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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 今日こそ夜霧は、レスしたかも――僕は寮の自室に帰るなり、パソコンを立ち上げた。
 ネットにアクセスし、目当てのページを表示させる。
 本来なら僕には余り縁のない、美術関連の掲示板だった。どこそこで何々展開催の情報だの、鑑賞後の感想板だの、自分達の作品を投稿する板等が乱立している。いきおい画像データが多くなり、携帯のメモリーでは追い付かないので、こうしてパソコンからアクセスしているのだ。
 さて、そんな縁のない所にこうしてアクセスしている理由はと言えば……件の夜霧――夜原霧枝先生だった。
 美術教師である彼女はよくこの掲示板に出入りしていると、自分でも言っていた。生徒達が付けた渾名、詰まり「夜霧」をハンドルネームとして。
 その場に居たのは僕と京、栗栖と勇輝位だったととは言え、ハンドルネームをばらしてしまっていいのかと首を傾げたけれど、ばれて困る様な事は書かないから大丈夫、と夜霧は気にしていない風だった。
 夜霧の気紛れさ、気分屋加減から言って、本当に大丈夫なのか、少し心配ではあったけれど、まぁ、美術教師も全国には多数居る訳だし、流石に夜霧もプライバシーに関わる事は書き込みしていない様だった。知人なら「真逆……」位は思うかも知れないけれど。
 ところがそれでも、ちょっと言葉が行き違うとトラブルになるのがネットの怖い所で……。
 夜霧はとあるユーザーに一つの答えを求められていた。

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 今日夜霧は夜霧本人でありながら、丸で人違いをされたみたいな態度を、その作業員に対して取っていた。
 下校間際、偶々通り掛った僕達から見れば、その作業員は只、運搬して来た荷物を学園内の何処に届けるか、発注元である夜霧――夜原霧枝先生――に確認したかっただけみたいだったけど。
 挙句にさっさと職員室のある棟に行ってしまい、作業員氏はぽつんと、校門の前に残されて呆気に取られている様だった。
 僕達――僕と双子の兄、京は顔を見合わせて、困り顔の彼に歩み寄った。

「どうかなさったんですか?」京の問い掛けに作業員氏は少しほっとした様な表情を浮かべた。
「いや、荷物を届けに来たんだけど……。さっきの女の人、夜原先生じゃないのかな?」
『夜原先生に間違いありませんよ』僕達は声を揃えた。
「やっぱり……。じゃあ何で、人違いみたいな事を……」ぶつぶつ呟く作業員氏。彼が着ている作業服は学園出入りの業者のもの。夜霧だって度々その業者には画材の搬入等でお世話になっている。
 只、いつもの業者の、いつもの人ではなかった。

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 今日夜霧が勇輝と一緒に、破損した図書館所蔵の画集数冊を修理する心算だったというのは本当だろうか?
 結局、作業は延期、あるいは中止になった様だけど。
 そもそも、何故勇輝と……? 
 確かに図書館には画集に限らず、傷んだ本も見受けられるけれど。夜霧は美術担当の教師だし、勇輝も図書委員でもない。
 何故? と首を傾げていると、話を持ち込んできた京が呆れ顔で言った。
「訊けばいいだろう」と。
 流石、単刀直入、一直線な我が兄だ。もう少し、思考を楽しむとかしてもいいんじゃないかと思うけれど。
 その京は夜霧本人から予定変更の話を聞いたらしい。何でその時に訊かなかったんだと尋ねたら、興味がないからとの返答だった。
「どうせ勇輝の奴が本を傷めたかどうかして、反省を兼ねて命じられたんじゃないのか?」興味がないなりに、一応考えてはみたらしい。「夜霧は担任だからな。サボっていないか見届けるように頼まれたんだろう。図書館の管理責任者から」
 因みに図書館の管理責任者は元々古文の教師でもあった教頭先生だ。
 なるほど、筋は通っている様な気はする。
 が、僕は一つ、気に掛かっていた。
 何故、画集だけなのかと。 

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 昨日は何故、あの負けず嫌いの夜霧が、新しい画風に挑戦しなかったんだろう?
 何の気なしに僕がそう呟くと、自分の机で本を読んでいた京が肩を竦めた。どうせいつもの気紛れだろう、と。
 しかし、僕はいまいち腑に落ちなかった。
 確かに夜霧――美術の夜原霧枝先生――は気紛れだ。その言動はかなり、気分次第。
 けれど、それと同じ位に、負けず嫌いでもあった筈なんだけど……。

 元はと言えば、夜霧が顧問を務める美術部の二年生の作品が、とある賞を受賞した事による。賞と言っても、まぁ、狭い地方レベルのものだけれど。それでも、認められるというのは大したものだと、学園では彼を誉めそやした。
 けれど、問題は彼の作品そのものだった。
 彼独特の、抽象的な画風。時にどぎつい色使いをも敢えて用い、見る者の目を捉える。正直、抽象的過ぎて、何が描かれているのか、僕には解らなかったけれど。
 しかし、これは夜霧の指導とは正反対の作品でもあったのだ。

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 昨日夜霧が、同僚の先生――野球部顧問でもある――が今シーズンはノック練習にも参加しなかったのを気にしていた。毎年、熱心な先生だったのに、と。
 だけど、部員達は勿論、夜霧が気付くよりは先に彼の変化に気付いていたし、例年とは段違いに穏やかな練習内容に安心してもいたかも知れない。
 勿論、これ迄だって先生だけが熱心に部活をしていた訳ではない。部長を始めとして、部員一同、頑張ってきた筈だ。でも、やはり偶には日も高い内に帰る事や寄り道で息抜きしたかった様だ。
 でも、野球部マネージャーの嬬恋鈴は、送球の際の指先は鈍りはしないかと心配し、少し厳しい指導をお願いする心算だったのだろうか? 以前、顧問に直訴したらしいけど。

 だけど、今日夜霧が、丸で日本人形が自立して動いているみたいに愛らしい彼女が部のマネージャーを解雇されたらしいとぼやいていた。勿論、部活のマネージャーなんて、職業じゃないんだから、解雇って言うのはおかしいんだけど――それとなく部から距離を置くように言われたと、鈴は語ったらしい。
 さぞかし、口惜しがっているだろう、と夜霧の話を聞いた時には誰もが思ったものだった。
 だけど、学園近くの雑貨店亀池屋で会った時は――因みにその場に居たのは僕と京と栗栖で――そんな僕達の想像とは比例しなかった。

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「そう言えば、夜霧が後始末とか確認したかもー。帰り際に擦れ違ったから。あのセンセの事だから、テキトーかも知れないけど。だから忘れ物なら、夜霧に訊いてみればー?」
「あ、そう言えば机の上に何か小物入れみたいな物が残ってたの、私、見たかも」
「え? マジ? 気付かなかった! あたし注意力無さ過ぎー?」
 二人の女生徒は何が可笑しいのかけらけらと笑い出した。箸が転んでも可笑しい年頃、とは言うものの、今の会話の何が可笑しかったのか、僕には不明だ。 
「それで、見はしたものの、それが大事な物だとは理解しなかった?」京の声に苛立ちが滲み出している。
 文化祭の準備の進む校舎内、とある教室に忘れ物が無かったかと、忘れ物をしたと思しき教室に居た女生徒に訊いてみればこの有様。
 取り敢えず、忘れ物をして困っている人が居る事など、彼女等の眼中にはないのだろう。
「拾って届けようとは思わなかったのか?」
「えー? だって、めんどいし」
 ねー、と彼女等は顔を見合わせ、頷き合う。
「ほら、他人の物とか迂闊に触ってて、誰かに見られたら泥棒って思われるかも知れないしー。何だっけ? リカに冠を被せず?」
「李下に冠を正さず、だ!」流石に京が吠え、彼女等は身を縮こまらせたものの――「こわーい」などと言って、実に態とらしい。京が女子に対して怒鳴りはしても、手を上げる事などないと解っているのだろう。
 拙い。京の――そして僕にとってもだけれど――苦手なタイプだ。
「兎に角、昨日の帰り際には机の上にあった。それでその後夜霧が確認してたかも知れない――そういう事だね?」さっさと切り上げようと、僕は話を纏めた。
「だからさっきからそう言ってんじゃん」
『……』僕達は、互いに相手の非常に疲れた表情を確認しながら、夜霧の元へと向かった。

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 今日夜霧は、犯した罪とその重さについて、美術部二年の瀬尾麻由美が理解出来る迄とことん教育したかったらしい。
 ところが彼女は夜霧の姿を見るなり逃走を図り、捕まらないのだと、夜霧は顔を顰める。
「一体何をやらかしたんですか?」例によって、京は単刀直入に訊く。
「流石にそれは……」愚痴っておきながら、珍しく夜霧は言い淀んだ。「プライバシーにも関わる事だから」
 本当に珍しい、と僕は目を丸くした。夜霧――夜原霧枝先生が生徒のプライバシーを気にするなんて。麻由美に対して、女同士の配慮という事だろうか。
 それとも……。
「我々男子には言えない様な事でも?」
 うん。僕もそうは思ったよ、京。でも、そう思ったなら追求から手を引いてもいいんじゃないかなぁ。
 流石に夜霧も頬を引き攣らせてるじゃないか。
「真田君、そういう邪推をする子が居るから、尚更彼女の件に関しては黙っていてくれない? 情報が何処から漏れるかも解らないし」それでも夜霧にしては精一杯穏便に、京の関与を断る。「真田弟も、いいわね?」
 僕迄念を押されてしまった。
 仕方なく兄弟二人して頷くと、夜霧はそそくさと行ってしまった。また、彼女を捜しに行くらしい。
 僕達はそっくりな顔を見合わせて、互いに首を捻った。

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