〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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今日も夜霧は屋敷を包み、その白い闇に紛れるが如く、お嬢様は森を彷徨された様でした。勿論、お嬢様には霧が作る闇など、何程のものでもございません。自然現象ですから。
でも、今宵の夜霧はこのカメリアと屋敷の皆様方に、地震の情報を齎す方向へと機能した様です。
「西の崖の辺りにおかしな虹が出ていた」お帰りになられるが早いか、お嬢様はそう仰せになられました。
「虹……でございますか? この霧の夜に」私は訊き返しました。然もおかしな、とは一体?
お嬢様のお話によりますと、森の西の外れ、切り立った崖の突端から望んだ夜空に、白く輝く虹が浮かんでいたのだそうでございます。更に霧がその色を反射する様にぼうっとした光を放ち、それは幻想的でしたとか。
「それは私も見とうございました」光景を想像し、私は申し上げました。妖と言えども美しいものには惹かれますもの。
「その虹が弧を描くでもなく、丸で地面から立ち昇る様に天を目指していたのだが……。気にならないか?」何を呑気な、と言いたげな口調で、お嬢様は仰いました。
でも、今宵の夜霧はこのカメリアと屋敷の皆様方に、地震の情報を齎す方向へと機能した様です。
「西の崖の辺りにおかしな虹が出ていた」お帰りになられるが早いか、お嬢様はそう仰せになられました。
「虹……でございますか? この霧の夜に」私は訊き返しました。然もおかしな、とは一体?
お嬢様のお話によりますと、森の西の外れ、切り立った崖の突端から望んだ夜空に、白く輝く虹が浮かんでいたのだそうでございます。更に霧がその色を反射する様にぼうっとした光を放ち、それは幻想的でしたとか。
「それは私も見とうございました」光景を想像し、私は申し上げました。妖と言えども美しいものには惹かれますもの。
「その虹が弧を描くでもなく、丸で地面から立ち昇る様に天を目指していたのだが……。気にならないか?」何を呑気な、と言いたげな口調で、お嬢様は仰いました。
「それは、確かにおかしな虹でございますね」私はやっと、お嬢様がおかしなと仰せになられた意味が解りました。
普通、夜に出る虹と言えば月虹。月の光を反射する事で発生するもの。昼間の陽光によって出るものと原理は同じながら、色が淡く、殆ど白色に見えるものだとか。只、どちらにしてもやはり、天に弧を描き出すものなのですが……。
それが真っ直ぐに天に立ち昇るなど――。
「森の妖の仕業では……?」私は不安を紛らわせる様に、そう申し上げました。
「妖の仕業に私が惑わされると思うてか?」
勿論、毛頭思っておりません。私は頭を振りました。妖としては新参者の私なら兎も角、お嬢様は年季が……いえいえ、年齢は極秘事項でございました。
「では一体……。何か不吉な事の前触れでなければよいのですが……」
妖が不吉を恐れるなとお思いかも知れませんが、私共とて弱点もございます。人から見れば祝福であっても私共から見れば、という事も。
しかし、この虹は私達妖にとっての不吉だけで済むのかどうか?
とは言え、お嬢様もお解りにならない様な現象です。という事はお嬢様がその殆どを読破なさっておられる書斎の本も、今回は役に立たないか――あるいは未だお嬢様がお読みになられていない書物に答えがあるのでしょうか? しかしそれを探している時間があるのかどうかも、私には解りませんでした。
ならば、とお嬢様はより永い年月をこの世で過ごしてこられた旦那様に事の次第を話されました。
傍らで不安を抱えながら控えていた私に、話を聞き終えた旦那様はお命じになられました。
地下の精霊、ノーム達に連絡を取るようにと。
「地が乱れておる、と伝えてやれ。後は自分達で調べて調整するだろう」
「何故、地なのでしょう?」旦那様のお部屋を辞し、取り急ぎお申し付けに従いながらも、私は首を傾げました。「虹は天に出ておりますのに」
「ノームと話をすれば解るかも知れんな」お嬢様も首を捻られました。
けれど、お嬢様もこの屋敷の方々も、旦那様を信頼申し上げております。そのお方が命じられたのですから、意味がある事なのでしょう。私達は屋敷の地下の部屋へと降りて行きました。
そこには一つの深い井戸。
実際には井戸として使われた事はなく、いつも静かに此処にあるだけ。けれど……。
「ノーム様」私はその井戸に、部屋の三方を囲む棚から取り出した土を一掴み、放り込みながらお呼び申し上げました。「旦那様より緊急の連絡でございます」
暫し、井戸の奥底の暗い水がたゆたい、その後に浮かび上がったのは鼻と耳の尖った老人の顔。ノーム様でした。
緊急用ゆえ余り使われる事は無いのですが、この井戸は妖の住まいへと、繋がっているのでございます。
私達は代わる代わる、今宵の虹の事を話して聞かせました。
「地の乱れとは一体何なのですか?」私はそうお尋ね申し上げました。
「地の乱れ、地の気の乱れ……これが高じると人間界で言う所の地震や地割れが起きるのう。天の気に迄影響を及ぼすという事はなかなかに大きな乱れになってしまったか」どこか呑気に仰るノーム様。「ま、そう恐れるものでもないわい」
いえ、私の様な実体を備えた――と言うか実体に宿った――妖からすれば十二分に恐ろしいのですけれど……。それはノーム様は地の精霊。地と一体化してしまえば恐れるものも無いのでしょうが。
「どうにか調整は出来ないのですか? せめて規模を小さくするとか……」私は申し上げました。
「出来ん事は無いが……面倒臭いのう」
「そんな……この屋敷にも被害があるかも知れないのですよ?」
「そこはわしの住処ではないしのう」
更に言い募ろうとした私を抑え、お嬢様が井戸を覗き込みました。
そして、息を溜めて一喝されました。
「大概におし! 地霊が!」
見た目だけならかなり年長に見えるノーム様が、思わず身を縮こまらせました。
「そうやって報酬を掴もうという魂胆であろうが、そなたの考えなどお見通しだよ。そちらがそういう心算なら……水の精霊の地にでもこの井戸を繋いでやろうか?」にやりと、冷酷な笑みを浮かべられました。地の精にとって水の精は苦手な相手。その住処と直に繋げると言うのですから、これはかなりの嫌がらせです。
その脅しが効いたか、一喝で既に毒気を抜かれてしまったのか、ノーム様はこくこくと頷かれました。
「解った解った。冗談はこの位にしておくよ。流石にこの位の乱れでは完全に消す事は逆に別の乱れを招くからのう、少し位の揺れは覚悟しておくれよ?」
「解った。それには備えて置こう」
「では……」そう言って――他にも何やらぶつぶつぼやいておられた様でもありましたが――ノーム様は消えて行かれました。
それからは上階に戻り、屋敷内外の備えを急ぎました。ああは言っても、どの程度の揺れに治まるものか、解りませんでしたから。
そうして本来ならお嬢様方がお休みになられる頃――地が揺れました。
僅かにシャンデリアが揺れる程度に。
「どうやらちゃんと調整はした様だな」お嬢様は肩を竦め、寝室へと向かわれました。
と、その途上、振り返り、何かを投げて寄越されました。受け止めて見ればそれは小さな宝石。
「一応礼だと言っておいてくれないか。ただし、あの欲深爺の吊り上げ交渉には応じるな?」
「承りました」私は腰を折ると、再び地下の部屋へと降りて参りました。
呼び出し、お礼の品を渡した後も、ノーム様は何やら言葉を連ねておられましたが――水を一杯放り込むと、すごすごと退散されました。
それにしても、白い虹……私も見とうございましたね。
―了―
地震情報→地震雲とか地磁気の異常とかそんな方向で考えてみましたが……(--;)
う~む、夜霧め。
普通、夜に出る虹と言えば月虹。月の光を反射する事で発生するもの。昼間の陽光によって出るものと原理は同じながら、色が淡く、殆ど白色に見えるものだとか。只、どちらにしてもやはり、天に弧を描き出すものなのですが……。
それが真っ直ぐに天に立ち昇るなど――。
「森の妖の仕業では……?」私は不安を紛らわせる様に、そう申し上げました。
「妖の仕業に私が惑わされると思うてか?」
勿論、毛頭思っておりません。私は頭を振りました。妖としては新参者の私なら兎も角、お嬢様は年季が……いえいえ、年齢は極秘事項でございました。
「では一体……。何か不吉な事の前触れでなければよいのですが……」
妖が不吉を恐れるなとお思いかも知れませんが、私共とて弱点もございます。人から見れば祝福であっても私共から見れば、という事も。
しかし、この虹は私達妖にとっての不吉だけで済むのかどうか?
とは言え、お嬢様もお解りにならない様な現象です。という事はお嬢様がその殆どを読破なさっておられる書斎の本も、今回は役に立たないか――あるいは未だお嬢様がお読みになられていない書物に答えがあるのでしょうか? しかしそれを探している時間があるのかどうかも、私には解りませんでした。
ならば、とお嬢様はより永い年月をこの世で過ごしてこられた旦那様に事の次第を話されました。
傍らで不安を抱えながら控えていた私に、話を聞き終えた旦那様はお命じになられました。
地下の精霊、ノーム達に連絡を取るようにと。
「地が乱れておる、と伝えてやれ。後は自分達で調べて調整するだろう」
「何故、地なのでしょう?」旦那様のお部屋を辞し、取り急ぎお申し付けに従いながらも、私は首を傾げました。「虹は天に出ておりますのに」
「ノームと話をすれば解るかも知れんな」お嬢様も首を捻られました。
けれど、お嬢様もこの屋敷の方々も、旦那様を信頼申し上げております。そのお方が命じられたのですから、意味がある事なのでしょう。私達は屋敷の地下の部屋へと降りて行きました。
そこには一つの深い井戸。
実際には井戸として使われた事はなく、いつも静かに此処にあるだけ。けれど……。
「ノーム様」私はその井戸に、部屋の三方を囲む棚から取り出した土を一掴み、放り込みながらお呼び申し上げました。「旦那様より緊急の連絡でございます」
暫し、井戸の奥底の暗い水がたゆたい、その後に浮かび上がったのは鼻と耳の尖った老人の顔。ノーム様でした。
緊急用ゆえ余り使われる事は無いのですが、この井戸は妖の住まいへと、繋がっているのでございます。
私達は代わる代わる、今宵の虹の事を話して聞かせました。
「地の乱れとは一体何なのですか?」私はそうお尋ね申し上げました。
「地の乱れ、地の気の乱れ……これが高じると人間界で言う所の地震や地割れが起きるのう。天の気に迄影響を及ぼすという事はなかなかに大きな乱れになってしまったか」どこか呑気に仰るノーム様。「ま、そう恐れるものでもないわい」
いえ、私の様な実体を備えた――と言うか実体に宿った――妖からすれば十二分に恐ろしいのですけれど……。それはノーム様は地の精霊。地と一体化してしまえば恐れるものも無いのでしょうが。
「どうにか調整は出来ないのですか? せめて規模を小さくするとか……」私は申し上げました。
「出来ん事は無いが……面倒臭いのう」
「そんな……この屋敷にも被害があるかも知れないのですよ?」
「そこはわしの住処ではないしのう」
更に言い募ろうとした私を抑え、お嬢様が井戸を覗き込みました。
そして、息を溜めて一喝されました。
「大概におし! 地霊が!」
見た目だけならかなり年長に見えるノーム様が、思わず身を縮こまらせました。
「そうやって報酬を掴もうという魂胆であろうが、そなたの考えなどお見通しだよ。そちらがそういう心算なら……水の精霊の地にでもこの井戸を繋いでやろうか?」にやりと、冷酷な笑みを浮かべられました。地の精にとって水の精は苦手な相手。その住処と直に繋げると言うのですから、これはかなりの嫌がらせです。
その脅しが効いたか、一喝で既に毒気を抜かれてしまったのか、ノーム様はこくこくと頷かれました。
「解った解った。冗談はこの位にしておくよ。流石にこの位の乱れでは完全に消す事は逆に別の乱れを招くからのう、少し位の揺れは覚悟しておくれよ?」
「解った。それには備えて置こう」
「では……」そう言って――他にも何やらぶつぶつぼやいておられた様でもありましたが――ノーム様は消えて行かれました。
それからは上階に戻り、屋敷内外の備えを急ぎました。ああは言っても、どの程度の揺れに治まるものか、解りませんでしたから。
そうして本来ならお嬢様方がお休みになられる頃――地が揺れました。
僅かにシャンデリアが揺れる程度に。
「どうやらちゃんと調整はした様だな」お嬢様は肩を竦め、寝室へと向かわれました。
と、その途上、振り返り、何かを投げて寄越されました。受け止めて見ればそれは小さな宝石。
「一応礼だと言っておいてくれないか。ただし、あの欲深爺の吊り上げ交渉には応じるな?」
「承りました」私は腰を折ると、再び地下の部屋へと降りて参りました。
呼び出し、お礼の品を渡した後も、ノーム様は何やら言葉を連ねておられましたが――水を一杯放り込むと、すごすごと退散されました。
それにしても、白い虹……私も見とうございましたね。
―了―
地震情報→地震雲とか地磁気の異常とかそんな方向で考えてみましたが……(--;)
う~む、夜霧め。
PR
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Re:こんばんは♪
妖お好きですね♪ 私もだけど(^^)
夜の虹……月虹(げっこう)とか、ムーン・ボウで検索したら画像ありますよ^^
実際にはなかなか見られないだろうけど……余計に見たいよね~☆
夜の虹……月虹(げっこう)とか、ムーン・ボウで検索したら画像ありますよ^^
実際にはなかなか見られないだろうけど……余計に見たいよね~☆
Re:こんばんは
にに!(汗)
夜霧の投稿を元にすると間に言葉を入れたり接いだりするのでよくある事です(笑←おい)
夜霧の投稿を元にすると間に言葉を入れたり接いだりするのでよくある事です(笑←おい)
おはよう!
冬猫さん、ツッコミキツイ~。(笑)
あっ、私もか。
まぁ、夜霧のあの投稿からじゃ、やっぱりこういう展開になるよなぁ。
一つ気になったのが、ノームへの謝礼を宝石にしたのは、ちょっとミスったかも。
宝石は地に埋蔵されているものであり、それこそノームの持分では?
あっ、私もか。
まぁ、夜霧のあの投稿からじゃ、やっぱりこういう展開になるよなぁ。
一つ気になったのが、ノームへの謝礼を宝石にしたのは、ちょっとミスったかも。
宝石は地に埋蔵されているものであり、それこそノームの持分では?
Re:おはよう!
ツッコミ・ツートップめ(笑)
今回のノームさん、欲張り爺なのでそれこそ地下から出た物は自分の物だと思ってたりして(^^;)
だから逆に返して貰った、位の意識かも?
今回のノームさん、欲張り爺なのでそれこそ地下から出た物は自分の物だと思ってたりして(^^;)
だから逆に返して貰った、位の意識かも?
Re:こんにちは♪
月虹とかムーン・ボウとか言うらしいですよ^^
ハワイ等ではこれを見ると幸せになれるとかいう伝説もあるそうです♪
ノーム……多分地下の宝物庫に飾っとくんだろうな。地下に産した物を欲深い人間の手から守っているという話もあるから、外には出さないと思う(^^;)
ハワイ等ではこれを見ると幸せになれるとかいう伝説もあるそうです♪
ノーム……多分地下の宝物庫に飾っとくんだろうな。地下に産した物を欲深い人間の手から守っているという話もあるから、外には出さないと思う(^^;)
Re:こんばんわぁ~
月明かりで出る虹なんて神秘的ですよね(^^)
街中だともし出てても解らないかもねぇ。人工の灯が邪魔で。
街中だともし出てても解らないかもねぇ。人工の灯が邪魔で。
Re:こんばんわー
おお! 月虹見た事あるんですか!\(◎o◎)/
いいなぁ。
薄めの七色だったりする事もあるそうですが……気象条件によっても違うのでしょうかね。
ノーム、イメージ通りでしたか(笑)
いいなぁ。
薄めの七色だったりする事もあるそうですが……気象条件によっても違うのでしょうかね。
ノーム、イメージ通りでしたか(笑)
Re:こんばんは
カメリアさん、日頃お嬢様を見つつ対処法を学んでいるのかも?(^^)
月虹、見てみたいですよね~(>_<)
月虹、見てみたいですよね~(>_<)