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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「何だ、死神ってもっとおっかなくって、鎌とか持ってるんだと思ってた」緋色のクロスを敷いた卓上のカードの一枚をひっくり返し、屈託なく、少女はそう言った。
 白く華奢な手にあるのはタロットの十三番、死神のカード。襤褸布を纏った骸骨が、荒野を背景に大きな鎌を構えている。
「そんな無粋な物、今は必要ないでしょ?」卓を挟んで立つのは十五、六の少女。長い黒髪に黒い服、手にした手帳と万年筆迄が真っ黒だった。「貴女はすっかり覚悟を決めているし」
「そうね」カードを戻し、シャッフルしながらも少女は頷いた。「もう、解ってたから」
「……迎えに来た私が言うのも何だけど、諦めがいいのね。未だ十七年しか生きてないのに」
「解ってた事だから」再度そう言い、少女は慣れた手付きでカードを卓上に並べ始める。「本当は、何度も同じ事を短期間に占うのは駄目なんだけどね」悪戯っぽい上目遣いで黒衣の少女を見ながらも、一枚一枚、丁寧にカードを捲っていく。
 最後にその手にあったのは、またも死神のカードだった。

「これでも当たるのよ? 私の占い。将来はプロになってね、いつか世界的な大事件を予言するのが夢だったの。あ、事件って言っても悪い事を期待してた訳じゃないのよ? 戦争がなくなるのだって歴史的大事件だし、新たなエネルギーの発見だって事件じゃない。そういうの……誰よりも早く、知りたかったな……」
 だが、彼女に残された時間が少ない事を、黒衣の少女は知っていた。
「えっと……暗示としては『凶器』『暴力』……『理不尽な死』……。私、殺されるの? 貴女なら正解知ってるんでしょ? 死神さん」
 それに対しては、少女は答えなかった。ルール違反だから、と。
「そうなの? でも、死神が来たって事は、もう余り時間もなさそうね」首を傾げて、少女はふと、耳を澄ませた。「お母さんもお父さんも遅くなるって言ってたから、戸締りはしっかりした筈だけど……庭に面した窓が硝子一枚っていうのはやっぱり安全面に問題あるかもね」
 控え目ながらも硝子が割られる音を、彼女達の耳は捉えていた。

「……強盗が入ると察していたのなら、助けを求めるとかいう事は考えなかったの?」近付いて来る足音を聞きながら、黒衣の少女は尋ねた。
「占いが当たるとは言っても……周りの人も流石にこれは笑い飛ばすでしょうね。況してや警察は何かが起こってからじゃないと動いてくれないでしょ。今通報すれば来てくれるでしょうけど、間に合わないわ。結局私は死ぬんだもの」じっと、正面を向いた十三番のカードを見詰め、少女は言った。苦笑も皮肉もない、無表情で。
 しかし、その手は、小刻みに震えている。
 近付いて来る死に対し、逃げ出したい、叫び出したいのを必死に堪えているのが、黒衣の少女には解った。
 未だ十七歳で、将来の夢を持つ少女がそれを断たれる事を、恐れない道理もない。如何にそれが自らが自信を持って占った結果とは言え、受け入れたいものではない筈だ。
 それでも、少女は顔を上げてもう一度、言った。
「いいのよ。解ってた事なんだから」
 その目の前で、ドアが乱暴に押し開けられた。

「……ばか」ぽつり、死神が言葉を零した。

 次の瞬間、床に斃れ伏したのは大振りのナイフを握った二十代半ばと見える男だった。黒い目出し帽から覗く目が、驚きと恐怖に大きく見開かれた儘だった。
「……何だ……」椅子から腰を浮かせ、泣き笑いの様な表情で、少女は言った。「やっぱり、持ってるんじゃない……。鎌……」
 黒衣の少女の手には、いつの間にか冷たく光る、しかし繊細な意匠の凝らされた一振りの鎌が握られていた。その一閃が、男の魂を刈り取ったのだ。
「これは……死を拒否する手の焼ける者用よ」
 彼女が更にそれを一振りすると、刃は光と解け――彼女の手に残ったのは黒い万年筆。
 それを手帳と共にポケットにしまうと、彼女は踵を返した。
「ちょ……あの、私を連れて行かなくていいの? 死神さん」少女は訊いた。「と言うか、これじゃあ、もう私が死ぬ理由が無いんだけど……。それに、この状況、どうしたらいいの?」
「彼には外傷は無いから、死因は急病か精神性のショックになるわ」足を止め、少女は言った。「楽をする事ばかりを考えて働きもせずに金を欲し、強盗に入った挙句が予想以上のプレッシャーに押し潰された、どうしようもない男……。それでも、貴女の分の穴埋めには出来るから」
「穴埋め……。いいの? それで」
「私は構わない。それとも……自分が死んででも、占いを的中させたかった?」
 暫し、少女は黙した。
「ある意味……自分の死期を当てるのは占い師にとっても至難の業なの。どうしても、客観的に……自然には見られないから……」微苦笑を浮かべて、少女は言う。「うん、それが当てられたら凄いかなって、思いはした。でも……やっぱり未だ、死にたくない……!」
「なら、いいじゃない。貴女には、未だ占える未来がある……」そう言い残して、黒衣の少女は姿を消した。

 通報する為に電話に手を伸ばした少女がふと見ると、彼女に相対していた筈の卓上の死神のカードはいつの間にか、逆位置になっていた。

                      ―了―


 また長くなった……。

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「最期にね、会いたい人が居るの……」
 その女の呟きを、しかし黒髪、黒い服の十五、六歳位の少女はあっさりと切り捨てた。
「駄目」これ以上ない位にきっぱりと、そして冷たい拒否の言葉。
「どうして!? 私、これが最期なんでしょ? 貴女、死神なんでしょ? 最期の望み位叶えてくれたって……!」女は自分よりも小柄な相手に縋り付かんばかりに言い募る。「最期に……会うだけでいいのよ」
「駄目」少女はもう一度、言った。余所を向いて手帳を捲りながら。
「そんな……」女はその場にぺたりと座り込んだ。毒に対して反射的に嘔吐した所為だろう、汚れたワンピースが尚更、惨めな気分を齎す。
 そう、彼女は毒を飲まされたのだ。それと言うのも……。

 彼女の両親は彼女が五歳の時、離婚した。父親の実家に引き取られ、経済的には不自由はなかったが、ずっと、寂しかった。母親とは会う事さえも禁じられていた。
 そして十二歳の時、彼女はすっかり老けてしまった母と再会した。
 夢の中で。
 最期に死神に連れて来て貰ったのだと母は寂しげに微笑し、彼女は直感的に、それが真実だと悟った。母は亡くなったのだ、と。
 翌日、それを裏付ける様に、父は実に事務的な口調で、かつての妻が病死した事を娘に告げた。
 その出来事はずっと、彼女の脳裏に残った。

 そして今夜、彼女は交際していた男に毒を飲まされ――今に至る。
「だから……! 最期の最期に、本当に会いたい人に会わせてくれるんじゃないの?」女は死神の少女に言い募った。
 少女はふぅ、と長い溜息をついて彼女を振り返った。
「最期最期って……。貴女、これが何回目だと思ってるの? それは私に会った事は覚えてないでしょうけど」
「え……?」女は目を丸くした。「今迄で、会えてたの? 死神に」
「ええ、それはもう何度も」少女は苦笑する。「尤も、貴女を迎えに来た訳じゃないけどね。残念ながら、今回も」
 そう言って彼女が目を落とした手帳に記されていたのは、女と交際していた――そして彼女に毒を飲ませた――男の名前と、死期。それは今夜だった。
「権力者で厳しい父親に追い詰められた振りで、悲劇を演出し、相手を追い詰めて……これ迄何度、相手をとっかえひっかえ、心中未遂した? 尤も、相手は本当に死んじゃって、貴女だけが残されるケースが多いけどね。余程寿命が……って、これは言えないけどね」
 その話を聞いているのかいないのか、女は何やらぶつぶつと呟いている。
「会えてたんだ……死神……会えてた……これ迄何度も……死神に……」
 人ならぬ身の少女が眉を顰める。それ程異常な、様相だった。
「会えてたのに……! ずっと聞いてくれなかったのね!? 私が本当に死んでなかったから? 私……自殺じゃあ駄目だろうと思って、態と殺されて迄……死神に会って、最期にあの人に会わせて貰いたかったのに……! 覚えてなくても、きっと何度も何度も頼んだのに!」
 少女は流石に面食らう。
 命乞いする者、自分を害した人間への怒りをぶちまける者、これ迄も様々な者と関わってきたが、こんな理由で食って掛かられたのは、初めてだった。
「あのね、態と殺されるように事を運ぶのって……要するに自殺じゃないの」呆れ顔で、彼女は言った。「と言うか、人に殺人を犯させてる辺り、自殺より質悪いよ。もう一遍よく考えてみるのね。未だ未だ……寿命、あるからさ」
 再び、力を失くした様子で女は座り込んでしまった。未だ未だ、先が長いと知って。

「ところで一応参考迄に訊くけど、最期に会いたい人って、誰?」少女は、彼女の心中未遂に付き合わされた男の魂を回収し終えて、序でとばかりに尋ねた。
「……お父さん」ぽつりと、女は答えた。「本当の、お父さん」
 少女は再び、眉を顰める。
「今のお父さんは違うの。お母さんが死んだ時も全然悲しそうじゃなかった。離婚の原因はお母さんが他の男性を好きになった所為だって……意地悪な祖母が言ってたわ。だからきっと、その相手が本当のお父さんなの。うちは他に子供が居なかったから、それに人聞きも悪いから、自分の子じゃないって知ってて、私を引き取っただけなのよ。だから……お父さんは私をちっとも見てくれなかったのよ……」
 だから、いつかきっと……本当のお父さんに会いたいのよ――泣き笑いの様な表情を浮かべてそう話し続ける女を残して、少女は踵を返した。
 放って置いても彼女の意識は直、現実の肉体に引き戻され、そしてまた、この場であった事を忘れるのだろう。
 そうしてまた、繰り返すのだろうか?
 本当の最期でも、貴女の望みは叶えられそうもないわ――手帳をしまい、少女は肩を竦めた。
 その手帳には、どれだけ否定しようとも彼女が紛れもなく現在の父親と、亡き母親の娘である事も記されていた。

                      ―了―


 疲れてるのに長くなる~(--;)

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 雨の中に立ち尽くして、少女は空を見上げていた。
 雪に変わってくれたらいいのに――冷たい雨を顔に受けながら、思う。
 身体は芯迄冷え、かじかんだ指先は痛い程で、歯はガチガチ鳴っていると言うのに、校舎に入ろうともせずに彼女は只、思う。
 雪に変わって……私を埋めてくれたらいいのに、と。
 雪山に向かい、雪崩に飲まれて行方が未だ判らないという、あの人の代わりに。

「それで帰って来た彼が、喜ぶのかしら?」丸で彼女の思いを全て読んだかの様な声が、不意に背後から掛かった。
「……誰?」振り向いて、見知らぬ少女に問い返す。
 そこには彼女より一つか二つ、下だろうか。十五、六の黒衣の少女が立っていた。不思議な事に、この雨の中、傘も差していないと言うのに黒く長い髪も黒衣も、濡れている様に見えない。そして、手にした手帳も。
「只の通りすがり」とだけ言って、少女は微苦笑を浮かべた。
「なら……放って置いて」また、視線を空へと戻し、彼女は願う。
「自分が身代わりになってもいいから、彼を無事に帰してって?」
「……何で貴女に解るのよ、そんな事」
「まぁ、色々と、ね。それより、貴女、この儘だと本当に寿命縮めちゃうよ?」
 手帳のページを捲る音が、雨音を通してさえも耳につく。
「私はいいのよ」
「帰って来る彼を迎えてあげないの?」
「何か連絡があったの!?」勢い込んで、彼女は質した。友人には何か情報が入れば携帯に連絡を入れてくれるよう、頼んである。だが、未だ、それは沈黙していた。
「未だよ」
「なら……! 邪魔しないで!」
 ふと、黒衣の少女は笑った。
「何の邪魔? 貴女が此処で彼の身代わりになったって、彼が助かる訳じゃない。貴女が彼の無事を祈り、願うのは自由だけれど……悲劇のヒロインになり切って寿命を縮めるなんて馬鹿馬鹿しくない?」
「ばっ……!」余りの言い様に激昂し、彼女は初めて一歩、その場を動いた。少女に詰め寄り、その頬を打ちたい衝動を辛うじて、抑える。「馬鹿馬鹿しいとは何よ! 彼の無事を願うのは当然じゃないの!」
「だから、それは自由だって。悲劇のヒロインごっこが滑稽だって言ってるだけよ」
 今度こそ、彼女は腕を振り上げた。
 だが、掌が頬を打つ音は聞こえなかった。
 近付いて、正面から見て改めて解った。黒衣の少女は雨に濡れている様に見えないのではない。雨を浴びてなどいないのだ。天から遍く降り注ぐ雨は少女の身体を通り越し、グラウンドに小さな穴を穿つだけ。
 人間じゃない――彼女は確信した。

「解っちゃった様だからはっきり言うね」少女は微苦笑して言った。「私は死神だから。人の寿命は解るんだよ。貴女のも。勿論、彼のも」
「そ、それで……!」下ろした手を握り締めて、彼女は問うた。「彼は……? 彼の寿命は……!?」
「……未だ未だ、長いわよ。生憎とね」そう言って、少女は笑みを治めた。「悲劇のヒロインになり損ねたわね? 態々、遭難の確率の高い山を選んで彼に勧めたのに。おまけに出立を見送りながら貴女、山での情報源であるラジオを彼の荷物から抜き取ったわね?」
「……」凍り付いた目をして、彼女は死神を見詰めた。
「そんな貴女がどうなろうと私はどうでもいいんだけど……。もしこの儘風邪でもこじらせて死んだら、こっちで罪を償う事も出来ない儘――あっちで償うのは、もっときつい事になるよ?」
 ま、どうでもいいんだけどね――言いたい事だけ言って、薄れる様に姿を消した死神を見送った後、ヒロインになり損ねた彼女は再度、空を見上げた。
 
 彼が帰って来る――それは少しの恐怖と失望と、胸一杯の喜びを、彼女に齎した。
 自分の本当の願いを、彼女は知った。

                      ―了―


 短くしようと思いつつ……(--;)

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「こんな所に独りで、何してるの?」
 夕暮れの公園でそう声を掛けられて、少年はびくりと肩を震わせた。座っていたブランコを揺らしつつ、心底驚いた様子で振り返り、自分と同年代――十五、六――の少女の姿をそこに認めて、首を傾げた。黒髪に黒い服の、全く知らない少女だった。
「そんなに驚かしちゃった?」黒衣の少女は苦笑した。
「あ……その、声が聞こえなかったから、誰も居ないかと……あ、いえ……」少年はしどろもどろ、俯き気味に言う。「何でも、ない……」
 だが、少女は隣のブランコに腰掛けて、更に尋ねた。
「声が聞こえなかったって? 近付く間ずっと喋ってる人なんて、居ないわよ?」
「それは……普通の、声じゃないんだ」改めてブランコを揺らしつつ、少年は言った。「言っても信じないだろうけど……。多分、それは心の声なんだ」
「心の声?」
「僕、二箇月位前に海外で飛行機事故に遭ってね。小型機だったし、こっちでは余り報道もされてなかったみたいだけど、その事故で僕の両親が……死んだんだ。僕も暫く意識不明で……あっちの病院で意識を取り戻した時からだった。他の人の、心の中で思っている声が聞こえるようになったのは」

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 困った嬢ちゃんだなぁ――そう嘆息する相手の顔は、だが窺い知れなかった。黒い布を頭から目深に被り、心底困った風情で幾度も頭を振っている。声やシルエットから解るのは、壮年近い男だという事位か。
 そんな怪しい風体をした相手に困られても知った事じゃないもの、と少女は相手を睨み据えていた。尤も、それは言い逃れに過ぎない事も、頭の片隅では理解している。どうあったって、彼女はその舟には乗りたくないのだ。
 暗い水面に浮かぶ小舟。男はその船頭らしく、手にした長い棹を水底に差して、舟をその場に留めていた。
 そして彼女に、その舟に乗れ、と言うのだ。
 その舟には二度、乗った事があった。
 一度は道路近くの空き地で遊んでいて、あらぬ方向に跳ねたボールを追って夢中で道路に飛び出し、迫る車に悲鳴を上げ――そこで途切れた意識が再び目覚めた時、もう彼女は舟に乗せられていて、岸を離れた所だった。
 そして二度目はほんの三日前。乗せられて着いた先は懐かしい我が家。暖かい灯が、彼女の到着を待ってくれていた。家族の誰も、親戚の者も、彼女を見もしなかったけれど、それが仕方のない事だとは、彼女にも解ってはいた。
 彼女はあの事故で、死んだ身なのだから。

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「迎えに来たの?」怯えを含んだ小さな声を、部屋の片隅に置かれたベッドの上で上げたのは、二十歳前だろうか、線の細い女性だった。灯の消えた部屋にあって尚青白い顔、痩せた首筋が病的だった。
 その彼女が声を掛けた相手は、思い掛けない声に一瞬目を丸くして彼女を見詰めた後、ついと目を逸らした。家という安全な箱の中の、窓という外部との狭間、そこから染み入る様に入って来た黒い髪、黒い服の十五、六歳程の少女。僅かに伏せた目は無表情ながら、女はそこに哀れみの色を見た様な気がした。
「覚悟は……出来てるのよ?」女は頬を引き攣らせながらも笑みを浮かべて見せる。幼い頃から虚弱体質を抱え、毎日の様に死を想像する暮らし。この歳迄生きられたのも、寧ろ奇跡と感謝していた。
 だが、黒い少女は彼女を無視し、部屋のドアをやはり摺り抜けて、出て行ってしまった。
 翌日、彼女を常に見守り、育んでくれた母が亡くなった。娘には決して辛い顔を見せはしなかったが、彼女もまた、病を抱えていたらしい。明け方異変に気付いた父が救急車を呼んだものの、手遅れだった。

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「私はどうして此処に居るんだろう?」眼鏡の奥の目を瞬かせて、男は辺りを見回した。
 白い部屋。金属枠の白いベッド。その脇に用意された車椅子。消毒薬の臭い――そこは病室だった。
 病室などというものは何処も似たり寄ったりではあるが、男はこの部屋に見覚えがあった。壁に張られたカレンダー、暇に飽かせて作られた折り紙のくす玉、殆ど毎日の様に彼が届け、花瓶に生けられた、白い花。
 だが、彼が此処に通っていたのは、もう十年以上も前の事だった。
 彼の母の病室――もう、疾うに別の患者に明け渡された、彼女の最後の部屋。当然、本当なら飾り付けなどとっくに撤去されている。それどころか、件の病院が未だ同じ所で営業しているのかどうかすら、男は知らなかった。 
 そんな所に何故今になって、然も自ら此処に足を運んだ覚えすらなく、居るのだろう。
 男は順を追って、今日の自分の足取りを辿り始めた。

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プロフィール
HN:
巽(たつみ)
性別:
女性
自己紹介:
 読むのと書くのが趣味のインドア派です(^^)
 お気軽に感想orツッコミ下さると嬉しいです。
 勿論、荒らしはダメですよー?
 それと当方と関連性の無い商売目的のコメント等は、削除対象とさせて頂きます。

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