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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「……行こう」棗が先に立ち、戸を引き開けた。
 隠れる事もなく、彼女はピアノの傍に居た。庵と同じ白いドレス、やはり鬘らしいウェーブの掛かった長い髪。長い袖を邪魔そうにしながらも、髪を掻き上げている。
「堀奏(ほり・かなで)さん」庵が子供達に紹介した。
「楡君……ちゃんとお仕事してくれなきゃ……」堅い表情ながら、苦笑を浮かべる。「弟さんだからって、特別扱いしちゃ駄目よ?」
「探し物なら人手が要ると思ったんだけど?」
「……どうして、探し物だと……!?」笑みを含んだ庵の返答に奏は瞠目する。
「態々この小学校を舞台にした事……君もここの卒業生だろうけれど、校内を家捜し出来る機会なんて先ず無いし……。今なら少々痕跡が残ってもスタンプ探しの子供達がやったんだろうで済む。実際にはここに来る子供は殆ど居ない様だけど」

 隠し事は無駄と悟ったのだろうか、奏は一つ溜め息をついて、肩の力を抜いた。
「例の女の子の話は半分だけ本当。笙(しょう)ちゃんは、私の友達で……私よりピアノが巧かった。その笙ちゃんがこの町を離れたのはピアノの勉強の為。そう聞いて私、どうかしてたのね……。彼女の指輪、隠しちゃったの」
「指輪……?」棗が訊き返す。「それが探し物?」
「そう。流石楡君の弟君ね。察しがいいわ」
 奏が頷いた途端、三人が動いた。三方に分かれて、未だ手が加えられていなさそうな所を探す。
「……貴方達……」奏が目を丸くする。
「肝試し大会は九時迄。早く探さないと集合掛かっちゃうよ」棗が笑う。
「……」奏は言葉が胸に詰まった様子で、只々頷いて、彼等に涙混じりの笑顔を寄越した。そして自らも探索を続けつつ、説明の義務を果たそうとした。「笙ちゃんはその指輪を大事にいつも持ってた――お母さんに貰った物だからって」
 棗の手がほんの瞬時、止まった。気付いた庵の眼が僅かに伏せられる。だが、二人共何も無かったかの様に作業を続行する。
「未だぶかぶかだからチェーンに通して首から下げててね。お母さんはピアニストで、いつも町から出てた――そこへ家族揃って行く事になったそうなのね。それで、私……何だろ? 嫉妬かな、やっぱり……。そんなお母さんが居るから笙ちゃんはピアノの勉強だって好きに出来るし、こんな田舎町から出て行けるし……!」
 当時の感情がぶり返したか、奏は激した眼で暗い窓に映った自身の――想像上の笙の姿を睨む。
「……でも、馬鹿な事しちゃった……。ほんの悪戯心もあって指輪を音楽室に……でも笙ちゃんが大騒ぎして、言い出せなくなっちゃって……。笙ちゃんも多分無くしたなら学校だからって、一生懸命探してたんだけど……見付からない儘、越してっちゃった」

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「でも良かった。繁君と一緒に組ませて貰えて。余所の学校の校舎なんてやっぱり解らないもん」楡棗が笑って、隣を歩く谷繁に言った。
「この位は配慮して貰わなきゃ」町外から来た友人に繁はにっこり笑う。
 が、その顔を懐中電灯で下から照らすのは止めて欲しい、と棗は思った。
 幾ら肝試し大会だからって……。

 繁の通う小学校での肝試し大会――夏休み後半のイベントの一つだった。
 一応小学校主催だが過疎の田舎町の事、町外から帰省中の小学生も参加可能という事で、繁は棗を誘ったのだった。
 因みに高校生の兄の庵は、仕掛け役の手伝いを頼まれた模様。こちらも人手不足の様だ。何をするのかと訊いても、内緒、とはぐらかされるばかり。
 そして今夜、棗達は暗い校舎で庵の姿を捜していた。

 校舎は二階建てのごくシンプルな造り――冬には雪深い地方なだけに土台が幾らか高めだが。
 二階建ての本校舎一階に校長、職員室と保健室等。二階に各学級の教室。
 渡り廊下で繋がった三階建ての一階に体育館兼講堂。二階以上は理科室等の特殊教室だ。
 集まった子供達は小学生を中心に約六十人。ほぼ全生徒と聞いて棗は唸る。過疎は深刻な様だ。
 七時になり、参加者全員が揃った所で執行委員長――校長が手短な挨拶の後、ルールを説明した。

 一.二人もしくは三人で校内を巡り、何ヶ所かの教室に隠してあるスタンプを七つ集める。
 二.スタンプはお化けが持っている事もある。
 三.そのお化けにお札を貼れたら、スタンプを捺して貰える。
 四.七つ全てを早く集めて戻って来た組が優勝。
 ……との事だった。
 所持品は懐中電灯が一本とスタンプカード。そして「お札」が十枚。

 表にそれっぽい文様と参加者の名前。裏側上部にマジックテープの片割れ……スタンプを持つお化けの背にもう片割れがあるらしい。
「背中に回れって言うんだ……」お札を見据えて、棗が唸る。「……どっちかが囮になれって事?」
「少なくとも背中見ないと持ってるのかどうかも判らないよな。持ってないのは無視して逃げりゃいいけど……」
「……兄さんもお化けやってるのかな?」ふと想像して、棗は失笑する。
「……捜しに行こうか!」繁もにやりと笑って、棗の手を取る。
 お化けとは言っても所詮は町の人――況してや家族知人なら怖いどころか……どんな扮装をしているのか楽しみでさえ、あった。二人は意気揚々と、校舎正面玄関を潜ったのだった。

「七不思議系だとしたら特殊教室かなぁ?」校内を知っている繁がそちらへ歩きながら言った。
 その推測が当たったか理科準備室――ホルマリン漬けの並んだ棚――から一つ。家庭科室から一つ。図書室の上の方の棚から一つと意外と簡単にスタンプは見付かっていく。
 庵は未だ見付からない。
「ね、この学校の七不思議って他と変わったのとかある?」黙々と捜すのも嫌なので、棗は先程から何くれとなく話し掛けていた。「人体模型とかの他にさ」
「……昔ピアノが好きな女の子が居たんだけど、卒業後都会へ引っ越したんだ。何でも事故に遭ってピアノが弾けなくなったショックが酷くて……で、彼女の生霊がここへピアノを弾きに来るって噂」
「生霊!?」棗の目が丸くなる。「それは何か珍しいパターンだね」
 と、行く手から微かな高い音が……。

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 息が苦しい。目覚めて直ぐに知覚したのはその事だった。
 そして一面のもやもやとした煙。
 あの時と同じ――彼は慌てて身を起こそうともがいた。が、身体は凍った様に動かず、やがてその意識さえも靄が覆い尽くしていった。

                    * * *

「発見されたのは荻勝(おぎ・まさる)。三十九歳の様であります!」
 妙にしゃちほこばってそう報告したのは谷繁(たに・しげる)。九歳だった。
 祖父、父と代々この田舎町で駐在を務めてきたからだろうか。いずれは自らも継ぐ気でいる。だが何故かそれ以上は目指していないと言う。
 因みに彼が今、父達の会話から――こっそり――収集した情報を報告している相手は、夏休みで祖父母宅に帰省中の楡庵、棗兄弟。
 棗が繁と同い年の誼(よしみ)で二年程前の帰省の折りに仲良くなり――昨冬の事件で、庵は「友達のお兄ちゃん」以上の存在に、繁の中では昇格していた。
 だからこそ、昨日発見された変死体に関して聞きかじった事を報せに来たのだが……。
「聞いてます? 庵さん」思わず、尋ねる。
 弟の棗も、縁側で本を読み耽っている様にしか見えない兄の袖を引く。
「……聞いてるけど……何故僕に?」本から僅かばかり眼を上げて訊き返す。
「庵さんは前に殺人犯逮捕のお手柄を立てたじゃないですか! 今回もちょっとおかしな事があるんで、是非……」
 勢い込む繁とは逆に庵は再び本へ。
「……」繁は救いを求める様な視線を棗に送る。
 棗は頭を振って、苦笑した。
「あれでも聞いてるからさ、話してみなよ」
「じゃ、じゃあ……」見えない顔色を窺いながらも、繁は詳細を話し出した。


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「クローズド・サークルだよ!」
 深夜に人を叩き起こして開口一番そう宣った弟を、庵は布団――正確には自分の上――から蹴り落とした。
 起きつつ理由を訊くと、昨夜来の雪でこの山間の集落からも孤立した家が数件、完全に切り離され――弟はミステリー好きの血が騒いだ様だ。
「棗……。そもそも何でこんな時間に起きてるの? もう二時……八歳児が起きてる時間じゃないよ?」八つ上の威厳を精一杯滲ませ、言う。
「トイレ」やや不貞腐れ気味の声が返った。この祖父の家は古い造りで、厠は正直な処、暗い。長期の休みの度この田舎に来るのだが、なかなか慣れない。為に弟は祖母を起こしに行ったらしい。兄の所に来なかったのは寝起きの悪さを熟知しているからだろう。
 横長な造りの家の端の祖父母の部屋へ行く途中、玄関から話し声――祖父と男――隣の堺さんだと棗は思い出した。隣と言っても田舎の事、一度祖父に付いて行ってへとへとになった覚えがある。
 その堺さんが報せて来たのだ。道が寸断されて――彼の家で事件が起こったと。

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