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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 雪の上にぽつり、ぽつり、小さな足跡がしるされている。
 それを追って、彼は雪道を急いだ。遊ぶ約束をしていた弟が、言い付けられた用事をしている間に姿を消してしまった。拗ねて一人で遊びに行ってしまったか。
 足跡の向かう先には小さいながらも川がある。この寒さでは凍っているかも知れないが、幼い弟にとってはそれこそが危険だった。もし、強度も判らない、氷に乗ったりしたら……。
 しかし、足跡は川に着く直前で、途切れていた。
 足跡の向きは一方通行。向きを変えた跡も、足跡を誤魔化そうとした跡も無く、そこから先が忽然と消えているのだった。
「……」少し考え、彼は家へと引き返した。これ迄追って来た足跡を、逆に伝って。

 足跡は外から帰って一旦玄関に寄り、それから川に向かった様に見えていた。
 彼はその一旦玄関に寄る前の足跡を、今度は追い始めた。やはり、足跡の向きとは逆に。
 そして――。
「何、長靴を逆向きに履いて足跡付けてるんだよ? 棗」物置小屋に隠れている弟を見付けた庵は、目を眇めてそう言った。
「もうばれたの?」詰まらなさそうに、寒さで朱に染まった頬を膨らませながら、棗は言った。「川の傍迄行って帰った足跡も巧く重ねたと思ったのにな」
「トリック仕掛けるのはいいけど、心配は掛けないでくれよ」
「じゃ、遊んで」
「はいはい」弟の小さな手を握って、庵は微笑んだ。

 庵十四歳、棗六歳の冬の話。

                      ―了―


 や、何となくbeforeよりも前の話(^^;)
 拗ねて兄にトリック仕掛ける幼稚園児って一体(笑)

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 昼も回り、天高く太陽の上った炎天下の道を友人が汗をかきかき歩いて来るのを、祖父宅の縁側で涼んでいた楡棗は見付けた。山を少し登った所にある、この家からは、下の道を歩く人の様子がよく解る。そしてこの道の先で繁が立ち寄る先と言えば、この家しか無い――棗は冷たいジュースを取りに、台所に向かった。
 そんな弟の様子に、傍らで本を読んでいた庵が顔を上げ、事情を察してふと微笑した。
 
 ややあって辿り着いた繁は礼を言いながらジュースを受け取り、一気に呷った。風通しのいい縁側に座り、一息つく。麦藁帽子を被ってはいても、夏の日差しは容赦ない。
「繁君、この頃遅いね」棗は――自身もジュースの栓を開け、兄の横には缶珈琲を置きながら――小首を傾げた。「前は午前中から遊びに来てたのに。こんな時間に外を歩いてたら暑いでしょ。日射病になっちゃうよ? 気を付けないと」
 大丈夫大丈夫、と繁は麦藁帽子を振って見せて笑う。
「確かに暑いけどね。遅くなったのは……棗、知ってるかな? 汀(みぎわ)のお婆さん。今年九十になるんだけどちょっと外れの一軒家に一人暮らしでさ、未だ未だ元気なお婆さんなんだけど、やっぱり歳だから父さんが心配しててね。時々様子を見に行ってたんだ。それで、夏休みに入ったもんだから、その間だけでも俺が行こうかなって……」
「へぇ、偉いね」棗は感心して言った。
「でもさぁ……」僅かに照れ笑いを浮かべつつも、繁は言葉を続けたのだった。

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 何処かの馬鹿が誤って水門を開けてしまった様だ――そんな怒鳴り声で目を覚ましたのは、棗が先だった。
 真夜中だと言うのに、降り頻る雨音にも負けない怒鳴り声。確か、この祖父の家より下流に行った所のおじさんの声だと、ぼんやりと思い出す。田舎の事だから――この九歳の棗の身でなくとも――結構距離がある。それが何故こんな雨の夜に態々出向いて来たのだろう? そう思い至ると、棗はさっさと飛び起きた。
 兄は隣の部屋で寝ている筈だが、果たして起きているかどうか――八つ年上の、寝起きの悪い兄の部屋を覗くと、やはり、布団は規則正しく上下していた。
 怒られるのを覚悟で叩き起こすか。そう思った時、廊下の向こうからパタパタと、祖母の足音が近付いて来た。
「棗君、起きてたの? 近くの川が危険な状態なの。此処は上流だから水に浸かる事は無いとは思うけど、一応動ける準備を……」
 祖母の声に慌てて兄の部屋を振り返った時、庵は漸く、長めの髪を掻き上げながら、身を起こしていた。

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 川の水面に映る月は冴え冴えとして、夜を冷たく照らし出していた。
 その川面の遥か上に架かる橋に、人待ち顔の男が一人。二十代前半だろうか。寒そうにジャンパーの襟を掻き合わせ、新雪の上、小刻みに足踏みしている。待ち人の姿を闇に探る様に、川の下流の集落の方を、頻りと見ていた。
 と――かつん、という音を耳にした気がして、男は上流側を振り返った。
 だが、暗い橋の上に何かを見付ける間も無く、その後頭部を衝撃が襲った。がつんという硬く重い物がぶつかる音を骨伝いに感じながら、男は意識が遠のくのを感じた。
 だから橋の雪の積もった路面に倒れ様思いっ切り鼻をぶつけた事は、生死を彷徨った末に病院で目を覚ます迄、知らずにいたのだった。

『そんな事があったんだけど、どう思う?』そう言って長距離電話を掛けてきたのは、例によって谷繁だった。『あ、因みに倒れていたのは汀啓(みぎわ・けい)さん。二十二歳。ごく普通の農家の三男で、現在家の手伝い中』

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 ある細工師の家に泥棒が入り、納品を待つばかりだった金の細工物が数点、盗まれた。
 そう、谷繁から電話が入ったのは、楡棗が祖父母の家の大掃除の手伝いを終え、ほっと一息ついた所だった。自宅の自分の部屋に引き続いての大掃除にややうんざりしていた棗は喜んでその事件に飛び付こうとした。
 が、大晦日の雪深い田舎町は暮れるのも早い。午後四時半ともなれば薄闇と、足元から這い上る冷気が忍び寄っている。
 今から子供が出掛ける訳には行かないだろう。
 そう思いつつも話を聞くと、どうやら既に容疑者は幾名か判明している様子。ところがそこからが難航しているらしい。
『生憎その細工師は今日、朝八時から街迄買い出しに出ていて、二時頃迄帰らなかったんだ。どうやらその間に入られたらしいよ』繁は抑えた声で言った。例によって父達の話をそっと窺っていたのだろう。『ところが帰った時も鍵は掛かっていたし、窓も閉まっていた――勿論、割られていたなんて事も無くて。鍵穴周辺に傷はあったけど、鍵穴自体からは遠くって素人が鍵穴に傷を付けないようにしながら態と残した跡らしいって。だから犯人は鍵を持っているって事だよね?』
 そして合鍵を預かっている三人に、容疑が掛かっているという訳だった。

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「薄着して外に出るなって、いつも言ってるのに……」呆れ顔と風邪薬、そして水が正面に差し出された。「自分がして、然も風邪ひいてどうするの、兄さん?」
「悪い」楡庵は些か掠れた声で言い、伏せていた炬燵の天板から身を起こした。苦味のある薬を飲み下す。
「……って言っても、僕達が黙ってあんな所に行っちゃったからだね。ごめん」兄の背から滑り落ちた毛布を掛け直しながら、棗は改めて詫びた。
「もういいよ。でも、もう二度と危ない所に行かないように」
「はーい」炬燵を回り込み、正面に座る。「肝試しは小学校のイベントだけにしまーす」
 全くだ、そう呟いて、庵は雑誌に手を伸ばし掛け――ふと、その手が止まる。
「そう言えばあの家……階段が崩れていたって言ったね」
「え? うん。下から三、四段目辺りかな。もう全部崩れちゃったけど」
「それは自然に崩落した様に見えた? それとも、何か重みが掛かって抜けた様に……?」
 棗は改めて、懐中電灯の明かりに浮かんだ光景を脳内に再生する。暗い屋内、崩れた階段、散乱する板……。
「四段目……段は一枚板なのに、真ん中辺りから折れたみたいだった。だから、重みが掛かったんだと思う」やがて、棗は言った。「それが――」
 どうかした? と言い掛けて、棗は兄の言いたい事に思い当たる。
 その重みの元は何なのだ? と。

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「凄い雪だけど、本当に入れるの?」一歩毎に埋まる足を長靴ごと抜き出して、更に一歩踏み出す――只歩くだけの作業がこれだけ重労働になるなんて。そう思いながら楡棗は前を行く友人に尋ねた。
 尋ねられた谷繁は慣れたもので、同じ作業でも彼よりずっと要領よく、行っている。赤い頬をしながら振り返って、笑った。
「凄い雪だから、入れるんだよ。一階は完全に締め切られてるからね。二階の窓から入るしか無いんだ。その二階の窓も川の方にしか無いし……だから川の水が凍って、雪が積もってる今しか無いんだよ」
 
 雪深い田舎町の更に町外れ、そこに一軒の木造家屋があった。そしてそこではかつて陰惨な事件があったと言う。しかしその時代の程は確かでなく、事実かどうかも疑わしい、そんな肝試しには持って来いの場所ではあったが、夏には決して入れない、そんな場所でもあったのだ。

「それにしても三人だけで来てよかったのかな」棗が後ろを振り向いて言った。「靖(やすし)君、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。な、靖」繁は二つ年下の、彼の弟に笑い掛けた。
 そうは言っても七歳の、それも小柄な子供だった。大らかな繁に比べると些か引っ込み思案で、棗と会うのも未だこれが二度目だ。
 彼に気を遣ってペースを落とそうかと提案し掛けた頃、繁が前方を指差して声を上げた。
「ほら、あれだよ。屋根が見えるだろ?」

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