〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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東南の方角へと向かっていた筈の航路がいつしか狂い、天候は状態を回復しなかった。
それでも、私は準備へ向かう為に指定した海域へ到達したかった。
でも、機能を狂わされたレーダーでは東南へと、私がポイントだけを支持した、あれらが生息する筈の場所へと向かうのは困難だったみたいだ。だから、これ以上は無理だ、港に帰ると船長は言い出した。
私はその船長を人質に船員達を脅し、この小型の船を乗っ取った。もう後戻りは出来ない……。
船のレーダーが狂ったのはきっと私の連れ、いや、連れ達の所為だろう。ここ迄の影響力があるとは、正直私にも予想外だったが。
それでも、私はその連れ達を見捨てる事は出来なかった。
例えそれらが集団化すると磁気を発し――それは互いの意思疎通の手段なのではないかとも推測された――機械類を狂わせるとしても。然も数の管理が難しく、直ぐに大量繁殖してしまうとしても。
それ故に研究対象としても疎まれ、理解されないものだとしても。
それらの本来棲む深海底から引き上げて置いて、手に負えないから処分する、その人間の身勝手さに、同じ人間ながら私は憤りを覚えていた。これ迄にもどれ程の種を、自分達の身勝手で本来の生息域――故郷から運び出し、自然のバランスを崩し、種を滅ぼしてきた事か。
恐らくは我々などよりもずっと長く、この地球に暮らしてきた先輩達であろう、それらを……。
だからこそ、私は大学の研究室から処分予定のそれらを盗み出した。殖えたとは言ってもシャーレに二、三枚程。それでもかなりの数が、そこには犇いていた。顕微鏡を通してしか、その姿は目に出来ないが。
そう。それらは細菌と呼ばれる、微細ながらも我々人間を含めた生命、更には地球環境にさえも影響を及ぼすものの一種だった。
この航海はそれらを元居た海域に戻す為のもの。船を一隻借りるのは只の研究員たる私の薄給には堪えたが、それも決心を揺るがす事は出来なかった。
例え天候が荒れようと、最早引き返す事は出来ない。幸いにも対象となる海域は広い。例え計器が狂おうと、どうにか辿り着けるだろう。
そして、船を激しく揺らす波が治まった頃、月明かりを照り返す海域に、船は進み入った。
私はシャーレを収納した鞄を手に、甲板に向かった。
脅されながらも船を難破させない為に船員達に精一杯の指示を出していた船長は、私が解放した直後、気が抜けたのか床に座り込んだが、船員達が私に手を出そうとするのは止めてくれた。最早呆れ果てたのかも知れない。あるいは今更押さえる価値も無いと察したのか。
彼には、そして船員達には悪いと思っている。シャーレからあれらを解放しながらも、私は瞑目した。
何しろ此処はあれらが大量に生息し、狂った磁場が船の脱出を妨げる――船の墓場なのだから。
勿論、この私も……最早引き返す気も、無い。
―了―
息してます(笑)
因みに巽の方角=東南という事で(く、苦しい ^^;)
それでも、私は準備へ向かう為に指定した海域へ到達したかった。
でも、機能を狂わされたレーダーでは東南へと、私がポイントだけを支持した、あれらが生息する筈の場所へと向かうのは困難だったみたいだ。だから、これ以上は無理だ、港に帰ると船長は言い出した。
私はその船長を人質に船員達を脅し、この小型の船を乗っ取った。もう後戻りは出来ない……。
船のレーダーが狂ったのはきっと私の連れ、いや、連れ達の所為だろう。ここ迄の影響力があるとは、正直私にも予想外だったが。
それでも、私はその連れ達を見捨てる事は出来なかった。
例えそれらが集団化すると磁気を発し――それは互いの意思疎通の手段なのではないかとも推測された――機械類を狂わせるとしても。然も数の管理が難しく、直ぐに大量繁殖してしまうとしても。
それ故に研究対象としても疎まれ、理解されないものだとしても。
それらの本来棲む深海底から引き上げて置いて、手に負えないから処分する、その人間の身勝手さに、同じ人間ながら私は憤りを覚えていた。これ迄にもどれ程の種を、自分達の身勝手で本来の生息域――故郷から運び出し、自然のバランスを崩し、種を滅ぼしてきた事か。
恐らくは我々などよりもずっと長く、この地球に暮らしてきた先輩達であろう、それらを……。
だからこそ、私は大学の研究室から処分予定のそれらを盗み出した。殖えたとは言ってもシャーレに二、三枚程。それでもかなりの数が、そこには犇いていた。顕微鏡を通してしか、その姿は目に出来ないが。
そう。それらは細菌と呼ばれる、微細ながらも我々人間を含めた生命、更には地球環境にさえも影響を及ぼすものの一種だった。
この航海はそれらを元居た海域に戻す為のもの。船を一隻借りるのは只の研究員たる私の薄給には堪えたが、それも決心を揺るがす事は出来なかった。
例え天候が荒れようと、最早引き返す事は出来ない。幸いにも対象となる海域は広い。例え計器が狂おうと、どうにか辿り着けるだろう。
そして、船を激しく揺らす波が治まった頃、月明かりを照り返す海域に、船は進み入った。
私はシャーレを収納した鞄を手に、甲板に向かった。
脅されながらも船を難破させない為に船員達に精一杯の指示を出していた船長は、私が解放した直後、気が抜けたのか床に座り込んだが、船員達が私に手を出そうとするのは止めてくれた。最早呆れ果てたのかも知れない。あるいは今更押さえる価値も無いと察したのか。
彼には、そして船員達には悪いと思っている。シャーレからあれらを解放しながらも、私は瞑目した。
何しろ此処はあれらが大量に生息し、狂った磁場が船の脱出を妨げる――船の墓場なのだから。
勿論、この私も……最早引き返す気も、無い。
―了―
息してます(笑)
因みに巽の方角=東南という事で(く、苦しい ^^;)
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秋の風が吹き抜ける庭を、百合子はリビングの煤けた硝子越しに眺めた。
樹木には丸で戒めの様に蔓植物が纏わり付き、草花は枯れ、芝生さえも薄茶色に変色している。手入れされていない庭がこれ程にも荒れ、物寂しいものだという事を彼女は初めて知った。
然して広くはないものの、かつては季節の花々に彩られていた事を、彼女は知っていた。彼女の名前と同じ、百合の花も数多く栽培されていた。
今は亡き、祖母の手によって。
幼い頃には、此処に一人住む祖母に会いに、余り彼女を快く思わない両親には内緒でよく来たものだった。だが三年前、高校受験が近付くに連れて塾だ何だと時間を費やされ、徐々に足が遠退き出した。彼女の成績に問題は無かったが、何故か塾は追加されていった。あるいは内緒で会いに行っている事を、金の事でいつも口汚く祖母を罵る両親は嗅ぎ付けたのかも知れなかった。遺産を自分達には遺さないと言った祖母への、意趣返しだったのだろう。
そして二年前の冬、祖母は亡くなったのだった。
自分がもっとまめに来ていれば――彼女は今でもそう言って悔やむ。
司法解剖や現場の状況から祖母は脳溢血で倒れ、然も運悪い事にその際に蝋燭を倒してしまい、長年過ごした家も半焼。共に火に巻かれたと判断されたと、夜遅く、塾の強化合宿から帰った彼女は聞いた。
もし誰かが居れば、直ぐに救急車を呼べただろう。蝋燭の火だって小火の内に消せただろう。
何より――自分が居れば、両親も不慮の事故を装って火事を起こす事など出来なかった筈だ、と百合子は思った。
あの晩、余りの月の冴え冴えとした綺麗さに、電話をすれば迎えに行くと言う父には敢えて電話せずに歩いて帰った彼女は、その待機していた筈の父の車のボンネットの上に猫が屯しているのを微笑ましく見ていた。だが、それはそのボンネットが温められていた事、車が起動していた事を意味した。
そして何処かに行っていたのかという彼女の問いに、父は首を横に振った。
嘘をついたのだ。
そして嘘であって欲しかったニュースが彼女の耳に入った。
百合子は父の車の運転席の床から、三日前の合宿直前に祖母の家を訪ねた時に見た、咲いたばかりの百合の一種の踏み付けられた花弁を一枚、発見し――警察に提出した。
以来、家を出た彼女は――この家を含めた遺産は彼女に遺されていたが住む気にはなれず――時折、此処を訪れる。
様々な悔恨と、寂しさと、僅かばかりの誇りを持って。
―了―
眠い~zzz
ん~、最近家族間の事件物が多いな(--;)
樹木には丸で戒めの様に蔓植物が纏わり付き、草花は枯れ、芝生さえも薄茶色に変色している。手入れされていない庭がこれ程にも荒れ、物寂しいものだという事を彼女は初めて知った。
然して広くはないものの、かつては季節の花々に彩られていた事を、彼女は知っていた。彼女の名前と同じ、百合の花も数多く栽培されていた。
今は亡き、祖母の手によって。
幼い頃には、此処に一人住む祖母に会いに、余り彼女を快く思わない両親には内緒でよく来たものだった。だが三年前、高校受験が近付くに連れて塾だ何だと時間を費やされ、徐々に足が遠退き出した。彼女の成績に問題は無かったが、何故か塾は追加されていった。あるいは内緒で会いに行っている事を、金の事でいつも口汚く祖母を罵る両親は嗅ぎ付けたのかも知れなかった。遺産を自分達には遺さないと言った祖母への、意趣返しだったのだろう。
そして二年前の冬、祖母は亡くなったのだった。
自分がもっとまめに来ていれば――彼女は今でもそう言って悔やむ。
司法解剖や現場の状況から祖母は脳溢血で倒れ、然も運悪い事にその際に蝋燭を倒してしまい、長年過ごした家も半焼。共に火に巻かれたと判断されたと、夜遅く、塾の強化合宿から帰った彼女は聞いた。
もし誰かが居れば、直ぐに救急車を呼べただろう。蝋燭の火だって小火の内に消せただろう。
何より――自分が居れば、両親も不慮の事故を装って火事を起こす事など出来なかった筈だ、と百合子は思った。
あの晩、余りの月の冴え冴えとした綺麗さに、電話をすれば迎えに行くと言う父には敢えて電話せずに歩いて帰った彼女は、その待機していた筈の父の車のボンネットの上に猫が屯しているのを微笑ましく見ていた。だが、それはそのボンネットが温められていた事、車が起動していた事を意味した。
そして何処かに行っていたのかという彼女の問いに、父は首を横に振った。
嘘をついたのだ。
そして嘘であって欲しかったニュースが彼女の耳に入った。
百合子は父の車の運転席の床から、三日前の合宿直前に祖母の家を訪ねた時に見た、咲いたばかりの百合の一種の踏み付けられた花弁を一枚、発見し――警察に提出した。
以来、家を出た彼女は――この家を含めた遺産は彼女に遺されていたが住む気にはなれず――時折、此処を訪れる。
様々な悔恨と、寂しさと、僅かばかりの誇りを持って。
―了―
眠い~zzz
ん~、最近家族間の事件物が多いな(--;)
日毎に姿を変えるそれは、今はまぁるくなっていた。
闇夜の中で、光を反射してこちらを見返している様だ。
少しでも近付きたくて、私はそっと手を伸ばす。無理なのは当然解っている。身体の弱い私はベッドに寝付いた儘。あちらは高い塀の上から顔を覗かせている。
病原体への抵抗力の低い私の身体では、外へ出る事、他者と触れ合う事はどんなものを拾うか解らず、危険だと先生にも言われていた。宿主の体力が落ちた時位しか悪さをしない、所謂日和見菌さえ、私には危険なのだと。
せめてこの身が健康なら、此処から出て、それを眺める事も出来ただろう。私の運動能力では難しいかも知れないけれど、手に触れる事だって出来たかも……。
だってそれはとっても近くに見えていて、それでいて冷たい硝子、冷たい空気で私との間を仕切られていて――私にはその空気に身を曝す事さえ許されていない。
だけど、いつかは――そう、病気を治して健康にさえなれば。
そんな事を思いながら見ていると、その光はさっさと木立の陰へと隠れてしまった。
もう少し見ていたかったのに。
月も無い闇夜に街灯の灯を反射して光る二つの丸い円と、その主――猫を。
―了―
にゃん♪(←また猫かっ!)
黄色ブドウ球菌とか普通に居るものでも抵抗力無くなると悪さし出すんだよねー(--;)
やっぱり健康が一番!
闇夜の中で、光を反射してこちらを見返している様だ。
少しでも近付きたくて、私はそっと手を伸ばす。無理なのは当然解っている。身体の弱い私はベッドに寝付いた儘。あちらは高い塀の上から顔を覗かせている。
病原体への抵抗力の低い私の身体では、外へ出る事、他者と触れ合う事はどんなものを拾うか解らず、危険だと先生にも言われていた。宿主の体力が落ちた時位しか悪さをしない、所謂日和見菌さえ、私には危険なのだと。
せめてこの身が健康なら、此処から出て、それを眺める事も出来ただろう。私の運動能力では難しいかも知れないけれど、手に触れる事だって出来たかも……。
だってそれはとっても近くに見えていて、それでいて冷たい硝子、冷たい空気で私との間を仕切られていて――私にはその空気に身を曝す事さえ許されていない。
だけど、いつかは――そう、病気を治して健康にさえなれば。
そんな事を思いながら見ていると、その光はさっさと木立の陰へと隠れてしまった。
もう少し見ていたかったのに。
月も無い闇夜に街灯の灯を反射して光る二つの丸い円と、その主――猫を。
―了―
にゃん♪(←また猫かっ!)
黄色ブドウ球菌とか普通に居るものでも抵抗力無くなると悪さし出すんだよねー(--;)
やっぱり健康が一番!
「締め切ると息が詰まりそうだよ」最近郷里からこの都心の家に引き取られた母は、家の機密性の高さに辟易した様にそう言って、庭に通じる窓に隙間を開けようと窓枠に爪を掛ける。確かに実家は何処からともなく隙間風が入ってくる様な、古い家だった。軒だって歪みが来ていたし、玄関の上がり框だって無闇に高い。バリアフリーなんて言葉も無かった時代の物だ。そんな家だから、足腰の弱り始めた母には不都合だろうと、同居の運びとなったのだが……。
「母さん、此処は田舎みたいに空気が綺麗じゃないし、何より防犯の事もあるから……」私はそう言って、母を止めた。
「お前、よくこんな箱みたいな所に住めるね」呆れる様に母が言う。
「今の家は大体こんなだよ」私は苦笑する。「いいじゃないか。小さい頃みたいに隙間風に身を縮こまらせなくていいんだから」
「でも、やっぱり息が詰まりそうだよ……」母はぼやく。「第一、自由に出る事も出来ないじゃないか。お前、ご近所さんとはちゃんと付き合いしてるのかい?」
私はばつが悪そうに視線を逸らした。近所の寄り合いなんて、此処に来てから出た事も無い。
出られもしないし、出る必要も無さそうだ。
完全室内飼い、箱入り猫の私には。
―了―
にゃん♪(←誤魔化すな)
や、うちの母がやっぱり同じ様に、締め切るのを嫌がるもので(^^;)
因みに私は締め切りたがる。だって虫が入るじゃない!(--;)
「母さん、此処は田舎みたいに空気が綺麗じゃないし、何より防犯の事もあるから……」私はそう言って、母を止めた。
「お前、よくこんな箱みたいな所に住めるね」呆れる様に母が言う。
「今の家は大体こんなだよ」私は苦笑する。「いいじゃないか。小さい頃みたいに隙間風に身を縮こまらせなくていいんだから」
「でも、やっぱり息が詰まりそうだよ……」母はぼやく。「第一、自由に出る事も出来ないじゃないか。お前、ご近所さんとはちゃんと付き合いしてるのかい?」
私はばつが悪そうに視線を逸らした。近所の寄り合いなんて、此処に来てから出た事も無い。
出られもしないし、出る必要も無さそうだ。
完全室内飼い、箱入り猫の私には。
―了―
にゃん♪(←誤魔化すな)
や、うちの母がやっぱり同じ様に、締め切るのを嫌がるもので(^^;)
因みに私は締め切りたがる。だって虫が入るじゃない!(--;)
昨日、この街を発つ身の上の彼女を見送りに行った時、駅の駐車場迄は息子も一緒でした。
ええ。別れた……妻を見送りに行った時です。
別れる事になった理由は、多分私の所為です。仕事に追われて家庭を振り返らなかった――よくある話です。家族の為に働いていた心算が、その家族を寂しがらせ、苦しめていたなんて……。それでも、妻にも不自由はさせたくなかったし、何より六歳になる息子はこれからお金も掛かります。我が子には何不自由ない生活をさせ、水準の高い教育を受けさせたい……そう思うのが親心でしょう? 例え過保護と言われても。妻からはそれよりももっと遊んで、話をしてやって欲しいと言われましたがね。
けれど、妻とは求めているものが違う――それが解っても、その頃には私も社で重要な仕事を任され、それを無責任に放り出す事も出来ず、また、遣り甲斐を感じてもいましたから……今更社を辞める事も出来ませんでした。それでこんな事態に陥った次第です。
息子の親権は私が持つ事になりました。これからは私一人で息子を支えなければ……。勿論不自由なんてさせない心算でした。
そしてこの街を出ると決めた彼女を見送りに出た昨日、気が付いた時には息子の姿が見えなくなっていたのです。
* * *
昨日、僕が駅迄行った時、パパも一緒だったよ。
だって、パパはお見送りに来てくれたんだもん。僕とママの。
しんけん?――あ、前に弁護士のおじさんが言ってた。僕がパパとママ、どっちと一緒に居るかって事だよね? それでパパとママが争ってるって……喧嘩は嫌だな。
うん、結局ママと住む事になったよ。
パパはね、仕事中毒なんだ。家族の為って言いながら、そう言って仕事してる自分が大好きなんだ。自分が居なきゃ駄目なんだって。家にも、会社にも。
でも僕はママと居たかったから、どっちと一緒に行くかって訊かれて、ママって答えたんだ。
それで昨日僕とママを見送りに来てくれたんだけど……僕が「バイバイ」って手を振った途端、急に僕を捜し始めたんだよ。未だ目の前に居たのに。おかしいでしょ?
それにもっとおかしいのは、そのパパを見てママが泣き出したんだ。
「そんなにも貴方には『支えるべき者』が必要なのね?」って。「この子が手を離れる事が、それ程迄に受け入れ難い現実だと言うのなら……出来るのならもう一度だけ、やり直しましょう」って泣いてた。
だからもう少ししたらパパのお家にママと一緒に帰るんだ。
僕が見えないって言い出したパパが、ちゃんと僕が見える様になって病院から帰って来たらね。
―了―
子は鎹、という事で。
ええ。別れた……妻を見送りに行った時です。
別れる事になった理由は、多分私の所為です。仕事に追われて家庭を振り返らなかった――よくある話です。家族の為に働いていた心算が、その家族を寂しがらせ、苦しめていたなんて……。それでも、妻にも不自由はさせたくなかったし、何より六歳になる息子はこれからお金も掛かります。我が子には何不自由ない生活をさせ、水準の高い教育を受けさせたい……そう思うのが親心でしょう? 例え過保護と言われても。妻からはそれよりももっと遊んで、話をしてやって欲しいと言われましたがね。
けれど、妻とは求めているものが違う――それが解っても、その頃には私も社で重要な仕事を任され、それを無責任に放り出す事も出来ず、また、遣り甲斐を感じてもいましたから……今更社を辞める事も出来ませんでした。それでこんな事態に陥った次第です。
息子の親権は私が持つ事になりました。これからは私一人で息子を支えなければ……。勿論不自由なんてさせない心算でした。
そしてこの街を出ると決めた彼女を見送りに出た昨日、気が付いた時には息子の姿が見えなくなっていたのです。
* * *
昨日、僕が駅迄行った時、パパも一緒だったよ。
だって、パパはお見送りに来てくれたんだもん。僕とママの。
しんけん?――あ、前に弁護士のおじさんが言ってた。僕がパパとママ、どっちと一緒に居るかって事だよね? それでパパとママが争ってるって……喧嘩は嫌だな。
うん、結局ママと住む事になったよ。
パパはね、仕事中毒なんだ。家族の為って言いながら、そう言って仕事してる自分が大好きなんだ。自分が居なきゃ駄目なんだって。家にも、会社にも。
でも僕はママと居たかったから、どっちと一緒に行くかって訊かれて、ママって答えたんだ。
それで昨日僕とママを見送りに来てくれたんだけど……僕が「バイバイ」って手を振った途端、急に僕を捜し始めたんだよ。未だ目の前に居たのに。おかしいでしょ?
それにもっとおかしいのは、そのパパを見てママが泣き出したんだ。
「そんなにも貴方には『支えるべき者』が必要なのね?」って。「この子が手を離れる事が、それ程迄に受け入れ難い現実だと言うのなら……出来るのならもう一度だけ、やり直しましょう」って泣いてた。
だからもう少ししたらパパのお家にママと一緒に帰るんだ。
僕が見えないって言い出したパパが、ちゃんと僕が見える様になって病院から帰って来たらね。
―了―
子は鎹、という事で。
陽が暮れるのも早くなったものだと、夕闇迫る空と腕時計とを見比べながら、僕は思った。我知らず、自転車のペダルを漕ぐ脚に力が入る。
早く帰らないと……。
それにしても自転車で片道一時間以上も掛かる高校なんて、我ながら思い切った選択をしたものだ。まぁ、確かに行きたい高校ではあったんだけど、他に近い所だってあったのに。
「……それだけ家から離れたかったのかな……」僕は自問する。一人になると、時々浮上する、その問い。
答えは未だに出ない。
いっそ家を出て下宿したいという思いもあったが、それは現状では無理だ。金銭的な問題もあるし、許しも出ないだろう。
寧ろ、許しが出たら僕の方が焦ってしまうんじゃないだろうか――そう考えて、思わず苦笑した。
そしてふと不安になり、更に自転車を急がせた。
辺りは畑の中に家が点在する田舎道。整備されてはいるけれど、灯は少ない。
早く帰らないと……。
余所の家の夕餉の灯を尻目に、僕は尚暗い一画へと――我が家へと急いだ。
早く帰らないと……。
それにしても自転車で片道一時間以上も掛かる高校なんて、我ながら思い切った選択をしたものだ。まぁ、確かに行きたい高校ではあったんだけど、他に近い所だってあったのに。
「……それだけ家から離れたかったのかな……」僕は自問する。一人になると、時々浮上する、その問い。
答えは未だに出ない。
いっそ家を出て下宿したいという思いもあったが、それは現状では無理だ。金銭的な問題もあるし、許しも出ないだろう。
寧ろ、許しが出たら僕の方が焦ってしまうんじゃないだろうか――そう考えて、思わず苦笑した。
そしてふと不安になり、更に自転車を急がせた。
辺りは畑の中に家が点在する田舎道。整備されてはいるけれど、灯は少ない。
早く帰らないと……。
余所の家の夕餉の灯を尻目に、僕は尚暗い一画へと――我が家へと急いだ。
最近、気になって仕方ない事があると、琴子は言った。
友人の務めとして、私は「何なの?」と尋ねた。
「私の部屋の天井にね、手の跡があるの」と、琴子は言った。「こう……ペタって、両手を開いて並べて突いたみたいなのが。然も何だかね、サイズや形から言って、女の人の手みたいなの。丁度私位の」
「琴子んちの天井って、結構高いよね?」よく知っている室内を思い出しつつ、私は首を傾げた。「でも、倉庫にある脚立を使えば届くし……。蛍光灯でも交換しようとした時に、手を突いたんじゃないの?」
「もう長い事、切れてないわよ」琴子は頭を振った。「手の跡が表れたのはほんの二週間程前。ずっと前からあったのなら、家をリフォームした時とか、業者の人がうっかり付けたのかなって思うけど……。それにしたって女性の手形なんて……」
「本当に手形なの? 只の染みがそう見えてるだけかもよ?」彼女を安心させ、納得させるべく、私は言った。「ほら、気味が悪いって思ってると段々木の節跡だって目鼻に見えてくるし……」
「そんな事無いわ。はっきりと残ってるもの。調べれば指紋だって出るんじゃないかって位」
「それは止めた方がいいわよ!」思わず早口に私は言い、慌てて取り繕う様に言葉を続ける。「ほ、ほら、本当に業者さんとかだったら、その人にも迷惑だし……。何より、どこで指紋とか調べて貰うのよ? 何か事件があったとかいう訳でもないんだし……」
「それはまぁ……そうよね」渋々と、琴子は頷いた。
「きっと前からあったのに気付かなかったのよ。気にする程の事じゃないし、気にしたって仕方ないって」私はそう言って、この話にけりをつけた。
「……それと、もう一つ気になる事があるんだけど……」
「なぁに?」友人の勤めとして、私は訊いてあげる。
「何で、脚立が倉庫にあるって知ってるの?」
「え?」私は言葉に詰まった。
「何で、私が知らない事を――私の『空想の友達』の貴女が知ってるの?」
私は黙るしかなかった。
二週間前、切れた蛍光灯を交換したのは貴女のお陰で自我を持った私だって――それ以外にも時々、琴子の身体を乗っ取っているなんて、言える訳ないじゃない。
―了―
この頃どうも遅くなりがちですな(--;)
その分、短くなる~。
友人の務めとして、私は「何なの?」と尋ねた。
「私の部屋の天井にね、手の跡があるの」と、琴子は言った。「こう……ペタって、両手を開いて並べて突いたみたいなのが。然も何だかね、サイズや形から言って、女の人の手みたいなの。丁度私位の」
「琴子んちの天井って、結構高いよね?」よく知っている室内を思い出しつつ、私は首を傾げた。「でも、倉庫にある脚立を使えば届くし……。蛍光灯でも交換しようとした時に、手を突いたんじゃないの?」
「もう長い事、切れてないわよ」琴子は頭を振った。「手の跡が表れたのはほんの二週間程前。ずっと前からあったのなら、家をリフォームした時とか、業者の人がうっかり付けたのかなって思うけど……。それにしたって女性の手形なんて……」
「本当に手形なの? 只の染みがそう見えてるだけかもよ?」彼女を安心させ、納得させるべく、私は言った。「ほら、気味が悪いって思ってると段々木の節跡だって目鼻に見えてくるし……」
「そんな事無いわ。はっきりと残ってるもの。調べれば指紋だって出るんじゃないかって位」
「それは止めた方がいいわよ!」思わず早口に私は言い、慌てて取り繕う様に言葉を続ける。「ほ、ほら、本当に業者さんとかだったら、その人にも迷惑だし……。何より、どこで指紋とか調べて貰うのよ? 何か事件があったとかいう訳でもないんだし……」
「それはまぁ……そうよね」渋々と、琴子は頷いた。
「きっと前からあったのに気付かなかったのよ。気にする程の事じゃないし、気にしたって仕方ないって」私はそう言って、この話にけりをつけた。
「……それと、もう一つ気になる事があるんだけど……」
「なぁに?」友人の勤めとして、私は訊いてあげる。
「何で、脚立が倉庫にあるって知ってるの?」
「え?」私は言葉に詰まった。
「何で、私が知らない事を――私の『空想の友達』の貴女が知ってるの?」
私は黙るしかなかった。
二週間前、切れた蛍光灯を交換したのは貴女のお陰で自我を持った私だって――それ以外にも時々、琴子の身体を乗っ取っているなんて、言える訳ないじゃない。
―了―
この頃どうも遅くなりがちですな(--;)
その分、短くなる~。
