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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 昨日この、苦々しい庭を緑化するつもりだった。
 この古い日本家屋と、隣家との境の塀に挟まれた、広さだけはある裏庭。
 木一本、草一株、生えない裏庭。

 会社での軋轢ですっかり人間不信になって逃げ帰った僕に、両親が管理を任せたのは、ぴったりの隠れ家だった。元は伯父が住んでいた家だと言う。伯父もやはり半ば世捨て人の様なもので――十年程前に鬼籍に入っていた。僕が十五歳の頃か。
 弟夫婦と甥、詰まり僕の家族しか身内が無かった伯父の家は、それ以来父の管理の下にあった。しかし、売りに出すでもなく、人に貸すでもなく、僕や母でさえ、その存在は忘れ掛けていた。
 それでも時折人の手は入っていた様で――葬儀の時以来――十年振りに入った家は思った程、荒れてはいなかった。

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 呼ばれているのには気が付いていた。
 子供の様な声、歳旧(ふ)りた老人の様な声、男の声、女の声……。様々な声がその扉から漏れ聞こえてくるのを、私は物心付く前から聞いていた気がする。
 只、家人の誰もそれには気付かず、聞こえていない風だった。私も、それを知らせる術を持たなかった。
 突然の雨に、通りすがりの彼がこの館に降り込められる迄。

 暖炉のあるこの部屋に、冷たい身体で通された彼は、私を見付けてこう言った。
「この館は随分、にぎやかいですね。人ではなくて……」
 私は只、彼を見詰めた。彼には聞こえるのだ。
 夫人の遺したコレクション室から聞こえるあの声が。

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「こんな所に呼び出しといて遅刻とはいい度胸だよな」ぶち当たる風の寒さとある理由に震えながら、俺はぶつぶつとぼやいた。携帯の時間を確かめる。午後五時四十分――もう十分もここに居るのか。
 高校の新校舎の屋上――相談があると言う友人との、そこが待ち合わせ場所だった。緑化政策の一端だとかで芝生が敷き詰められて縦横に小道の走った、冷たいフェンスに囲まれた箱庭。
 その手入れをする園芸部だからここの鍵も入手し易い、と友人は言った。だから俺に鍵を渡し、ここで待っていてくれと。
 それにしてもここにこうして居ると、俺の他には人が居ないみたいだ――もう陽の落ち掛けた空を見上げつつ、そんな寂寥感を一端に感じてみる。部活ももう終わり、生徒は下校の時間だ。下には未だ教師位は居るだろうが。
 そう、俺はずっと空を見ていた。
 間違ってもフェンスなんて見るもんか。
 俺は、高所恐怖症なんだ!
 それを知ってか知らずかここを選んだ友人を恨みながら、再び携帯の表示に視線を走らせる。二分しか経っていない。
 そもそも、どうして俺に相談なんて……と、またぼやく。
 これ以上遅れる様なら帰る――そう決めた途端、重い金属製の扉が開いた。

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 しゅんしゅん……。
 最早年代物となったストーブの上で、やかんが威勢よく蒸気を上げている。
 外は絶え間無い雪と凍える風が場を占拠していたが、二重硝子の内のここには影響を及ぼせない。
 暖かい部屋の中で、皐月は白い湯気だけを、ぼうっと見詰めていた。

 風の音に時折混じるのは、自分を呼ぶ声だろうか?――弛緩した儘、彼女の脳は考える――いいえ、そんな筈は無い。外には誰も居ない。だから誰も私を呼ばない。
 しゅんしゅん……。
 そう、聞こえるのは残酷な風の音と、柔らかく部屋を包む蒸気の音。
 あの人の声なんかじゃない――この登山に私を誘ったあの人なんかじゃ……。


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 髪を切ったのはいつ以来だったかしら――鏡の中の、余りに無残な頭を見て私は考えた。
 何かを考えてでもいなければいられない。足元には艶やかな黒髪。これ迄けして手入れを怠りはしなかった長い髪が、のたうつ様に広がっている。
 私が、自分で捨ててしまった髪が。
 ベリーショートになった髪をどうにか撫で付け、櫛を通す。つい先程迄と違ってあっと思う間も無く擦り抜けていく櫛の歯が、失くしたものを思い知らせる。頭が軽い。丸で中身迄が空虚になってしまったみたいだ。
 口元が歪んだ。唇を強く噛む。

 でも仕方がないわ。
 彼は妹を選んだのだもの。
 同い年で同じ顔の、ベリーショートの女を。

 その夜、私達姉妹が暮らす一軒家から出火して、一人の女の焼死体が発見される。焼死体の直ぐ傍では、やはり焼け焦げた髪留めが、原形だけを留めている。

                    * * * 

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 冬休みに入って直ぐだったろうか。僕は両親と共に裏寂れた田舎町にある祖父母の家に連れられて来た。母の実家で、母は久し振りに羽が伸ばせると喜んでいたけれど、僕にとっては年に一回、来るか来ないかの古い家。帰って来た、という気はしない。大体、ここにはゲームだって無い。
 仕方がないから外へ出てみる。その日は十二月とは思えない程、暖かい日和だった。
 とは言え、都会育ちの小学四年生が喜ぶ物なんて、そうそう転がっちゃいない。夏なら未だカブトムシでも探すんだろうけど……団栗拾ってはしゃぐ歳でもないよなぁ。
 そんな事をつらつら考えながら近所を歩いていると、山里の道端に並ぶ小さな小さなお地蔵さんが目に付いた。四、五体はあったろうか。
 そしてその前に何やら真剣な顔で拝んでいる、六、七歳の子供――女の子だった。肩口でばっさり切り揃えた黒髪。元は白いのだろうに、薄汚れた顔。そして、お供えの泥団子を作り続けていたらしい、泥だらけの小さな手。

「何をしているの?」僕は思わず尋ねていた。
 振り返ったその子はちょっとびっくりした顔をして、それから空を見上げた。
「雪乞い……」小さな声が、そう答えた。

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 昨日は演奏しなかったよ――吹奏楽部に所属するクラスメイトは、あたしの問いに怪訝な顔でそう答えた。
 上の空でおざなりな礼を述べながら、あたしは廊下を歩き出していた。最早頭の中にクラスメイトの存在は無い。その言葉だけが彷徨っているだけだ。
 あたしの猜疑心と好奇心が、胸の内に膨れ上がる。
 昨日の放課後、確かにあたしは聞いたのだ。音楽室から流れるあの曲を。

 しかし、やはり吹奏楽部の誰に訊いても、結果は同じだった。
 昨日の木曜日は部活は休みだった。誰も音楽室に来なかった筈だし、況してやあの曲を演奏なんてしなかっただろう。
 そう口を揃える。
 あの曲は、特別な日にしか演奏してはいけないのだから、と。

 

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