〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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僅かに水を含んだ墨を流した様な空を見上げて、私は考えた――どうしてこんな所に居るんだろう、と。そして、この街ではどうしてこんなに、星明りが見えないのだろう、とも。
辺りは私の職場を含むオフィス街。しかし、時計を見れば未だ十時だと言うのに、各ビルには残業の寂しい明かりさえ、点いていない。それどころか街灯も点灯されておらず、非常口を示す緑の色さえ、闇色。信号機さえも色を失くしていた。あれらが消える事などあるのだろうか。
停電かとも思ったが、通りの先に見える歓楽街方面の空は、雲なのかスモッグなのか、ネオンの照り返しに色付いている。このオフィス街だけが、冷たく闇に閉ざされている様だった。
そもそも、どうして私は此処に居るのだろう? 確かに仕事を終え、満員電車に揺られて帰宅した筈なのに。
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川が凍ったからと言って、あの島へ行こうなんて考えちゃいけないよ――川端の家に住む老婆に言われた言葉が、今更、順也の耳に蘇った。
川幅十五メートル程だろうか。町の中心を滔々と流れる川。水量は豊富で、所々深みもあり、過去の経験から、子供だけでは近付く事を禁じられていた。
その川のほぼ真ん中に、中州と言うよりはちょっとこんもりとした、小さな島があった。時折の増水にも流される事無く、根を張った木々と、岩が目に付くばかりの島だ。しかし、好奇心旺盛な小学生達には、少し、気になる存在だった、
それと言うのも件の老婆、よく堤防に立ってその島を見遣りながら、子供が通り掛かるとそう忠告して、川端の家へと帰って行くのだ。
しかし、子供だけで近付いてはいけないと言われてもいたし、何より、島の周りには深みがあって、例え大人と一緒でも近づかせては貰えないのだ。
普段なら。
川幅十五メートル程だろうか。町の中心を滔々と流れる川。水量は豊富で、所々深みもあり、過去の経験から、子供だけでは近付く事を禁じられていた。
その川のほぼ真ん中に、中州と言うよりはちょっとこんもりとした、小さな島があった。時折の増水にも流される事無く、根を張った木々と、岩が目に付くばかりの島だ。しかし、好奇心旺盛な小学生達には、少し、気になる存在だった、
それと言うのも件の老婆、よく堤防に立ってその島を見遣りながら、子供が通り掛かるとそう忠告して、川端の家へと帰って行くのだ。
しかし、子供だけで近付いてはいけないと言われてもいたし、何より、島の周りには深みがあって、例え大人と一緒でも近づかせては貰えないのだ。
普段なら。
今朝の占いはついていなかった。
元々そんなに信じている心算でもないのだけど、朝から蠍座が十二位なんて聞くと、流石にいい気分じゃあない。
ラッキーアイテムはワニの歯――そんなもん持ってる訳ないだろ! そうツッコミを入れながらも、持っていない時点でついていない気がしてしまう。
大丈夫、大丈夫。こんなもん、気の持ち様よ。
そう自分に言い聞かせながら、身支度を整える。
外は朝から、冷たい雨が降り続いている。これさえも私の不運の所為みたいだ。こんな日は一日、部屋でゴロゴロしていたい。でも、皆で集まって試験勉強しようって約束したんだ。然も言い出しっぺはあたし――ついてない。
それもあたしの部屋じゃ狭いからって、未央子の部屋を集合場所に決めている。行かない訳にはいかない。
溜め息一つついて、あたしは鞄と傘を持って家を出た。
元々そんなに信じている心算でもないのだけど、朝から蠍座が十二位なんて聞くと、流石にいい気分じゃあない。
ラッキーアイテムはワニの歯――そんなもん持ってる訳ないだろ! そうツッコミを入れながらも、持っていない時点でついていない気がしてしまう。
大丈夫、大丈夫。こんなもん、気の持ち様よ。
そう自分に言い聞かせながら、身支度を整える。
外は朝から、冷たい雨が降り続いている。これさえも私の不運の所為みたいだ。こんな日は一日、部屋でゴロゴロしていたい。でも、皆で集まって試験勉強しようって約束したんだ。然も言い出しっぺはあたし――ついてない。
それもあたしの部屋じゃ狭いからって、未央子の部屋を集合場所に決めている。行かない訳にはいかない。
溜め息一つついて、あたしは鞄と傘を持って家を出た。
きのうはエルコとして、エントリへ推奨するつもりだった。が、審査は厳しい。
それできょう彼女が記憶尋問された!
「エルコ――それが貴女のネームで間違いありませんね?」冷静な尋問官の声が、冷たく白い部屋に響く。
彼女の前にはリクライニング・チェアに身を預けた、催眠状態の、エルコ。
「はい……。間違いありません」ぼんやりと、か細い声で、それでも尋問官の言葉に返答するエルコ。
「現在十歳。女性。母は佐和子。父は啓二。これも間違いありませんね?」
「はい……」
硬質ガラスの向こうの娘の様子を見ながら、私はスピーカーから届けられる二人の会話に留意していた。
雪が降る前に家に帰ろう、と思った。
空は鈍色に重く、今にもぼた雪を降らせそうだ。
道のそこ此処にも、解け残った泥混じりの雪が溜まっている。
それらを踏まないように歩きながら、僕は更に泥濘を避ける。
足跡が残る事は避けなければならない。
何故なら、幽霊に足は無いのだから。
夕方、すっかり雪の積もった街をニュースが駆け巡った。
一人暮らしの老富豪が、庭で心臓発作を起こして倒れた。
そして、声を聞いた家政婦に発見された時にはもう死亡していた、と。
丸で幽霊でも見た様な顔だったと言う。
死の直前の言葉は、彼が無理な縁談を進めようとした末、追い出した娘の名だった。
それは、僕が色濃くその面影を継いだ、母の名前だった。
―了―
短い!(笑)
絵を描くので消耗したから今日はこれで勘弁~( ̄▽ ̄;)
空は鈍色に重く、今にもぼた雪を降らせそうだ。
道のそこ此処にも、解け残った泥混じりの雪が溜まっている。
それらを踏まないように歩きながら、僕は更に泥濘を避ける。
足跡が残る事は避けなければならない。
何故なら、幽霊に足は無いのだから。
夕方、すっかり雪の積もった街をニュースが駆け巡った。
一人暮らしの老富豪が、庭で心臓発作を起こして倒れた。
そして、声を聞いた家政婦に発見された時にはもう死亡していた、と。
丸で幽霊でも見た様な顔だったと言う。
死の直前の言葉は、彼が無理な縁談を進めようとした末、追い出した娘の名だった。
それは、僕が色濃くその面影を継いだ、母の名前だった。
―了―
短い!(笑)
絵を描くので消耗したから今日はこれで勘弁~( ̄▽ ̄;)
カアァァァ! カアァァァ! カアァァァ……!
濁りを帯びた声を上げながら、黒衣の鳥が館の窓辺で鳴いている。
それを憂鬱な思いで見上げながら、秀人は強張った両手から、軍手をようやく、外した。目の前のソファには彼が多額の借金を申し入れて断られ、挙げ句に一族の面汚しと罵られた相手――大伯母が両の目を見開いた儘、息絶えていた。
齢八十としては大柄な、よく背筋の伸びた女性で、それは一族の財を支えてきた自信から来るものの様でもあった。
だが、こうなってしまっては、只の物言わぬ死体だ――秀人はいつも高圧的だった生前の彼女を思い出し、毒づく。いつも控え目だった祖母に比べ、その姉である大伯母は厳しい目で子供達を見、躾けてきた。
『それなのに貴方の様な子が出るなんて、一族の名折れですよ』わざとらしい程の嘆息が、耳に蘇る。『事業の失敗ならば兎も角、遊びで多額の借金を拵えるなんて……』深い溜め息迄、ありありと脳裏に再生出来た。
その直後の自分の激昂、殺意、そして凶行迄も。
濁りを帯びた声を上げながら、黒衣の鳥が館の窓辺で鳴いている。
それを憂鬱な思いで見上げながら、秀人は強張った両手から、軍手をようやく、外した。目の前のソファには彼が多額の借金を申し入れて断られ、挙げ句に一族の面汚しと罵られた相手――大伯母が両の目を見開いた儘、息絶えていた。
齢八十としては大柄な、よく背筋の伸びた女性で、それは一族の財を支えてきた自信から来るものの様でもあった。
だが、こうなってしまっては、只の物言わぬ死体だ――秀人はいつも高圧的だった生前の彼女を思い出し、毒づく。いつも控え目だった祖母に比べ、その姉である大伯母は厳しい目で子供達を見、躾けてきた。
『それなのに貴方の様な子が出るなんて、一族の名折れですよ』わざとらしい程の嘆息が、耳に蘇る。『事業の失敗ならば兎も角、遊びで多額の借金を拵えるなんて……』深い溜め息迄、ありありと脳裏に再生出来た。
その直後の自分の激昂、殺意、そして凶行迄も。
「あれ? 居たの?」帰って来るなり、そんな声を上げたのは七つ離れた姉だった。
「居るに決まってんじゃん」寄り掛かっていたソファから身を起こして、あたしは言った。
「隣のおばさんがあんたが今し方、駅の方へ行くのを見たって言うから、珍しく外出したのかなって……」会社帰りの買い物の荷物をテーブルに降ろしながら、姉は言う。「これから夕飯なのに、出掛ける訳無いわよね。待ってて、直ぐ作るから」
それでなくたって出掛けやしない――それが解っている癖にと、あたしは苛立つ。
あたしは十六歳の高校一年生。だけど、二学期からずっと、学校には通っていない。理由は色々あった。学校が肌に合わない。先生も。同級生も。何より、本当の志望校じゃあなかった。落ち着いて考えれば子供の我が儘みたいなものだ。
でも、登校拒否を只咎める両親の家を飛び出して、一人暮らしのOLをしている姉の所に転がり込んでからは、引っ込みが付かなくなって――現在、鋭意引き篭もり中。
姉は暫くこっちで様子を見るからって、両親にも執り成してくれた。いつも優しいけど、年を越して、これだけ長期間ともなると、迷惑しているのはあたしにだって明らかだ。でも、此処を出たら何処にも行く所なんか、無い。この街には他にちゃんとした知り合いなんて居ないし……。
だから、あたしが外出する事なんて、先ず無い。
「居るに決まってんじゃん」寄り掛かっていたソファから身を起こして、あたしは言った。
「隣のおばさんがあんたが今し方、駅の方へ行くのを見たって言うから、珍しく外出したのかなって……」会社帰りの買い物の荷物をテーブルに降ろしながら、姉は言う。「これから夕飯なのに、出掛ける訳無いわよね。待ってて、直ぐ作るから」
それでなくたって出掛けやしない――それが解っている癖にと、あたしは苛立つ。
あたしは十六歳の高校一年生。だけど、二学期からずっと、学校には通っていない。理由は色々あった。学校が肌に合わない。先生も。同級生も。何より、本当の志望校じゃあなかった。落ち着いて考えれば子供の我が儘みたいなものだ。
でも、登校拒否を只咎める両親の家を飛び出して、一人暮らしのOLをしている姉の所に転がり込んでからは、引っ込みが付かなくなって――現在、鋭意引き篭もり中。
姉は暫くこっちで様子を見るからって、両親にも執り成してくれた。いつも優しいけど、年を越して、これだけ長期間ともなると、迷惑しているのはあたしにだって明らかだ。でも、此処を出たら何処にも行く所なんか、無い。この街には他にちゃんとした知り合いなんて居ないし……。
だから、あたしが外出する事なんて、先ず無い。
