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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 久し振りに鉄道を利用したのは、ちょっとしたイベントに興味を持ち、覗いてみようと思ったからだった。会場は街中の競技場だったが、駐車場を確保出来るかどうか心許なかったのだ。公共機関をご利用下さい、とも案内されていたし、偶にはハンドルを握る緊張感から解放された外出もいいだろう。
 車窓からは本当にのんびりと、景色を眺められるし。
 と、四人掛けのボックス席の窓側を陣取って、外を見ていた私は、奇妙な事に気付いた。
 駅に着く度に、ベンチの一つに猫が、座っているのだ。綺麗に姿勢を正し、じっと電車を見詰めて。然も、模様からして同じ猫が。

 最初は置物か思った。この路線では駅に同じ猫の置物を飾る事で、共通のイメージを作り出そうとでもしているのかと。
 だが、それは動いた。
 ごく自然な、何気ない動きで顔を洗い、欠伸したのだ。
 駅毎に同じ猫が一匹ずつ、ベンチに座っている?――そんな偶然が起こる確率はどんなものかと、私は首を捻った。
 これ迄通過した駅は五つ。そのどれにも、猫は居たのだ。もしかしたら、この先にも……?

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「随分、遅かったんだな」
 待ち合わせ場所の時計台に凭れ掛かる背の高い見慣れた姿を発見してほっと息をつく薫に、相手はそう言って手を上げた。
「ごめんなさい。なかなか会議が抜けられなくて……」
 どれ程待たせてしまっただろうか? 思わず時計を見る。
「嘘……」我知らず、声が漏れた。約束の時間は午後七時。時計の針が指す現在時刻はと言えば――午後十時。その差、三時間。

 会議が長引きそうな気配を見せた時、既に連絡は入れてあった。後は終わる迄、連絡も出来ないだろうから、待てない様なら先に帰っていい、とも。
 短気な彼の事だから、きっと疾うに帰っているだろう、そう思いながらも終わり次第、取りも直さずこうして駆けて来たのだが……真逆、こんな時間迄、待っていてくれた?
 薫の胸に、嬉しさよりも、何かしら不安が込み上げてくる。
 何か……変。

 何か違和感を感じる。そしてそれは薫自身にも。
「私……何でこんな時間に、来ちゃったんだろう?」その場に脚を止めて、彼女は呟いた。「帰っちゃったかも……ううん、きっと帰っちゃったと思ってたのに、携帯で確かめもせずに……。携帯……そうだ、携帯にメールが……」

 慌てていて、禄に確認しなかったけれど――薫は携帯を取り出し、フラップを開いた。
 メール着信、二件。差出人はどちらも今、彼女に向かって手を振っている、彼だった。
 先着メールを開けて見れば、そこには短く「先に帰る」の一言。時刻は七時十五分。
 では……あそこに居るのは……?
 不審に思いつつ、一通目の直後、七時十七分に着信した二通目のメールを開ける。
 やはり短く一言だけ――「先に行く」
 携帯から顔を上げた時、夜の街にはもう、背の高い見慣れた姿はなかった。
 只、その背に隠されていた時計台の一部破壊された土台と、辺りを行き交う車のライトに照らし出された、周囲を囲う黄色いテープが、そこで何かがあったのを、教えてくれていた。

「待ってて……くれたんだね」
 急ぎ、彼の自宅に連絡し、突っ込んで来た暴走車により彼が命を落としたのだと知り、薫は涙した。
 事故が起こったのは七時十六分。もう少し早く、この場を離れていてくれたら……。
「待っててね……」薫は呟いた。「いつになるか解らないけれど」
 きっと彼は待っていてくれる、と薫は信じた。
 彼は「先に行く」と言ったのだから。

                      ―了―


 今日のメンテは長かった~(--;)
 予定時間終わってもなかなか入れないんだもん。回線トラブってったらしいけど。

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「今日迄、ご苦労様でしたー!」
 改まった物言いにはやや不似合いな、小さな子供達の声が唱和した。
 続いて、ぱらぱらと湧き起こり、やがて爆発的に盛り上がった、拍手の音。
 それは惜別の、そして労いの音。
 
 とある幼稚園の庭の片隅、輪になった園児達と職員が見詰めるのは、その中心のたった一本の樹。
 園の創設当初に植樹され、ずっとこの場所にあり、数多の園児達を見守り、見送ってきた、桜の樹。
 だが、それは年を経て傷み、夏に害虫にやられた事もあって、最早芽を膨らませる力もなく、倒れる危険性があると診断されて、春を前にしたこの日、撤去される事となっていた。
 そのお別れの、集いだった。

「寂しくなりますね」ひまわり組の担任が園長に話し掛けた。心なしか、声が湿っている。
「そうですね……」潤んだ目をして、園長は頷いた。「この子は本当によく、これ迄役目を果たしてくれました」
 そして、そろそろ園児達を教室へ、と促した。この樹が倒れる所など、見せたくないと。
 職員達はそれぞれに担当の園児達を率いて、教室内へと戻って行った。
 園長は工事関係者に指示された場所迄下がり、独り、その作業を見守る。
 やがて、乾いた悲鳴の様にも聞こえる音を立てて樹はその幹を伐られ、更に残った根が掘り起こされた。
 そして、作業員達のざわめきの声が広がった。
「人骨が出た!」と。

「これは先代から聞いた話ですが、設立当初のこの園で、流行り病が蔓延したそうです。どれ程手を尽くしても、病は拡がるばかりで一向に治まらず、ほとほと弱り切っていた時に、先生の一人が志願したそうです――人柱に」事情聴取に、園長は淡々と、そう述べた。「以来、この園ではインフルエンザだって流行りはしませんでしたよ。本当に……よく、護ってくれました」
 ご苦労様……呟いて、園長は深く、深く、頭を垂れた。

                      ―了―


 眠いですzzz

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 こんな夜霧に包まれた夜には遊び相手が欲しいな。
 でも……遊び相手ってどこにあるかな?

 え?
 ある、じゃなくて、居る、でしょうって?
 いいのよ。あたしの遊び相手はお人形だもの。
 ほら、バッグの中、見せてあげる。
 ピンクの髪留めの女の子のお人形、くるくる巻き毛の男の子のお人形、ふわふわの真っ白の服着た赤ちゃんのお人形……。ね? ある、で合ってるでしょ?
 でもね、そろそろ、新しい遊び相手が欲しいの。
 そうね……あたしの呟きに突っ込み入れてくれた、こんな夜に出歩いてる、ちょっと悪い子のお人形なんて、いいかも知れないわね?

 霧の夜、兄弟との他愛のない仲違いから家を飛び出し、帰る切っ掛けを掴めずに街をふら付いていた子供が一人、姿を消した。
 ピンクの髪留めの女の子、巻き毛の男の子、白いベビー服の赤ん坊――それらの尋ね人のポスターの横に、また一枚、ちょっと悪ぶった顔付きの子供が、並べられた。

                      ―了―


 偶には夜霧先生シリーズ(だっけ?)以外で♪

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 鏡を見て身嗜みを直す――それは念入りだったり無意識だったり、個人差はあれど、殆どの人がやっている、当たり前の事だろう。そう、自分の姿を検めるには、鏡はなくてはならない物だ。
 けれど、僕の傍にある鏡はちょっと、違う。
 いつも、こうはなりたくない、という僕の姿を映し出してくれるのだ。

 例えば、バス待ちの列に平然と割り込む。注意でもされようものなら凄みのある目で相手を睨み返す。そして相手が怯む姿を見て、悦に入るのだ。
 勿論、僕は列の最後尾にこっそり、並んでいると言うのに。

 例えば、授業中、教室を抜け出し、良くない仲間達と共に態と校庭で騒ぐ。教師さえ手を拱いているのを知っているのだ。
 無論、僕は教室から一歩も出たりはしない。

 例えば、学校帰り、コンビニで盗って来た物を戦利品と称して自慢する。それが犯罪だと解っていても尚、それをゲームとして楽しんでいるのだ。
 当然、僕は犯罪に手を染める心算は……なかった。

 そう、そんな心算はなかったんだ。
 だけどその日、鏡は事もあろうに母に手を上げる僕の姿を映していたのだ。
「やめろ!」半狂乱とも言える声を発して、僕は手にした灰皿で鏡を打ち割った。

 そして知った。姿以外は似てなどいないと思っていたそいつと同じ攻撃性が、僕の中にも潜んでいた事を。
 やはり鏡は忠実に、その者の姿を映し出してくれるのだ。
 僕の双子の弟という、唯一つにして最悪の鏡であっても。

                      ―了―


 暗い~。

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 鬼は外ー!
 福は内ー!

 街のあちらこちらで、豆を撒く乾いた音と、人々の声がする。
 尤もそれはほんの僅かの間で、この冷たい風に身を縮こまらせつつ、彼等は直ぐにドアや窓を閉めてしまう。鬼を追う間も、福が入る間もありゃしない。今日は節分だから一応やっとこう、という程度なのだろう。
 まぁ、いい。
 俺の狙いは豆じゃない。
 俺はとある民家の庭先に忍び入り、常緑樹の陰に身を沈めた。
 そしてふぅ、と溜息をつく。この家もか。
 いい匂いはしたんだけどなぁ。

 どうせなら鰯の頭だけじゃなくて胴体も、柊に差しといてくれ――我々野良猫よりの、要望である。

                      ―了―


 にゃん(=^・×・^=)

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「本当にこんな山の中に、人の住む家があったの?」手にした木の枝で下生えを掻き分けて進みながら、真由美は言った。
「本当、本当」軽い口調で、しかしはっきりと武雄は請け負う。「然も山小屋みたいなんじゃなくて、お屋敷って言っていい様な奴。去年見付けたんだ」
「去年? 取り壊されもせずに未だあるか? 無人だったんだろ?」と、雅人。
 幼馴染の、いつもの三人組。それぞれ違う大学に進学した今でも、時折集まってはドライブを楽しんだりしていたのだが……今日は最悪のドライブとなっていた。
 山の中だと言うのに乗り合わせていた雅人の車がエンストし、然も運の悪い事に携帯は圏外表示。今時圏外などあるのかと、三人は驚くやら呆れるやら。しかしそうしてもいられないと近くに民家か公衆電話を求めたのだが、何れも影さえも無かった。間の悪い事に、他の車さえ通り掛らない。
 そうする間にも陽は翳り、一先ず車に戻った一行は忍び寄る寒さに震える事となってしまった。当然ヒーターは使えない。膝掛け用に置いていた毛布がある位だ。
 その毛布を真由美に渡して、もう一度先程とは別方向へ探索に出ると雅人が車を降りた時、武雄が言ったのだった。
 電話は通じていないだろうが、一先ず暖を取れそうな空き家がこの辺りにある、と。
 山の陽はどんどん傾き始めている。エンジンも掛からない車の中では山の夜の冷え込みは防げない。助けも呼べないのであればいっそその家で夜を明かして、朝早くから麓の街を目指そう。
 その武雄の主張は妥当な選択に思えた。兎に角、家の中なら車内よりはマシだろう。食料は街を出る時に買ったスナックやドリンク類がある。三人は手分けしてそれらの手荷物を纏め、車を後にした。

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