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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「こんな所に独りで、何してるの?」
 夕暮れの公園でそう声を掛けられて、少年はびくりと肩を震わせた。座っていたブランコを揺らしつつ、心底驚いた様子で振り返り、自分と同年代――十五、六――の少女の姿をそこに認めて、首を傾げた。黒髪に黒い服の、全く知らない少女だった。
「そんなに驚かしちゃった?」黒衣の少女は苦笑した。
「あ……その、声が聞こえなかったから、誰も居ないかと……あ、いえ……」少年はしどろもどろ、俯き気味に言う。「何でも、ない……」
 だが、少女は隣のブランコに腰掛けて、更に尋ねた。
「声が聞こえなかったって? 近付く間ずっと喋ってる人なんて、居ないわよ?」
「それは……普通の、声じゃないんだ」改めてブランコを揺らしつつ、少年は言った。「言っても信じないだろうけど……。多分、それは心の声なんだ」
「心の声?」
「僕、二箇月位前に海外で飛行機事故に遭ってね。小型機だったし、こっちでは余り報道もされてなかったみたいだけど、その事故で僕の両親が……死んだんだ。僕も暫く意識不明で……あっちの病院で意識を取り戻した時からだった。他の人の、心の中で思っている声が聞こえるようになったのは」

 始めは空耳だと思った。事故の後遺症が残っているのかも知れない、と。
 意識を取り戻した彼に両親の死と、事故の詳細を知らせる親族の声に、もう一つの声が被さって聞こえてきたのだ。
「本当に大変な事になったわね。気を落とさないで、困った事は何でも相談してね」
(この子は兄夫婦の唯一の相続人。恩を売っておいた方がいいかも)
「惜しい人を亡くしたものだよ。祖父の跡を立派に継いで、ここ迄会社を大きくしたと言うのに……」
(その跡継ぎがこのガキなんだろうか? いやいや、未だ俺にもチャンスが……)
「君が生きていたという奇跡だけでも、感謝しなければ。本当に、よかった」
(この子も死んでいれば、跡継ぎ争いも面白くなったのに)
 それらの複合し、相反した声を聞く内、少年は気が遠くなるのを感じた……。
 
「喋ってる声は普通に耳に聞こえるんだけど、もう一つの声は頭の中に直接聞こえる様な感じなんだ」ブランコを揺らしつつ、彼は言った。「それ以来、周りの人皆の声が聞こえる。只、その辺を歩いてるだけの人でさえ。人って、只歩いてるだけでも内面では色々考えてるもんなんだよね。だから、声がしないのに君が傍に居て、驚いたんだ――そう言えば君、今も声がしないね」
 少女は曖昧に微笑む。
「まぁ、いいや。人と居てこんなに静かなのは久し振りだよ」少年も微笑む。「……もしかしたら脳に重大な損傷を負ったんじゃないかとか、自分の不運を呪う余りに親戚の人達の善意が信じられなくて勝手な妄想をしてるんじゃないかとか、正直、悩んだよ。でも、妄想なら全く関係ない他人の声が聞こえるのもおかしいし……」
「誰かに相談とか、しなかったの?」
「相談……出来なかった」
「信じて貰えないと思った?」
「それもある。けど、それ以上に……知られちゃ拙いと思ったんだ。親戚の中に……殺人犯が居るから」

「殺人犯?」穏やかではないその発言に、流石に少女は目を丸くした。
「もしくは殺人を依頼した人。あの時集まった親戚の中に居たんだ。口では無事でよかったって言いながら、内心では凄く怒った声でこう言ってた――あいつ、しくじったな……って」
「詰まり、小型機の事故は、本当は事故ではなかったという事?」
 こくり、と少年は頷いた。
「でも証拠もない。あいつっていうのが誰かも解らない。そいつが依頼した殺し屋なのかも……。心の声が聞こえるからこいつが犯人だ、何て通用しないよね?」
「無理でしょうね」少女は頭を振って苦笑した。
 やっぱり、と少年は肩を竦める。
「だから……今度は僕を狙ってくるのを待ってるんだ」
「え?」
「元々父の会社は一族で成り立ってる様な所でね。社長だった父の後継ぎは直系の僕になる。勿論、今は叔父達に任せるしかないけどね。それでも僕が成人して、大学を出て……特に何もなければ、その会社に入り、何れは……。だから、僕を邪魔に思う人も居るんだ」
「そう聞こえたの?」
「ああ。そしてあの時の声の主がこう言うのも聞こえた。『今度こそ、こいつも』ってね。また誰かに依頼したんだ、きっと」
「それで、真逆こうして、こんな所に独りで誰が殺しに来るかを、待ってるの?」
 少年は深く頷いた。
「僕には近付いて来る人の声が聞こえる。何故か君の声は聞こえないけれど……。だから、殺意を持って近付く人は直ぐに判る。そいつの顔を確認して、どこの誰かを調べてやるんだ。逃げ足には自信がある。そうして、あいつとの関わりを証明して、訴えてやるんだ。現行犯なら手っ取り早いけど……捕まえられるかどうか、腕力には自信ないしね」
 少女はどこか呆れ顔で、不意にポケットから取り出した手帳を繰り出した。
「……帰った方がいいんじゃない? もう遅いし……。もし私みたいに心の声が聞こえないのが殺し屋だったら、どうする?」
「それは……」少年は思わずたじろぐ。「聞こえない人が居るとは思わなかったんだ。どういう違いがあるのかな? 君と普通の人と」
「それはね」少女は立ち上がり、悪戯っぽく微笑んだ。「私がもう、人じゃないから」
 冗談を、と笑い掛けた彼の目の前から、少女の姿が煙の様に掻き消えた。
「う、うわあ!」悲鳴を上げ、彼はその場から逃げ出していた。
 背後でブランコの鎖がガチャガチャ、キン! と騒々しく音を立てながら、揺れ続けた。

 翌日、鎖の隙間に嵌り込んだ弾丸を散歩中の男性が見付け、騒ぎになった。幸い死傷者もなかったものの、警察はその弾丸のライフルマークなどから、使用者を血眼になって捜していると言う。
 あの時聞こえた、キン! という甲高い音は鎖に弾丸が当たった時のものだったのかと、少年は改めて肝を冷やした。声が聞こえない程の遠距離から狙われては、どうしようもないという事に、今更ながら気付かされたのだ。
 彼は諦めない心算で、情報提供を呼び掛けている警察に出向く事にした。
 心の声が聞こえない他人には、何度でも言葉を尽くして語らなければならない、と。

                      * * *

 またやったね、という声に、黒衣の少女は肩を竦めた。
 殺し屋と依頼者の寿命は相応に頂いたから、計算上は、問題なしだ、と。

                      ―了―

 年中人の声が聞こえたら煩くてしょうがないだろうな(--;)

拍手[1回]

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おはよう!
確かにね、心の声は即ち、その人の欲その物だったりするからね。
何かに熱中している人なら、心の声は聞こえないかもしれないけど。(笑)
afool URL 2009/10/23(Fri)11:39:25 編集
Re:おはよう!
欲望丸出しの声なんて、聞こえて気分のいいもんじゃないですよね(--;)
況して自分が死を望まれてるとなると……★
巽(たつみ)【2009/10/23 20:58】
こんにちは
心の声なんて聞こえたらろくなことないだろうな~。
こわいこわい・・・
なっち 2009/10/23(Fri)14:14:05 編集
Re:こんにちは
うん、碌な事なさそう(^^;)
聞こえなくてよかった~(笑)
巽(たつみ)【2009/10/23 20:58】
こんにちは~
確かに煩わしいでしょうね。
時と場合でその能力が使えたら便利なんでしょうけど。
ふわりぃ URL 2009/10/23(Fri)17:24:36 編集
Re:こんにちは~
いやぁ、人の本音なんて、聞こえて面白いものでもないかも(^^;)
巽(たつみ)【2009/10/23 21:01】
こんばんは
煩いだろうし、生きてくのが嫌になるだろうね~

大人になって多少世の中を知ったら精神的には大丈夫になるかも知れないけど、煩いのは間違いないよ(笑)

ブランコの鎖…指の肉を挟んだ事を思い出しちゃった。あ痛た☆(/ * o*)/
冬猫 2009/10/23(Fri)18:16:28 編集
Re:こんばんは
それは痛そう(*_*)☆
確かに精神的にきついだろうな~。
巽(たつみ)【2009/10/23 21:02】
こんばんは!
人間、わからない方が幸せなことも多いよね…
たまにこういう能力が欲しいと思うときがあるけど(^^ゞ
つきみぃ URL 2009/10/23(Fri)20:19:14 編集
Re:こんばんは!
今の子供、何を考えてるのか、頭の中覗いてみたい、とか?( ̄ー ̄)
どうせならにゃんこの心の声が聞こえる方が……。でも「ごはん、ごは~ん!」とか煩いかも?(笑)
巽(たつみ)【2009/10/23 21:05】
無題
どもども!
心の声、出来れば聞かれたくないもんですねw
今の私は食う事と奏音ちゃんの事、それにどうやって飴ちゃんを貰うかって事ぐらいしか考えてないから(爆)
猫バカ1番 URL 2009/10/23(Fri)21:24:05 編集
Re:無題
それは解り易い(笑)
巽(たつみ)【2009/10/23 22:38】
こんばんは♪
他人が心の中で思っていることが聞こえちゃったら、これは相当悲惨だよねぇ~!
なんか人を信じられなくなってしまいそうな?
知らない方が良い事まで知ってしまうんだものね、気の毒だなぁ~!
クーピー URL 2009/10/23(Fri)22:16:29 編集
Re:こんばんは♪
知らない方がいい事もありますよね~。
でも、声が聞こえてなかったら今頃、何も知らずに始末されて……?
う~む(^^;)
巽(たつみ)【2009/10/23 22:42】
無題
取調官だったら最強ですな。
俺はやってないと言い張るやつに、この時、こう思ってやっただろうとズバリ!
逆に殺しを自供した偽犯人に、お前はホントは下着泥棒だけだろと言い、すみませんカッコつけたくてと自白させる!
しかし、恋や結婚は大変そうだ(笑)
銀河系一朗 2009/10/28(Wed)22:57:43 編集
Re:無題
恋や結婚……相手への幻想はこれっぽっちも持てそうにありませんね(笑)
巽(たつみ)【2009/10/29 21:41】
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