〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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古来より、橋は異界との境と伝えられる――ならば、その下は?
「やっぱり、あったあった」俺は浮かれた声で呟く。
目の前にはぽっかりと開いた暗渠。足元にはちょろちょろと心許ない水の流れが、かつての川の名残りを匂わせている。頭上には苔に覆われた石造りのトンネル――いや、アーチを描く橋だった。
かつては石橋だったものが、土砂に埋もれ、年月に埋もれ、地上に一部を出すだけとなっていたり、トンネルの一部に流用されていたりする事がある。かつて川だった場所、今は寂れた村との境の場所を探せば、時折、見付かる。
それを探すのが、目下の俺の趣味だった。会社の休みともなれば、自転車を駆って各地の道を巡る。車じゃあ、足元なんてのんびり見ちゃいられない。自転車が丁度良かった。
道と共に生命線だったそれが廃れ行き、忘れ行かれる様に、某かの哀れさを感じたのかも知れない。あるいは時の流れの無情さか。
そして今日も、俺は一つの「橋」を見付けた。
「やっぱり、あったあった」俺は浮かれた声で呟く。
目の前にはぽっかりと開いた暗渠。足元にはちょろちょろと心許ない水の流れが、かつての川の名残りを匂わせている。頭上には苔に覆われた石造りのトンネル――いや、アーチを描く橋だった。
かつては石橋だったものが、土砂に埋もれ、年月に埋もれ、地上に一部を出すだけとなっていたり、トンネルの一部に流用されていたりする事がある。かつて川だった場所、今は寂れた村との境の場所を探せば、時折、見付かる。
それを探すのが、目下の俺の趣味だった。会社の休みともなれば、自転車を駆って各地の道を巡る。車じゃあ、足元なんてのんびり見ちゃいられない。自転車が丁度良かった。
道と共に生命線だったそれが廃れ行き、忘れ行かれる様に、某かの哀れさを感じたのかも知れない。あるいは時の流れの無情さか。
そして今日も、俺は一つの「橋」を見付けた。
埋もれた橋を見付けるには、やはり先ずは川。地層のずれといった環境の変化で細くなっている事も多いが、それを注意深く見付けるのも、丸で宝探しの様で楽しかった。
今日見付けた川も、残るは微かな流れだけ。よく見付けたものだと、自画自賛する。
上は近代的なアスファルトの道路が走る、谷沿いの道。だがその足元には古来の動線を抱いていたのだ。上の道に自転車を止め、俺は傾斜のきつい、下生えに覆われた斜面を降りて来た。見上げてみるが、木々に遮られ、上の道路は見えず、空が僅かに覗くのみ。
俺は石造りの壁、いや、橋脚を叩き、強度を確かめる。大丈夫。上部のアーチもしっかりと組み合い、上からの力を巧く分散している。芸術的な迄に計算された造りに、暫し俺は感嘆する。
俺はマッチを擦り、暗闇に差し出してみる。不自然に火が消される様子は無い。二酸化炭素が溜まっていたりはしない様だ。これなら取り敢えずは安全だろう、と俺は一人頷いた。
そして、用意して来た強力なライトを点灯し、足元に気を付けながらも、その中に――いや、橋の下に、足を踏み入れた。
微かな水の流れる音と、俺の足音が木霊する。橋は幅の広い立派な物だったのか、それとも反対側を排水溝の一部にでも再利用されてでもいるのか、奥が深く、闇も深い。
俺は橋脚を照らした。未だ、整然とした石造りが続いている。新たにコンクリートが付け足された様子も無い。という事は未だ、件の石橋なのだ。
「随分と幅が広かったんだな……」独り言が木霊する。行く先を照らしてみても、未だ変わりは無い。「川自体の幅はそれ程でもなかったみたいなのに……」
橋脚の間は標準的な成人男子の俺が二人、両手を広げて立てば届く程度だろう。それにしてはこの奥行き――橋の幅は広過ぎるのではないか? 振り向けば、入り口の日差しが遠くに見える。
橋に繋がっていたであろう過去の道の広さを考えても、これは余りにも……。俺はひんやりとした空気の中に、それとは異種のぞくりとしたものを感じて、肌を粟立たせた。
先は見えない。何かがおかしい。俺は最後にライトの灯で前方を一撫でして、引き返す事を決心した。
そして――暗闇を横薙ぎにした明かりの中に、一瞬、何かが浮かび上がった。だが、慌てて戻したライトには、何もそれらしきものは浮かばない。
こんな所に動くものが居るだろうか? こんな、陽も差さない場所に。いや、洞窟に棲む生物ならこの水気のある暗い場所を好むかも知れない。そして向けられた明かりを嫌って咄嗟に逃げる事も……。
だが……それは理屈ではない、直感の様なものだったのだろうか。
俺は水音を立てながら、入り口に向かって駆け出した。が、直ぐに水に足を取られ、足が鈍る。
足が浸かるかどうかといった所だった水が、いつの間にか足首迄、いや、それは急速にふくらはぎ付近迄、水嵩を増していた。涸れ川の筈なのに。
俺は駆ける。
その足に纏い付く様な、あるいは縋りつく様な水の感触が、俺をパニックに追い込もうとする。だが、こんな所でたった独り、パニックに陥ったら一大事。俺は前方の日差しだけを頼みと、駆け続けた。
木漏れ日の下、肩で大きく息をして、俺は改めて橋の下を見遣った。
慌てて出て来たのが滑稽な程、何の異常も無い。動くのはちょろちょろと心許ない水の流れだけ。先程迄の水の勢いはどこへ行ったのだろう? 俺のジーンズには確かに、膝迄水のついた跡があると言うのに。
そしてあの灯に浮かんだのは、本当に暗闇の生物だったのか?
俺は釈然としない儘、斜面を登った。もう陽が傾き始めている。これ以上の探索は――例え普通の状態でも――無理だろう。
只、どうしても気になり、自転車を駆って俺は向かった。石橋トンネルの行き着く先と思われる場所へ。
日暮れ間際迄掛かって探し出した先は、先の入り口からほんの五メートル程しか離れていない場所だった。何度見ても確かに、その先は例の入り口だった。
入って確かめてみる気には、どうしてもなれなかったけれど。
向こうの入り口から入った先は、一体何処に通じていたのだろう?
―了―
九州には石橋が多いそうですね~。そして埋もれた石橋も……。
因みに今日は8月4日で「橋の日」だそうな。
今日見付けた川も、残るは微かな流れだけ。よく見付けたものだと、自画自賛する。
上は近代的なアスファルトの道路が走る、谷沿いの道。だがその足元には古来の動線を抱いていたのだ。上の道に自転車を止め、俺は傾斜のきつい、下生えに覆われた斜面を降りて来た。見上げてみるが、木々に遮られ、上の道路は見えず、空が僅かに覗くのみ。
俺は石造りの壁、いや、橋脚を叩き、強度を確かめる。大丈夫。上部のアーチもしっかりと組み合い、上からの力を巧く分散している。芸術的な迄に計算された造りに、暫し俺は感嘆する。
俺はマッチを擦り、暗闇に差し出してみる。不自然に火が消される様子は無い。二酸化炭素が溜まっていたりはしない様だ。これなら取り敢えずは安全だろう、と俺は一人頷いた。
そして、用意して来た強力なライトを点灯し、足元に気を付けながらも、その中に――いや、橋の下に、足を踏み入れた。
微かな水の流れる音と、俺の足音が木霊する。橋は幅の広い立派な物だったのか、それとも反対側を排水溝の一部にでも再利用されてでもいるのか、奥が深く、闇も深い。
俺は橋脚を照らした。未だ、整然とした石造りが続いている。新たにコンクリートが付け足された様子も無い。という事は未だ、件の石橋なのだ。
「随分と幅が広かったんだな……」独り言が木霊する。行く先を照らしてみても、未だ変わりは無い。「川自体の幅はそれ程でもなかったみたいなのに……」
橋脚の間は標準的な成人男子の俺が二人、両手を広げて立てば届く程度だろう。それにしてはこの奥行き――橋の幅は広過ぎるのではないか? 振り向けば、入り口の日差しが遠くに見える。
橋に繋がっていたであろう過去の道の広さを考えても、これは余りにも……。俺はひんやりとした空気の中に、それとは異種のぞくりとしたものを感じて、肌を粟立たせた。
先は見えない。何かがおかしい。俺は最後にライトの灯で前方を一撫でして、引き返す事を決心した。
そして――暗闇を横薙ぎにした明かりの中に、一瞬、何かが浮かび上がった。だが、慌てて戻したライトには、何もそれらしきものは浮かばない。
こんな所に動くものが居るだろうか? こんな、陽も差さない場所に。いや、洞窟に棲む生物ならこの水気のある暗い場所を好むかも知れない。そして向けられた明かりを嫌って咄嗟に逃げる事も……。
だが……それは理屈ではない、直感の様なものだったのだろうか。
俺は水音を立てながら、入り口に向かって駆け出した。が、直ぐに水に足を取られ、足が鈍る。
足が浸かるかどうかといった所だった水が、いつの間にか足首迄、いや、それは急速にふくらはぎ付近迄、水嵩を増していた。涸れ川の筈なのに。
俺は駆ける。
その足に纏い付く様な、あるいは縋りつく様な水の感触が、俺をパニックに追い込もうとする。だが、こんな所でたった独り、パニックに陥ったら一大事。俺は前方の日差しだけを頼みと、駆け続けた。
木漏れ日の下、肩で大きく息をして、俺は改めて橋の下を見遣った。
慌てて出て来たのが滑稽な程、何の異常も無い。動くのはちょろちょろと心許ない水の流れだけ。先程迄の水の勢いはどこへ行ったのだろう? 俺のジーンズには確かに、膝迄水のついた跡があると言うのに。
そしてあの灯に浮かんだのは、本当に暗闇の生物だったのか?
俺は釈然としない儘、斜面を登った。もう陽が傾き始めている。これ以上の探索は――例え普通の状態でも――無理だろう。
只、どうしても気になり、自転車を駆って俺は向かった。石橋トンネルの行き着く先と思われる場所へ。
日暮れ間際迄掛かって探し出した先は、先の入り口からほんの五メートル程しか離れていない場所だった。何度見ても確かに、その先は例の入り口だった。
入って確かめてみる気には、どうしてもなれなかったけれど。
向こうの入り口から入った先は、一体何処に通じていたのだろう?
―了―
九州には石橋が多いそうですね~。そして埋もれた石橋も……。
因みに今日は8月4日で「橋の日」だそうな。
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Re:こんばんは
こういう埋もれた橋を捜し歩いてる人が、実際おられるとか。
橋や辻は昔から呪術的な意味もあるからね~。
橋や辻は昔から呪術的な意味もあるからね~。
Re:橋の日~
橋にも色々ありますね~。
増水を計算に入れて、高く造られた橋、逆に流されるのも承知で造られた橋、沈み橋……。
それにしても昔のものが結構残ってますよね~^^
増水を計算に入れて、高く造られた橋、逆に流されるのも承知で造られた橋、沈み橋……。
それにしても昔のものが結構残ってますよね~^^
Re:こんにちは
埋もれた橋って結構あるらしいです。
かつての動線、生命線が廃れ……ちょっとした廃墟?
かつての動線、生命線が廃れ……ちょっとした廃墟?
Re:こんちは~
宇佐とか国東の方かな、石橋多いの^^
熊本のめがね橋とかも有名ですねぇ。
使われなくなった橋の中には、本当、半ば埋もれてるものもあるそうですから、空気が澱んでいる可能性もあるし、迂闊に入らない方がいいでしょうね~。
熊本のめがね橋とかも有名ですねぇ。
使われなくなった橋の中には、本当、半ば埋もれてるものもあるそうですから、空気が澱んでいる可能性もあるし、迂闊に入らない方がいいでしょうね~。
Re:こんばんは♪
埋もれ橋、探してみると面白いかも知れず怖いかも知れず……(^^;)
Re:橋
あ~、水場にも集まるって言いますよね~(^^;)
最近の雨は突然、固まって降るから怖いですよね。急に水嵩が増える☆
川どころか都市部でも油断出来ないみたいだし……。
最近の雨は突然、固まって降るから怖いですよね。急に水嵩が増える☆
川どころか都市部でも油断出来ないみたいだし……。