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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 今日、カメリアはちゃんとそのお客様に「息はしないので大丈夫です。元は人形ですから」と申し上げました。
 だけれど、鈴で飾られたローブを頭から被ったその方は、どこか後ろ髪を引かれているっぽい感じで屋敷を振り返っておられましたが……それでも漸く了解の意を示されました。

「兎に角、頼んだよ。沼の近く迄は私も一緒に行くからね」歩く度に鈴の音を立てる、そのお客様は魔女でした。御歳は例によって機密事項ですが……人間の外見に照らせば百歳は超えていそうです。実年齢は勿論、それ以上でしょうけれど。
 何でも、薬を作る為に必要な薬草がこの森の中の沼に生えているのに、その沼には妖にさえ致命的な毒が充満しているのだとか。昔はご自分で、私の様な生き人形を作り上げては採集させていらしたそうなのですが、この頃では付近に厄介な妖も棲み付いていて、それらでは手に負えない。どうにかならないものかと、お屋敷の旦那様に妙案を求めていらしたのです。お屋敷には様々な妖の皆様もお立ち寄りになりますし。
 なのに手を貸してやれと付けられたのは、やはり生き人形の私一人。
 お客様の不安も解らないではありませんが……。
 ともあれ、これもお仕事です。私は愛用の箒を握り締めて、お客様の後に続きました。

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 森の外縁に住まう死霊達が騒がしい季節となって参りました。
 森の外れは人の街の外れでもあり、墓地も多く、またそろそろお墓参りをする人の増える頃。浮かれるのも解りますが……。
 人の点す灯が眩しくて敵わん、とお嬢様方は屋敷の奥に籠り切りになっておられます。まぁ、お食事などは、人間が寝静まった深夜にそっと忍んでお摂りの様ですが。
 私、カメリアも人目には付きたくございませんので、余りそちらには近付かないようにしております。黒猫のフリューゲルには流石に言っても解っては貰えそうにもないので、適当な玩具を与えて屋敷内で遊ばせて。
 この月が終われば直に厳しい冬がやって来て、森を雪で閉ざすでしょう。
 それ迄の辛抱とひっそりと過ごしておりますと……ある夜、奇妙なお客様がおいでになられました。
 ええ、勿論、人間ではございません。

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「私を家迄連れ帰って下さいませんか?」か細い懇願の声に、私は暫し、言葉に詰まりました。
 目の前に居るのは人間。二十歳前後といった所でしょうか、線の細い女性です。どこか焦点の定まらない瞳で私をじっと見詰めるその姿は、この深く暗い夜の森にあって、何と小さく、心細げなのでしょう。
 お屋敷の使い魔の蝙蝠達の報せで森にヒトが立ち入った事を知り、立ち去るよう警告にと参りましたが、そこに居たのはこのか弱き女性一人。然も二進も三進も行かないご様子。
 ヒトの手によって、ヒトの姿を真似て造られた所為でしょうか。私カメリア、他の妖の方々からはヒトに近いと言われてもおります。その私と致しましては、彼女のご希望に沿いたい所なのですが……。
 私は視線を避けて更に外套で身を隠しつつも、逡巡致しました。
 この夜の森でならばこの程度で生き人形の正体を曝さずとも済みますが、人工の灯に満ちたヒトの街では……。
 と、私の迷いを見て取ったかの様に、彼女が慌てて言葉を接ぎました。
「あの、無理なら街の外れか……この森の外迄でも……。後はどうにか、街の人を当たりますので……」
 その物言いと震えた声に、私は外套を解きました。彼女は私の正体――少なくとも妖である事――に気付いている、そう察したのです。
「お、お願いです! 私は……帰りたいのです……。どうしても、どうしても……!」彼女の懇願は嗚咽に変わり、両掌で顔を覆ってその場に蹲ってしまいました。
 その彼女に、私は困惑しながらも尋ねました。
「何故、この様な所においでになられたのですか?」

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 もしも月が無かったなら、私は今頃何処に居る?――そう歌う様な声に釣られて、頭上のテラスを見上げれば、そこには下弦の月を見上げて佇むお客様のお姿。よく通る、どこか寂しげな声です。
 ここ一週間程、この館に滞在されているお客様で、一見した所は――この妖の館のお客様としては珍しいかも知れません――ごく普通のヒトの様。やや鼻先の尖った精悍な顔に長めの銀髪、よく引き締まった体型の男性です。
 それにしても、月が無かったなら……とは、奇妙な事を仰いますねぇ。
 私達妖の大半は月の支配する夜の世界に生きるもの。眠りを知らない私でも、寧ろ月の光には安らぎを覚えさえするのですが……。
 と、私が見上げている気配を察したのでしょう、お客様が不意に私を見下ろして、仰いました。
「あ、カメリアさん……でしたっけ。済みませんが紅茶を一杯頂けますか?」私如きに丁寧なお方です。
 直ぐにご用意致しますと答え、私は準備に掛かりました。

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「こんな所で、どうしたの? 坊や」相手を驚かせないよう、敢えて足音も忍ばせずに近付いた私は、森の外れを彷徨っていた子供に、そう声を掛けました。
 此処は妖の森。例え今の様な昼日中でも、人間の子供が不用意に足を踏み入れていい場所ではありません。尤も、大人も、ですけれど。
「誰? この森に住んでるの?」振り返った子供が小首を傾げました。十になったかならないか、小柄な男の子です。木陰に居る私の姿を捉え切れないのか、視線が定まっていません――まぁ、それは私が態と見え難い所に居るのですが。
 私カメリアはこれでも生き人形。等身大の為、シルエットでは判らないでしょうが、人間の名工の手になるものとは言え、間近で見られては流石に誤魔化し切れないでしょう。
 さて、子供の問いに対して、些かマナー違反ですが、私は更に質問を返しました。
「この森がどういう場所か、知っているの?」
 人間にとっては悪名高い、妖の棲み家。私達にとっては安住の地。それがこの黒く、深い森。
 子供はやっと私に視線を定めると――それでも陰の所為で気付いてはいないのか――頷きました。
 知っている、と。
「此処に吸血鬼が居るって聞いたんだ。だから、頼みがあって来たんだ。お姉さん、知らない?」
 私は目を丸くして、子供を見下ろしました。 

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 誰も静寂を破る者のない森の木漏れ日の中、背中に蝙蝠の様な羽を生やした黒猫が木陰を縫う様に飛んで行きます。言わずと知れた、我が主の屋敷の猫、フリューゲルでございます。
 時刻は未だ正午――旦那様やお嬢様、坊ちゃま方はお休みの時間です。
 そんな時刻、これ迄は屋敷の中で蝙蝠にちょっかいを出したり、一緒に惰眠を貪ったりしていたフリューゲルなのですが、どうもこの所、屋敷を空ける事が増えた事に、私は気付きました。
 何処へ行っているのでしょう、と坊ちゃまに――フリューゲルは元々坊ちゃまの使い魔候補でございますから――お尋ね致しましたら、眉を顰めて怪訝な御様子。そしてこう仰せになられました。
「行き先を突き止めて、もしこの森から出るようなら止めるように」と。
 黒猫一匹歩いている分には問題は無いのですが、如何せん、前述の通りフリューゲルは翼を持って飛んでいます。あれを人に見られたら……。
 私は頷いて――本日の尾行を取り決めました。何しろこの時間動ける妖は限られておりますから。
 不肖、生き人形のカメリア。お役目を務めさせて頂きます。

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「あの……そんなにお泣きになられない方が宜しいかと存じますが……」恐る恐る、私が声をお掛けしたのは、ある女性。こちらを振り返ったその顔は蒼褪め、長き号泣の為に目は赤く充血し、唇を戦慄かせ……。私が人間の女性であったなら、思わず悲鳴を上げていたかも知れません。勿論、お客様にその様な非礼を働く訳には参りませんが。
「放って置いて頂戴!」金切り声で、彼女は仰いました。「私が泣かなくてどうすると言うのよ!」
「そ、それは、まぁ……」私は慌てて宥めます。「ですが、この屋敷には死期の近い人間など居ませんし……」
「そうね。けれど、此処には死の匂いが溢れているわ。不老不死の吸血族の屋敷だから少しはいいかと思ったけれど……その陰には糧となった人の死が……」また、泣き出されました。
 思わず、溜め息が漏れました。
 彼女はもう私の事など忘れたかの様に、その場に蹲って号泣を再開していました。
 ほとほと困っている私に、苦笑を含んだ声が掛けられました。

「カメリア、放って置いておやり」お嬢様でした。「それにしても大変だね。対象を人間に限っても、死の匂いの無い場所なんて、そうそう無いだろうし――あったとしたら元々人も住まない場所位か」
 しかしそんな所では、この泣き虫のお客様ご自身も糧を得られないのではないでしょうか。
 ともあれ、私達の手には負えないと、泣き続ける女性を後に残し、私達はお嬢様のお部屋へと、移動したのでした。何より、私は兎も角、お嬢様は死を生み出す元凶ともなられる方。死の匂いを纏っておられますから。あの場に留まられては――こう申し上げてはお嬢様には大変失礼ではございますが――女性にとっては迷惑千万でございましょう。

「困った体質でございますね。妖ですのに」ワインをお持ちしながら、私は申し上げました。「死の匂いに反応して、泣き出さずにはいられないなんて……」
「何。あれはああいう種族だからね」
 人の死を察知し、哀しげな鳴き声でそれを予告する精霊、バンシー。泣き腫らした紅い眼、蒼白い顔、振り乱した髪。見た人に死の予感を、不吉な恐怖を与えるもの。
「実際は人の死の匂いに対するアレルギーだなどとは、人間達も思うまいな」そう言って笑うお嬢様の声に、今日もバンシーの鳴き声が不協和音として被ります。
 取り敢えず、バンシー様? この屋敷は貴方様には不向きかと存じます。
 転地療法として、無人島などは如何でしょうか?

                      ―了―

 今日は短めに~。
 バンシー=泣き女はアイルランド等の精霊さん。死期が近い人の家周辺に現れては、泣き叫ぶ。ちょっと縁起悪い(^^;)

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