[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
中学からの下校中、隣を歩いていた親友の漏らした呟きに私は思わず「え?」と訊き返していた。
確かに笑顔にも色々あるだろう。本心からの温かい笑顔。天真爛漫な笑顔。上辺だけの笑顔や苦笑も。けれど、彼女の声音には、そのどの種類と特定する事無く、全ての笑顔に対して、冷たさを感じている様な風があった。
「どうかしたの?」私は尋ねた。普段、それこそ笑顔の絶えない明るい彼女だけに、この呟きは気に掛かった。「何かあった?」
が、彼女はくるりと表情を変えていつもの笑みを浮かべ、何でもないよ、と首を横に振った。しなやかな髪が頬に掛かり、僅かにその笑顔を隠す。
そしてそれ以上訊く暇も無い儘、いつもの分かれ道で彼女は手を振り、去って行った。
妙な呟きだけが、細かな棘の様に私の耳に残った。
笑顔が冷たいってどういう事だろう?――家に帰ってからも、ノートを広げた儘考えるのは宿題の計算式よりさっきの呟きの意味。確かに人を小ばかにした様な笑顔とか、冷笑とかあるけれど、そんな特定のものを指している様には、やはり聞こえなかった。
いつもよく笑っている彼女が何故あんな事を……やっぱり何かあったんだろうか。無理にでも聞き出して、相談に乗った方がよかったかも……。湧き上がる胸騒ぎに、私は携帯を手に取った。
けれどどれだけ問い質しても、返って来た言葉は「何でもないよ」――向こうで苦笑しているのが判る声音での、その一言だけ。
〈心配し過ぎだよ。本当、何でも無いの〉
「そう? ならいいんだけど……」腑に落ちない気分の儘、私は通話を切った。
それから一週間程後、私は彼女の両親が離婚する事を知った。彼女は母親と共に母の実家に身を寄せる事になり、この学校からも、転校する事となった。
それを聞いた時、私は思わず彼女に詰め寄っていた。
「やっぱり何でもなくなかったんじゃない! 何で相談してくれなかったの? そりゃ……何にも出来なかったかも知れないけど……」知った所で子供の私に、然も他人の家庭の事情なんてどうにも出来ない。そんな事は解ってる。でも、家庭内の事で彼女だって悩んだだろうに、せめてその悩みだけでも打ち明けて、分かち合えば少しでも負担が軽くなったかも知れないのに。相談するにも、私では役者不足だったのだろうか。
悔しくて、涙が出た。無力な自分が。自分を頼ってくれなかった彼女が。何もかもが悔しくて。
静かに私の文句を受け止めていた彼女は、ハンカチを取り出して私の頬を拭いてくれた。
「私だってね、何度も訊いたんだよ? どこかぎくしゃくし出したお母さんとお父さんに。でも二人共笑って……『何でもないよ』って……」そう言って、彼女は潤んだ目を細めて、笑みを作った。「でも、その笑顔は仮面……。子供の私に言っても仕方ないからか、私に心配を掛けたくなかったからか、その両方か……」
兎に角、それは干渉への冷たい拒絶だった、と彼女は言った。
「それに比べて、涙は温かいね」
涙に滲んだ視界の中で、ふっと微笑んだ彼女の笑顔は、しかし冷たいとは感じなかった。
だから、私はずっと友達でいようと思う。
温かい涙と笑顔でもって。
―了―
今日、夜霧をクリックしたら、冒頭の一言を言いやがりました☆
どんな意味じゃ、と考えてみました。
「いいえ」
「……貴方が訪れたのは午後六時頃でしたか?」
「いいえ」
「では午後七時を回っていましたか?」
「いいえ」
「……午後七時前後被害者宅を訪れた時、既に被害者は事切れていましたか?」
「いいえ」
「……貴方は未だ息のある被害者を発見して、直ぐに通報しましたか?」
「いいえ」
「直ぐに通報しなかったのには訳があるのですか?」
「いいえ」
「……その訳とは、被害者を助けたくなかったから、ですか?」
「いいえ」
「では、犯人が逃げる時間を作りたかったから、ですか?」
「いいえ」
「貴方が庇いたかった相手――被害者に対して直接的に危害を加えた犯人は――貴方の弟さんですか?」
「いいえ」
「貴方は弟さんを庇い、その場から逃がした後に通報した。そうですか?」
「いいえ」
「なるほど、貴方は希代の嘘つきらしい。このポリグラフ――呼吸数の増減、皮膚電気抵抗、心電流等から被験者の嘘を見破る嘘発見器――が効かない人が居る事は知っています。しかし、自分の意思でその時々に応じて逆の効果を出せるとなると……。実は今朝早く、弟さんのご遺体が発見されました」
「……」
「昨夜、午後六時に被害者である叔母宅を訪れた貴方は、当然未だ生きていた被害者を撲殺し、貴方を止める為か遅れて訪れた弟さんをも殺し、叔母殺しの罪を彼に被せる為に逃亡したと見せ掛けて、その遺体を隠した。間違いありませんか?」
「いいえ」
「最後の質問です。貴方は貴方自身の心にさえ、嘘がつけるのですね?」
「はい」
―了―
「貴女は眠いですか?」
「いいえ……zzz」
「秋の陽は釣瓶落としとはよく言ったものね」学校の帰り道を急ぎながら、美由紀は呟いた。
午後六時半。既に陽は傾き、その光度を急速に減じつつある。駅前の寂れた商店街は、早、店仕舞いを始めている店もある。シャッターの降りた店は丸で彼女を拒絶している様で、女子高校生の一人歩きは些か心細い、そんな風景。
それにしてもシャッターにも店柄が表れるものだと、美由紀はそれらを横目に思った。
味も素っ気も無いグレーの物、店名が大きく書かれた物、可愛らしくも子供っぽい絵の描かれた物……。いずれも彼女が朝に此処を通る時には降りた儘の金属の壁達。
もう少し開けて置いてくれればいいのに――帰りは部活で遅くなる事もあり、殆ど立ち寄る事の無い商店街に、彼女はちょっと文句を言いたくなった。せめて暗がりを通り抜ける迄、と。
と、今にも閉まりつつあるシャッターに、ふとした違和感を感じて彼女は脚を止めた。
朝見た時と違う――それが違和感の正体だと気付くのに、然程時間は要しなかった。
ありふれたグレーのシャッターだった筈が、うっすらと、人の姿の様なものが浮かんで見える。描かれたものと言うよりは、まさに浮かび上がってきた染みの様な質感だった。シルエットからして成人男性だろうか。そして気になるのは、その首から天に伸びる一本の影――不吉な思いを抱き、美由紀は眉を顰めた。
それにしても何なのだろう? 看板を見上げればそこは小さな文房具屋。店の佇まいや看板の字の掠れ具合、それらから見ても古く、見るからに流行っていなさそうな店だった。
とてもシャッターの塗り替えをする余裕がある様にも見えないし、何より、シルエット以外には上塗りした様子も無いのだ。こんな不吉な絵だけを描き足す事などあるだろうか。
しかし、シャッターを降ろす作業をしている店主らしき男は、全く意に介した様子もない。シルエットを見て眉を顰める事もなければ――例えそれが意図して塗り替えたものだとしても――その出来栄えを確かめるでもない。言ってみれば、完全なる無視。俯き加減の視線は終始、伏せられた儘だった。
釈然としない思いを抱いた儘、それでも沈み行く陽を追う様にして、美由紀は家路を急いだ。
翌日の帰り道、その店の通用口辺りに黒い人集りがあるのを、美由紀は目にした。流れて来るお悔やみの言葉、ひそひそ話、それらから通夜の席だと知れた。然も、どうやら昨日のあの店主が経営難を苦に首を括ったらしいと聞いて、美由紀は嫌でもあのシャッターのシルエットを思い出さざるを得なかった。
男性のシルエットの首から伸びる一本の線――それは昨日抱いた不吉な想像と重なった。
恐る恐る、閉ざされた儘のシャッターを見遣り、彼女は目を疑った。そこには以前と同じ、ありふれたグレーの色が広がるばかり。どこにもシルエットなど、見付かりはしなかった。
見間違い? でも――薄気味の悪さに、美由紀は振り切る様にして、視線を帰路の先に向けた。
その先、可愛らしくも子供っぽい絵の描かれたシャッターに、その絵に全くそぐわないシルエットが浮かんでいるのを見て、彼女は思わず息を詰めた。
死の影――そんな筈がないと思いつつも、確かめる恐怖に負けた彼女は、翌日から通学路を変更した。あの店がどうなったかは、だから知らない。知りたくない。
もしあれが死の予兆だとしたら……もしも我が家に浮かぶのを見てしまったら、どうしたらいい?
―了―
そんな予兆は知りたくない様な、知りたい様な……(--;)
知ってどうにか出来るかどうかにもよるかな?
また一年、あの出来事から遠ざかる――忘れられる訳ではないけれど。
六年振りの高校の同窓会。割と付き合いの良かった三人と、車で出掛けたのは高校の当時から地元で噂になっていた幽霊屋敷。数人が軽くアルコールが入っていた所為もあるかも知れない。それぞれ社会人になり、なかなかこのメンバーで集まる事も無くなったという事もあるかも知れない。
ほんの思い出作りの心算、だった。
しかし、それでも交差点での突然の左折車に思わず立ち竦み、今にも撥ねられそうになっている妹を咄嗟にその場から突き飛ばしたのは、たった二人の姉妹だからだろうか。
それとも……罪滅ぼし?
衝撃と痛みに吹き飛ばされる意識の中、道路に転がった妹の驚いた顔と何より無事な姿に、私は僅かな苦味を含んだ笑みを浮かべた。
もう二年程前になるのだろうか。
当時二十歳で一人暮らしをしていた私に、五歳下の妹が泣きじゃくりながら電話を掛けてきたのは。
お姉ちゃん、帰って来て、と。
一人暮らしと言えば聞こえはいいけれど、実際には家出同然だった。彼氏の所に転がり込んだ友人のアパートの部屋をこれ幸いとその儘借り受け、バイトしながらの生活。大学なんてそもそも行ってない。高校一年の時点で登校拒否。それを咎められるのを鬱陶しく感じての逃避行、そしてささやかな反抗――そう、私は碌な娘じゃなかった。
両親や妹にも心配や迷惑を掛け通し。当時、私の事で家の中でも喧嘩が絶えなかったと、後で妹から聞かされた。恨みの籠もった上目遣いの視線に突き刺されながら。
そしてあの晩、妹の声に急かされて半年振りに戻った実家では、喧嘩の末に父が母を撲殺し――これは恐らく不幸な事故でもあったのだろうと思う――自分は首を吊っていた。
茫然としながらも、私は只々泣きじゃくる妹の代わりに通報した。
結局それ以来、十五歳の妹を一人残す訳にも行かず、私は実家に戻った。そして近所の噂話と冷たい好奇の視線、笑顔の消えた妹に無言で責められながら、二年を過ごした。自然、私も妹と距離を置くようになった。一つ屋根の下に暮らしながらも。
そして……。
「お姉ちゃん!」
ああ、またあの声だ――あの日、私を呼んだ涙声。必死に私を呼んでいる。こんな私を。
「お姉ちゃん! 目を覚まして! 独りにしないで!」
そうだ、私が死んだら妹は唯一人、この世に残されてしまう。
死を確信した筈の私は、しかし、この声に呼び戻されたのだろうか。一命を取り留めていた。
身体に痛みが戻ってくる。けれどその痛みは私に生きている自覚を与え、胸への痛みとして突き刺さる妹の涙は、私に生きる理由を与えてくれた。
開いた目の前には、涙と笑顔でくしゃくしゃになった妹の顔があった。
―了―
……どんでん返しは、要らないよね?(^^;)
偶には。
冗談半分に旅館の床の間に掛かった掛け軸の裏を覗いて見た事を、藍子は後悔した。
変なものが居る部屋だと、こういう所に御札が貼ってあったりするのよね――ついさっき友人に言った軽口が、脳裏に蘇る。
掛け軸を捲った先の壁には、毛筆で書かれた妖しげな御札が、部屋に睨みを利かせる様にこちらに相対していた。
「部屋、替われないかな……?」慌てて、やはり固まっている友人を振り返り、提案する。彼女とは同室。詰まりは運命共同体。「いや、冗談だけどさ、やっぱり気分よくないじゃない」
「そ、そうよね」友人――真由香は頷いた。「こんなの貼ってあるっていう事は、宿の誰かはこの部屋の事、知ってるって事だもの。訳を話せば他の部屋に変えてくれるかも……」
二人はいそいそと、旅館のフロントに脚を運んだ。
しかし残念な事に返ってきた返事は「満室です」――然もあの部屋で何か変事があった事など無いし、御札の事も誰も知らないと言う。
「じゃあ、誰が貼ったって言うんですか? 何も無いなら何故あんな物が隠す様に貼ってあるんですか?」食い下がる藍子に、従業員の一人が見に来てくれた。
そしてもう触りたくもないと言う二人に代わり、掛け軸を捲った彼は怪訝な表情を浮かべた。掛け軸の裏に入り込む様にして壁を探り、おかしな物が無いか、探している。やがて彼は言った。
「何もございませんが……」
慌てて覗き込んだ藍子達だったが、確かにそこには御札はおろか、何の痕跡も無かった。
「どういう事……?」顔を見合わせて互いに問う二人の女性に、従業員は見間違いでは、と愛想笑いを浮かべる。もしかしたら、などと思っているから何かを見間違えたのでしょう、と。
墨痕も鮮やかなあれが見間違いだったとは到底思えない二人はその説明に不服だったが、現にそこに無い事にはどうしようもない。見間違いだったのだ、と自分達に言い聞かせ、従業員にはお騒がせしました、と引き取って貰った。
二人の部屋を出、ポケットからくしゃくしゃになった紙を摘み出しながら、従業員はぼやいた。
「先代が貼った御札、未だ残ってたんだな。客が怖がるだけだってのに。幽霊が出る、なんて馬鹿馬鹿しい」
この老舗旅館に何枚か貼られていた御札。それは先代が貼ったもので、今の経営者からは見付け次第撤去するよう、言い含められていた。勿論、客には不信感を与えないように。だから彼は掛け軸の裏に隠れる様にしてこれを剥ぎ取り、痕跡も可能な限り消してきたのだ。
「ま、流石にこれで最後だろう」燃えるゴミと書かれたゴミ箱に御札を放り込みながら、彼はごちた。
結局、あれが観間違いだったとは納得が行かず、やや睡眠不足にはなったものの、藍子達は無事に旅を終えた。やはり気の所為だったのだ、と帰りの荷物を整え、笑顔でチェックアウトを済ませて宿を出た。
その時玄関先で擦れ違った和服姿の男に、彼女達の見送りに出ていた従業員の誰も挨拶をしなかった事が少し気にはなったが。丸で、誰も気付いていないかの様で。
件の旅館が不審火により全焼した事を二人が知ったのは、二日後だった。
しかし、全ての御札が剥がされた事で、先代が遠ざけようとしていたものが来てしまった事など、彼女達は知る由もなかった。
―了―
御札は何処ででも燃やしていいもんじゃないよー? 多分。
掛け軸の裏の御札とかねー。知らない方がいい事もある……!?
大気汚染、砂漠化、それ等に伴い過酷な環境下でも栽培可能な強化植物、更には代替食品の開発……その技術は一時は食糧問題の救済の一手に思われたのだが、便利さの陰には某かの代償が潜む事を、人間はまたも、忘れていた。公害を撒き散らした一面を持つ産業革命からもう何世紀も経つと言うのに。
「大丈夫よ。ちゃんと反応があるわ」ふっくらと湯気を上げる白飯を一匙分、機械に掛けて、妻は微笑んだ。「高かったけど、やっぱり天然物はいいわね」
「そうだな。その分、しっかり稼がないと……」私は苦笑する。「美味しくて、何より安全な物を食べるのは楽な事じゃないな」
各国の主食の代替食品も、それぞれ出来上がってはいた。当然、米も。勿論原材料も厳格に管理され、品質的にも栄養摂取面でも問題ないとされている。それでも、原材料が何かは……知らなければよかったと、私は常々思っている。外観や食感、味では全く遜色なく、区別もつかないのだが――それだけに、有機反応機は大ヒット商品だった。
「だから私だって昔取った杵柄で働いてるんだもの。家族の為にも安全な物を……ね」妻は既にテーブルに着いている、彼女によく似た息子に優しく笑い掛けた。共働きとは言え、家計の遣り繰りは楽ではないだろうに。よく出来た妻だった。
三重の硝子で阻まれた外では、今日もガスが渦を巻いている。しかし此処だけは、有機的で人間的で、温かい世界だった。
電球の明かりに艶々と照り映え、白い湯気を上げているご飯の様に。
少しでも資源を残すべく、私達は夜は早く床に就く事にしている。私は未だ端末を使ってのレポート作成に熱中している妻に声を掛けた。直ぐに行く、妻はそう言って些か慌てて端末を閉じた。照明を落とした所為か、その顔が少し蒼い。
閉ざされる前のほんの一瞬、端末の画面に見えたのは米の代替食品の原材料の問題点――健康に対する重大な問題がある可能性があるというニュースだった。私は思わずぞっとした。もしそれが本当なら……。いや、それなら食品管理の優秀な研究者である妻がきっと真実を突き止め、対策を立案するだろう。よく出来た、私には勿体無い程の妻なのだから。
だから勿論、有機反応機に細工して安い代替米を天然物に見せ掛けて差額をへそくりに、なんて彼女にとっては容易だがせこい真似をする筈なんてないさ。
しかし私には、最早本来の米と代替物の区別は付かないのだった。
―了―
や、何でも機械に頼る様になっちゃダメですな(--;)
人間にちゃんとした生存本能とか、あるんかな?
