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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 夜道を照らす月は蒼く、下に広がる森はいつもの様に、暗闇に閉ざされておりました。尤も、私達妖にとってはその闇の冷たさも、心地よいものでございますが。
 とは言え、人間の中にも、様々な理由で闇を好む方もおられる様です。それでも灯を求めずにいられないのは、生き物としてのさがでございましょうか――。

 森の外れ近く、自然に組み合った岩の隙間の様な洞窟――そこにちらちらと揺れる灯を見付けたのは、やはり蝙蝠達でございました。その蝙蝠達と視覚を繋げたお嬢様が、例によって鏡に映して見せて下さいました。
 鬼火でもなく、それは確かに人工の光。どうやらランプの灯が漏れている様でした。
「人間がこの森に何の用でございましょうね?」私。カメリアは首を捻りました。
 古くから妖の棲む森とされ――そして実際その通りなのですが――人間達には忌避されてきた、この屋敷を囲む広大な森。そこに態々夜に立ち入る者など……。
「どうせよからぬ輩だろうよ」お嬢様がばっさりと言い切られました。「逃亡者か、それを追って来た者か……あるいは怖いもの知らずの戯け者か。何にしても、この森で夜を過ごそうとは、愚かな話だ」
 然も見付けてくれとばかりに灯を点けて。
 お嬢様は蝙蝠に更に近付くように命じられました。

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 こんな夜霧の深い晩は月の運びも判らず、刻々と流れ行く筈の時さえ電池を抜かれた時計の様に止まったみたいだと……生き人形である私も、そんな妄想をした位です。
 それでも、そんな夜に呪い事をしようと笑いながら屋敷を訪れたエーベルには辟易致しました。
 いつぞやの訪問以来、もう随分と会っていなかったのですが――ああ、またお嬢様方の眷属に襲われて、あんなに血を絨毯に……!――何を思ったのか、今宵、霧に紛れる様に現れたのです。

「全く、懲りない……」大階段の上から、玄関に立つ血塗れの吸血鬼を見下ろして、お嬢様も呆れ顔で仰せになられました。「何をしに来た?」
「いや、連絡の蝙蝠は飛ばして置いたと思うんだけど? フィ」
 本当に、懲りない方だと私も思います。それこそ呪いにおいても強い拘束力を持つとされる名を口にされる事を、お嬢様方は嫌うと知っている癖に。またお嬢様の眷属の蝙蝠に張り付かれて……。
「失礼、フラウ」蝙蝠を引き剥がして、通称に言い直しました。「うちの蝙蝠が先触れに来なかったかな?」
「ああ、魔女の真似事をしようなどという戯けた伝言を持って来た蝙蝠か。あれならもう帰ったぞ。飼い主も帰ったらどうだ?」冷たい表情の、冷たいお言葉。
 しかし、確かに人に呪いを掛けようなどと言うのはお嬢様の嫌う所。冷たい対応も致し方ないと、私は内心、頷いておりました。
 何しろこのエーベル、自分が血を吸い損ねたどこぞの美姫を、呪いで動物に変えようなどと笑いながら言うのですから。 

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 これは、お客様方のお好みも心得ていく必要がありますね――私、カメリアは溜め息を一つついて、氷の塊を抱えて部屋にお戻りになられる、ちょっとシロクマに似た雪男様を見送りました。この、どちらかと言えば寒冷地にある屋敷でさえ、暑いなんて……。
 まぁ、雪男様がおられるのとは正反対に延びた屋敷の翼にはサラマンダー様もお泊りになられてますから、いつもより若干、温度は高いかも知れませんが。
 人間達の世界では何でもクリスマス――聖夜だと各地で祝われるこの夜、旦那様のお屋敷には各地から妖の方々が集まって来られました。
 勿論、目的はクリスマスパーティーなどではなく――避難、でした。

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 今日も夜霧は屋敷を包み、その白い闇に紛れるが如く、お嬢様は森を彷徨された様でした。勿論、お嬢様には霧が作る闇など、何程のものでもございません。自然現象ですから。
 でも、今宵の夜霧はこのカメリアと屋敷の皆様方に、地震の情報をもたらす方向へと機能した様です。

「西の崖の辺りにおかしな虹が出ていた」お帰りになられるが早いか、お嬢様はそう仰せになられました。
「虹……でございますか? この霧の夜に」私は訊き返しました。然もおかしな、とは一体?
 お嬢様のお話によりますと、森の西の外れ、切り立った崖の突端から望んだ夜空に、白く輝く虹が浮かんでいたのだそうでございます。更に霧がその色を反射する様にぼうっとした光を放ち、それは幻想的でしたとか。
「それは私も見とうございました」光景を想像し、私は申し上げました。妖と言えども美しいものには惹かれますもの。
「その虹が弧を描くでもなく、丸で地面から立ち昇る様に天を目指していたのだが……。気にならないか?」何を呑気な、と言いたげな口調で、お嬢様は仰いました。

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 沼地が騒々しい様だ――ふと顔を上げられて、お嬢様が仰せになられました。
 そう言えば屋敷を囲む森の上空を徘徊する蝙蝠こうもり達が、一所に集まって鳴き交わしております。
 何かあったのでしょうか?

 この妖の住まう屋敷の周囲には深い森が広がっております。その中にはぽっかりと開いた草原や、藻で彩られた深い沼なども点在しているのです。その中には様々な妖のねぐらとなっている場所もあったり、彼等独自の世界へ繋がっている所もあるとか無いとか……。
 そんな沼の一つ、未だ森の入り口に程近い辺りに、蝙蝠が群れ集っているのでございます。蝙蝠は殆どがこの屋敷の主様達の眷属けんぞく。門番の役目も仰せ付かっておりますから、これはやはり何事かあったのかも知れません。
 私は些か不安げに、蝙蝠と視点を共有出来るお嬢様のお顔を見上げました。
 お嬢様は吸血鬼たる自らの姿の映らない鏡の前に立たれ、そっと、その鏡面に指を触れました。私にも見えるようにとのお心遣いでしょう。
 そして映し出されたのは、暗い表面に月を映す一つの沼と、数人の人間達。
 その内一人がゆっくりと、沼の中へと足を踏み入れる瞬間でございました。

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 黒々とした森の上に、青みを帯びた月が昇り――俄かに屋敷の周囲に散った眷属けんぞく達が騒がしくなって参りました。
 夜。
 私達、妖どもの時間です。
 お屋敷の方々も目を覚まされ、それぞれお食事にお出掛けになられたり、趣味に勤しまれておられます。勿論、私カメリアはそのお支度をお手伝いしております。
 今宵はお嬢様坊ちゃま共にお出掛けになられるそうで、少々忙しゅうございました。けれどお二人をお見送りした後は、然程仕事もなく、私は坊ちゃまの黒猫の遊び相手など致しておりました。この屋敷では少数派の、ごく普通の動物――それは温かくて、ふわふわしていて、とても愛らしゅうございます。
 と、玄関のノッカーが重い音を響かせました。お客様の様です。私は猫を部屋に閉じ込め――妖のお客様の中には少々、その、危険な方もおられますので――お出迎えに参りました。
「どちら様でしょう?」誰何すいかしながら扉を開け、お客様の姿を確認して、私は思わず目を丸くしました。

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 そこそこ風があったにも拘らず、夜霧は、屋敷の向かいの森へは移動しなかった様でございます。
 だけれど、今日発つ身としては、最初から埃っぽい空気は反射的に遠慮したいという思いもあった様ですから、あの方には良かったかも知れません。
 石畳の前庭に蹄の音を打ちたてて、自らの自由を再確認しておられるあの方――水馬ケルピー様には。
「痛む所は無いか?」黒い猫を肩に乗せた坊ちゃまがお尋ねになられますと、ケルピー様は長い首を打ち振って、お身体の調子の良さを示されました。「良かったな。馬具で付いた傷も癒えた様だし」
「貴方……方のお陰だ」不器用な口調で、ケルピー様は話されました。やはり馬の姿では、話すのは容易ではない様です。「あれを外して……解放してくれなかったら、我はどうなっていた事か……」
「何。選りにもよって、主も最早居ない馬具を着けられたケルピーを見付けたんだ。放っては置けないよ」
 水馬ケルピー様は本来、水のあやかし。水辺に棲まわれ、その賢き馬の様な姿に惹かれて近付いて来た人間を、その、水の中に引き摺り込まれたりなどされるそうで……。但し、人間によって馬具を着けられてしまうと、その人間の言いなりになってしまうとか。馬としては充分過ぎる知能、並の馬以上の膂力、それらを欲する人間も居た様でございます。勿論、それは容易な事ではないのですが、このケルピー様を出し抜いた人間が、過去には居た様です。
 坊ちゃまがこのお屋敷にお連れになられた時、ケルピー様はすっかり古びた馬具の残骸を、痛々しくもその身に食い込ませておられましたから。

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