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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「昨日、晩方から夜中に掛けては、異変を認識した人は居なかったんですか?」
 その問いに、リビングに集まった六人は一様に頷いた。
「風邪気味で、薬を飲んで早くに寝付いてしまったものですから」一人が言う。
 それに続く様に声が上がった。
「ヘッドフォンで音楽を聴いていて……」
「私の部屋は一番遠いので……」
「元々、このアパートは防音がしっかりしてるんですよ。入居者は音大生ばかりなので、自室でも練習出来るようにと」
「そうそう、ドアを開け放してでもいなければ、部屋の外の音なんて聞こえませんよね」
「友達の家に泊まりに行っていて、帰ったのが朝だったんです」
 逐一メモを取り、警官は最後の発言者を見遣った。
「それで帰って来られて朝一番に発見されたんですね? この部屋に飾られている――」彼はリビングをぐるりと見回した。「楽器が全て壊されているのを」
 はい、と彼は頷いた。

「吃驚しましたよ。喉が渇いたので何か飲もうとキッチンに直行しようとしたら……。あ、このアパート、ダイニングキッチン、リビングは共用になっていて、然も繋がっているのでリビングを通らないとキッチンに行けないんです。それでリビングに入った途端、この惨状で……」
 それはさぞかし驚いた事だろう、と警官は唸った。
 十二畳程のリビングの壁際には飾り棚が置かれ、様々な管楽器や弦楽器、打楽器が展示されていたらしいのだが、それらは全て棚から引き摺り出され、ある物は床に叩き付けられ、ある物は踏み砕かれ、酷い惨状を呈していた。
 だが、これだけの破壊の限りが尽くされていたのなら、楽器だけに尚の事、激しい物音がしただろうという警官の読みは外れた。よもや誰も聞いていないとは。これでは犯行時刻さえ、彼等全員が部屋に戻り、外に出る事もなかったと言う午後十二時以降から発見時刻の午前六時過ぎ迄、約六時間の間としか特定のしようがない。
 そもそも、一体誰がこんな事をしようとするだろうか。

「侵入された形跡は無かったんですね?」
「取り敢えず、鍵が壊されていたり、窓が割られていたりといった事は無かったです。真逆、此処の入居者――僕達を疑ってるんですか?」
 心外そうな声に、警官は曖昧に笑って形式的なものですから、とだけ答える。
「言って置きますけど、僕達はこれでも音大生――音楽家の卵ですよ? 大事な楽器に対してこんな狼藉を働ける訳がないじゃないですか。それは……巧く操れなくて癪に障る事も、ま、皆ありますけどね」
「だからって壊そうとなんてするもんか。況してや此処のは大家さんが『いずれこういった名器を扱えるようになるように』って、俺達の目標の一つとして、飾ってくれていたんだから。時々棚から出して磨いたりこそすれ、壊すだなんて……考えられないよ!」
「大家さん……! そうだ、もう直大家さんが海外から戻って来られるんだ。この状態を見たらきっとがっかりするぞ。ああ、どうやって説明したらいいんだよ……!?」
 一時、大家への説明のし方に苦慮する学生達を見て、どうやらその大家は慕われている様だと警官は意外に思った。大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然――そんな言葉は廃れたと思っていたのだが。
「此処はね、キッチンやリビングを共用にする事で、設備費を削減してるんですよ。ほら、防音の設置が必須な分、普通の学生寮なんかより建築の際にはお金が掛かるじゃないですか。それが家賃に跳ね返るのを少しでも抑えようとして……。そういう人なんですよ、大家さんは」
「我々みたいな夢はあるけど金は無い連中には有難い限りですよ」
 なるほど、と警官は頷き、しかし事件そのものには首を捻りながら、更に調べを続ける事にした。

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「いや、参ったっすよ」ぐいっと呷った麦酒のグラスをカウンターに置くなり、牧武は口を開いた。「本当に天井から足音がするんすから」
「お前さんとこ、そんなに古かったっけか?」その様に呆れた様に口を挟んだのは、常連の瀧だった。
「いえいえ、うちじゃないっすよ。会社の後輩の、泉って奴のマンションですよ。今日奴が風邪だとかで休んだもんで見舞いかたがた様子を見に行ったんっすよ。そしたら何かこう……風邪以上に、神経的に病んでる感じがしたもので、話を聞いてみたら、天井から響く音が煩くて眠れないんだ、とこうきたんすよ」
「上の階の人間に苦情を言えばいいじゃねぇか。まぁ、揉め事を起こしたくないのも解るが、神経病む様になっちゃあ、背に腹は変えられないだろう」
「俺もそう言ったんすよ。そしたら奴は引っ越して来たばかりだから、とか、ぶつぶつ言ってましたが……。新参者だってちゃんと金払って入ってるんすから、居住環境を守るのは当然の事でしょ?」
 瀧が頷くのを待って、武は言葉を続けた。
「だから、お前が行けないんなら俺が話を付けてやる! って、部屋を出たんすよ」
「ほぉ、やるじゃないか、タケ坊」
「タケ坊は止して下さいって。それで奴が止めようとするのを無視して、上の階へ行こうとしたんすけど……」先程迄の勢いはどこへやら、武の声は徐々に小さくなっていく。
「何だい、結局尻込みしちまったのかい?」褒めるんじゃなかったな、という顔の瀧。
「違いますよ。行こうとしたんす。けど、そのマンションは五階建てで……後輩の部屋は五〇一号室でした」武はここで一旦唾を飲み込んだ。「詰まりっすよ? 後輩の部屋の上は、もう屋上なんすよ。然もそこへの階段はもうずっと鍵を掛けられた儘で、最近開けられた様子さえ無かったんす」
「それは……詰まり」
「奴が文句も言いに行かず、俺を止めたのは、どうも相手が人間じゃないから……だったみたいっす」武は引き攣った苦笑いを浮かべた。
「……幽霊マンション?」こういった話の好きな瀧は、俄然、興味を持った様だった。 

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「流石にこんな天気の夜には、もうお客様も来そうにないですね」時間的にも弊店間際、がらりとした店内を見回して、楡棗は言った。
 外はしのつく雨。バーで一休みして、また濡れて帰るよりも、真っ直ぐ帰ってシャワーでも、といった気分にさせる。一旦は立ち寄った客も、雨脚が酷くなるのを恐れてか、退(ひ)くのが早かった。
 そんな晩でもカウンター席に陣取る男が一人、居た。それも丸で他の客が居なくなる閉店時間を待ってでもいるかの様に、酔いもせずに粘っている。
 何か酒を飲む事とは別の用がありそうなその男への、先の棗の言葉は誘い水だった。
「実は管内でゆ……」あっさり乗り掛けた男の前に店主の影。男は苦笑いして一旦、口を噤んだ。
 男の同窓生でもある店主、楡庵は軽く溜め息をつきつつ、毎度の事を訊いた。守秘義務という言葉を知っているか、と。
「知ってるって。だから客が退ける迄待ってたんじゃないか」警官、椚要はそう言って笑った。
「私達も当然、民間人なんですが」という庵の呟きは椚と、誰より棗によって黙殺された。

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「それで、人に頼む前にご自分で考えてはみたのですか?」椚が返した茶器に、再び熱い日本茶を注ぎながら、庵が訊いた。素知らぬ顔で椚の前に、差し出す。
 椚の眉間に皺が寄ったのは、お茶の苦さの所為か事件の所為か。

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「庵に棗って……どっちかって言うと酒よりお茶って感じの名前だよな」閉店ぎりぎりに来た椚は、最早客の残っていない店内を見回しつつ、呟いた。
「何ですか? 藪から棒に」楡棗が苦笑する。
「いや、茶室っぽくないか? 棗って確かお茶の葉を入れる入れ物だろ?」
「どうかしたんですか? 椚さんにしては……」
「お茶もありますよ?」珍しく割り込む様に言ったのは棗の兄にしてこのバーの店主、庵だった。「瀧さんに頂いたのですが、なかなかの銘茶です」
「よーし!」不意に椚は席を立った。「じゃ、それで温かいお茶でも淹れて公園で深夜の花見と行こうじゃないか」
『え……?』兄弟二人の怪訝そうな声が揃った。
 折りしも桜は五分の咲き。深夜ともなれば未だ冷たい風も吹き抜ける。
 何を考えているのやら――とぼやいた庵も棗がそちらに一票投じてしまい、致し方なく魔法瓶に湯を入れた。すっかり店を片付けると、三人は徒歩十分程の公園へと出向いた。
「それで……茶室で何かあったんですか? 普段なら精々『和室』って言う所だと思いますけど。事件でも?」桜の花越しに未だ冴々とした月を仰ぎ見ながら、棗が口を開いた。

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 固定されているらしいビデオカメラの映像。その画面の中を、数人の男女の姿、そして声が往来して行った。
「え? プレゼント、ピンブローチにしたの?」若い女の声。画面内には居ない様だ。
「え、何か拙かった?」画面端の若い男が狼狽している。「美奈子さん、薔薇が好きだって聞いてたから、丁度いい感じのがあったんで……」
「ああ、美奈子さんのか。それなら問題ないわ。美和子さんにかと思った」
「美和子さんにはネックレスを用意したよ。彼女、ブローチとかしてるの普段から見た事ないし」
「あら、よく見てるわね」男の肩に白い肘が圧し掛かる。「ま、正解よ。美和子さんは薔薇も嫌いだしねぇ」
「そ、そう……。それにしても双子でも好みが違うよね。美奈子さんと美和子さん。ところで遅いよね、二人共。今日の主役なのに」
「いつもの事でしょ。ドレスだピアスだイヤリングだとコーディネートに暇掛けてるんでしょ」
「折角伯父さんの家を会場に借りたのにね」男は肩を竦めた。「彼女等の誕生パーティーの会場としては申し分のない大豪邸をね」
 そんな彼等の前に、二人の主役が現れたのはその直後だった。

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 〈助けて女〉の話を聞いた事があるか?――酔いの中で、瀧がそんな事を言い出したのはもう夜半を回った頃だった。
「助けて女?」隣に座った牧武が首を傾げる。「何すか? それ」
「いや、俺も噂で聞いただけなんだけどよ。こういうバーや飲み屋なんかの、深夜営業の店に突然若い女が『助けて!』って飛び込んで来るんだとよ。怪しい男につけられてるからって。ところが店員や客が外を見回しても、そんな怪しげな素振りの男は居ない。それでも、匿って欲しいとカウンターの中に入って来たりするのを無碍にも出来ないから、店によっては警察に通報したり、なんて事もあるらしい」一気に喋って、瀧は麦酒で喉を潤す。
「で、結局どうなるんすか?」武が先を促す。
「どうにも」瀧は頭を振った。「勘違いだった、とか何とか言って、いつの間にか居なくなっちまうんだと。通報された分でさえ、いつの間にか裏口から居なくなってたり……」
「うわ。迷惑な人っすね」武は顔を顰めた。「酔っ払いっすかね?」
「ところが更に迷惑な事に、その時の応対が悪かった店は、その後軒並み、強盗団や空き巣の被害に遭ってるんだとよ」

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