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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 僕達はお化け屋敷の入り口を潜った。
 夏の連休の間も流行らなさそうな、古びた遊園地の、古びたお化け屋敷。
 表の看板の絵は所々剥げ掛けているし、チケット売り場の金属の窓枠には錆が浮いている。その所為か僕達の他に客もなく、磨り硝子越しに言葉を交わした係員も、元気も愛想もなかった。
 
 内容はと言えば、お決まりの井戸から上がって来る死に装束の幽霊や、突然揺れ出す卒塔婆の列。不意に頭上から噴出す冷風とか。実は十五年程前、未だ子供の頃に一度だけ、来た事があるのだが、その時と何も変わっていない様な気がする……。怖がらせたいんだか、驚かせたいんだか、それすら解らない所も。
 連れの彼女はそれなりに楽しんでいた様だけれど、僕にはやはり子供騙しとしか見えなかった。まぁ、子供の時は僕もそれなりに怖がって泣いたけど……そんな事は勿論、内緒だ。
 それなら入るなって言われそうだけど、彼女にねだられたんだから仕方ない。何でも、近々このお化け屋敷は取り壊されるのだそうだ。この有様からして客の入りが悪く、他の施設への建て替えを余儀なくされたのだと容易に推測された。それ迄興味もなかったのに、最後だと思うと行ってみたくなる――そんなイベント感が、彼女を後押ししたのだろう。

「あんまり怖くはなかったね」暗いお化け屋敷から出て、陽光の眩しさに目を細めながら、彼女は言った。「何て言うか、時代遅れと取るかノスタルジックと取るか……って感じ」
「ま、目新しさはないな。そんなだから閉められるんだろうけど」
 それより何か飲みながら一休みしようと歩き出すと、向こうから係員の制服を着た男が駆けて来た。
「あ、あの、お客様。もしかしてこちらのお化け屋敷、入られましたか?」些か慌てた風の彼に、僕達は共にきょとんとした顔で頷いた。「な、何か変わった事は……?」
 更なる問いに、僕達は顔を見合わせる。お化け屋敷に入って、変わった事がなくてどうする?
「い、いえ、そういう事ではなくて……。済みません、半券はお持ちですか?」
 意味が掴めない儘、僕達はポケットに突っ込んでいたチケットの半券を差し出した。
 彼はじっと、そのチケットに捺されたスタンプを凝視して、やがて眉を開いた。
「よ、よかった……。とんでもない年号じゃなくて」
「は?」僕達は改めて、それを確認した。
 当然今日の日付が捺されていると思っていたチケット。だが、そこには十五年前の今日の日付が記されていた。そう、丁度僕が子供時代に訪れた頃の……。
「窓口のミスじゃないんですか?」首を傾げた彼女に、彼は僕達の背後を指差した。
 そこにはお化け屋敷の出口があり、数メートル横には入り口が――精々十分程前に通った筈のそこは、黄色いテープで幾重にも封鎖されていた。

「窓口係は疾うに居ませんよ。実は以前にも偶々係の者が席を離れた時にこういう事がありまして。だから已む無く閉鎖する事にしたんですよ。先々月には新しいセットも入れたんですがねぇ。仕方ありません――本当のお化けの出るお化け屋敷なんて」
 してみれば、窓口に居た元気も愛想もない係員は、この世のものではなかったか。そして僕達はあの十五年前のお化け屋敷に飛ばされていたと言うのか?
 本当のお化けの居るお化け屋敷。売りになるんじゃないかと言ったら、彼は頭を振った。
「出るだけならまぁ、いいんですが……。これでとんでもない年号、例えば此処の開園前の年号なんて捺されると、何処に飛ばされるのか、消えたお客様もおられるので……。兎に角、お客様方、ご無事でよかった」

 以来、僕達は何かと日付を確認する癖が付いている。

                      ―了―


 遅くなった遅くなった(汗)

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 最悪だ――琢也は幾度目かの溜息を漏らした。
 何だってこんな日に、こんな場所に来てしまったんだろう。大学の先輩に誘われて、断り難かったというのは確かだが。
 選りに選って、ミステリースポットとして地元でも有名な廃墟マンションで、突然の雷雨に降り込められてしまうなんて。

 幸い、鉄筋コンクリート四階建ての建物は所々窓が破れてはいるものの、壁や天井はしっかりしている。開口部にさえ近付かなければ、雨に濡れる事もない。だが、当然ながら重く雲の垂れ込めた暗い空に対抗し得る電灯は無く、人の住まぬ建物は思いの他、冷たい。足元からしんしんと冷気が這い登ってくる様だ。
 時折、稲光が閃いては壁に書かれた様々な悪戯書きを照らし出す。琢也達の様な地元の少しやんちゃな連中の浮かれた走り書きもあれば、態々染料を用意して来たらしい、妙に凝ったもの迄ある。心霊スポットの壁に自棄にリアルな髑髏を描き込む神経が、琢也には理解出来なかった。

「悪ぃな、琢也。俺が誘ったばっかりに」近くのドアノブをガチャガチャ言わせながら、卓也を誘った張本人、松山は言った。
「いえ……運が悪かったっすね」全くだよ、と悪態をつくのに気がひける程には、世話になっている自覚があった。「それより、何してるんですか?」
 松山はまた別のドアノブに取り掛かっていた。
「いや、廊下って思ったより冷たいし、部屋の中の方が少しはマシかなって……。畜生、此処も開いてねぇな」
「そりゃ、廃墟とは言っても不動産屋か誰かの持ち物ですし……。俺達みたいな侵入者に荒らされないように、締めてるんじゃないっすか?」仮にも心霊スポットと噂される廃墟のドアを、気軽に開けようとする先輩に僅かに顔を引き攣らせつつ、卓也は言った。
「そうかも知れねぇが……。廊下なんかもう荒らされ放題じゃねぇか」
 確かに、と卓也は苦笑した。前の侵入者の出したゴミだろうか、コンビニの袋に入った空き缶やらスナックの袋、果ては弁当の食べ残し迄が散乱している。道理でさっきから蝿の姿が目に付くと思った訳だ。
「雨、止まないっすね……」未だ暗い空を窺って、卓也はまた、溜息をついた。「せめて雷が遠ざかってくれればいいのに」
 二人共、此処迄は各自のバイクで来ている。建物内を散策している時に突然の雨に気付いて、大慌てで玄関のロビー内に運び込んでいた。雨は兎も角、落雷でも受けたら事だ。
「おっ!」
 不意に松山が声を上げ、卓也は何事かと振り返った。
 松山は一枚のドアの前に立ち、彼の方を向いて笑っていた。
「此処、開くぞ」
 ぎぃ、と軋る様な音を立てて開いたドアに、卓也は鼓動が早まるのを感じた。

 部屋はワンルームで、幸いな事に窓硝子は無事だった。畳は色褪せ、埃でぼこぼこになっていたが、一先ず座れない事もない。二人は土足の儘、上がり込んだ。
 入って直ぐ、卓也は違和感を覚えた。
 家具は撤去され、ガスコンロさえ残されていない。畳同様色褪せた壁紙が端々から破れて垂れ下がり、丸で白い幽霊の手の様だと卓也は思った。だが、他にこれと言って目立つ物も無く、何に違和感を覚えたのか、卓也は自身でも解らず、首を捻った。
 松山はそんな様子にも気付かぬ顔で、既に畳にどっかりと腰を下ろしている。
「しまったなぁ。来る時に何か買って来るんだった」煙草とライターを取り出しつつも、松山は愚痴った。「喉が渇いてきちまった」
「仕方ないっすね。こんな所、水も通ってないし……」苦笑しながら捻った台所の流しのカランは、意外にすんなりと回り、細いながらも、水が出た。卓也は慌てて締める。「……で、出たとしてもこんな所の水、飲めませんよ。きっとずぅっと水道管に残ってたとか、そんなんですって」
 それにしては鉄錆の臭いもなく、水は澄んでいた。
 何かおかしい――再び、卓也は違和感に不安を掻き立てられた。
 そして、再度辺りを見回して、気付いた。
 鍵の掛けられていない部屋だと言うのに、此処は外の廊下の様には荒らされていない。壁には落書きも無いし、自分達以外の誰かが土足で上がり込んだ様子もない。こんな所に肝試しに来ようなんて奴は、手当たり次第、部屋を開けてみるものだろう。そしてやはり自分達の様に、態々靴を脱いで上がったりはしない。それに、水……。
「せ、先輩、此処、もしかしたら、誰か住んでるんじゃないっすか?」
「こんな廃墟にか?」松山が眉を顰めた、その時だった。
 一際激しい雷鳴と共にドアが開き、黒い雨具を纏った警官が数人、部屋に雪崩れ込んで来た。
 驚きに身を竦ませていた俺達は、手も無く、彼等に捕まった。現有住居侵入罪で。

 何でも、あの廃墟マンションには、極度の人嫌いの芸術家が、きちんと家賃を払って、済んでいるんだそうだ。
 普段なら外出時には戸締りをして行くあの部屋に、あの時ばかりは何故か鍵を掛け忘れ、慌てて帰ってみたら見知らぬ男二人が寛いでいたので通報したのだとか。あの部屋は無心にアイデアを練る、彼にとっては大事な場所で、他の部屋にはちゃんと家財道具もあったらしい。
 それにしては廊下など、荒れるに任せているではないかと俺達が噛み付くと、警官も些か呆れ顔でこう言った。
「あの廃墟の荒れ加減が、インスピレーションを与えてくれるんだそうだ。だから敢えて廊下などは侵入者の好きにさせていたらしい。彼のテーマは一貫した人間の文明の否定だそうだ。ま、そう言いつつ部屋には家財道具があったり、しっかり文明の恩恵も享受していた様だから……我々凡人には全く、解らんがね」
 全くだ。
 水道の通っている廃墟なんて、あるもんか。
 幸い、俺達は少しのお小言で、放免された。

                      ―了―


 今日は朝から雷雨~(--;)

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 昨日、うちに泊まった誰もが安眠しなかった。
 いや、出来なかったと言うべきだろう。
 都会の喧騒と不人情から逃れて来たと言う老夫婦は終始、身体のあちらこちらが痛いと訴えた。
 一人旅だと言う若い女性は嘔吐感と身が凍える程の寒気に悩まされたと言った。
 小さな男の子を連れた若い夫婦は子供が幾ら宥めても夜泣きをすると、うんざりした顔で苦笑した。
 くたびれた顔の中年男性は、何も語らなかったが、更にくたびれた様子で項垂れ、寂しそうに笑っていた。
 それから…………私自身も、夏だと言うのに身体が冷えて冷えて、とても安眠など出来はしなかった。それはいつもの事だけれど。
 この三十年と言うもの、私は眠れずにいるのだから。

 彼等もきっと、これから長く眠れぬ時を過ごすのだろう。
 現世から逃れようと自ら命を投げ出した者には、安眠出来る場所など無いらしい。
 自殺の名所と化した、かつて私が経営していた宿など、以ての外か。 

                      ―了―
 因みに私は暑くて安眠出来ません(--;)

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 忘れ物を思い出して訪れた駅は、皓々と灯を点してはいたものの、窓口はカーテンが下ろされ、ひっそりと静まっていた。
 改札にも待合室にも人の姿は無く、動く物は只、蛍光灯の灯に引き寄せられる蛾の羽ばたきのみ。
 朝夕の、田舎駅ながらもそれなりの喧騒との差に一瞬途惑ったものの、八時以降は無人駅になる事を思い出した。経費節減、という奴だ。何年か前に公布されたその時のポスターが、色褪せて剥がれそうになりながらも、未だに掲示板に貼られている。
 勿論電車は未だ運行しているけれど、それも此処に停車するのは一時間に二本程度。急行以上は只轟音を残して通り過ぎるだけだ。
 どうやら、そのぽっかり空いた時間に、来てしまったらしい。
 家から二十分の最寄り駅ではあるけれど、高校の部活にも入らず、陽も落ちた田舎道を嫌う私はこんな時間に来る事は先ず、なかった。

 声を掛ける相手も無く、私は開いた儘の改札口を通ってホームに入った。自動改札なんて未だ当分、此処には導入されそうにない。
 夕方の帰宅時に友人達とお喋りをしていて、うっかり学校で貰ったパンフレット入りの小さなバッグを置き忘れたと思しき、自販機傍のベンチを捜してみる。
「無い……」ベンチの上下、壁との隙間、辺りを捜し尽くして、私は茫然としながら屈めていた背を伸ばした。「誰か拾って行ったのかな……? 駅員さんに届けてくれたのかも……」
 カーテンの閉まった窓口に、自然と目が向く。駅員室の灯が落ちているのはカーテン越しでも判る。
 駅に人の気配は、全く無い。
 気付いて直ぐに電話するべきだった――確かそれが八時前だったのにと、臍を噛んだが当然遅い。せめて電話の一本も入れておけば、バッグが駅に届いているかどうかだけでも判ったのに。
 バッグには特に名前や連絡先の判る物は無かったから、駅員さんだって気を利かせて知らせてくれる訳にも行かなかったのだろう。
「参ったなぁ……」私は肩を落としつつ、改札口に向かった。パンフレット以外、貴重品等は入れていなかったし、そんな物を拾ったからと盗って行く人が居るとも思えない。きっと窓口に届けられているとは思うのだけれど。それがはっきりしないのは、やはりどこか不安だった。
 と――。

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 此処にこうして立ち尽くしていても仕方ない――男は重い溜息だけを残して、踵を返した。
 少し前迄、彼がじっと見詰めていたのは焼け落ち、廃墟となった館だった。
 石造りの二階建て。一部三階か、屋根裏部屋があったのだろうか、焼け残った柱や壁からその造りは類推出来るが、その面影は最早偲び様もない。硝子を失い、ぽっかりと空いた窓からは煤色の空虚な室内が見て取れる。
 もう何年も前に火事に遭ったのだと、数日前に帰国した男は知人から聞かされた。
 此処は、男が設計した館だった。
 大事な人の為に――大事な人を守る為に。
 なのに……男は遣る瀬無い思いで拳を振り上げ、門柱に叩き付けた。痛みが、これが悪夢ではない事を思い知らせてくれる。例え悪夢でも、いっそ夢であれば……そんな希望を捻じ伏せて。
 
 大事な幼馴染でもある彼女と、最後に会ったのは、十年前、男が国を離れる間際だった。
 新たな建築様式を学びに行く。そんな口実を拵えて逃げる様に渡航しようとする男に、笑顔で手を振っていた。
 素敵な新居を有難う、と。
 男は目深に被った帽子で表情を隠して、そっと頭を下げただけだった。その新居に彼女と住むのが自分ではない事への憤りを、決して気取られないように。
 仕方ない事だ。彼女は自分の親友を選んだ。男もそれを祝福した。あいつなら任せられる、と。
 だから、館の建設にも安全面に於いて出来得る限りの力を尽くした。近くに在って自身の手で守れない分、家が彼女の幸せを守るようにと。

 だのに、その館は焼け落ちてしまった。彼女とその夫は煙に撒かれ、遺体で見付かったと言う。二人には息子が一人居たそうだが、幸いにも彼はその日、祖父母の家に泊まりに行っていて無事だったらしい。今は祖父母が面倒を見ているそうだ。
 渡航以後、敢えてこちらとの連絡を断っていたのが災いした。今頃知らされるなんて……。やっと、心を落ち着けて二人の――あるいは出来ているかも知れない子供達も含めた家族の――幸せな姿を、見守る事が出来ると思って帰国したと言うのに。
 もしかしたら二人は、この館の堅牢さ故に、拡散する事のない煙に巻かれたのではないか?
 もしかしたら、自分は心のどこかで望んで、この館を建てたのではないか? 二人を包んだのは、自分の嫉妬の炎だったのではないか?
 馬鹿な事を、と思いつつもそんな言葉が脳裏を暴走する。
 確かに自分は二人を、特に親友を羨んでいた。お前が居なければ……そう思った事もあった。
 建築も一種の作品だ。そして作品には、造り主の思いが時として如実に表れる。

「もしかしたら私は……」頭を抱えて蹲り、男は嗚咽を漏らした。「私が二人を……殺した?」

 ぽん、と肩を叩かれた気がした。
 振り返り、男は目を瞠った。
 後にして来た焼け落ちた館。それが庭木の緑も鮮やかに蘇り、建築当時の姿を見せ――その門前では、彼女とその夫が、笑顔で手を振っていた。
 十年前、彼を見送った時の様に、笑顔で。
 決して、男の所為ではないのだと。
 二人共、男の想いを知っていたが、それ以上に信頼していた。そして、彼はその信頼に応えてくれたのだと。
 男の目は涙で滲み――それが晴れた時、そこにはもう焼け落ちた館のみが、夕闇に沈もうとしているだけだった。

 数年後、男は独り立ちした友人達の息子の為に家を設計した。
 今度こそ、大事な人を守れる、家を。

                      ―了―
 暑いー(--;)
 纏まらーん!

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 どれ、今日はまた罪人と落雷の話を聞かせるとしようかな。何? 聞き飽きた? 年寄りの話はくどいから嫌だ? いいから黙って聞きなさい。特にちび共。
 ああ、辰己は御一緒してくれるかな。何? 自分はちびではない? いいからお聞き。
 そう、あれはもう何百年前の事だろうなぁ……。

                      * * *

 また始まった――辰己はうんざりしながら肩を竦めた。もう何度も聞いた話だ。一言一句、思い出せる程に頭に染み付いている。
 それでも一通り聞く迄、この老体の話が終わらないのも解っていた。仕方なく、彼はこの苦行に耐える事にした。
            
                      * * *
 とある地方の事。
 元々雷の多かったその地方では、通常の裁きをしても真偽の付け難い罪人の裁定に、独特の方法を使っておった。何と落雷の多発する山中に一晩、木の杭に磔にしておくと言うんじゃな。
 そして雷がその者に落ちれば有罪、もし落ちなければ無罪。
 そんなもの真偽ではなく、運任せではないか?――ああ、今の人間ならそう言うだろう。だが、その頃は未だ雷は理屈も解らなければ、対抗する手段も無い、神の怒りにも等しいものと捉えられていた。
 だから、自分等では及ばぬものを、神様に裁定をして頂く、それ位の考えだったんじゃよ。
 まぁ、勿論滅多に行われる事ではなかったよ。大抵の物事は人間達でどうにか出来たし、何よりこれで有罪と沙汰が降りるという事は、死罪と等しかったからなぁ。身動きもならず、雷の直撃を受けて、生きていた者など先ずおらんからな。
 これで裁かれるのは人を害し、尚且つその罪から逃れようとあの手この手で画策した者――あるいはそう思われた者。
 無論、真実無罪の者もおったろう。当然それらには雷は降りてはならん。
 そして、有罪の者は――見逃してはならんかった。

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「おーい、授業中ボーっとしてたけど、どした?」
 終業ベルが鳴り、担任教諭が行ってしまったのを見届けて、千裕ちひろは隣の席の友人の肩をつついた。
 その友人、美帆はやはりぼうっとした様子で、それに答えた。
「ごめん、ちょっと睡眠不足……」答えながらも眠そうに目を擦っている。「授業中に寝ないように、これでも頑張ってるんだけど」
「何? 深夜テレビでも見てた? 真逆夜中迄試験勉強って線はないわよね?」
「確かにその線はないけど……それを言ったら千裕だって同じでしょ?」
 まぁね、と千裕は肩を竦める。
「でも、本当、どしたの? あたしが言うのも何だけど、夜更かしも程々にしといた方がいいよ? 肌とか荒れるし」
「あんた、幾つよ?」お互い十七歳。未だそんな歳じゃないと、美帆は笑う。
「いやいや、油断は大敵だって」友人の笑顔に、千裕自身も頬を緩める。
 が、次の瞬間には美帆は笑みを収め、やや充血気味の目で机の天板を見下ろした。釣られる様に、千裕の笑みも失せる。
「どうしたの?」一転して真剣な表情と声音で、千裕はそう尋ねた。

 この所眠れないのだと、美帆は答えた。
 いつもと同じ様に十二時前にはベッドに入り、眠ろうとする。一日の疲れもあって、普通に眠気もある。普段なら小一時間としない内に眠りに就く筈だった。
 それがここ一週間程だろうか、午前二時を回り、三時を回っても眠る事が出来ずにベッドの中で転々と寝返りを打っているのだと言う。
「昨日――じゃなくて今朝か――なんて、朝刊の配達が来た音迄聞いちゃったよ。早朝って静かだから、逆に色んな音が聞こえるんだね」美帆は僅かに苦笑を浮かべる。
「美帆、何か心配事でもあるの? そんなに眠れないなんて……」
 それとも逆に余程楽しみな事でもあって、興奮して眠れずにいる?――いや、それなら本人も悩まないだろうし、どれ程楽しみな事が待ち受けていたとしても、そんなに持続もしないだろう。
 ならばやはり、深刻な悩み事でもあって、落ち着いて眠れずにいるのか。
「ほら、心配事って、誰かに話してみると軽くなる事があるって言うじゃない。遠慮なく言ってみよう。教室じゃ何だったら、場所移して……」
「いやいや、本当にそんな心配事なんてないから」美帆は苦笑して、パタパタと手を振った。「心配してくれてありがと」
「そう?」気遣わしそうに眉根を寄せて、千裕は友人の顔色を窺う。確かに無理をしている様には見えないが。
「大丈夫、大丈夫。悩みって言ったら、ダイエット中なのに気になっちゃうお菓子の事とか、テストの山勘が当たらない事とか、ある事はあるけど、そんなの最近に始まった事じゃないし」
 確かに、とやはり同じ悩みを抱える千裕は頷いた。
「でも、それじゃ何なんだろ? 何か環境変わった?」
「そうねぇ……」美帆は首を捻った。「裏の空き家に人が越して来た位かな?」

「あ、その人が夜中迄近所迷惑に騒いでるとか!」犯人見付けたり、とばかりに千裕は言った。
 が、美帆は頭を振る。
「ううん、静かなもんよ? 時々本当に居るのかなって思う位。そう言えばあの人、いつ、越して来たんだろ? 引越し荷物を運び込んでる風もなかったし」
「挨拶もなし?」それは感心せんな、と千裕は唸る。「じゃ、何で越して来たって解ったの?」
「え? 一週間前位かな? うちの殆ど倉庫になってる二階奥の和室の片付けを言い付けられて、普段締め切ってるから風も通して置こうと思って窓を開けたら――丁度裏の家に面してるのよ、その窓――そしたら、そこの二階に何かボーっとした男の人が居て。未だ若そうだったけど、蒼白い顔してて、何か気味悪かったからそそくさと窓閉めちゃった」感じ悪かったかな、と美帆はぺろりと舌を出す。
「……その人、それ以前に見た事は?」
「ないよ。お母さんも知らないって言ってた。見た事もないって」
「……」千裕は、暫し考えた挙句、美帆を図書室に引っ張って行った。
 何をしているのかと問う美帆にちょっと待ってとだけ言い置いて、パソコンで彼女の家近辺の地名を打ち込み、何やら検索している。手掛かりが無く、苦心していた様だが、やがて「あっ」と声を上げた。

「美帆ん家の裏の家ね、三十年も前に男の人が亡くなってるんだって。何でも遺産の事とかで悩んで悩んで、夜も眠れない程、精神のバランスを崩して……服毒だって」
「ちょっ……と、真逆、あの男の人がその……幽霊だって言うの? 前から居たのに、あたしが偶々窓を開けて見ちゃったから……あたしに取り憑いた……? いや……っ!」
 大声を上げ掛けた美帆を押し留めて、千裕は再びパソコンに向かった。やはりまた、検索ボックスに字句を打ち込んでいる。
 検索ワードは住所に加えて「寺」「神社」「お払い」「除霊」……。
「大丈夫だからね」千裕は言った。「ちゃんと眠れるようにしてあげるから。美帆も……その男の人も」
「ん……」美帆は頷いた。「大丈夫。千裕みたいな友達が居るだけで、何か安心……で……」図書室の椅子に座った儘、美帆は机に突っ伏して眠ってしまった。眠気がピークに達したのと、千裕への信頼感故だろう。
 その寝顔に苦笑を浮かべて、千裕はまた、情報の海に漕ぎ出した。

  三日程後、美帆は自室のベッドで思う存分、安眠を貪り――件の霊は眠りに就いたと言う。

                      ―了―
 ね、眠い……(--;)
 眠いのに長くなる~☆

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プロフィール
HN:
巽(たつみ)
性別:
女性
自己紹介:
 読むのと書くのが趣味のインドア派です(^^)
 お気軽に感想orツッコミ下さると嬉しいです。
 勿論、荒らしはダメですよー?
 それと当方と関連性の無い商売目的のコメント等は、削除対象とさせて頂きます。

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