〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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昨日は注意しなかった。
何故だろう。
いつもなら、例え共に居る僕が言わなくとも、彼女は注意深く周囲を窺い、それからこの人通り寂しい交差点での一歩を踏み出すのだ。
なのに彼女は立ち止まりもせず、寧ろ綻び出したらしい花の香を楽しもうとしていた僕を引き摺るかの様な早足で、横断歩道に足を下ろした。
勢いよく発車した左折車が来ていたにも拘らず。
僕の直前で、彼女の身体が飛んだ。
滅多に声を立てる事の無い彼女の短い悲鳴――それが最後となった。
僕は暗闇の中、念の為に病院に運ばれ、右手にほんの掠り傷を負っている事を知らされた。でも、そんなのは痛くもなかった。
それから二十四時間後――詰まり今、同じ交差点に立って僕は考える。
何故だろう。
いつもなら、例え共に居る僕が言わなくとも、彼女は注意深く周囲を窺い、それからこの人通り寂しい交差点での一歩を踏み出すのだ。
なのに彼女は立ち止まりもせず、寧ろ綻び出したらしい花の香を楽しもうとしていた僕を引き摺るかの様な早足で、横断歩道に足を下ろした。
勢いよく発車した左折車が来ていたにも拘らず。
僕の直前で、彼女の身体が飛んだ。
滅多に声を立てる事の無い彼女の短い悲鳴――それが最後となった。
僕は暗闇の中、念の為に病院に運ばれ、右手にほんの掠り傷を負っている事を知らされた。でも、そんなのは痛くもなかった。
それから二十四時間後――詰まり今、同じ交差点に立って僕は考える。
何故彼女は昨日に限り、注意しなかったのだろう、と。
いつもの散歩コース。いつもの夕暮れ。
何が変わっていたと言うのだろう?
「もう戻らない?」付き添って来てくれた伯母が言った。「ここに来るの、辛いでしょう」
「ええ……。でも、どうしても気になって……」
彼女が意味も無くあんな行動をとったとは思えない。彼女は気紛れでも愚かでもなかった。僕との外出には細心の注意を払ってくれていた。
「でも……いつ迄もここに居ても……」
「……そうだね」出来るだけゆっくりと頷いて、僕は踵を返した。
伯母は僕の気を紛らわそうと色々な話をしながら、僕の手を引いて歩く。
十分程も歩いたろうか。
僕は脚を止めた。
怪訝そうな伯母の手を些か強引に振り払う。
「伯母さん……昨日もその香水、付けてた?」僕は訊いた。
昨日あの交差点で咲き出したばかりと思った花の香――その香りが未だ、していた。それも直ぐ隣の人物から。
鋭くなったと思っていた僕の嗅覚。それでも未だ人工物と自然物を取り違う程度だったか……。
伯母の答えは沈黙だった。
「昨日、あの交差点に居たんだね?」
しかし事故の後、彼女が駆け寄って来てくれるような事は無かった。それは詰まり、あの時あの場に居た事を知られたくなかった事を意味する。
「何を、していた――しようとしていたの?」
「……父は――貴方のお祖父さんはね、財産を弟に全て譲る心算だったのよ。ところが弟夫婦は事故で死に、残されたのは九死に一生を得た貴方一人」
「僕が居なければ……そういう事?」もしかして、両親の死も……。
「そうね。あの交差点なら、ちょっと貴方がふらつけば……。あの左折車はもしかしたら曲がるよりも前に、貴方を轢いていたかも知れないわね。もしくは後続車が」
しかし、彼女の所為でタイミングがずれた。そう悔しげに、伯母は唸った。
彼女は解っていたのだ。いつもの散歩コース、伯母が虎視眈々と僕を始末する頃合を見計らっていた事を。
だから態と、一歩踏み出した。自分が前に出る事で、僕を守ろうとした。
「でも、もう居ないわ」伯母は笑った。醜悪な顔をしているのが判る、笑い声。
僕は自分が迂闊だった事に気付いた。ここはどこだろう? 人の気配がしない……。
「無理よ」伯母の言葉は死刑宣告の様だった。「事故で視覚を失って以来、貴方は一人では出歩く事も出来ない。その分鼻が利く様になっていたのは誤算だったけど……ここから一人で逃げ帰る事も出来ないでしょう?」
そして伯母が隠し持っているかも知れない凶器から逃れる事も出来ない。
伯母の気配は直ぐそこにある。
でも……。
「マイア」僕は昨日以来姿を消した彼女の名を呼んだ。
伯母の嘲笑の気配……それが驚愕と変わり、悲鳴が木霊した。
滅多に吠える事も無く、決して人に牙を向けないように仕込まれた盲導犬。しかし、彼女――マイア号はもはや僕の母の様な存在だった。
どこで痛めた身体を癒していたものか、ぺろり、と僕の手を舐めた彼女はたいそう弱々しかった。それでもその身体を抱き締めると、どうやら急所は外していたらしい事が解る。
結局、彼女は昨日も、充分、注意していたのだった。
―了―
夜霧が「昨日は注意しなかった」なんて言うから(笑)
本も読みたいのに、つい考えちゃったじゃないか~!
いつもの散歩コース。いつもの夕暮れ。
何が変わっていたと言うのだろう?
「もう戻らない?」付き添って来てくれた伯母が言った。「ここに来るの、辛いでしょう」
「ええ……。でも、どうしても気になって……」
彼女が意味も無くあんな行動をとったとは思えない。彼女は気紛れでも愚かでもなかった。僕との外出には細心の注意を払ってくれていた。
「でも……いつ迄もここに居ても……」
「……そうだね」出来るだけゆっくりと頷いて、僕は踵を返した。
伯母は僕の気を紛らわそうと色々な話をしながら、僕の手を引いて歩く。
十分程も歩いたろうか。
僕は脚を止めた。
怪訝そうな伯母の手を些か強引に振り払う。
「伯母さん……昨日もその香水、付けてた?」僕は訊いた。
昨日あの交差点で咲き出したばかりと思った花の香――その香りが未だ、していた。それも直ぐ隣の人物から。
鋭くなったと思っていた僕の嗅覚。それでも未だ人工物と自然物を取り違う程度だったか……。
伯母の答えは沈黙だった。
「昨日、あの交差点に居たんだね?」
しかし事故の後、彼女が駆け寄って来てくれるような事は無かった。それは詰まり、あの時あの場に居た事を知られたくなかった事を意味する。
「何を、していた――しようとしていたの?」
「……父は――貴方のお祖父さんはね、財産を弟に全て譲る心算だったのよ。ところが弟夫婦は事故で死に、残されたのは九死に一生を得た貴方一人」
「僕が居なければ……そういう事?」もしかして、両親の死も……。
「そうね。あの交差点なら、ちょっと貴方がふらつけば……。あの左折車はもしかしたら曲がるよりも前に、貴方を轢いていたかも知れないわね。もしくは後続車が」
しかし、彼女の所為でタイミングがずれた。そう悔しげに、伯母は唸った。
彼女は解っていたのだ。いつもの散歩コース、伯母が虎視眈々と僕を始末する頃合を見計らっていた事を。
だから態と、一歩踏み出した。自分が前に出る事で、僕を守ろうとした。
「でも、もう居ないわ」伯母は笑った。醜悪な顔をしているのが判る、笑い声。
僕は自分が迂闊だった事に気付いた。ここはどこだろう? 人の気配がしない……。
「無理よ」伯母の言葉は死刑宣告の様だった。「事故で視覚を失って以来、貴方は一人では出歩く事も出来ない。その分鼻が利く様になっていたのは誤算だったけど……ここから一人で逃げ帰る事も出来ないでしょう?」
そして伯母が隠し持っているかも知れない凶器から逃れる事も出来ない。
伯母の気配は直ぐそこにある。
でも……。
「マイア」僕は昨日以来姿を消した彼女の名を呼んだ。
伯母の嘲笑の気配……それが驚愕と変わり、悲鳴が木霊した。
滅多に吠える事も無く、決して人に牙を向けないように仕込まれた盲導犬。しかし、彼女――マイア号はもはや僕の母の様な存在だった。
どこで痛めた身体を癒していたものか、ぺろり、と僕の手を舐めた彼女はたいそう弱々しかった。それでもその身体を抱き締めると、どうやら急所は外していたらしい事が解る。
結局、彼女は昨日も、充分、注意していたのだった。
―了―
夜霧が「昨日は注意しなかった」なんて言うから(笑)
本も読みたいのに、つい考えちゃったじゃないか~!
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お久しぶりです。
こちらではご無沙汰しております。(ペコリ)
おぉ~完全新作が~♪しかも2作も!ちょっとほろりと切ないですね…(ノ_・,)そして、もはや職業病?(笑)
ランキングにも、参加を始めたんですね~
ぽちっとしましたが、携帯からはエラーが(T_T)ワンクリでの協力は出来ませんが、これからも応援しております☆
おぉ~完全新作が~♪しかも2作も!ちょっとほろりと切ないですね…(ノ_・,)そして、もはや職業病?(笑)
ランキングにも、参加を始めたんですね~
ぽちっとしましたが、携帯からはエラーが(T_T)ワンクリでの協力は出来ませんが、これからも応援しております☆
Re:お久しぶりです。
あすかさん、こんにちは(^^)/
感想有難うございます!
思い付いたので書いてしまう……職業ではないけど、確かに病気かも知れません(笑)
ワンクリはお気持ちだけでも嬉しいです(^^)♪
感想有難うございます!
思い付いたので書いてしまう……職業ではないけど、確かに病気かも知れません(笑)
ワンクリはお気持ちだけでも嬉しいです(^^)♪
罪な猫だにゃ
ー了ー の、後のコメント読んで笑っちゃいました(^^)
本当は私もここに読みに来てる場合じゃないのに、罪な夜霧の性だわ(笑)
ちょうど今テレビで〇導〇 を扱っています。偶然なのか?もしかして夜霧の……??
本当は私もここに読みに来てる場合じゃないのに、罪な夜霧の性だわ(笑)
ちょうど今テレビで〇導〇 を扱っています。偶然なのか?もしかして夜霧の……??
だにゃ(笑)
何に気を付けなかったんだよ~、と考えていたらついつい(笑)
○導○……夜霧サン、予知能力でもあるのかな? ってか、書かされた!?
恐るべし、猫☆
○導○……夜霧サン、予知能力でもあるのかな? ってか、書かされた!?
恐るべし、猫☆
moonさん♪
有難うございます。
嬉しいお言葉です♪
お暇な時にでも、またお立ち寄り下さいませ(^^)
嬉しいお言葉です♪
お暇な時にでも、またお立ち寄り下さいませ(^^)