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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 薄暗い納屋の中は、強い日差しに白く照らされた庭よりもずっと涼しく、少年はふぅ、と吐息をついた。
 母の実家は広く、あちこちが屋根の付いた渡り廊下で繋がれていて、十歳ばかりの少年が探検するには持って来いだったが、庭にぽつんと佇む納屋はそれ以上に彼の好奇心を刺激した。納屋と言っても街中の彼の家一軒程もある。何が収められているのか――彼は吸い寄せられる様に、庭の日差しの中に出て行った。
 鍵が掛かっているかと思ったが、誰かが居るのか、それとも何かを出し入れしてその儘にして行ったのか、南京錠は外され、傍らの釘に掛けられていた。そっと戸を引き開けてみると、中は暗く、人の気配は無かった。
 保管を考慮してか窓は無く、情報に小さな換気口が何箇所かあるだけ。
 戸口からの日光を頼りに窺い見れば、古色蒼然とした和箪笥や長持が整然と並べられている。右手には二階に続く階段があり、上階にも様々な物が収められている様だ。
 濃茶、銀鼠、藍……昔ながらの色が更に影の色を帯びて、しんと眠りに就いていた。
 そんな中にぽつり、不釣合いに鮮やかな白が、彼の目を引いた。

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 傘の端から覗く空は鈍色で、細い銀の針を降らせ続けていた。
 これが雪ならもっと浮き立った気分にもなるのに――そんな詮無い事を考えながら、少年は学校からの帰路に着いていた。梅雨なんて大嫌いだ。背中のランドセルだって、重く感じてしまう。
 そのランドセルの中で、一本の鍵が揺れて時折音を立てている。
 昨日、やはりこんな雨の帰り道に出会った少女から貰った鍵。彼より一学年位、上だろうか? 茶色い髪に青いリボン、青い服の少女。やはり青い傘の下、彼女は微笑んでいた。
 ありすと名乗った少女は、無数の鍵の中から妙に古めかしい鍵を、彼に渡した。
 これで開けられるものが少年の家にある筈だから、と。
 視線を掌の上の鍵に落とした次の瞬間には、その青い少女は姿を消していた。

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「そんな鍵、要らない」怯えた様な面持ちで、高校の制服を着た少女は後ずさった。
 目の前には十歳ばかりの少女。茶色い髪に青いリボン、青い服がよく似合っている。微笑みながら、彼女は一本の鍵を差し出していた。
「そう? 大切な物なんじゃないの?」小首を傾げて見上げる少女。
 その目が自分の何もかもを知っている様で、気味の悪さと恐ろしさを感じた少女は結局、鍵を受け取る事無く踵を返し、駆け去った。
 伯母の家から数分の公園。いつもの様にベンチに腰掛けている時、話し掛けられたのだ。
 この鍵はお姉さんの忘れ物ではないの?――と。
 違う、と彼女は心の中で何度も叫ぶ。忘れ物なんかじゃない! あれは捨てたのよ! 過去と一緒に……。

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「喧しい! このわしの名を出して、言う事を聞かん様な所に用は無い! 以後一切その子会社は使うな!」内線電話を叩き付ける様にして切ると、男は重厚なデスクに不満を詰め込んだ溜め息を零した。
 わしの言うノルマを達成する事がどうして出来ない?――苛々と、男は資料を睨み付ける。資金は注ぎ込むべき所には注ぎ込んである。技術者も金に飽かせて集めた。大体、わしの直々の指示がどうして聞けない!?
 これと言うのもあいつの所為だ。
 わしの跡を継ぐ事を早々に諦めた我が息子。サラリーマンという身分に何の不満があったのか、このわしの跡を継ぐ覚悟が出来なかったのか、堅実性の薄い絵描きという職に逃げた息子。
 たった一人の馬鹿息子。
 早くに亡くした母代わりの家政婦や家庭教師には疾うに暇をやった。息子をあんな軟弱者に育ておって。
 あいつがしっかりしてさえいれば――未だ表立ってはいないものの――後継者争いなどで社内が荒れる事も無いものを。
 クッションのよく効いた椅子を回して、男は壁一面に広がる窓から、高層ビルの最上階にのみ許される景観を、しかし優越感に浸る事もなく睨み付けた。此処の窓が開かない事も気に入らない。
 もし開けば、このポケットの中の忌々しい鍵をこの奈落の如き路上に投げ落としてやるものを。

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「開かなかったわよ?」不満げにそう言って、銀色の鍵を突き出す様にして見せたのは十七、八の少女。尤も服装やメイクだけはもっと大人を装っている。だが、尖らせた唇ややや吊り上がった目は正直で、やはり未だ幼さを残していた。
 彼女の前には、公園のブランコに腰掛けて、僅かに揺れる十歳ばかりの少女。茶色い髪に青いリボン、青い服のよく似合う可愛らしい少女だった。
 銀色の鍵はその少女――ありすと名乗った――から貰った物だった。
 何の変哲もない、しかし疾うに捨てた鍵。かつては大事だった筈の鍵。
 それを何処から手に入れたものか、古い鍵を集めていると言う少女が持っていた。そしてそれに目を止めた彼女に、意味ありげに鍵をくれたのだが……。
「開かなかったわよ?」彼女はもう一度、やや強く言った。「大事な物でしょ、なんて解った様な事言ってたけど、あたしの鍵じゃなかったんでしょ」
 少女は小首を傾げて、彼女の目を見上げた。

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 駅前に設けられた夜の交番。とは言え近くには繁華街も無く、静かな住宅街が広がるばかり。
 今宵も静かな夜だと、帳簿を付ける手を止めて伸びをしていた警官に、時ならぬ少女の声が掛けられた。
「落し物を拾ったんですけど」見れば十歳になったかならないか、茶色い髪に青いリボンと青い服がよく似合っている。こんな子がこんな時間に出歩くんじゃないよ、と警官は一人ごちた。
 少女が掌に乗せていたのは一本の鍵だった。ごくありふれた、住宅用と思われる鍵。
「何処で拾ったのかな?」パイプ椅子を勧めながら、警官は尋ねた。
「何処でって言うか、落とした人は判ってるんですけど、拾って呼び止める間も無く車で出て行っちゃったから……。お巡りさんに預ければ安心でしょ?」少女は小首を傾げた。
「なるほど。お嬢ちゃん、賢いね」言って、警官はにっこりと笑った。

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 行き場が無い――この身も精神も。
 そんな思いでふらふらと駅前を歩いていた男の前に、ふと、青い色が差した。四十絡みで痩せ細り、無精髭も伸び放題という冴えない男からすれば、鮮烈でさえある青い色。灰色のアスファルトから僅かに視線を上げてみれば、そこにはその青を纏った少女が立っていた。
 茶色の髪に青いリボン、青い服がよく似合っている、十歳ばかりの少女。周りが避けて歩く様な情けない風体の男の正面に、彼女だけは立っていた。
 子供ゆえの怖いもの知らずの好奇心だろうか。そう思って態と怖い顔を作って見せても、彼女は顔色一つ変えず、寧ろ冷静な無表情で彼を見上げるばかりだった。
 男が避けて行こうとした時、その少女が口を開いた。
「これ。貴方の忘れ物でしょう」
 そして差し出したのは、何の変哲も無い一本の鍵だった。

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