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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「昇進目指して、頑張って下さいね」そう励ましつつ、何かといい情報を回してくれる部下の笑顔と、五歳になる息子の寝顔を思い出しながら、男は日々、遅くなる迄頑張った。
 もう一つ昇進すれば、この安普請の社宅から、幹部用の高級な社宅――と言ってもこちらは一戸建てで、腕白盛りの息子を遊ばせてやれそうな庭も付いている――に移れる。
 それにそうなれば、社宅の下階で母親と二人暮しをしている部下の彼女にも……。妻を亡くし、忙しい自分に代わって、休みの度に遊びに連れ出してくれている彼女には、息子も懐いている。もしかしたら、彼女も……?
 男は更に仕事に没頭した。

 そして遂に昇進なった日、男は彼女に告白した。
 自分と一緒に新しい社宅に来てくれないか、と。
 彼女はにっこりと笑って、言った。
「昇進おめでとうございます。これで幾ら言っても上の階でどたばた走り回る息子さんからも、それを煩がって愚痴ばかり言う私の母からも解放されます。情報を回した甲斐がありました」
 唖然とする男に、彼女は語った。
 元々仕事で遅く迄帰らない男は知らなかったが、息子の騒音は社宅内でも有名で、直下の部屋の彼女は特に迷惑していたのだと。休みの度に連れ出したのも、母の愚痴から逃れる為でもあったらしい。
「母なんかはちょっと――躾も出来ないなら子供作るんじゃないよ、とか何とか――不穏当な事も呟いてましたけど、私は平和主義ですから。早く昇進して、あちらに移って頂きたかったんですよ。合法的に出て行って頂けて、何よりです」
 あの日と同じ屈託のない笑顔で、彼女は二人を送り出したのだった。

                      ―了―


 や、集合住宅に躾の出来ない親って迷惑千万。

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 実家は古い田舎家で、暗くて寒くて、広さだけが取り得の様な家だった。
 お陰で小さな頃から独り部屋を貰えたけれど、中庭に面したその部屋に独りで居るのが心許なくて、幼い頃の私は殆ど、自室に居付かなかった。贅沢な話だとは思うけれど、未だ両親に甘えたい盛りの子供には、一人になれる環境なんて猫に小判だったのだろう。
 その部屋の、中庭を挟んだ向かい側に、広間があった。この広間は、普段は立ち入る事の許されない部屋でもあった。特にこの家の女達は。
 母も、二人の姉も、勿論私も、この広間に入る事が許されるのは一年の内のたった二週間だけ。二月の月末から、三月四日の深夜迄。
 それが、私達の雛祭りの期間だった。

「お雛様飾って準備して……仕舞う迄の間しか使わないの? その広間」大学の友人、真千子が目を丸くした。「勿体なくない? てか、変わってるね。沙和んち」
 何となくお互いの出身地や実家の話をしていて、件の広間の話になったのだった。
「確かに十八畳程ある部屋を普段全く使わないっていうのも、勿体ない話だとは思うけど……」私は首を捻った。「昔からそれだったから、変わってるとは思わなかったわ。小さい頃は何処でもそうなのかと思ってた」
「そんな部屋に余裕がある訳ないじゃん」真千子は大袈裟に肩を竦めた。「お雛様だって、マンションサイズ。豪華七段飾りをお祖母ちゃんが奮発したら、邪魔になる! って嫁に怒られたって話もあるんだからね。沙和んち、贅沢だよ」
「贅沢はしてないんだけどね。昔の家だから矢鱈広いだけで」私は苦笑する他ない。「お母さんなんていつも家計簿睨んで唸ってたよ」
「さぞかし盛大にやるんでしょうね。雛祭り」
「盛大でもないけど……見に来る? 私も帰省する心算だから」
 真千子は頷いた。

 私達が実家に着いたのは三月の二日だった。もう飾り付けもすっかり済み、やはり帰省していた姉に遅いと冗談半分に睨まれた。
 挨拶を済ませて部屋に荷物を置くと、私は早速真千子を広間に案内した。
「うわわ!」というのが、襖を開け放った直後に真千子の口から漏れた言葉、と言うより音だった。
 十八畳の和室の両際に所狭しと並べられた雛壇、雛壇、雛壇……さながら雛壇形作られた通路の様だ。勿論、それぞれはきちんと飾り付けがなされ、雛あられなども供えられている。正面奥には一際古い雛飾りが、鎮座している。
「沙和……これって……」何処となく怯えた様子で、真千子は尋ねた。「何でこんなにあるの?」
「我が家の代々の雛人形をね、一度に飾る事になってるのよ。かなり古いのもあるから、扱いには気を遣うのよ」
「これは……十八畳の和室も勿体なくないかも……。てか、十八畳でも狭く見えるわ」
「でしょう?」
「てか、これ、三月四日の夜迄に仕舞えるの? 準備は日数あるみたいだけど」
「正直、難しい所なのよね。でも、やってしまわないと……」
「嫁に行き遅れる?」広間の雰囲気に飲まれていた真千子の顔に、やっと笑みが戻る。頬が引き攣ってはいるけれど。
「そうね。行けなくなるわね」私は頷いた。「この中の幾つか……古い物には、色々と話があってね、ちゃんと礼をもって扱わないと祟られるとか……。特に、一番奥のお雛様は、一番強くて……三月四日の深夜迄にこの部屋のお雛様全てをきちんと仕舞い切れないと、この家の女の子の魂が人形に取られてしまうんだって。だから、結局は行けない事になるわよね」
 真千子はまた顔を引き攣らせて、部屋中の雛人形を――特に一番奥のそれを――恐ろしげに眺め渡している。足は一歩も、敷居を越えようともしない。
「そんな訳だから、助けると思って明後日の片付け、手伝ってくれる?」
 真千子はこくこくと頷いた。何なら今からでもさっさと片付けてしまいたい、そんな風情だったけれど。

 そうして彼女の手も借りて、四日の夜、我が家の雛祭りは無事に終了した。
「お疲れ様。真千子、新しいのばっかり片付けてたでしょう」部屋に戻り、二人だけで白酒を楽しみながら、私は茶化した。
「だって、古いのは怖くて……。てか、本当に祟られたらどうしてくれるのよ」
「大丈夫よ。あれ、冗談だから」
「……信じらんない!」お酒の所為でなく顔を真っ赤にして怒鳴ると、真千子はさっさと布団に潜り込んで不貞寝を決め込んでしまった。本気でビビったんだからね、とか呟きが漏れてくる。
 ごめんね。真千子。怒るだろうとは思ったけど、私も人手が欲しかったの。
 だって、一番奥の雛人形の話だけは、本当だったから。
 それに――と、私は中庭を、そしてその先の広間の障子をそっと窺った――今夜は早く布団に潜ってしまった方がいい。
 誰も居ない筈の広間の障子には、ほんのりとした雪洞の明かりに浮かぶ、小さな影が舞っている。それは丁度、片付けられた筈のお雛様達と同じ位の大きさ、形で、実に自由に、楽しそうに舞い踊っている。
 これからが、彼女達の祭だと言う様に。
 
 だから、私はこの部屋に独り、居たくない。

                      ―了―


 お片付け、済みましたか~?

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 背負った罪は消えはしないと、彼女は、苦笑したよ――そう共通の友人から聞かされて、僕自身も苦笑を浮かべる他なかった。
 あの頑固者。

 彼女と僕が初めて会ったのはかれこれ十年以上も前の事だ。お互い十代半ばで、お互い、登校拒否に陥っていた。
 僕の場合、学校で何があったって訳じゃない。強いて言えば――何も無かったからだろうか。
 特別に就きたい職業もなく、目標もなく、それでも就職に不利だからと親と教師に言われる儘、進学した。よくある話だろう。そう、僕は至って普通だった。
 只、目標のない学校に居る事に、少しだけ、焦りを感じていただけだ。別の道を歩けば、やりたい事、自分に向いた事が見付かったのではないかと――夢を見ていただけだったのだ。

 彼女は僕とは少しだけ、事情が違った。 
 彼女は目標を持っていた。
 だが、第一志望に落ち、滑り止めに受けた学校に入ったものの、そこは彼女が満足出来るレベルではなく……彼女もまた、夢の中に逃避した。一年浪人してでも、第一志望を選択するべきだったのではないか、と。
 そして徐々に、彼女も学校から遠ざかって行った。

 そんな僕達が顔を合わせたのは、ネットカフェだった。徐々に家の中にも居場所を失くし、面白くないからと度々外出していた頃だ。同年代の、やはり居場所のなさそうな彼女を見掛け、話し掛けたのは僕の方だった。尤も、彼女との差異は直ぐに判ったし、女の子だからと意識した事もなかったのだけど。
「何か目標とか、ないの?」お互いの話をした後に、彼女は尋ねてきた。「やってみたい事とか」
「先生みたいな事、言うなよ」僕は頬を膨らませた。「あったらやってる……かなぁ」
 自分でも、そこ迄やる気の出る事が見付かるかどうか、僕は疑問だった。
 呆れた様に苦笑して、彼女はこう言った。
「無くても何かやらなきゃいけない……それも面倒よね」
「あっても、それをやり遂げなきゃ気が済まない……それもしんどいよな」
 僕達は顔を見合わせた。何を考えているか、お互いに察していた。
 面倒でしんどいこの世からの逃避――その筈だった。

 数日後の夕暮れ時、彼女が用意した薬を飲んだ僕は、深い闇に落ち行く様に、あるいは安寧な眠りに落ちる様に意識を失い……。
 夢を、見た様な気もする。
 酷く、取り乱している夢。号泣する母に取り縋って、一緒に泣き喚く夢。幼い頃の楽しい思い出の混じった夢。もうしなくていい筈の、選択に悩む夢……。それは僕の未練だっただろうか。

 やがて、頬の痛みで目を覚ました。

「やっと起きたわね」彼女は言った。すっかり夜になっていたけれど、場所は変わらず人気の無い川原の橋の下だった。
「何で……? 生きてるのか? あの薬……」未だぼんやりとした頭で、脈絡のない問いを彼女に投げ掛ける。
「毒薬には違いないけど、死には至らないわ。一時的に意識を失うだけ。でも、気分は味わえたでしょ?」にっ、と彼女は笑った。「一度、死んだ気分は」
 こくり、と僕は頷いた。
「昔から言うわよね。死んだ気になれば何でも出来るって」伸びをして、彼女は言った。「それが本当かどうか、実証してみようじゃない。ね?」
 あっけらかんと言う彼女に、僕はすっかり毒気を抜かれてしまった。
 そう。僕は一度死んだんだ。生まれ変わるのも、いいかも知れない。
「でも――」と、真顔になって彼女は言った。「自分を殺そうとした事には違いないのよね。私達。その罪だけは背負わないとね」
「……どうしろって言うんだ……?」
 自分に対しての償いなんて……?
「それは自分で考えないと」彼女は苦笑を浮かべた。「取り敢えず、私は――私が殺した『私』が本当にやりたかった事をするわ。今の学校を辞めて、もう一度力を付けてから志望校に挑戦する。そうして何れは夢を叶える。それが私の償い」
 なら、僕は――僕が殺した『僕』には取り立ててやりたい事もなかった。だから――先ずは、やりたい事を見付ける。後の事はそれからだ。
 そう告げると、彼女は笑って頷いた。

 それ以来、彼女は頑固に、自分への償いを続けている。どうやら、順調の様だ。
 そうして僕も……。

                     ―了―


 取り敢えず、苦笑(^^;)

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 天井から滴る水を襟元に受け、僕は反射的に飛び上がった。尤もそれが水滴と気付いたのは、後ろを歩く田中の忍び笑いに、はっと我に返ってからだったけれど。
 慌てて、平静を取り繕う、僕。
 怖くなんかないぞ――本当は怖いけど。

「結構長いんだな、このトンネル」田中の声が前を歩く渡辺に掛けられた。「未だ、出口が見えないなんて」
「まあな」振り向きもせず、渡辺が答えた。「距離もあるし、途中からは少し傾斜もあるからな。その所為もあるかも知れない」
 僕等三人が歩いているのは、今は閉鎖されたトンネルだった。名前が刻まれた入り口は苔生し、辛うじて「隧道」の文字が認められるのみ。閉鎖中として置かれたバリケードを最小限取り除き、入り込んだ僕等を待っていたのは、じっとりとした空気。元は石造りらしき壁も、日光が届く限りの場所は苔に覆われ、湿っぽい。そしてそれが途切れる辺りからは、濃密な闇が蟠っていた。
 挙句に歩いているとぽたりぽたりと水滴の奇襲を受け、反響する声はどこか……全く知らない他人の声の様で、僕は幾度も、懐中電灯で連れの二人を照らしては怒られていた。

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 とある殺し屋は擦れ違ったターゲットに振り向き様、ナイフを突き出した。
 が、殺気を感じ取ったか、ターゲットは僅かな動きでそれを避け、逆に体勢を崩した殺し屋の首に手刀を打ち込み、倒れたその背に吐き捨てた――「十年早い」と。

 別の殺し屋は新入りの店員に化けて珈琲を運んだ。ターゲットが毎朝コーヒーショップでブラックを頼む事はリサーチ済みだった。勿論、今朝運ばれたその苦味には珈琲本来のものでない成分が含まれている。
 が、微かな香りの違いで判ったのか、変装に気付かれたのか、ターゲットはそれを飲まずに退席した。
 殺し屋は臨時の上司に訝しがられつつ、その処分に困った。

 更に別の殺し屋はマンションの高層階から、ターゲット目掛けて植木鉢を落とし、事故に見せ掛けようとした。
 が、これまたあっさりと回避された。

「どうすりゃいいんだよ」疲れ切った声で、彼は痛む首を頻りと撫でつつ、仲間に愚痴った。「直接も駄目、毒も駄目、事故に見せ掛けるのも駄目……銃は?」
「止めておきなさい。擦り抜けた弾丸の回収が面倒です。場所も……普通に、どこか人気の無い所に呼び出せるならいいですが……」数日で珈琲の香りの染み付いてしまった男が言う。
「どう呼び出しゃいいんだよ?」幾度も精査したターゲットの行動範囲を書き込んだ地図を更に検めながら、別の男が言う。「あのマンションなら最適だと思ったんだがなぁ……」
 既に幾度も検討され、実行された案が再度浮上しては消えて行く。もう何度、一人のターゲット相手に失敗している事だろう。

「十年早い、か」これ迄にも幾度も言われた言葉を、彼は反芻した。「あの身のこなしは、十年じゃ足りない気がするよ」
「弱気ですね。まぁ、私も直接対決で勝てる気はしませんが」
「俺も一度も勝った事、ねぇよ」
「とても倒せると思えないなぁ……」
 殺し屋が三人、雁首を揃えつつ、重々しい溜息をついた。
「ま、溜息ついててもしようがない。次の案を練ろう」
「そうですね。ターゲット――我々の師匠には安らかに眠って頂きたいですし」
「ああ。死んだ自覚がないからっていつ迄もウロウロされちゃ、堪ったもんじゃない。祓い師の言ったように死んだと自覚出来る状態で仕留めないと……」
「しかし、手強いなあ」
 また、三人の溜息が重なった。

 そんな手強くて、生涯現役を宣言していた師匠だけに、受け入れ難かったのだろうか――戦い以外の、病で自分が斃れた事は。

 しかし、本当に幽霊に死の自覚を与える事など出来るのか……。
 ともあれ、彼等がたった一人のターゲットに手を焼く中、世は平和だった。

                      ―了―


 眠い眠い(--)。゜

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「済みませーん、シャッター押して貰えますか?」修学旅行だろうか、団体の女の子の明るい声に、しかし僕は頭を振った。急いでいる風を装って、連れの手を引く。
「撮ってあげればいいのに」手を引かれつつも振り返って、ごめんねと頭を下げた渚は、僕に対しては膨れっ面を作った。「折角の旅の思い出なのに……」
 彼女の言葉がちくり、と胸に刺さる。きっと彼女が言っているのは、先の女の子達の思い出の為だけではない。
 近場で日帰りとは言え、初めて二人っ切りの旅行に来たと言うのに、僕はカメラを持っていないのだから。
 
 本当ならさっきの女の子達の台詞は、彼女自身がその辺の通行人をひっ捕まえて、言いたい事でもあったのだろう。僕と二人、観光名所をバックに。
 勿論、観光名所の売店には使い捨てカメラも常備されている。取り敢えずはそれを買えば済むだけの話だ。
 だが……。
 多分、現像された写真を、僕は彼女に見せる事は出来ない。

 幼い頃から、僕が撮った写真、僕が写った写真には、漏れなく誰とも知れない女性の顔が写る。
 ぼんやりとして、首だけが宙に浮いていて……僕の方をじっと見詰めているのだ。
 僕には全く覚えがなかったから、どこかでうっかり拾ってしまった浮遊霊なのか、先祖から受け継いだ因果なのか……?
 何にしてもそんなものを見せたら、気味悪がられてしまう。
 僕は彼女との思い出を、脳裏にのみ刻む事にした。

 ところが数年後、母がうっかり見せた大学入学時の記念写真に、彼女はこう、怒鳴った。
「ちょっと、この女、誰よ!?」
 その形相たるや、般若もかくやと言うもので……。
 幽霊より、妻の嫉妬の方が怖いなどと、当然、口には出来なかったけれど。

                      ―了―


 変な写真、お宅にもありませんか?( ̄ー ̄)

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 克美は、創立祭には参加したいなぁ、と呟いた。
 学校の創立六十周年の記念として、かなり華やかな祭が計画されているらしいのだ。屋台が出たり、演劇があったり、歌があったり……それだけを聞くと、丸で文化祭みたいだけれど。
 幼い頃から病弱で普段から休みがちな克美は、それでなくても登校したくて仕方ない様だ。
 けれど、普通に通うだけでもその身体に負担が掛かる事を思えば、準備で立て込み、多忙であろう学校に行かせていいものかどうか、私は迷っていた。
 行けば見ているだけという訳にも行かないだろう。
 第一、彼女は参加したがっている。それは只屋台を冷やかしたり、観劇したりといった事ではないだろう。

 先生や同級生は気を遣って過剰な労働を彼女に頼む事はないだろうが、残念ながらその気遣いは克美を更に孤独にさせる。彼女だって解ってはいる。もし、自分が無理をして倒れでもしたら、尚更皆に迷惑を掛ける事になるのは。だから、克美自身も無理にとは言わないだろう。
 だから、今こうして呟くだけに留めているのだ。
 飼い猫の、私の前で。

 とある昼寝時、私は夢を見た。
 克美になった夢だった。
 窓際迄一息に飛び上がれる私の身体と比べて、克美のそれは重く、僅かの運動で息が切れた。ヒトの身体はもっと色々な事が出来ると思っていたけれど……私は直ぐにうんざりした。傍で見ていた克美の母が心配する事もあり、私は早々に、又まどろみに落ちた。

 目を覚ますと、克美が些か興奮気味に、私に話し掛けた。
 夢の中で私になっていたのだ、と。羽の様に軽い身体で、学校に迄行って、皆が準備に追われているのを見て来たのだと。校庭で看板を作っていた同級生の様子をじっと見ていたり……。
 結局は見ているだけだったんだけどね、と克美は苦笑した。

 その日からだろうか、私達は午睡中に時折、入れ替わりの夢を見るようになった。
 そして創立祭の日、幾らか状態のよかった克美は登校した。勿論、自分の身体で。
 夢で見てはいたものの、結局何の手伝いも出来なかった事で、些か気後れしている風だったが……。
 帰って来た時、彼女は私を抱き上げて笑顔でこう言った。
「夢で見た通りだったのよ、学校の様子。飾り付けも、何もかも。そうそう、クラスメートが描いた看板にね、お前そっくりの猫が描かれていたのよ。いつもじっと見ていて、印象に残ったんだって」
 
 それは……もしかしたら、あれは夢などではなかったのかも知れないよ? 克美。
 私の身体と克美の意識――看板は、それが確かに創立祭に参加していた、証なのかも知れない。

                      ―了―
 眠いっすzzz

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プロフィール
HN:
巽(たつみ)
性別:
女性
自己紹介:
 読むのと書くのが趣味のインドア派です(^^)
 お気軽に感想orツッコミ下さると嬉しいです。
 勿論、荒らしはダメですよー?
 それと当方と関連性の無い商売目的のコメント等は、削除対象とさせて頂きます。

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