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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 何か見た事ある光景だ。そのものじゃなくて、似た様な感じの……。
 そこ迄考えて、僕は「ああ」と膝を打った。
 橋の欄干から、丸で通行人に覆い被さってくるかの様に伸び上がった金属製のフェンス。上端は繋がってはいないものの、橋の中心に向かって傾斜している。
 丸で通りゃんせでもしているみたいだ――ふと、その歌詞が口をついて出掛けて、しかし僕はその口を噤んだ。あの遊戯、最後には両側から腕が降りて、捕まってしまう。その腕とフェンスのイメージが繋がってしまった今、何と無くそれは不吉なものに感じられたのだ。
 これから友人の家迄、試験対策の勉強会に、この橋を渡って行かなきゃならないのだから。
 大体、もう童謡なんて歌う歳じゃないだろう。それも、こんな夕暮れ時にあんな、どこか物悲しい旋律を。
 僕は黙って、歩を進めた。

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 雪が降り続く只中で、冬香は目を閉じ、耳を澄ませた。
 粉雪の接地する音など、聞こえはしなかったけれど。

 冬香という名の通り、冬に生まれた彼女は雪が好きだった。
 雪の季節には、この小さな田舎町は雪に閉ざされてしまうけれど。
 そして冬を重ねるごとに、人が一人ずつ、消えて行ったけれど。
 無論、それは普通の死亡者などではない。町を出て行った訳でもない。
 只、人が一人、消えるのだ。
 忽然と、雪に捕われる様に。
 殆どは行方不明者として処理されているが、彼等が見付かる事は決して無かった。

 そしてそれが何故なのか、冬香はこの冬に知った。
「あたしに会った事は言っちゃいけないの」未だ幼いと見える少女は、彼女を見上げてそう言った。「でも、どうしてだか皆、誰かに話そうとしちゃうのよ。だからその前に……」
 白い顔の中の黒い瞳が、その姿に似合わぬ妖しい光を帯びた。
「私は大丈夫よ」ゆっくりと、冬香はそう言った。「この町から出ても行かないし、絶対誰にも言わないもの」
「本当に?」疑わしげな口調はしかし、直ぐに悪戯っぽい笑みに変わった。「ま、本当よね」
「ええ」こっくりと冬香は頷く。「だって……話す相手なんてこの町には残っていないんだもの。貴女しか」
 
 町の最後の住民は今日も小さな客人の足音を聞き取ろうと目を閉じ、耳を澄ませている。
 それはついぞ、聞こえはしなかったけれど。

                      ―了―

 季節もの(?)の雪女で。

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 公園の池の畔でイーゼルにキャンバスを立て掛け、絵を描いている人が居た。
 この寒い曇り空に閉ざされた池に向かって何を描いているのだろう――散歩中、興味を惹かれた僕はそれとなく、彼の後ろを通り様、キャンバスを覗き込んだ。
 と、そこに描かれていたのは丸で水の無い空を泳ぐかの様な魚達。いや、水は確かにあるのだ。僅かな揺らぎが見て取れる。
 だが……。
「おかしいですか?」僕が見ている事に気付いていたのか、男が声を発した。老人と言っていい年齢だろうな。これといった特徴も無い、ごく普通の老人。尤も、帽子を目深に被り、顔迄ははっきりと窺えなかったけれど。
 だが、水の中の魚同様、僕の心も見透かされた感じがして、落ち着かない気分で僕は立ち去り掛けた。
 その背を追う様に、彼の声が続いた。
「昔はね、この池の水も本当に綺麗に澄んでたんですよ。ええ、それこそ魚がこうして見える程。それが今は……」
 哀しげな声に釣られ、僕は彼の絵と現実の池とを見比べた。
 彼の絵には池に浮いたコンビニのビニール袋なんて無い。薄汚く土のこびり付いたペットボトルだって無い。遊泳禁止の立て札も、柵も無い。
 彼は在りし日の池を――自分の記憶を描き出しているのだろうか。
 僕が小さい頃から見慣れてしまい、こんなもんだと思っていた公園の池。元は美しかった公園の池――僕は当時の姿が見たいと、少し思った。
 と、老人は僕を振り返り、口元だけで笑って一礼した。
 その行動に僕が途惑っている間に、その姿は掻き消えた。
 パニックに陥った僕の耳に一言だけ――「戻って来るには早過ぎるか」と残念そうな声を残して。

 帰ってからお祖母ちゃん達に聞いた所、あの池がそんなに綺麗だったのは、曾祖母ちゃんの娘時代ではないかという事だった。
 あのお爺さん、一体幾つだったんだ?
 そんな疑問を抱えつつも、僕は今日も池のゴミ拾いをしている。
 思わず預かって来てしまったあの絵の光景を現実に目に出来るのは、未だ未だ先の事だろうけれど。

                      ―了―

 爺さん=水の妖?
 河童かな(^^;)

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 窓を閉めては駄目、と秋代は言った。
 既に季節は晩秋。二階にある部屋の窓からは今も、夕方の冷たい風が吹き込んでいると言うのに。
「風邪ひいちゃうよ? 窓が開いた儘じゃ暖房も効かないし」僕は彼女に言った。
 だが、大して厚着もしておらず、何より冷え切った手がかじかんでいるのが傍目にも判ると言うのに、彼女は頭を振った。
「駄目なの。閉めたら……聞こえなくなるの」そっと耳をそばだてる仕草をして微笑み、彼女は言った。
「聞こえなくなる? 何を聞いてるんだ?」釣られる様に、僕も耳を澄ます。
 聞こえてくるのは風が街路樹の枝葉を揺らす音、車の走行音、帰り道を急ぐ子供達の声……。彼女が聞き入る様なものがあるのだろうか?
「歌よ」秋代は笑った。
「歌?」僕は首を捻った。そんなものは聞こえなかったが……。「どんな?」
「私と同じ人間が出しているとは思えない程、とても綺麗なソプラノ……外国語みたいで、歌詞は解らないんだけど……ずっと聞いていたい」丸で夢でも見る様な表情で、秋代は窓辺に耳を傾けた。
 僕には相変わらず、どれだけ耳を澄ませても歌など――歌の様に聞こえる物音さえも――捉えられなかったけれど。

 秋代はそれからもずっと、窓を開けていた。流石に夜には僕が無理矢理にでも閉めたけれど。
 いや、それ以前にそんな夜中に迄聞こえる歌って……おかしくないか?
 からかわれているのだろうかとも思ったけれど、冷たい風に身を縮こまらせる思いをして迄、幼馴染みの僕をからかう理由が何処にあるだろう。
 しかし例え件の歌い手が一人ではなかったとしても、四六時中歌い続けているなんて事があるだろうか?
 僕はその疑問を、秋代にぶつけた。

「本当は何を聞いているんだ? 僕には歌なんて聞こえないし、ずっと歌い続けてるなんておかしいだろ。本当に歌を聴いているって言うのなら、これだけ聴いているんだ、歌詞は解らなくてもメロディーをハミングする位は出来るんじゃないか? 聞かせてくれよ」
 秋代は、僕が聞こえないと言うのが不思議でならないといった顔で、僕を見詰めた。
 しかしその口からハミングが漏れる事は無く、彼女は首を捻り、冷たい風に掠れた声で言った。
「おかしいわね。もうずっと同じ歌を聴いていると思ったけれど……思い返そうとすると思い出せないわ。だから余計に直接聴きたくて、窓を……」
 僕はばたんと激しい音を立てて、窓を閉めた。
 そして彼女を振り返り、呻く。
「あからさまに怪しいだろ、それは」
 きょとんとしながらも、彼女は頷いた。

 結局それが何だったのかは解らない儘だったけれど、取り敢えず馬鹿は兎も角天然ボケは風邪ひきそうだったので、あれ以来何も聞こえてこなくなったらしいのは喜ばしい事だろう。
 妖魔に化かされてる間は不条理に気付かない事も多いからな――とは知り合いのオカルトマニアの弁だった。
 ところで……この間から矢鱈耳に付く、何の楽器とも知れない、しかし心躍る音色は何だろう?
 窓、閉めたくないな……。

                      ―了―

 何だったんでしょうね?(←おい)
 歌声で人を惑わせると言えば、ローレライとか、ハーピィとか。
 しかし風邪をひかせてどないする気やねん(笑)

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 昨日拾った罪人は、結局俺が用意した隠れ家には居住しなかった様で、一夜明けて行ってみたそのあばら家は冷たい空気の中に一欠片の温もりも無く、ひっそりと、佇んでいた。
「何処に行ったんだ?」俺は呟いた。
 折角案内してやったのに、と河原の石を蹴飛ばす。
「その辺ふらふらしてたら、直ぐに捕まるって言うのに……あの馬鹿」悔し紛れにそう嘯く。
 別に格別の感謝を求めていた訳でもない。只、かつての弟でもあるこいつを放っては置けない、そんな気持ちが働いただけだ。実際、あの儘ふらついていたら、直に追っ手に捕まるのは目に見えている。
 まあ、此処に居てもどの程度、奴等の目を誤魔化せたかは疑問だが。一夜の宿位にはなったものを。
「勝手にしろ」俺は尖らせた口でそう呟いて、あばら家を後にした。
 俺だっていつ迄もこんな所をほっついてはいられないのだ。
 何しろ俺も罪人――生前、人を殺して来たんだからな。それもサバイバルゲームの延長の様に、何の関係も無い人間を狩った。
 その報いの様に、今は地獄の獄卒に追われている――俺が狩られる番だった。

 と、振り向いた俺の目に、奴が隠れ家に居なかった理由が飛び込んできた。
 この家は既に獄卒達に目を付けられていたのだ。
 何重にも俺を囲む奴等の中に、捕らえられた奴の姿があった。
 恨みがましい目が、俺を見ていた――態と獄卒どもの知る家に案内したのだろう、あの時の様にまた嵌めたのだろうと、俺を責める目。
 その突き刺す様な視線は丸で氷の槍の様で、ここでの数々の責め苦に遭ってきた中でも尤も俺の胸を抉った。
「そんな心算は……」言い掛けて、俺は止めた。聞く耳持たない、そんな表情が奴の顔には張り付いていた。言い訳をすればする程、冷たい拒絶が待っている――それが俺には解った。
 仕方がない。
 何しろゲームに誘って奴を罪人にし、その上狩りの最中に誤って奴を改造エアガンで撃って、此処に送ってしまったのはこの俺なのだから。
 後を追った位では、赦されない――赦されちゃいけないんだと、この時俺はやっと自覚した。
 俺は罪人なのだから。

                      ―了―

 う~。疲れているので短め&暗め。
 今日は本当に疲れた~(--;)

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 とん とん とん 
 何の音?
 風の音
 ああ、よかったぁ

 とん とん とん 
 何の音?
 お化けの音!
 わあぁぁ!

「……って、皆で逃げる遊びってあるじゃん」
「ああ、小さい頃やった覚えはあるな」俺は友人の他愛のない問いに頷いた。「それがどうかしたか? 今現在やってる宿題の写し以上に大事な事か?」
「いや、比較にならん位どうでもいい事なんだけど『お化けの音』ってどんなんだろって、ふと気になって」
「……本気でどうでもいいな、それ」
「まぁな」
 話を中断して、俺達は忘れてきた宿題を別の友人のノートから書き写す事に集中する。
 と――。

 とん とん とん

 俺達は同時に顔を上げた。始業前でざわついた教室の中、その音は妙にはっきりと俺達の耳に――俺達の耳だけに――届いた。他の連中は全く、その音に反応していない。
 そうっと音のした方に振り返る。
 外側から音がした、この三階の教室の窓の方へ。外には勿論ベランダも無ければ、風で当たりそうな樹も植わっていない。
「……取り敢えず、ああいう音らしいな」と、俺。
「みたいだな。すっきりした」と、友人。
 さ、すっきりした所で続きを……と視線をノートに落とすと――。

 どん!

 一瞬二人共が身を竦めてしまう程の音がした。
 一回だけ――丸でもういいよ! とでも言う様に。
「悪い。反応薄過ぎた」俺はもう居なくなったらしい何ものかに、そっと片手を上げた。

                      ―了―

 頭痛がする時は短めに~(--;)
 お化けだって淡白な反応されると寂しいんだい!(笑)

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「いつ迄もそこに居ても身体が冷えるだけだよ?」
「そうそう、こっちにおいで?」
 そんな声も耳に入らない様子で、高校の制服姿の千賀子はじっとしゃがみ込んでいた。この秋、亡くした両親が眠る墓の前で。
 先祖代々が眠る、最早角の磨り減った墓石は、家を見下ろす高台にあった。そこから家を見守るかの様に。
 立ち上がれば反対側には鈍色にびいろの冬の海が広がる。吹き上げる風が冷たく、彼女の髪をなぶった。
「ほら、そこは寒いだろう?」
「早くこっちにおいで?」
 千賀子はそっと、墓石に触れた。冷たく硬い石の感触――両親の温もりは微塵も感じられなかった。
 頬に伝う涙だけが、熱かった。
「そこに一人で居る気かい?」
「こっちに来れば皆が包み込んでくれるよ?」
 千賀子は家を見下ろし、踵を返して海を眺め――再び、向きを転じた。
 高台から、親族達が待つ家に下りる階段へと。
 
 海から聞こえる、新たな死者を待つもの達の「声」を振り切る様に。

                      ―了―

 遅くなったので短め更新!(←おい)
 冬の海……冷たく暗いイメージがありますな。

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プロフィール
HN:
巽(たつみ)
性別:
女性
自己紹介:
 読むのと書くのが趣味のインドア派です(^^)
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