『光の影』

　友人は、表情を曇らせてその写真を差し出した。おかしなものが写っている、というのだ。

　どうせ点が巧い具合に並んで目、鼻、口に見えている、そんなよくある類だろうと気の無い表情で俺は八木沢の持って来たそれを覗き込んだ。もう冬休みだってのに、心霊写真も無いだろう、と。
　ところがそこに写っていたのは恨めしげな人の顔でもなく、それらしく見える影でもなかった。
「何だ、これ？」
「それが判らないから、見てくれって言ってるんじゃないか」
　それはそうだ。俺は改めて写真を、今度は少し真剣に見遣る。
　何という事はないスナップ写真。八木沢達友人四人が高校生にもなって、ガキ宜しくＶサインをして並んでいる。背景はクリスマスシーズン恒例のイルミネーション。どうやら最寄の駅前の様だ。男四人で寒風吹き荒ぶ中、何やってるんだか。ま、それはいい。
　それより問題なのは、奴等の後ろのイルミネーション、それが全て消えている事だ。木々に絡ませたライトは点滅してはいたらしい。だが、タイミングをずらして交互に点滅するようになっていて、一斉に消える事は無かったそうだ。
　第一、背後の事とは言え、一斉に消えたら気付く筈だ、と八木沢は言った。そしてカメラのシャッターを押してくれた通行人も気付いて――親切な人だったらしいから――撮り直そうかと言ってくれた筈だと言うのだ。
　何より、イルミネーションが消えていると言うよりも、何かが覆い被さっているかの様な印象を、見る者に与えた。丸で、巨大な影が光を隠している様な――。

　イルミネーションは年末迄続けられるという事で、夕方俺と八木沢は例の駅前に出向いた。既に暗くなった空に、色とりどりの灯が映えている。例の写真を撮った場所迄、案内させる。駅前ロータリーの、何という事の無い木。葉の落ちた枝に、今は青いライトが実っている。確かに暫く観察しても、一斉に消える事は無い。
　それにしても光に溢れた街だ――俺は周囲を見回して思う。イルミネーションが無くても、各ビルの灯、装飾灯……眩し過ぎる位だ。
　光があれば影が出来る。光が強ければ強い程、濃い影が。しかし、その影も出来る余地が無ければ……凝縮されたそれはどうするだろう？
　馬鹿な。丸で影に意思があるみたいに。そんな事がある訳は無い。
　だが、逃げ場を求めた影がごく一瞬、彼等の背後を掠めたのだとしたら？
　馬鹿げた考えだ。だが、光の洪水に辟易した俺が入り込んだ小路に、何やら蠢く影。背後の八木沢も気付いたか、ひっ、っと息を呑む。
「ま、ほっといてやれよ。元々あって当然なんだ。そこ迄駆逐する事も無いだろ？」俺は笑った。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―了―

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　光あれば影もある。最近の影は肩身狭いんじゃないかと思っただけです（笑）