で飛び上がった。だが、この着信音は、恭子が勝手に設定した彼女の携帯からの……?
後続車も無いのを幸いと、俺はトンネル内に車を停め、携帯に飛び付いた。
「もしもし? 恭子か!?」
〈どうしたの? お兄ちゃん、そんな声出して〉面食らった様な、しかしいつもの恭子の声。〈今何処に居るの? 母さんがお買い物に連れてってくれる車と運転手を探してるよ?〉
「何処に……って、お前……」俺は茫然とした声で応じる。「お前からのメールでいつか言ってた例のホテルに向かって長いトンネルをだなぁ……!」
〈メール? してないよ? それにこの間のホテルに行く途中にそんな長いトンネルなんて無かったよ? 迷ってるんじゃないの?〉
「…………」俺は携帯を握り締めた儘、暫し茫然としていた。向こうからは恭子の声が「もしもし?」を繰り返しているが、それすら耳を素通りして行く。
〈兎に角、早く戻って来てね? 母さん待ってるし。あたしも買いたい物あるからさ〉そう言って、電話は切れた。
俺は慌てて、メールの受信箱を確認する。確かにあれは恭子からだった筈……。
だが、そこにあったのは文章も発信元アドレスも意味不明な数字の羅列。
俺は一体、何を見ていたんだ? そして、何処を走って……。
トンネル内の闇が、圧し掛かってくる様だった。
俺は慌てて、車をUターンさせた。やはり既に見えなくなっている入り口を目指し、アクセルを一杯に踏み込む。また、風の唸りが耳を突く。先程よりも激しく、それは何かの怒りの声に聞こえた。
逃げろ、逃げろ、逃げろ……!
現代人から遠退いた筈の本能が、そう告げる。此処には居ちゃいけない、と。
それからどれだけ、走っただろうか。たかがトンネルの中。然程の距離があった筈もないのだが、日の光が差し込んだ時、俺は心底、その光に感謝した。闇から逃げる様にその光の中に転がり出ると、その場で俺は一旦車を停めた。トンネルを振り返る。
点々と灯された僅かな明かりが照らす暗いトンネル。こうして目を凝らして見ても、何の異常も見受けられはしないが――果たして、この先に人の行ける道はあったのだろうか?
ぞくりと身震い一つして、俺は再び車を走らせた。
本物の家族が待つ我が家へと。
―了―
や、昨日の迷い道に長ーい暗ーいトンネルがあったんですよ(笑)
幸い変な所には通じてませんでしたが(^^;)
真冬に肝試しもないだろうと呆れる俺に、恭子は仲間に誘われたからと件のホテルへと足を運んだと話した。
山の上にあるホテルから眺める夜景は、空気の澄んだ冬の方が綺麗なんだって、と彼女は笑っていた。
確かに、山中には殆ど灯は無く、その最上階の窓から見下ろす下界は宝石をばら撒いた様に煌めいていたと言う。冷たく澄んだ空気が、尚その光を硬質に――丸でダイヤモンドの様に見せていた、と。
彼女等はは暫し、その光景に見蕩れていた……。
だが、いつ迄もそうしていられる気温でもない。一頻り景色とスリルを堪能すると、彼女達はは妙にはしゃぎながら車へと戻り、帰途へ着いたらしい。
それだけの筈だった。
なのに今日、突然のメールで俺はあのホテルに呼び出された。
〈きてくれないとこのこどうなってもしらないよ?〉
恭子らしくない、絵文字も顔文字も無い、平仮名だけの文面。それに「この子」って? 丸で人事の様じゃないか。俺は嫌な予感がして、今こうして車を走らせているという訳だった。
それにしても長いトンネルだ。未だ出口が見えない。日の光が恋しい。
思わずアクセルを踏む足に、力が入る。加速の所為なのか、トンネルの中には空気の唸りの様な音が満ち始めていた。
出口、出口、出口……。
いつしかそれだけを、俺は求めていた。対向車さえ無いトンネルは、本当に妹の待つホテルへと続いているのだろうか? どんどん暗くなってはいないか?
二車線ある道路――しかし本当は一方通行なんじゃないか? そんな不安感と焦燥感が湧き上がる。それでも、進むしかない。
出口を求めて。
と――。
場違いに陽気な着信音に、極度の緊張を破られた俺はシートの上で飛び上がった。だが、この着信音は、恭子が勝手に設定した彼女の携帯からの……?
後続車も無いのを幸いと、俺はトンネル内に車を停め、携帯に飛び付いた。
「もしもし? 恭子か!?」
〈どうしたの? お兄ちゃん、そんな声出して〉面食らった様な、しかしいつもの恭子の声。〈今何処に居るの? 母さんがお買い物に連れてってくれる車と運転手を探してるよ?〉
「何処に……って、お前……」俺は茫然とした声で応じる。「お前からのメールでいつか言ってた例のホテルに向かって長いトンネルをだなぁ……!」
〈メール? してないよ? それにこの間のホテルに行く途中にそんな長いトンネルなんて無かったよ? 迷ってるんじゃないの?〉
「…………」俺は携帯を握り締めた儘、暫し茫然としていた。向こうからは恭子の声が「もしもし?」を繰り返しているが、それすら耳を素通りして行く。
〈兎に角、早く戻って来てね? 母さん待ってるし。あたしも買いたい物あるからさ〉そう言って、電話は切れた。
俺は慌てて、メールの受信箱を確認する。確かにあれは恭子からだった筈……。
だが、そこにあったのは文章も発信元アドレスも意味不明な数字の羅列。
俺は一体、何を見ていたんだ? そして、何処を走って……。
トンネル内の闇が、圧し掛かってくる様だった。
俺は慌てて、車をUターンさせた。やはり既に見えなくなっている入り口を目指し、アクセルを一杯に踏み込む。また、風の唸りが耳を突く。先程よりも激しく、それは何かの怒りの声に聞こえた。
逃げろ、逃げろ、逃げろ……!
現代人から遠退いた筈の本能が、そう告げる。此処には居ちゃいけない、と。
それからどれだけ、走っただろうか。たかがトンネルの中。然程の距離があった筈もないのだが、日の光が差し込んだ時、俺は心底、その光に感謝した。闇から逃げる様にその光の中に転がり出ると、その場で俺は一旦車を停めた。トンネルを振り返る。
点々と灯された僅かな明かりが照らす暗いトンネル。こうして目を凝らして見ても、何の異常も見受けられはしないが――果たして、この先に人の行ける道はあったのだろうか?
ぞくりと身震い一つして、俺は再び車を走らせた。
本物の家族が待つ我が家へと。
―了―
や、昨日の迷い道に長ーい暗ーいトンネルがあったんですよ(笑)
幸い変な所には通じてませんでしたが(^^;)
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Re:無題
暗いトンネルって、ライト点けてても段々視界が狭まってくる様な感じがして、何かボーっとしてきません?(危険)
ここら辺、山が多い所為かどうしても長距離移動するとトンネルにぶつかるんですよね~(--;)
ここら辺、山が多い所為かどうしても長距離移動するとトンネルにぶつかるんですよね~(--;)
こんばんは。
今年お初コメントです;
いやいや、遅くなって申し訳ありません(*_ _)人
改めてよろしくお願いします。
暗くて長いトンネルって、それだけで怖いです。
ほんとに出口なんてあるのかなぁ?
って考えただけで恐ろしい;
読みながら思わず後ろ振り返っちゃいました↓↓↓
いやいや、遅くなって申し訳ありません(*_ _)人
改めてよろしくお願いします。
暗くて長いトンネルって、それだけで怖いです。
ほんとに出口なんてあるのかなぁ?
って考えただけで恐ろしい;
読みながら思わず後ろ振り返っちゃいました↓↓↓
Re:こんばんは。
こちらこそ、今年も宜しくお願い致します(^-^)
トンネル、余りに長くて、然も傾斜があったりすると本当に出口が見えませんよね★親戚宅に行くにはトンネルが不可避なので……ちと嫌です(^^;)
トンネル、余りに長くて、然も傾斜があったりすると本当に出口が見えませんよね★親戚宅に行くにはトンネルが不可避なので……ちと嫌です(^^;)
Re:こんにちは
このこ……呼び出す為の嘘です。と言うか、改めて見たら数字の羅列に……。
何ものだったんでしょうね?(←おい)
そうそう、あの染み出した水って何かヤですよね。壁だと何かの影に見えるし(((゜□゜;)))
何ものだったんでしょうね?(←おい)
そうそう、あの染み出した水って何かヤですよね。壁だと何かの影に見えるし(((゜□゜;)))
Re:こんばんは
ははは、これだけ書いてると最早前にどんなの書いたか、詳しく覚えてないかも(←おい)
うお!? 漢字変換が風邪ひいてる!(笑)
うお!? 漢字変換が風邪ひいてる!(笑)
Re:トンネル・・・
何か息苦しいですよね!
暗いし、道路の幅は外と同じ位あっても何か狭く感じるし、対向車が迫ってくる様で……。
暗いし、道路の幅は外と同じ位あっても何か狭く感じるし、対向車が迫ってくる様で……。
Re:トンネル
高速のトンネルなんかは明るくて、殆どライト要らないんじゃない? って感じなんですけど、この間通ったトンネル、本当に長いのに点々としか灯が点いてなくて……。本当、早く抜けたかったです(>_<)
Re:こんばんわ!
確かにトンネルも橋同様、境ですねぇ(^^;)
然も周りの景色が見えないから……何処に繋がっているのか!?(((゜□゜;)))
然も周りの景色が見えないから……何処に繋がっているのか!?(((゜□゜;)))
Re:こんばんは![](/emoji/D/439.gif)
![](/emoji/D/439.gif)
トンネルお嫌いですか。
私も長いトンネルはヤダ(--;)
私も長いトンネルはヤダ(--;)