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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「夜中に海になんか出るものじゃありませんよ、お客さん」中年の女将さんの心配そうな言葉を振り切って浜辺に散歩に出たのは、恐らく旅の開放感と共に酔いの所為で、気が大きくなってもいたのだろう。
 だけど、普段の飲み方と比べても、特に酷く酔っていた訳じゃあない。それじゃあ目的が果たせないじゃないか。

 その程度の酔いだから、勿論調子に乗って海に入ったりはしなかった。宿から短い階段を下りた先の、ささやかな砂浜をぶらついていただけだ。両脇を出っ張った岩に囲まれた、本当にささやかなプライベートビーチ。昼間は此処から泳ぎに出られる。
 その昼間の感じでは、遠浅のなかなか綺麗な海だった。この日は天候にも恵まれて波も穏やか。
 今はゆったりと寄せては返す波が、月明かりを反射して煌めいていた。波音が耳に心地いい。そしてその月明かりと反射のお陰で、十二分に明るかった。
 俺は波打ち際に歩み寄り、濡れた砂に膝を突いた。砂を巻き込んだ波が膝を洗い、少しこそばゆい。俺は砂粒を掌に掬い上げ、その感触を確かめる。別の場所でも、また別の場所でも。
 そして再び周囲を見回して、頭を振った。
「やっぱり向かなさそうだな。此処は」宿の佇まい等のイメージはぴったりなのだが、と独りごち、後は只この空気を楽しむ事だけに執心した。仕事は一時お預けだ。

 俺の脳裏に大学の映像部仲間の脚本担当者から聞いて来た条件がぼんやりと再現される。
 遠浅の、出来れば海岸線の長い海。
 波と海岸線はなるべく直角、もしくは複雑な地形。テトラポット等があるのも、海流が複雑になっていい。
 狭い範囲で砂粒が他に比べて細かくなっている――それだけ強い波で度々洗われた形跡がある。
 そんな海で度々起こる海難事故の原因、波打ち際にぶつかった波が合流し、岸から急速に遠ざかって行く潮の流れ――離岸流を利用した、事故に見せ掛けての殺人事件。そのシナリオを映像化するにはこの宿は不向きだと、俺は判断した。

 それにしても奴は元々リアリティを追及するタイプだったが、起こりそうじゃなくて実際に起こる海岸に拘るのは……あくまで撮影の為だよな?

                      ―了―

 今日は「海の日」~という事で海の話。
 この夏に限らず海水浴をご予定の皆様、潮の流れにはご注意を☆
 因みに離岸流は流れに逆らって泳いじゃいけません。岸に平行に泳いで先ずは離岸流から抜け出しましょう。あるいは離岸流は短時間で消えるので、それを待つ――流されるけど(^^;)
 慌てて岸に向かって泳いでも、オリンピック選手でも流れの速さには敵いません☆

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 地面に描かれた木漏れ日模様が揺れる。
 尤も、頭上の緑の天蓋を揺らす風など無い。あるのは濃い葉陰さえも白く飲み込む、強い日差しだけ。
 揺れているのは地面?――朦朧とした頭で思う――いや、揺れている、震えているのは自分の脚だという事に男は気付いた。よろり、よろりと、一歩ごとにその膝が沈む。
 余りの暑さゆえ? 焼け付く様な喉の渇きゆえ?
 そのどちらでもない事を、木漏れ日模様からふらつく足で抜け出した時、男は悟った。自らの影、その肩や胸の辺りから突き出した異物を目にして。
 男はその場にくずおれた。

 数刻前、男はこの世に僅かに残った宝を前に、狂喜していた。どんな宝石よりも、どの国の現金よりも、貴重な宝。
 だがそれだけに、警戒は予想した以上に厳重だった。それでも巧く突破して宝を拝む事が出来、この程度なら後はそれを頂戴して逃げ切れる、そう思ったのが甘かった。
 宝に手を伸ばした途端、鋭い衝撃を肩に受け、その痛みに思わず上げた悲鳴を掻き消したのは数々の怒号。
 泥棒! 余所者が! 
 逃がすな! この場所を外に洩らされては……我等の命に関わる! 
 始末しろ!
 続け様にぶつけられる憎悪と衝撃。宝を手に入れるどころではなかった。宝を入れる為に用意して来た容器も放り出し、男は懸命に走り出した。死に物狂いで駆けた。あちらこちらに傷を受け、痛みに苛まれたが、火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか、どこをどう駆けたのか、男はどうにか、森に紛れる事に成功した。
 尤も、足はふらつき、痛みの感覚さえも直に失せ――そして男は森を出た所で斃れた。

 僅かに開けた崖の上。そこが男の死に場所だった。くずおれるその勢いの儘、男の身体は崖へと滑り、ぶつけた地面にその身を射止めた矢を折りながら、男は崖下の海に落ちて行った。
 干上がり、命を繋ぐ為の貴重極まる宝となった各地の湖の真水――それと似ていながらもその塩分濃度ゆえに飲用には出来ない青い海を、僅かの間、生気の失せた双眸がどこか恨めしげに映した。
 やがて水柱が勢いよく立ち上り、ぎらつく日光に煌めき虹を描きながら、海は男を飲み込んだ。

                      ―了―

 暑い。それしか言えない(--;)

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 吉野紗和が「あっ!」と小さく声を上げたのは、ロッカールームで帰り支度を始めた夕方だった。
「どうしたの?」隣のロッカーの同僚が、殆ど反射的に訊く。
 指輪を落としたみたい、と浮かない顔で紗和は答えた。
「落としたみたいって……曖昧ねぇ」別の女子社員が結い上げていた髪を手直ししながらも眉を顰める。
 いつ落としたのか解らないのだと、左手を見詰めて紗和は頭を振る。その左の小指に、いつも銀色のシンプルなリングをしていた事を、同僚達は思い出した。余りに毎日大事そうに着けているので、誰かからの贈り物かと冷やかしの的になった事もあった筈。結局紗和は自分で買ったお守りの様な物だと言い、何だ、と白けただけだったのだが。
「気が付いたのはついさっきなのね? ちょっとこの辺探してみよう?」
 その声に近辺の者が応じ、ロッカーの隙間さえ覗き込んだのだが、指輪は見付からなかった。捜索範囲と人員は自然と拡大されたが、更衣室内には無い様だ、という結論が見付かっただけだった。
「いつ、どこで落としたか、心当たりは無いの?」
 例えば――と同僚達は次々に声を上げた。

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 雨に顔を濡らして、私はその場に立ち尽くした。
 それしか、出来なかったから。

 いつも傍に居てくれた人を、私は殺してしまった。
 刃物も使わず、鈍器も手にせず、毒も用いず……言葉さえも使わず。
 只、立っていただけだった。僅かに住居から離れた、車も滅多に通らない道に。
 けれど、滅多にというのは全くとは違う。車の通りも人通りも少ないと、調子に乗ってスピードを上げた車が一台、近付いていた様だ。
 気付いたあの人はこれ迄と同じ様に私を守ろうとして、私を突き飛ばし――自らが撥ねられた。
 甲高いブレーキ音と、どんっという重い音が交錯した。
 そしてあの人の最期の言葉は、私の名前だった。
 事故に気付いた家の者が悲鳴混じりの声で救急車を呼んでいたけれど、あの人の吐息はもう聞こえなかった。
 車の男は慌てて降りて来たものの、只自らの不運を嘆く言葉を吐くばかり。こんな時期外れの別荘地に人が居るとは思わなかった、と。
 私だって好きでいる訳じゃない――私の面倒を見ている人達だって、きっと……。特にあの人は。

 やがて救急車とパトカーのサイレンが近付き、丁度その頃だろうか、雨も降り出した。
 男は警官相手に必死に言い訳を始め、家の者は救急車に駆け寄ったけれど、手遅れだという宣告に今更ながら悲嘆の声を上げた。
 私は只、立ち尽くした。警官が一人、目撃証言を取りに来たけれど、家の者の一言に撥ね付けられた。
 お嬢様は目がご不自由なのです、と。私の前でなかったなら、もっと別の所も不自由なのだと言いたかっただろう。目を離してしまった私共が悪かったのです、という言葉がそれを物語っていた。
 そう、目が不自由なだけなら、自分から人一倍鋭い耳に車の音が響いて来る道に出たりしない。
 あの人の足音が傍にあるのを知りながら。
 生まれ付き目の見えない身体と、不自由な心を私に与えた事を悔やみながら、私と共に此処に籠もった母の足音はもう聞こえない。

 私はその場に立ち尽くした。それしか出来なかったから。
 
 それしか出来ないけれど……人は殺せた。

                      ―了―

 すんません。眠いです……zzz

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 遠く閃く雷光を恨めしげに見上げながら、私は――雨宿りという緊急避難とは言え――入る店を間違えた、と肩を落とした。
 偽煉瓦造りの壁に蔦を這わせたその外観と窓から漏れる暖色系の灯、そして仄かに香る珈琲の匂い。それで店の前に出された看板も碌に見ず、喫茶店と判断して飛び込んだのだけど。
 実際には香り高い珈琲を飲んでいる店主がたった一人居るだけの、骨董品店。
 最早私には骨董品なのかガラクタなのか、判断もつかない様な物が所狭しと棚に並べられ、壁に架けられている。扱われている商品は無国籍風で、青磁の皿の隣に何処の物とも知れない奇怪な像が立っていたりする。
 せめて西洋アンティークショップなら未だ良かったのに、と私はそっと溜め息をつく。そして店主の愛想がもうちょっとでも良かったなら、雨宿り代として何か安い小物でも買って行く気にもなっただろうに。
 突然の雨に髪も上着もぐしょ濡れになっている私に、店主は一瞥を投げただけで殆ど無反応。表情すら変わらない。心ある店主ならタオルの一枚でも貸してくれるものじゃないの? 
 しかし、今更別の店に駆け出すには――外は滝の様な豪雨と化し、私の足を縫い止めた。

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「ど、どうすればいいと思う?」男は内心の困惑を吐き出した。
 その目の前には彼の楽屋を荒らしていたと思われる男が倒れている。鈍器で殴られた頭から血を流し、血の気のすっかり失せた顔で。手には彼の財布が握り締められていた。ぴくりとも動かないその様から、そして急速に失われていく生気から、既に息絶えているのが窺えた。
 そしてその楽屋荒らしを殴打したパイプ椅子を、男は未だ手にしていた。
 楽屋の主が戻って来たと見て居直り強盗と化す男に対し、恐怖の余りに手近にあった椅子を掴んだ手は強張り、指一本動かすのさえ難事だった。そして何より、手から離せば死んだ男が起き上がって襲い掛かって来る様な気がした。無論、そんな事は起こる筈もないのだが。
「兎に角落ち着こうよ」楽屋に入るなり放り出された儘だった相方の声が聞こえた。「落ち着いて考えるんだよ」
 男はいつもそうする様に、無意識に相方に相談し始めた。

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 今日は誰との関係を悪化させるとしようかな。
 そうしたらあの人は黙考してくれるかな。
 静かに、僕の事だけを……。

「優亜(ゆうあ)! どうしていつもお友達と喧嘩ばかりするの!」母の叱責の声に、七歳の少女は身を竦めた。しかし直ぐに、強い視線で母の目を見返し、言う。
「お友達じゃないもん! 今日だって一緒に遊んでたけど、直ぐに私の事仲間外れにして……! だから帰ってって言ったのよ。なのに『何怒ってんの?』って私の事、馬鹿にして……!」
 娘の激昂振りにおろおろしていた母親だったが、その小さな肩を両手で押さえ、諭す様に、声を掛けた。
「落ち着いて、優亜。お友達は誰も貴女の事を仲間外れになんてしてないわ。私だって遊ぶ様子は見ていたもの」
 カウンターで仕切られたリビングダイニング。おやつやジュースを用意しながらも、母親は子供達の様子をちゃんと見ていた。七歳ともなれば知恵もあるとは言え、子供の事。はしゃぎ始めるとソファから飛び降りたりは日常茶飯事。
 それに、時折だが娘が原因で喧嘩になる事が、あった。今日の様に。
 だが、優亜も余所の子も、怪我をするような事があってはいけない――彼女は責任感の強い女性だった。
 その彼女の目から見ても、今日の娘達は仲良く遊び、笑っていた筈だった。
 ところが不意に、娘が怒り出したのだった。何の前触れすらもなく。

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