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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 夜霧はその作品を、僕達にはこう紹介したかったみたいだ――只の気紛れで描いたら偶々とある画家の目に留まってしまっただけの小品、と。
 実際、預けた儘で忘れてしまっていた。その程度のものだと夜霧――夜原霧枝美術教師は強調する。それがどういう運命でか再発見され、夜霧の元に返却、そして学園長の目に留まり一時的に学園のロビーに展示される事になったのだけど。
 そして僕達はその忘れられていたという絵が気紛れで描かれたものなんかじゃない事に気付いた。
 夜霧は仮にも美術の教師。例えそれが僕達と同い年位の頃の作品でも、巧く描けているのは、僕達としては驚くには当たらない。けど、描かれた人物の穏やかながらもどこか哀しげな表情、そして丁寧な仕上げ、それは只の気紛れで描き出せるものではないだろう。
 それはかつての夜霧の想いが投影されているかの様で、僕達はその描かれた人物に――そして夜霧との関係に、興味を抱いた。
 だけどあの分じゃ、夜霧に訊いても適当な返答をされるだけだろう。
 そうなると勝手な憶測が飛び交い始める――それが僕等の常だった。

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 今日夜霧が栗栖と、二学期の始業式迄の賭けをする心算だった?
 夏休みも間近いある日、そんな噂を耳にして、僕は栗栖に直接尋ねた。
「何の賭けを? 本当に受けたの?」
 矢継ぎ早の質問に微苦笑しながら、のんびりした関西弁で栗栖は答えた。
「賭けっちゅうか……頼まれただけや。この間の仔猫、飼い主を早く探したってくれって」
「それはもう大田君と宮原君に頼んで、ネットで里親捜し、して貰ってるだろ?」
 生憎今の所芳しい反応は無い、という報告を受けているけれど。何しろ只可愛いから、とかそんな理由だけで申し込んできた人には丁重にお断り申し上げているのだ。やはり飼って貰う以上、最後迄面倒を見切れる人を、というのが最低条件だったから。
「何しろネットやからな。書き込みだけやったらどんな美辞麗句も書けるけど、実際に責任を持って飼える人かどうかは、即決出来へんのや」
 それはそうだ。仔猫は物じゃない。人間以上のスピードで成長も老いもするし、病気になる事だってある。例え鼻水を出していようと、脚がよぼよぼになろうと面倒を見続けて上げられる人。ネットでそれを見極めるにはそれなりの技術や、時間が必要となる。
 そして問題の仔猫は今現在、夜霧のマンションに保護されているのだけど――そこ、本当はペット禁止なのだそうだ。だから夜霧も急いでいる、という訳だった。

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「夜霧がサボりだと?」眉間に皺どころか柳眉を逆立てて、京は喚いた。僕が小声で耳打ちした意味が無いじゃないか、馬鹿兄貴。
 それにサボりと決まった訳じゃない。始業前に日直として日誌を取りに行った時に、他の先生方が寄り集まって話しているのをちらりと聞いただけだ。こんな時間迄来ないのはおかしい、と。
 夜霧――夜原霧枝先生が未だ来ていない、と。
 どうやら連絡も無く、こちらからの電話にも応答なしという事で困っているらしい。
 気分屋で有名な夜霧だけど、無断欠勤なんてこれ迄無かったし、そんな事をする人ではなかったのにと、皆困惑顔だった。
 取り敢えず、夜霧は僕達の担任でもあるので、僕を見付けた先生の一人が仰った。連絡は続けてみるが、もし来ない様であれば病欠という事にするので巧く誤魔化して取り仕切ってくれと。先生、どうやら双子の僕と京の区別が付いていないらしい。
 だから僕はそれを京に伝えたんだけど……喚くなよぉ。兄貴ぃ。
 結局、巧く誤魔化して取り仕切るどころか、教室中は疑問符の大洪水に陥った。

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 今日夜霧は、休業願いを放置された! と不機嫌な表情そのものだった。
 夜霧――夜原霧枝先生の気分屋加減は僕達生徒のみならず、他の先生方もよく知る所。触らぬ神に祟りなし、とピリピリした空気から逃れる様に、皆、彼女には近付かないでいる。その所為なのかどうか、今日は彼女の怒鳴り声も滅多に聞こえない。表情は相変わらずだけど。
 それにしても夜霧が休職願いなんて、何があったんだろう?
 然もそれが放置されるなんて?
 僕達は夜霧本人の耳に入らないようにこそこそと、勝手な推測を飛ばし合った。

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 今日、勇輝は紹介したかも――あのDVDを、学校の皆に。
 かも、と言うのは生憎にも僕は今日、気分が優れず学校を休んでいる所為だった。勇輝の借りてきたDVDの所為だ、と思う。
 元々オカルト映画だったんだけど、それを観て気分が悪くなった人が居るだの、倒れた人が居るだのといった噂が尾鰭付きで広まっていて――面白がった勇輝が借りて来たんだ。皆で観ようって。
 馬鹿馬鹿しい!――と言って一抜けしたのは、勿論京だった。実は怖いんじゃないのかって勇輝に挑発されたけど、それも無視してさっさと行ってしまった。因みに京が昔からこういうのが苦手なのは……内緒だ。
 栗栖も生憎用事が被ってしまって、僕と勇輝、他数名の下級生の寂しい観賞会になってしまった。部屋の電気を消し、液晶画面に照らされた皆の顔は、好奇心と僅かの不安に彩られていた。
 そしてその結果、僕を含めた数名が、倒れはしなかったものの気分が悪くなってしまったのだった。

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 夜霧は、同室内で喧嘩した者がなかったか?――と質した。
 夜霧というのは勿論、僕達の担任の夜原霧枝先生の渾名だ。ちょっと気分屋の、美術教師。時にはうちの双子の兄、京にも勝る怒りん坊。
 その彼女が帰りのホームルームで、教壇に仁王立ちして訊いたのだった。

 夜霧、こんなに生徒指導に熱心だったっけ? 内心首を傾げながらも、僕はこの間の件を思い出していた。寮内で喧嘩の挙げ句二人共が部屋を出て、他の生徒の部屋に居候していた事件。まぁ、その裏にはちょっとした理由があった訳だけど……それは内緒だ。
 それにしてもあれが先生の耳にも入っていたのだろうか。寮の纏め役たる京は知ってたけど、京は可能な限りの事は寮内で――自分の手で――片付けようとする。まぁ、前回は京の手を経ずして解決したんだけど。
 と、思っていたら夜霧はこんな事を言い出した。
「挙げ句に外泊してる生徒が居るらしいのよね。でも噂を元に調べても誰だか解らない――もし知っていたら、もしくは当人なら名乗り出る事! いいわね?」

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 あの二人、決裂しなかったっけ?――僕は京に小声で訊いた。
 寮で同室の癖に相性の悪いのか、件の二人は数日前から喧嘩の末に勝手に他の生徒の部屋に荷物を抱えて居候してしまっていた。それで事態を収拾するべく、ロビーでやり取りする事になっていた筈だった。
 だけど、今日の放課後、三日間の居候に耐え兼ねた勇輝がその亀池と桃山を引き会わせた事で仲直りの序章とも言える事態は発生したのだろうか? 
 寮に帰って、いつになく親しげに、自分達の部屋に入って行く二人の姿を僕達は目の当たりにしていた。
 僕はそっと、京の顔色を盗み見る。寮の纏め役たる、矜持の強い京の事。自分がお膳立てした話し合い以前に誰かが事を治めてしまっては、それが傷付いたのではないかと思ったのだけど……。
「ま、結果オーライなんじゃないか?」思ったより眉間の皺も無く、京は素っ気無くそう言った。「別に誰が治めても、寮が平和ならそれでいいし」
 それはそうなんだけど――こういう時、拗ねてるのが何と無く解るのはやっぱり双子だからなのかなぁ。
 それにしても、あの二人何で喧嘩してたんだろう?

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