〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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数日に亘って積もった雪にざくりと、シャベルを突き立てて大きく息をついた。吐く息が白く、顔を覆う。大分息が上がっている。だが、休めば身体が冷えて、尚の事動かなくなる。休むのは後にして、作業を終えてしまうのが賢明だろう。
シャベルによって分けられた雪を取り除けて行く。この古い校舎裏の雪の吹き溜まりは、中学三年生男子と言えども、掘り返すには厚く重く、じっとりと根深い。
もう陽も暮れ、寒さと雪の為に学校に残っている者など殆ど居ない。
なのに一人、黙々とシャベルを雪に突き立て続けた。
丸で正気を失っているかの様に。鬼気迫る表情で。
シャベルによって分けられた雪を取り除けて行く。この古い校舎裏の雪の吹き溜まりは、中学三年生男子と言えども、掘り返すには厚く重く、じっとりと根深い。
もう陽も暮れ、寒さと雪の為に学校に残っている者など殆ど居ない。
なのに一人、黙々とシャベルを雪に突き立て続けた。
丸で正気を失っているかの様に。鬼気迫る表情で。
「居ない筈はないんだ……居ない筈は……」シャベルの動きが緩やかに、そして慎重になると共に、そんな呟きが乾いた唇から漏れる。やがてはシャベルを放り出して、手袋を嵌めた手で雪を払い始めた。だが、毛糸の手袋は直ぐに雪にまみれ、溶けた水を吸い、手の動きを凍らせる。
明かりも斜め上から現場を見下ろす一室の蛍光灯のみ。とても探し物など、出来る状況ではない。
なのに何故だろう、手には再び、シャベルを握る。先程とは僅かにずれた場所を、やはり渾身の力で雪を取り除いて行く。
「居ない筈はないんだ……」また、その呟きが漏れた。
彼女が見付かる迄、この力は尽きないのではないか、そんな気さえした。
「どうしたんですか? あの子……」珈琲を持って来てくれた後輩教師が、窓から見える光景に目を丸くして言った。「こんな時間迄……。何をしてるんですか?」
「探し物」俺は珈琲の礼に軽く手を上げて、答えた。
「探し物って……明日にすればいいのに。僕、止めて来ますよ!」
「無理だよ」踵を返そうとする後輩を、俺は止めた。「俺だって去年も、その前も、止めようとした。けど、あいつは……。大丈夫、今日だけだから」
「……どういう事ですか?」足は止めたものの、酷く不審げに、後輩は尋ねた。無理も無いだろう。担任教師が生徒の、それも命に関わりそうな奇行を黙認しているなんて。
「あれは一昨年の事だったんだが……」俺は窓外を見下ろして、話し始めた。「あの生徒、畠中というんだが、奴が放課後、やけに嬉しそうにあの場所に駆けて行くのを、見た。手には手紙らしき紙を握っていて……。この時期だからな、大方ちょっと遅めのバレンタインか……そう察して、俺も微笑ましい様な、羨ましい様な気分で見送ったよ。その当時はこの建物は無くて、あの場所は人目に付かないという点では絶好のポイントだった」
思い出話はいいから――そんな視線が急かしてくる。やれやれ。
「ところがあの場所に着いた奴が上げたのは喜びじゃなく、嘆きの声だった。数日前から積もり、昼からの陽気に緩んだ雪が……奴を待っていた女生徒を巻き込んで……」
「真逆……」後輩が息を呑む。
「掘り出された時、彼女は既にショック状態で……。奴は半狂乱だった。それ以来、この時期になると、ああして探すんだ」
「そんな……」後輩は痛ましげに生徒を見遣る。
「それで、死角を無くすようにという意味もあって、此処に職員室を含む移動教室棟を建てたって訳だ。実際、奴がああして毎年探し物をするもんだから、必要不可欠になっちまった」
「でも……でも、こうして見てるだけじゃ……!」やり切れない風で、後輩は拳を握り締める。「やはり無理でも止めないと……!」
「まぁ、待て」俺は冷静に止めた。「もう連絡は入れた。そろそろ来る頃だ」
「え?」
後輩が目を丸くした頃、雪道を四苦八苦して来る車のライトが校庭に差し込んだ。
車から降りたのは奴と同年代の女子。そして、片足を引き摺る彼女を支える、母親らしき女性。彼女等は畠中に歩み寄り、娘がそっと、その手からシャベルを取り上げる。代わりに、リボンの掛かった包みを手渡して。
「あ、あれは?」後輩が途惑う。
「問題の彼女」俺は事も無げに言ってやった。
「え? 雪で、ショック状態で……亡くなったんじゃ……?」面食らっている。
「ひっどいなぁ、お前」俺は苦笑する。「亡くなったなんて言ってないぞ。彼女は例の事故で意識は取り戻したものの足を傷めて、この病院も遠く、雪深い町で暮らすのは困難だと言うので、学区の違う町に引っ越したんだ。ところが、奴の状態があれだし、彼女も会いたいと言ってくれてるそうで、こっちから連絡すると……」
ああして、送って貰って来る訳だ。
「はぁ……」呆気に取られた様な、後輩の声。「畠中君、来年からはどうするんでしょうね? もうお互い卒業だし……」
「だから、奴は普段は何ともない――寧ろ真面目な生徒なんだよ。高校は、彼女と同じ所を志望している。そして多分、大丈夫だ」
探す迄もなく傍に居れば、畠中も彼女の心配はしなくて済むだろう。
それにもう雪緩む、春も来る。
―了―
死体を捜してると思った人、素直に挙手~(^^)ノ
待ち合わせは安全な場所で!
明かりも斜め上から現場を見下ろす一室の蛍光灯のみ。とても探し物など、出来る状況ではない。
なのに何故だろう、手には再び、シャベルを握る。先程とは僅かにずれた場所を、やはり渾身の力で雪を取り除いて行く。
「居ない筈はないんだ……」また、その呟きが漏れた。
彼女が見付かる迄、この力は尽きないのではないか、そんな気さえした。
「どうしたんですか? あの子……」珈琲を持って来てくれた後輩教師が、窓から見える光景に目を丸くして言った。「こんな時間迄……。何をしてるんですか?」
「探し物」俺は珈琲の礼に軽く手を上げて、答えた。
「探し物って……明日にすればいいのに。僕、止めて来ますよ!」
「無理だよ」踵を返そうとする後輩を、俺は止めた。「俺だって去年も、その前も、止めようとした。けど、あいつは……。大丈夫、今日だけだから」
「……どういう事ですか?」足は止めたものの、酷く不審げに、後輩は尋ねた。無理も無いだろう。担任教師が生徒の、それも命に関わりそうな奇行を黙認しているなんて。
「あれは一昨年の事だったんだが……」俺は窓外を見下ろして、話し始めた。「あの生徒、畠中というんだが、奴が放課後、やけに嬉しそうにあの場所に駆けて行くのを、見た。手には手紙らしき紙を握っていて……。この時期だからな、大方ちょっと遅めのバレンタインか……そう察して、俺も微笑ましい様な、羨ましい様な気分で見送ったよ。その当時はこの建物は無くて、あの場所は人目に付かないという点では絶好のポイントだった」
思い出話はいいから――そんな視線が急かしてくる。やれやれ。
「ところがあの場所に着いた奴が上げたのは喜びじゃなく、嘆きの声だった。数日前から積もり、昼からの陽気に緩んだ雪が……奴を待っていた女生徒を巻き込んで……」
「真逆……」後輩が息を呑む。
「掘り出された時、彼女は既にショック状態で……。奴は半狂乱だった。それ以来、この時期になると、ああして探すんだ」
「そんな……」後輩は痛ましげに生徒を見遣る。
「それで、死角を無くすようにという意味もあって、此処に職員室を含む移動教室棟を建てたって訳だ。実際、奴がああして毎年探し物をするもんだから、必要不可欠になっちまった」
「でも……でも、こうして見てるだけじゃ……!」やり切れない風で、後輩は拳を握り締める。「やはり無理でも止めないと……!」
「まぁ、待て」俺は冷静に止めた。「もう連絡は入れた。そろそろ来る頃だ」
「え?」
後輩が目を丸くした頃、雪道を四苦八苦して来る車のライトが校庭に差し込んだ。
車から降りたのは奴と同年代の女子。そして、片足を引き摺る彼女を支える、母親らしき女性。彼女等は畠中に歩み寄り、娘がそっと、その手からシャベルを取り上げる。代わりに、リボンの掛かった包みを手渡して。
「あ、あれは?」後輩が途惑う。
「問題の彼女」俺は事も無げに言ってやった。
「え? 雪で、ショック状態で……亡くなったんじゃ……?」面食らっている。
「ひっどいなぁ、お前」俺は苦笑する。「亡くなったなんて言ってないぞ。彼女は例の事故で意識は取り戻したものの足を傷めて、この病院も遠く、雪深い町で暮らすのは困難だと言うので、学区の違う町に引っ越したんだ。ところが、奴の状態があれだし、彼女も会いたいと言ってくれてるそうで、こっちから連絡すると……」
ああして、送って貰って来る訳だ。
「はぁ……」呆気に取られた様な、後輩の声。「畠中君、来年からはどうするんでしょうね? もうお互い卒業だし……」
「だから、奴は普段は何ともない――寧ろ真面目な生徒なんだよ。高校は、彼女と同じ所を志望している。そして多分、大丈夫だ」
探す迄もなく傍に居れば、畠中も彼女の心配はしなくて済むだろう。
それにもう雪緩む、春も来る。
―了―
死体を捜してると思った人、素直に挙手~(^^)ノ
待ち合わせは安全な場所で!
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無題
こんばんわ(^o^)丿
ハイ(^^)/
間違いなく死体だと思いました~^^;
この彼、バレンタインの時だけ記憶喪失になるんですか?なんだか、それもそれで怖いですぅ☆
関係ないけど、珈琲ってコーヒーより美味しそうですよね♪珈琲入れようっと(^^♪
ハイ(^^)/
間違いなく死体だと思いました~^^;
この彼、バレンタインの時だけ記憶喪失になるんですか?なんだか、それもそれで怖いですぅ☆
関係ないけど、珈琲ってコーヒーより美味しそうですよね♪珈琲入れようっと(^^♪
Re:無題
余程トラウマだったと思われます☆
彼女が傍に居る様になれば大丈夫……な筈(おい)
珈琲、何か温かそうな感じしません?(^^)♪
彼女が傍に居る様になれば大丈夫……な筈(おい)
珈琲、何か温かそうな感じしません?(^^)♪
Re:はぅっ!
素直で宜しい(笑)
「居る筈」とか言ってますもんね、畠中(^^;)
紛らわしい奴だ。
「居る筈」とか言ってますもんね、畠中(^^;)
紛らわしい奴だ。
Re:まいりました(_ _。)/~~
彼女が傍に居れば治って行くかと思われます(^^;)
死んでたら……きっと卒業してからも来るんだろうなぁ。彼。
死んでたら……きっと卒業してからも来るんだろうなぁ。彼。
Re:無題
あはは(^▽^)ノ
寧ろショック状態だったのは畠中の方か? これは。
取り敢えず、ドカ雪には注意ですよ。猫バカ1番さん地方は特に![](/emoji/V/4.gif)
寧ろショック状態だったのは畠中の方か? これは。
取り敢えず、ドカ雪には注意ですよ。猫バカ1番さん地方は特に
![](/emoji/V/4.gif)
Re:こんばんは
免疫って……(^^;)
ちぃっ、捻りが足りなかったか!(苦笑)
ちぃっ、捻りが足りなかったか!(苦笑)
みゃあ(はい。)
一昨年。って昨年の前の年だよね?
一年の時になるんだよね?
3年。今年
2年。昨年
1年。一昨年
バレンタインは2月だよん
まだ二人共入学してないんじゃないかなぁ?(笑)
小学校と中学校一緒とか留年したのかな?それなら解るけどね。えへへへ(笑)
一年の時になるんだよね?
3年。今年
2年。昨年
1年。一昨年
バレンタインは2月だよん
まだ二人共入学してないんじゃないかなぁ?(笑)
小学校と中学校一緒とか留年したのかな?それなら解るけどね。えへへへ(笑)
Re:みゃあ(はい。)
えと?
今三年生で、去年が二年、一昨年だから一年生……ませてんな、こいつら(笑)
今三年生で、去年が二年、一昨年だから一年生……ませてんな、こいつら(笑)
Re:ごめんなさい
ツッコミ自爆(^^;)
当たらずとも遠からず
死体ではなくて、誰かが生き埋めになってるんだと思いました(^_^;
それにしても、相当なトラウマになったんでしょうね、彼。
果たして来年は……彼女がそばにいても……以下強制終了(?_?)
それにしても、相当なトラウマになったんでしょうね、彼。
果たして来年は……彼女がそばにいても……以下強制終了(?_?)
Re:当たらずとも遠からず
彼女が傍に居ても……ヤバイ!?(^^;)
トラウマ恐るべしっ!
やはりブツの受け渡しは安全な所で(笑)
トラウマ恐るべしっ!
やはりブツの受け渡しは安全な所で(笑)
Re:おはよぅ
彼女が埋まっていた僅かの間が、記憶に焼き付いちゃったんでしょうね(--;)
夢遊病みたいなもんかも知れない。
夢遊病みたいなもんかも知れない。
微妙……(汗)
死体かも、とは“もちろん”思ったけど、お人形かな、とかタイムカプセルかもしれん、とか色々浮かびました。
…でも中学生男子でこの繊細さやったら、彼女はかえって大変じゃないかな(苦笑)
この担任の先生は、カウンセリングの勉強もしはったんでしょうね。生徒をギリギリのところまで見守ったり、話に緩急をつけて後輩を引っ掛けたり(笑)。この先生のサイドストーリーも読みたいなー…って言うたら、怒る?
…でも中学生男子でこの繊細さやったら、彼女はかえって大変じゃないかな(苦笑)
この担任の先生は、カウンセリングの勉強もしはったんでしょうね。生徒をギリギリのところまで見守ったり、話に緩急をつけて後輩を引っ掛けたり(笑)。この先生のサイドストーリーも読みたいなー…って言うたら、怒る?
Re:微妙……(汗)
“もちろん”ですか(^^;)
うん、タイムカプセルも考えた(笑)
先生っすか!? 名前さえ無いのに(笑)
怒らないけど、やるとしたらやっぱりこの後輩とコンビかな?
うん、タイムカプセルも考えた(笑)
先生っすか!? 名前さえ無いのに(笑)
怒らないけど、やるとしたらやっぱりこの後輩とコンビかな?
Re:こんにちは♪
死体にしようかタイムカプセルにしようか……とか、色々考えたんですが(苦笑)
結局こういう形にしちゃいました(^^)
結局こういう形にしちゃいました(^^)
Re:無題
足湯(笑)
水面から蒸気の立ち上る中、中学生達が待ち合わせ。
「うー、寒々、待った?」
「ううん、今浸かったトコ」
(爆)
水面から蒸気の立ち上る中、中学生達が待ち合わせ。
「うー、寒々、待った?」
「ううん、今浸かったトコ」
(爆)
Re:ハーイ(^_^)/
書きながら何埋めようかと……(笑)
死体かタイムカプセルか、悩んで結局……埋まってたのは畠中の記憶と言うか妄想?
死体かタイムカプセルか、悩んで結局……埋まってたのは畠中の記憶と言うか妄想?
Re:こんばんわ★
有難うございます(^^)
ふふふ、此処にも素直な人が……(笑)
死体だとあんまり話が寒いかな~、と(^^;)
ふふふ、此処にも素直な人が……(笑)
死体だとあんまり話が寒いかな~、と(^^;)