〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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今日、僕は窓辺で想像してみる。
それで昨日千晶は沈黙したのかも――と。
本当は千晶は湿っぽい話をする筈だった。
ここを出て行くという話を。
事の始まりは多分、今年の春、千晶が高校の寮に入った時だったと思う。彼女の親元はこの街からはずっと離れた過疎の村。だから全寮制のこの高校を選んだと聞いた。
白い肌と黒髪が綺麗な子だった。身近に余り同年代の子が居なかった所為か、ちょっと、クラスに溶け込むのに時間が掛かった様だけど、徐々に馴染んでいき、楽しそうに毎日を送っていた。
僕はと言えばお互いが寮に帰る迄の時間、どうやって彼女に話を持ち掛けようか、逡巡する日々だった。
モデルになってくれないか――たったそれだけの事が言えなかったのは、僕にそれ以上の期待があったからだろう。無論、裸婦像を期待した訳じゃないよ? 只、友達になりたかったんだ。
詰まらなく長い夏休みが開けた頃だったろうか、帰省から戻った千晶は数人の女子と共に僕の元に来た。どうしたのかと話を聞けば、女子寮に幽霊が出たと、彼女等は真顔で言った。
それでどうして僕の所へ? 答えは簡単だ。中学からのお調子者の同級生が触れ回ったのだ。僕の実家が幽霊寺だと。だから対処の仕方を知ってるんじゃないかって……まぁ、細い藁に縋ってみた訳だ。
幽霊寺って言ったって、只ぼろいだけ。見た目が貧相で如何にも出そうってだけで、僕だって視た事は無い。勿論対処の仕方も知らないさ。
それでも頼られた事と、千晶と話す切っ掛けが出来た事で、僕は相談を受ける事にした。何、幽霊の正体見たり枯れ尾花って奴さ。きっと何かの見間違い――それを証明して上げれば万事解決だ。
「この踊り場の鏡にね、映ったんだって」
男子寮よりちょっと高地にある女子寮。二階から三階への踊り場に設えられた等身大の姿見を指して、千晶は言った。
「ぼぅっとね、白い影が映るの!」別の女子――三鷹とかいったかな――が勢い込んで言う。「それで、それが……千晶に、似てるの」流石にちょっと口篭る。
「上半身だけなんだけどね。後ろに千晶が居るのかと思って振り返ったら、誰も居ないし、びっくりしちゃった」と、これは目撃者らしい女子。「でも、よく思い出したら、浮いてるみたいだったし、この踊り場に居るのが映ったにしては小さ過ぎ……」
「それにその時千晶はあたし達と一緒に居たもん!」と、三鷹。
「生霊とかドッペルゲンガーとかじゃないよね?」眉間に不安感を漂わせて、千晶が言った。「そういうのって本人が見たら……」
「生霊は兎も角、ドッペルは数日後に死ぬって言うよね」三鷹、不安を煽るな。
「はっきり彼女だった訳じゃないんだろ?」僕は言った。千晶を安堵させるべく。「きっと光線の加減か何かだよ。古い鏡は硝子の裏面に張った丹が剥離して、変に映る事があるんだよ。これなんか創立当時――六十年前の物じゃんか」
そうなんだぁ――女子一同の口から感心と安堵の声が漏れて、僕は少し得意になる。
こんな時なら……いや、これを切っ掛けに千晶に話し掛けるのは容易になった。今でなくてもいいだろう。
事実、程無くして僕は彼女との約束を取り付けた。彫像のモデルになってくれるという約束を。
放課後の美術室で、僕はゆっくり、ゆっくり彼女の微笑みを石膏に刻んでいく。
だが、その間にも、片付いた筈の幽霊譚が独り歩きを始めていた。やはりそれは千晶に似た姿で、例の鏡に映ると言う。僕は再度、説明した。しかし独立を始めた噂はそれ位では止まらない。見たと言う者も増えてきた。
やがて千晶自身を薄気味悪がる者も現れた。あれは彼女の生霊に違いない、と。
馬鹿な奴等だ――僕は彼女を貶める噂から、精一杯守った。
それでも……僕が守れるのは学校に居る間だけ。寮に帰れば陰口から耳を塞いで上げる事も出来はしない。千晶は徐々に精神を病んでいった。
遂に昨日、千晶は僕の部屋に別れを告げに来た。初めての訪問が別れの挨拶だなんてあんまりだと思ったが、僕は勤めて落ち着いた風を装い、彼女を窓辺の日当たりのいい席に通した。最後にくっきりと彼女の顔を脳裏に刻み付けておきたくて。もう直ぐ出来上がる彫像を完成させる為にも。
そして……千晶は沈黙した。
窓の外を見て、硬直している様にも見えた。丸で彫像の完成形の如く。
* * *
今、彼女と同じ視点に立てばよく解る。
男子寮四階の僕の部屋――段差はあるものの建物間の距離は然程無い、その窓から見えるのは、件の踊り場、そして例の鏡だった。
そして僕の部屋には美術室から持ち帰った造り掛けの千晶の彫像。
貴方の所為だったの?――千晶の唇がそう動いた気がした。
最初は偶然だったんだ――そう言おうとする僕の声も、巧く出なかった。夏休みの間に君の面影を石膏に写した。僕の想いの中だけの、不完全な君。それが原因だと気付いたのはあの日の後。
でも、僕は思ってしまった。僕を感謝の眼で見た君、それを手元に置きたいと。胸像だけでよかったんだ。
なのに、動いた君の口は僕への非難ではなく、血を吐き出した。
僕は凍った様に動けず、程無く、君は完全に沈黙した。
舌を噛み切ったのだという事は直ぐに解った。自殺したのだと。この僕の目の前で。
それは僕への無言の抗議? それとも……。
「只一人の頼りの僕に裏切られた絶望……?」
だからこその沈黙だとしたら――僕の口元は、我知らず、深い笑みを刻んだ。
―了―
よ~ぎ~り~★
訳解らん事言うから、こんなんなったじゃないか。
ブログで一つだけ不満がある事、それは「傍点」が無い事だ! あれがあるとごく自然に特定語句を強調出来るのに……。括弧を付けまくるのは見た目が煩雑になるし。
という事でアンダーラインで代用します。
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幽霊寺って言ったって、只ぼろいだけ。見た目が貧相で如何にも出そうってだけで、僕だって視た事は無い。勿論対処の仕方も知らないさ。
それでも頼られた事と、千晶と話す切っ掛けが出来た事で、僕は相談を受ける事にした。何、幽霊の正体見たり枯れ尾花って奴さ。きっと何かの見間違い――それを証明して上げれば万事解決だ。
「この踊り場の鏡にね、映ったんだって」
男子寮よりちょっと高地にある女子寮。二階から三階への踊り場に設えられた等身大の姿見を指して、千晶は言った。
「ぼぅっとね、白い影が映るの!」別の女子――三鷹とかいったかな――が勢い込んで言う。「それで、それが……千晶に、似てるの」流石にちょっと口篭る。
「上半身だけなんだけどね。後ろに千晶が居るのかと思って振り返ったら、誰も居ないし、びっくりしちゃった」と、これは目撃者らしい女子。「でも、よく思い出したら、浮いてるみたいだったし、この踊り場に居るのが映ったにしては小さ過ぎ……」
「それにその時千晶はあたし達と一緒に居たもん!」と、三鷹。
「生霊とかドッペルゲンガーとかじゃないよね?」眉間に不安感を漂わせて、千晶が言った。「そういうのって本人が見たら……」
「生霊は兎も角、ドッペルは数日後に死ぬって言うよね」三鷹、不安を煽るな。
「はっきり彼女だった訳じゃないんだろ?」僕は言った。千晶を安堵させるべく。「きっと光線の加減か何かだよ。古い鏡は硝子の裏面に張った丹が剥離して、変に映る事があるんだよ。これなんか創立当時――六十年前の物じゃんか」
そうなんだぁ――女子一同の口から感心と安堵の声が漏れて、僕は少し得意になる。
こんな時なら……いや、これを切っ掛けに千晶に話し掛けるのは容易になった。今でなくてもいいだろう。
事実、程無くして僕は彼女との約束を取り付けた。彫像のモデルになってくれるという約束を。
放課後の美術室で、僕はゆっくり、ゆっくり彼女の微笑みを石膏に刻んでいく。
だが、その間にも、片付いた筈の幽霊譚が独り歩きを始めていた。やはりそれは千晶に似た姿で、例の鏡に映ると言う。僕は再度、説明した。しかし独立を始めた噂はそれ位では止まらない。見たと言う者も増えてきた。
やがて千晶自身を薄気味悪がる者も現れた。あれは彼女の生霊に違いない、と。
馬鹿な奴等だ――僕は彼女を貶める噂から、精一杯守った。
それでも……僕が守れるのは学校に居る間だけ。寮に帰れば陰口から耳を塞いで上げる事も出来はしない。千晶は徐々に精神を病んでいった。
遂に昨日、千晶は僕の部屋に別れを告げに来た。初めての訪問が別れの挨拶だなんてあんまりだと思ったが、僕は勤めて落ち着いた風を装い、彼女を窓辺の日当たりのいい席に通した。最後にくっきりと彼女の顔を脳裏に刻み付けておきたくて。もう直ぐ出来上がる彫像を完成させる為にも。
そして……千晶は沈黙した。
窓の外を見て、硬直している様にも見えた。丸で彫像の完成形の如く。
* * *
今、彼女と同じ視点に立てばよく解る。
男子寮四階の僕の部屋――段差はあるものの建物間の距離は然程無い、その窓から見えるのは、件の踊り場、そして例の鏡だった。
そして僕の部屋には美術室から持ち帰った造り掛けの千晶の彫像。
貴方の所為だったの?――千晶の唇がそう動いた気がした。
最初は偶然だったんだ――そう言おうとする僕の声も、巧く出なかった。夏休みの間に君の面影を石膏に写した。僕の想いの中だけの、不完全な君。それが原因だと気付いたのはあの日の後。
でも、僕は思ってしまった。僕を感謝の眼で見た君、それを手元に置きたいと。胸像だけでよかったんだ。
なのに、動いた君の口は僕への非難ではなく、血を吐き出した。
僕は凍った様に動けず、程無く、君は完全に沈黙した。
舌を噛み切ったのだという事は直ぐに解った。自殺したのだと。この僕の目の前で。
それは僕への無言の抗議? それとも……。
「只一人の頼りの僕に裏切られた絶望……?」
だからこその沈黙だとしたら――僕の口元は、我知らず、深い笑みを刻んだ。
―了―
よ~ぎ~り~★
訳解らん事言うから、こんなんなったじゃないか。
ブログで一つだけ不満がある事、それは「傍点」が無い事だ! あれがあるとごく自然に特定語句を強調出来るのに……。括弧を付けまくるのは見た目が煩雑になるし。
という事でアンダーラインで代用します。
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Re:早い~
まめっぽい話は流石に解らず湿っぽい話に(^^;)
しかし一行目に「~で想像する」って、状況設定に結構悩むんですけど(笑)
結局追憶っぽい怖い話になっちゃいました☆
ポッポー♪
しかし一行目に「~で想像する」って、状況設定に結構悩むんですけど(笑)
結局追憶っぽい怖い話になっちゃいました☆

Re:あらら
有難うございます。
私には珍しい恋愛物? と見せて無理矢理ミステリーに持って行きました(笑)
この裏切りが愉しいものであれば幸いです(^^)
私には珍しい恋愛物? と見せて無理矢理ミステリーに持って行きました(笑)
この裏切りが愉しいものであれば幸いです(^^)
Re:・・・こ、
怖かったですか~
最後直接手を下させようかどうしようかとか、結構悩みました。真夜中に何て事で悩んでるんでしょう、私。

最後直接手を下させようかどうしようかとか、結構悩みました。真夜中に何て事で悩んでるんでしょう、私。
Re:スイスイ読めました
ヨリモさん、いらっしゃいませ(^^)
大概のは前に掲示板やY!のブログで書いたものの再録です。その中にも一発書きはありますが。
最近はブログペットの夜霧が意味不明の投稿をしてくれるので、それを種に何か出来ないかと微かな知恵を絞って書いたのが本作と「引っ越し」、「注意して」……果たしてどこ迄対応出来るのか、挑戦中です。
大概のは前に掲示板やY!のブログで書いたものの再録です。その中にも一発書きはありますが。
最近はブログペットの夜霧が意味不明の投稿をしてくれるので、それを種に何か出来ないかと微かな知恵を絞って書いたのが本作と「引っ越し」、「注意して」……果たしてどこ迄対応出来るのか、挑戦中です。
Re:無題
傍点(ぼうてん)があるとくどくど書かなくて済む場合があるので、便利なんですよね(^^;)
舌を噛み切った場合、実際には血が気道に詰まっての窒息死なんですね。だから早く手を打てば助からなくもないんですけど……。助けなかった辺り、やっぱり歪んでますね。彼。
舌を噛み切った場合、実際には血が気道に詰まっての窒息死なんですね。だから早く手を打てば助からなくもないんですけど……。助けなかった辺り、やっぱり歪んでますね。彼。