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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「じゃあ、その代わりの鍵を持って来てくれるかしら?」悪戯っぽい、少女の声が脳裏に蘇った。
 茶色い髪に青いリボンが似合う、青い服の少女。十歳になったかどうか――彼と同い年位だろうか。同級生の女の子達とは全く違った雰囲気を纏っていたが。
 夕暮れの公園で出会ったその少女は名を訊いた彼に「ありす」と名乗り、一週間前に彼が失くした鍵を、数々の雑多な鍵と一緒に、その小柄な身体には不似合いな程頑丈な鍵束に繋いで持っていた。
 古い鍵、使われなくなった鍵をコレクションしていると言う彼女に、少年はそれを返してくれるように頼んだ。
 今、必要なのだ、と。
 だが、彼が鍵を失くした経緯、そして必要としている理由の説明を渋った所為か、彼女は先の様な注文を出したのだった。
 当然、現在使われている鍵は駄目だと言う。防犯上の理由がどうのと言うより、興味が無いらしい。だから、彼の自宅の鍵は先ず断られた。
 どんな鍵が好みなのだろうと、彼女の鍵束を見るが、それは余りに雑多で、如何にも古いアンティークな飾りの付いたものもあれば、未だ新しそうなもの迄ある。凝った飾り付けのものも、素っ気無い程にシンプルなものも。
「ありすの好みって解んねぇよ」明日もあの公園に来ると言う彼女と別れ、帰路に着きながら彼は愚痴った。

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 今日は上空は絶好の月夜ながらも、下界の濃い夜霧に、月は道を皓々と照らすのを遠慮する心算だったのだろうか?
 暗くも白い闇に包まれた道を一人歩きながら、男は背負った荷物を担ぎ直した。
 視界は無いに等しいが――悪くない。
 何しろ、今は出来るだけ人に見られたくないのだから。
 だからこそこの林の入り口に車を止め、そこからは重い荷を背負って歩いて来たのだ。この視界ゆえに車では危険と考えた所為でもあるが。
 男は予てから目星を付けていた廃病院に、荷物を運び込んだ。
 遂に今日、眠らせてしまった妻の身体を。
 そして地下の、かつて霊安室として使われていた部屋に安置し、鍵を掛けた。
 数日前、この廃病院の前で出会った少女に貰った鍵で。

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 商店街の一角に並ぶ小さな店――だった場所。
 今では看板の色も剥げ落ち、前に張り出していた庇(ひさし)もぼろぼろ。元より煉瓦風の壁に小さく開いただけだった窓はすっかり年月に曇ってしまっている。以前は壁に綺麗な模様を描いていた蔦は、最早それを埋め尽くさんばかりだ。
 木枠に硝子の嵌まったドアさえも、中を透かし見るのは困難な様相だった。
 況してや客も引け、街灯が冷たく点るだけの夜の事、硝子は曇った鏡と化して、男の姿を鈍く、映していた。
 その手にあるのはやはり年代を感じさせる、真鍮製の鍵。
 もう手放したその鍵を、青いリボンの少女から受け取ったのは三日前。
 逡巡した挙げ句、男は今、此処に立っている。
 そして意を決して、鍵を差し込んだ。

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 義母の七回忌を滞りなく終え、来客を送り出した女は一人、リビングのソファに腰を下ろした。もう七年、未だ七年? そんな思いが去来する。
 彼女の世話にはなりたくないと、五年間居た養老院で息を引き取った義母。夫も彼女も、気にする事はないと言ったのに。幸いにも二人共未だ体力的にも、金銭的にも余裕がある。介護が楽な仕事ではないのは解っているが、協力すれば可能だと。
 だが、義母は断った。
 やはり、どれだけ本当の親子の様に接してきた心算でも、何かしらの蟠りがあったのだろうか。心の奥に。
 彼女は重い腰を上げ、かつて義母が使っていた和箪笥に歩み寄った。もう此処にある物だけが、彼女の思い出として残っている物だ。上の方の抽斗から、彼女は一冊の本を取り出した。いや、それにはお飾りめいてはいるものの、鍵が付いており、どうやら日記帳の様だった。
 只、その鍵を、彼女は持っていなかった。

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 開かない――鍵を差し込んではみたものの、それはどちらにも回らず、目の前の扉は当然の様に、彼女を拒否し続けた。
「この鍵の筈なのに……間違いないのに……」ぶつぶつと呟きながら、手中の鍵の握りを確かめる。確かに見覚えのある、あの鍵だ。古風で、特徴的な薔薇を象った飾りの彫られた黒光りのする鍵。「何故開かないの……?」
 広い敷地の中にぽつりと建った離れの鍵。それはもう随分前に、この館に只独り残った彼女自身が処分した筈の鍵だった。
 この離れを封じた時に。
 それ以来、離れは空気すら入れ替えられる事無く、沈黙を保っていた。そしてずっと、その儘に捨て置かれる予定だった。
 なのに今日、不意に目の前に現れたその扉の鍵を、彼女は手に取ってしまっていた。
 それを持っていた少女から、掠め取って。

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 ぴるる……ぴる……。
 少女はベランダで籠の中の鳥を見ながら、その音色を思い出す。五年前に、父が買って来てくれた、色鮮やかな鳥。籠の中の、鳥。
 ぴるる……ぴる……。
 今はもう発しなくなった、その音色。幼い少女を楽しませ、寂しさから救ってくれた音色。
 ぴるる……ぴる……。
「もう一度、聞きたいなぁ」
「じゃあ、この鍵、要る?」不意に掛かったのは彼女よりも随分幼い、少女の声。振り返ればやはり、十歳になるかならないか――彼女よりも五つ、六つ下――の少女が微笑みながら彼女を見上げていた。
 その声は鳥のさえずりにも似て、心地好く、どこか心を擽る様だった。

 

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 一時は心霊スポットとして、怖いもの知らず、あるいは不心得な若者達の溜まり場となっていた廃病院。その埃と落書きに埋め尽くされた廊下を、少女は歩いていた。
 十歳になるかならないか、茶色い髪に青いリボンがよく似合っている、青い服に青いケープを羽織った少女。明かりは手にした古風なランプのみ。
 只一人、闇にも怯えず、歩み確かに進んで行く。
 やがて行き着いたのは地下への扉。最早施錠されてもおらず、重い音を立てて、扉は開かれた。
 地下にはかつての霊安室と、ボイラー室などがある様だった。闇の濃さ、薄気味悪さを増したリノリウムの床に、少女の足音だけが響き――霊安室からじゃらり、と音がした。

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