忍者ブログ
〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin Link
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 冷たい風に追われる様に、雲が足早に流れていた。この分なら三日間、断続的に続いた雨も、明日には上がるかも知れない。
 いや、そうであって欲しい。
 今日も橋の袂に佇む、あの子の為に。

「水嵩が増してるから、余り川に近付いちゃ危ないぞ」僕がそう声を掛けたのは二日前の夕方、雨が続いて川の水が茶色の奔流となり、恐らくは興味本位だろう、橋の袂から河原に降りようとしている小学校三、四年生位の子供を見付けた時だった。
 赤い傘を差した、見覚えの無い子供だった。尤も、この近所でも僕が知っている子供はほんの数人。ちゃんと名前迄知っている子供なんて皆無だ。精々、小学校で教わった様に挨拶してくる子供に、その半分位の声で返礼するだけ。今時の大学生なんてこんなもんだろう。兄弟も無く、従って誰某のお兄ちゃん、みたいな繋がりも無いし。
 そんな僕でも、流石に小さな子供が水量の増した河原に降りて行こうとしているのを見れば、声を掛けずにはいられない――横目に見ながら通過出来る程、無関心ではなかった。
 だが、その声に応えて子供が上がって来た所迄は見ていたものの、帰って行くのを見届けたり、況してや送って行ってやる程の親切心がある訳でもなかった。
 だってそうだろう? 知り合いの子供なら兎も角、どこ迄帰るのかも解らない、見も知らない子供なんて連れ歩いてて、変な邪推でも受けては割に合わない。今はそんな時代なのだ。
 いや、何だかんだ言っても結局は面倒臭かったのかも知れない。雨は降るし、冷え込むし。さっさと帰宅して温まりたかった。
 だが、その夜、川沿いに多数の捜索の声が上がった時、僕はその判断を後悔した。

 結局子供は見付からず、捜索は警察の手も借りて、更に大々的に行なわれる事となった。
 僕は付近の聞き込みに来た巡査に――勿論関わりたくはなかったけれど――夕方川辺でそれらしき子供を見たと証言した。但し捜索中の子供とは断定出来ない、と付け加えはしたが、彼が持って来た写真に写るのは紛れもなくあの子だった。
 巡査によればその子供は友達に荒れた川を見に行くと言っていたそうで、だからこそ川沿いを捜索していたという事らしい。それでも別の線も考えてはいたらしいが――あるいは未だ助かる見込みのある線を望んでいたらしいが――僕の証言でやはり川に立ち寄った可能性が高いと解ると、肩を落として帰って行った。
 川は増水が続き、未だ捜索の手も付けられない状態だと言って。
 せめてこの雨が上がってくれれば――と帰って行く背中は、無力感に打ちひしがれていた。
 僕が後悔に苛まれる様に。

 だから風よ、この雨雲を運び去ってくれ。
 あの夜以来、夜も昼も無く橋の袂に佇み、そこから見える僕の部屋の窓に向かって頭を下げ続けるあの子の為に。後戻りなどせず、僕の言う事を聞いて帰っていればと泣き続ける、あの子の為に。
 恐らくはその付近の深みに沈んでいるだろう、あの子の為に。
 早く、家に帰れるように。

                      ―了―

 む。最近捻りが無いな(--;)
 近所のお子さんの名前、何人言えますか?
 私は殆ど言えません。集合住宅で一杯居るのに。

拍手[0回]

PR
 何気無く遠回りして通り掛かったのは住宅街にぽっかりと開いた空き地。日も暮れて、灯の点された家々の間で、そこだけが闇の色。
 と、その闇の中にぽつりぽつりと小さな光が咲いた。
 ぎょっとして脚を止め、改めて見れば――それは十数対の猫の眼だった。
 我が家から十分程度の所に猫集会の会場があったとは知らなかった。私は頬を緩め、こちらに注目する猫達に突然の訪問を詫びた。
 家が解体された跡だろうか、広い敷地にコンクリートの破片や木材が点在している。猫達はあるいはその上に席を占め、あるいは草を敷物とし、何故か一点を注視している。
 そう、私を。
「悪いけど餌になる様な物は持ってないわよ」私は苦笑して言った。「じゃあね」
 猫は嫌いではないが、十数匹もの猫となると何とも言えぬ迫力があった。殆ど瞬きすらせずに見詰めてくる瞳から逃れる様に、私は踵を返した。どうせ闖入者に驚いただけの事。私が居なくなればまた何事も無かったかの様に猫集会を続けるのだろう。
 そう思っていたのだが――変わらず背中に視線が突き刺さる。精神的に敏感になっているのか、それが解る。
「何なのよ……」思わず不安が口に出た。

 足早に、かなり広い空き地の前を通り過ぎ、やっと視線を振り切った所で私はほっと息をついた。猫を相手に大袈裟な、と苦笑が浮かぶ。
 それにしても駅から家迄の間に、意外と色んな場所があるものだ――私は気紛れに通った道を反芻しながら家路を急ぐ。
 商店街の小さな店、それらの間の暗い路地、闇の中にぽつりと浮かんだ鮮やかな紅は小さなお稲荷さんだった。何度も塗り替えられたらしい朱色の小さな鳥居が、小さな祠の前に並んでいた。よく見ようと思って近付いて、小さな狐の石像を落としてしまったのは失敗だった。慌てて拾って戻したけれど、よく見ると左の耳の先が欠けていた。更に慌ててお稲荷さんの祠に手を合わせる。こんな小さい祠だもの、本当に今欠けたものかどうかも解らないけど、一応謝っておこう、と。
 そうして住宅街に入り、猫集会の空き地に差し掛かり……。それにしても本当に何だったんだろう?
 
 と――何かの影が街灯の灯を遮った。
 思わず振り仰いだ私の目に映ったのは、大きく口を開けた獣の姿。
 立ち竦む私の顔の傍を掠め、それは地に降り立ち、軽い足音を立てながら走り去った。
 心臓の鼓動が全身を震わせる。それが治まり掛けた頃、私は左耳の痛みにやっと気付いた。慌てて手をやると、耳の端が切れ、血が流れていた。大した傷ではない様だけれど……左耳?
 左耳の欠けた狐の石像が脳裏に浮かび、先の獣の正体に思い当たった私は思わずそれの去った方を振り返り、怒鳴った。
「謝ったじゃないの!」
 
 何処からともなく、猫の鳴き声が聞こえてきた。
 本心から謝ったか?――そう言われている様に、私は感じた。
 どうやら彼等が見ていたのは、私に付いて来た先の獣と、私の因果だった様だ。

                      ―了―

 十数匹の猫にじーっと見詰められたら……猫じゃらし買って来る!(笑)

拍手[0回]

 人質は重たかった――いや、体重の事じゃない。幾ら俺が最近碌な食事を摂っていないと言っても、四歳の女の子を抱えて行けない程、体力が落ちている訳じゃあない。寧ろこの子の方が物を食べてないんじゃないかと思う程、彼女は軽かった。
 この不況で職を失い、再就職も儘ならず食いあぐねた挙げ句とは言え、金の為に幼い子供をさらってしまったのだ。この子は俺の命綱でもあり、そして――もし、この子の親が金を出さなかったら……その時、俺はこの子を殺すのだろうか?

拍手[0回]

 ハロウィンなんて大嫌いだ――私は部屋のドアと窓を堅く締め、耳を塞いで夜を過ごす。誘いに来る友達の声にも、折角可愛い衣装を作ったのにと言うママの声にも耳を貸さない。
 だって、私は未だこの街の全てを知らないもの。

 三年前のハロウィン、十歳のあたしは初めて子供達だけで夜に出掛ける事を許された。勿論、もっと年長の子達と一緒にだけれど。
 あたしはママが作ってくれた魔女の衣装で参加した。黒い服に明るいオレンジ色のかぼちゃの刺繍が映えて、とっても素敵だった。待ち合わせ場所迄一緒に来ていた、他の子のママ達にも可愛いって褒められたわ。貰ったお菓子を入れる為のカボチャ型のバスケットを持って、あたしは色とりどりの仮装の列に交じった。
 バンパイア、ミイラ男、魔女、化け猫……皆色んな格好で、声を聞いてやっと友達の一人だって判る程の大作もあった。皆で灯を持って、夜の街を練り歩く。
 不思議な感覚だった。
 勿論それ迄にもハロウィンに参加した事はあったけど、いつもはパパかママ、友達のパパかママといった大人の人と一緒だった。けれどその夜は、子供だけっていう事で――それだけで全然違う気分だった。開放感を感じながらも不安が入り混じった様な、奇妙な緊張感。
 それでも家々を訪ね、笑顔で迎えられ、バスケットがお菓子で満たされ……そうする内にそんな不安は解けていった。友達とお喋りし、ウケを狙って変わった仮装をした子が居れば笑い、また別の家のドアを叩く。その内に余り話した事も無かった年長の子達とも同じ様にお話して、あそこの家は気前がいいから、なんて情報を貰ったり、羽目を外すのはここ迄、なんて注意を受けたりしながら、あたし達は徐々にこの街の夜に馴染んで行った。
 だけど……。

拍手[0回]

「ねえ、もし私が警察に知らせたら……どうなるの?」一度鏡を見て化粧の出来を確認し、玄関口で振り返って彼女は訊いた。
「俺は捕まるだろうな。だが、あんたの妹の命は保障しない」廊下の奥をそれとなく視線で示し、男は低い声で答えた。「それと……もし俺がムショから出る様な事が万が一にでもあったら、あんたの命も保障出来なくなるな。ま、強盗殺人の上に逃走中に病人を人質に取って、然もそれを殺したとあっちゃ、出られるとは思ってねぇがな」
「……」何処か遠くを走り回っているらしいサイレンの音を聞きながら、彼女はドアノブに手を掛けた。未明に忍び込んで来た男に、今日は大事な仕事がある、自分が行かなければ不審に思われ、例え仮病を使ったとしても社の誰かが様子を見に来る――そう言って外出の許可を取り付ける事は出来たのだが……敦美あつみには足枷があった。
 幼い頃から身体の弱い、一つ下の妹、春奈はるな。今も床に臥せっている。
 だが……。

拍手[0回]

 月が紅い――仕事の疲れで夕方から深夜迄眠り込み、ふと目を覚ました私はその月に誘われる様に、家を彷徨い出た。
 月を右斜め上に見ながら、冷たい夜気の中をカーディガンの襟を掻き合わせながら何処へともなく歩く。丸で月への道を求めるかの様に。
 決して、その月にも辿り着けもしないと言うのに。
 紅い月は良くない事の前兆だとか言われる事もあるけれど、私は幻想的なその月が嫌いではなかった。
 マンションが立ち並ぶ街は静まり返り、猫の子一匹見当たらない。
 只風が建物にぶつかって立てる、笛にも似た音が時折響くだけ。
 丸でどこか人の居ない世界に放り出された様な寂寥感を味わっていた。

 何をやってるんだろう、私は――終夜営業のコンビニの明かりに、ふと現実に引き戻されて、私は足を止めた。思わず苦笑が洩れる。
 此処は人の居ない何処とも知れない世界ではないし、私も月から落とされた罪人でもない。只の人。
 余りに月が紅いから、幻想的な気分になってしまったのだろう。
 私は――それでも支払い機能のある携帯を持って来た事を確認し――コンビニに足を向けた。秋の夜長に備えて雑誌でも買おうかと思ったのだ。
 そして自動ドアが開き、私は明るい店内に足を踏み入れた。

 いらっしゃいませ――お決まりのその声も無かった。習慣でカゴを取り、店内を見回すものの、午前一時近い所為か、客の姿も無い。それはいいが店員の姿も無い……。気が付けば店内放送も聞こえなかった。
 営業中……よね?――皓々と点いた灯に問い掛ける様に、私は天井を見上げた。外の紅い月とは対照的な、白い光。現実の灯。
 なのに、人が居ないというだけで見慣れたコンビニの店内がこれ程現実感を欠くなんて。
 客が居ないから奥でサボってるだけで、呼べば出て来るわよね――私は落ち着かないものを感じながらも、雑誌コーナーを物色した。何冊かをカゴに入れ、レジへ向かう。食品も補充しようかと思ったのだが、余り残っていなかった。
 そして奥に向かって幾度か声を掛けたのだが――返事が無い。
 普通レジに立っていなくても店内の防犯ビデオとかで店内は見ているもんじゃないの?
 真逆本当に人が居ないなんて……。

 私は気味が悪くなって、雑誌もカゴもレジに置いた儘、そそくさと店内を後にした。
 紅い月に照らされながら、部屋へと帰る。そして無音に耐えられず、深夜放送でも何でもいいからとテレビをつけた。
 そして――「一両日以内に確率九十パーセント以上」の地震情報が夕方から夜に掛けてこの付近に出され、住民は皆避難したと報じられているのを見て、私はゆっくり状況を理解した。
 コンビニに人が居なかったのも、食料品が品薄だったのも、その所為だったのだ。それでも緊急時の為に、開けては置かれたのだろう。
 私は窓一杯に広がる様な威圧感を放つ、月を見上げた。
 凶事の予兆と言われる紅い月を、今夜初めて怖いと思った。
 荷物を可能な限り纏め、私は再び、夜の冷たい街に彷徨い出た。

                      ―了―
 


 午前一時から午前六時迄、メンテナンスあり。
 紅い月って何か不気味ですよね~(--;)

拍手[0回]

 暑い――神無月も後半の気候とは思えない様な日差しと気温に、私は脱げない毛皮を纏った我が身を呪った。
 いや、これ以上の呪いは御免だ。私は少しでも涼しい場所を求めて、空調の効いた店を探した。
 流石にこの陽気では暖房を入れた店は無いものの、冷房を効かせている店も……いや、あった。生鮮食料品店。店全体ではないとしても冷蔵の陳列ケース付近なら、涼を取れる。
 私はいそいそと、スーパーの自動ドアを潜った。

 特に欲しい物も無いのだけれど、乳製品の棚の辺りで商品を探している振り。少し生き返った気分になった。
 通りすがりの客がそれとなく、不審げな視線を送ってくる。そんな事は気にしていられない。
 でも、余りここでうろうろしていると、店員に目を付けられるかも知れない。勿論、私には万引きする気なんて微塵も無いけれど。

 鮮魚コーナーのお兄さんにじろじろ見られ、レジのお嬢さん達にこそこそ笑われながらも――数十分後、私は涼み代の心算で梨を買って、店を出た。
 やっぱり暑い。また別の店に入ろう。
 毛皮の衣類の収集に凝った所為で家計を傾け、家のエアコン代さえ苦慮する私には、梨一個で涼めるなら御の字だった。周囲から奇異な視線を浴びようとも。
 何しろ、皮を剥がれた動物達の呪いで私の身体からは、どんな陽気であろうともミンクのロングコートが剥がれなくなっているのだから。

                      ―了―
 マ・ジ・で、暑い~(--;)
 ミンクのロングコート……ミンク何匹分? って考えても暑い(汗)

拍手[0回]

フリーエリア
プロフィール
HN:
巽(たつみ)
性別:
女性
自己紹介:
 読むのと書くのが趣味のインドア派です(^^)
 お気軽に感想orツッコミ下さると嬉しいです。
 勿論、荒らしはダメですよー?
 それと当方と関連性の無い商売目的のコメント等は、削除対象とさせて頂きます。

ブログランキング・にほんブログ村へ
ブログ村参加中。面白いと思って下さったらお願いします♪
最新CM
☆紙とペンマーク付きは返コメ済みです☆
[06/28 銀河径一郎]
[01/21 銀河径一郎]
[12/16 つきみぃ]
[11/08 afool]
[10/11 銀河径一郎]
☆有難うございました☆
カレンダー
12 2026/01 02
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
(04/01)
(03/04)
(01/01)
(12/01)
(11/01)
アーカイブ
ブログ内検索
バーコード
最新トラックバック
メールフォーム
何と無く、付けてみる
フリーエリア
忍者アナライズ
忍者ブログ [PR]