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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 空も地も木も家も……全てがセピアに彩られた世界。
 その中で、やはりセピアの少女が家の前に佇み、微笑んでいる。僕と同い歳位――十五、六だろうか? 長い髪をおさげにして、両の肩から流している。取り立てて美人でもない、しかし素朴で温かい表情だ。
 それにしても見飽きた絵だった。
 何しろ、祖父は此処何年も、同じ絵を何枚も何枚も、キャンバスに描き出している。描いては壁に掛け、そしてまた最初から、同じ絵を描く。
 惚けているのか、と言うとそうでもない。僕達家族や近所の住人との会話には滞りもループも無い。
 だが、絵に関してだけは、彼はループに嵌まり込んだ様に同じ絵だけを、繰り返し描いている。
 ある日、尋ねた事があった――この絵の風景は何処で、少女は誰なのか、と。余程思い入れがあるのだろう、と思ったのだ。
 が、祖父は頭を振った。

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 曇天に向かって吹き上がっていた噴水が強風に煽られて、それ迄描いていた綺麗な放物線を崩した。
 不意の水飛沫の冷たさに身を竦めながら、男は氷が張りそうに冷たい噴水池に、眠った儘の十歳の甥を沈めた。突然の刺激に目を覚ました甥の僅かな抵抗をも抑え込み、無言の儘、男は作業を終えた。
 冷たくなった甥を水の柩に置き去りにして、男は背後の家を振り返った。
 〈自分の仕業〉を確認する為に。

 広い庭に対しては意外な程小ぢんまりとした、白い家。
 玄関ポーチで一旦息を整えた後、彼は扉を開いた。

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 雪の中を歩き回って冷え切った身体に、熱いココアが僅かな灼熱感を伴って染み渡った。暫し置いて、滑らかな甘さが舌に染み入る。
「本当に助かりました」雛子(ひなこ)は山小屋の主に改めて頭を下げた。つい先程迄、歯の根が合わず、取り敢えず助けを求める事しか出来なかったのだ。「大学の友達と一緒にスキーに来たのはいいんですけど、急な吹雪でコースを見失ってしまって……。友達とも離れ離れになってしまったし、何も見えないし……。此処に辿り着けたのは幸運でした」
 真っ白な闇の中にぼんやりと浮かび上がった灯。それは幻影の様で、それでも雛子はそれに縋る様に歩いた。近付き、山小屋の温かい灯と判って、彼女は――取り敢えず誰でもいい――神仏と、自分の幸運に感謝したのだった。
 そして吹雪の音に負けまいと叩いた扉を開けてくれたのが、今目の前に居る女性だった。見た所二十代後半の、細身の美人。彼女は委細訊かず、凍えた雛子を招き入れてくれた。
 そしてホテルへ連絡を取りたいと言う雛子を宥め、先ずは身体を温めるようにと、彼女を暖炉の前の椅子に誘い、ココアを淹れてくれたのだった。

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 今日は愛用のカメラと好奇心を一杯開放するつもりだった。
 それで、私がその止む事なき好奇心の対象としたのは冬休み中の我が中学校。春には卒業だって言うのに、未だ見た事の無い部屋が結構あるし……。
 そして私は担任の三沢先生との裏取引きに成功し――宿題をお正月迄に済ませるという難業を達成する代わりに――今日の朝から、校内に入れる事になったの。
 三が日は先生達も殆ど居ない。三沢先生が辛うじて、居る位。だから先生もこの日がよかったし、私も人の居ない校内に興味津々だった。
 
「え? 先生も付いて来るの?」カメラを構えながらも、私は訊いた。
「当たり前や」関西から赴任して来た先生は、関西弁を使う。私達は時々面白がって真似してるんや。
「別に写真撮るだけですよ? 教室の物にも悪戯なんかしませんよ?」
「解ってるて。せやけど、校内に生徒がおる以上、その安全を確保する責任は先生にあんねん」未だ若い先生は真剣な顔で言った。「な? 解ってぇな、木之下」
 仕方ないか、と私――フルネーム、木之下明美は頷いた。本来立ち入り禁止の所を譲歩して貰うのだ。こちらも譲る所は譲らねば。何より、責任感のある先生なのは、よく知っている事だもの。
「じゃ、校内一週ツアー、出発!」先ずは苦笑している三沢先生を写真に収め、私は号令を掛けた。

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「何で同じ本が何冊も……」
 年末恒例の大掃除。
 本棚と、その周辺に積まれた本の整理をしていた京子は、四冊もの同じ本を並べて首を捻っていた。
 版が違う訳でもない。表紙絵も、何もかも同じ――それどころか奥付に付された日付も同じ。無論、サインが入っているといった特筆すべき点も無い。
「惚けて同じ物を何冊も買っちゃったのかしら?」眉間に皺が寄る。
 が、しかしこれは彼女の本ではない。
 秋に亡くなった祖父の本。書斎に積まれた儘だったそれを、片付けるようにと母に言われたのだ。古い本も多い為、あるいはこれを期に処分する心算なのかも知れない。母は本は美容雑誌位しか読まない人だから。
 そう思うと何やら物寂しい感じがして、一冊一冊丁寧に片付けていた京子だったが、同じ本が複数ある事に気付いた時点で、それが気になって他の本に手が付かなくなってしまった。

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 今日疋田(ひきた)は、チェックインしたが創立祭には参加しなかった。
 それが気になって、私はホテルの従業員を伴って彼の宿泊する部屋へと赴いた。
 会社の創立六〇年。一つの節目という事でホテルの大広間を借り切っての大々的な催しだった。遠方の支社ながら重要なポストに居る彼も、当然参加するものと思われていたし、実際、調べて貰えば昼にはチェックインしている。なのに晩から始まったイベントには、一切姿を見せなかったのだ。こういった席での根回しで、出世競争を勝ち上がった様な男だと言うのに。
 既に二次会も終わって時計の針は深夜一時を差している。
 具合でも悪くなって出られなかったのだろうか。彼は一箇月程前、入院した事があるだけに心配だ。それでも一言位はあって然るべきだが。
 ポストに開きは付いたものの、彼とは同期入社。心配位はしてもいい。
 一五〇五号室――疋田の部屋に着くと、先ずは従業員が控え目にノックし「疋田様」と呼び掛けた。
 返事は無い。私は彼と顔を見合わせると、ちょっと強めにノックしつつ、更に呼び掛けてみる。それでも、返答は無かった。
 具合を悪くして倒れている疋田――そんな想像が脳裏を過ぎる。私は従業員に解錠を頼んだ。同じ事を思ったらしい彼も、素早くそれに応じる。
 そして、私達二人は疋田の遺体を発見したのだった。

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 何度アクセスしても繋がらない――由香は苛々と携帯のフリップを閉じた。その儘の勢いでバッグに放り込み、すたすたと歩き出す。
 駅を降りて間も無い商店街。冬の午後の日差しに伸びる影は既に長く、空気は薄くオレンジがかって見える。歳末商戦真っ只中と言うには些か活気の無い商店街を通り抜け、住宅街へと移る。
 そこでまた携帯を取り出してアクセスを試みるが、サーバーに繋げないという表示が冷たく彼女を拒否した。

 友人の様子がおかしいと、由香が気付いたのは三日前だった。
 高校の授業中でも集中力が無くなった様子でぼんやりしていたかと思えば、休憩時間になると携帯を取り出して、友人同士の話にも上の空。メールなのか何処かのサイトなのか、時折書き込みもしている様子。そしてそれが皆には見えないようにしている――意識的にそうしているのは察せられた。
 そして二日前から、彼女は学校に出て来なくなった。 

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