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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「でも良かった。繁君と一緒に組ませて貰えて。余所の学校の校舎なんてやっぱり解らないもん」楡棗が笑って、隣を歩く谷繁に言った。
「この位は配慮して貰わなきゃ」町外から来た友人に繁はにっこり笑う。
 が、その顔を懐中電灯で下から照らすのは止めて欲しい、と棗は思った。
 幾ら肝試し大会だからって……。

 繁の通う小学校での肝試し大会――夏休み後半のイベントの一つだった。
 一応小学校主催だが過疎の田舎町の事、町外から帰省中の小学生も参加可能という事で、繁は棗を誘ったのだった。
 因みに高校生の兄の庵は、仕掛け役の手伝いを頼まれた模様。こちらも人手不足の様だ。何をするのかと訊いても、内緒、とはぐらかされるばかり。
 そして今夜、棗達は暗い校舎で庵の姿を捜していた。

 校舎は二階建てのごくシンプルな造り――冬には雪深い地方なだけに土台が幾らか高めだが。
 二階建ての本校舎一階に校長、職員室と保健室等。二階に各学級の教室。
 渡り廊下で繋がった三階建ての一階に体育館兼講堂。二階以上は理科室等の特殊教室だ。
 集まった子供達は小学生を中心に約六十人。ほぼ全生徒と聞いて棗は唸る。過疎は深刻な様だ。
 七時になり、参加者全員が揃った所で執行委員長――校長が手短な挨拶の後、ルールを説明した。

 一.二人もしくは三人で校内を巡り、何ヶ所かの教室に隠してあるスタンプを七つ集める。
 二.スタンプはお化けが持っている事もある。
 三.そのお化けにお札を貼れたら、スタンプを捺して貰える。
 四.七つ全てを早く集めて戻って来た組が優勝。
 ……との事だった。
 所持品は懐中電灯が一本とスタンプカード。そして「お札」が十枚。

 表にそれっぽい文様と参加者の名前。裏側上部にマジックテープの片割れ……スタンプを持つお化けの背にもう片割れがあるらしい。
「背中に回れって言うんだ……」お札を見据えて、棗が唸る。「……どっちかが囮になれって事?」
「少なくとも背中見ないと持ってるのかどうかも判らないよな。持ってないのは無視して逃げりゃいいけど……」
「……兄さんもお化けやってるのかな?」ふと想像して、棗は失笑する。
「……捜しに行こうか!」繁もにやりと笑って、棗の手を取る。
 お化けとは言っても所詮は町の人――況してや家族知人なら怖いどころか……どんな扮装をしているのか楽しみでさえ、あった。二人は意気揚々と、校舎正面玄関を潜ったのだった。

「七不思議系だとしたら特殊教室かなぁ?」校内を知っている繁がそちらへ歩きながら言った。
 その推測が当たったか理科準備室――ホルマリン漬けの並んだ棚――から一つ。家庭科室から一つ。図書室の上の方の棚から一つと意外と簡単にスタンプは見付かっていく。
 庵は未だ見付からない。
「ね、この学校の七不思議って他と変わったのとかある?」黙々と捜すのも嫌なので、棗は先程から何くれとなく話し掛けていた。「人体模型とかの他にさ」
「……昔ピアノが好きな女の子が居たんだけど、卒業後都会へ引っ越したんだ。何でも事故に遭ってピアノが弾けなくなったショックが酷くて……で、彼女の生霊がここへピアノを弾きに来るって噂」
「生霊!?」棗の目が丸くなる。「それは何か珍しいパターンだね」
 と、行く手から微かな高い音が……。
『……』二人は顔を見合わせた。
「ピアノの音……だね?」確かめる棗に頷く繁。
「真逆このタイミングで本物なんて……出ないよな?」やや口元を引き攣らせつつも笑う。
 だから下から照らさないで、と思いつつも棗は苦笑する。このタイミングじゃなくても生霊なんて、と。
 が、行ってみようかと言う棗に対し、繁の脚は重い。挙げ句に言う。
「本物だったら……どうする?」
「真逆」棗は笑う。「行こう。スタンプ持ってるかも知れないし」
 だが、どうもこの話だけは妙な真実味を持ってこの学校に根付いている様で、周辺の子供達も当然耳にしている筈の音を無視――音楽室へと脚を向ける者は無かった。
「……でも確かめもしないで怖がってたら、兄さんには……」呟いて、棗は歩き出した。

 変わらずピアノの音が漏れる音楽室は二回の端にあった。引き戸が二ヶ所。一方の戸の傍は直ぐ上下への階段。
 二手に分かれようという棗の安は却下された。
「じゃ、開けるから……。見るのは一緒に見てよ」
「棗って意外と肝が据わってるなぁ」一見華奢なのに……と感心したのか呆れたのか、繁はぽかんとしている。
 しかし、棗の手が引き戸に掛かると、途端に覚悟が決まった様だった。
「幽霊が怖くて駐在が勤まるか……!」と呟いて、自らも手を添える。
 と、二人の手に力が加えられようとした瞬間、その視界の隅を白い影がよぎった……様な気がした。
『……え……?』二人揃って振り返り、二人揃って見てしまった。
 階段の上へと消えて行く、白いドレスに長い髪の〈少女〉の姿を……。
 直後、棗は駆け出していた。
「な、棗……!?」繁が慌てて後を追おうとして脚が震えて動かないのに気付く。
 が、階段を上がって行こうとして振り返った棗の微かな笑みに、呪縛が解ける。
 後を追い、見上げた先に白い人影。十六、七程か、ひらひらした長袖のドレスを着て、緩やかなウェーブの掛かった長い髪が顔を隠している。 
 が、〈彼女〉を見据えて、棗は言った。
「スタンプ持ってる? 兄さん?」
「いっ!? 庵さん……!?」繁は思わず素っ頓狂な声を上げたのだった。

 〈彼女〉は溜め息を一つつき、ゆっくりと階段を降りて来た。
「やっと子供が来たと思ったら……何故棗達なんだよ」顔を隠していた前髪――無論鬘だ――を払い、楡庵はぼやいた。
「い、庵さん……」繁が一種憧れの人の姿に唸る。「似合い過ぎです」
 ばさっ――庵は鬱陶しい鬘を取って、繁の頭に被せた。本来の漆黒の髪が現れる。その髪がやや長めな為か、元々の整った顔の為か――未だ、似合っている。繁はと言えば――棗は吹き出した。
「残念ながら僕はスタンプは持ってないよ」庵は白い背中を見せて言った。
「それってピアノを弾きに来る生霊の仮装?」手を隠す程の長い袖を見て棗が訊く。
「そうらしいね。生霊だから成長してるだろうって……今の僕位らしいよ」
「それにしても……よくOKしたね。女の子の格好なんて……」くっくっと棗は笑いを堪える。
「……」庵は憮然。「嫌だったんだけどね、女子の殆どが怖がったらしくて……結構定着してるんだね、この話」
 棗は頷き、先程の子供達の様子等を話した。
「それでかな? 誰も来なくて……延々ピアノ聴いてて、流石に参ったよ」
 尤もピアノはテープで流しているらしい。但し室内には庵と同じ格好をした〈生霊〉がピアノの前に座っていて……引き戸が開けられたと同時に隠れる手筈だったと言う。
「あれ? じゃ、兄さん、出るのが早過ぎるんじゃないの? 隠れて、居ないぞってなってから、あ! もう階段の所に!……って話じゃあ……?」
「元々はね」庵は不意に笑う。「今夜急に彼女が言い出したんだよ。巧く隠れられるか自信が無いから、開けられる前に出てくれって」
「……変な人だね」
「変な人だろう? だからこの役引き受けたんだけどね」
「じゃ、元から変な所があったの? 彼女って……女の子なの? 度胸あるなぁ」
「高校の生徒会長でね、今回の発起人」
「発起人って、先生達じゃなかったんですか?」繁がやっと口を挟む。因みに鬘は庵が振り回している。
 町興しにも役立つ――その一言が彼女の提案に味方した。町一番の優等生で通ってもいた様だ。
「そうなんだ。でも、何で小学校で? 高校生なのに、自分の所でやろうと思わなかったのかな?」
「小学校にはこの話があるからお誂え向き……なんだそうだよ」指先も出ない袖を広げて見せながら庵は言う。「で、今は音楽室に一人で籠っている訳だけど……棗、スタンプ探しに行かないの?」
「え、でも……」棗は逡巡した。「何をしているのか知らないけど、こんな大掛かりな事迄してて……」
 何やら執念の様なものを幼心にも感じる。邪魔をしていいのだろうか?
 庵は苦笑して、どうせここで話している事など気付いている、と言う。繁が『棗!』だの『庵さん!?』だの大声を上げていたし、何より……ピアノの音も止んでいる――指摘されて、二人は初めてその事に気付いた。

                      ―つづく―

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絵は?とか言ってみる♪
女装は見たい気がする。
冬猫 2007/11/09(Fri)23:23:50 編集
Re:♪
言ってみるんですか! 見たいんですか!!(笑)
庵がさめざめと泣いてる気もしますが……
巽(たつみ)【2007/11/10 00:52】
おーっと
定番中の定番、女装ですね?
巽さん、趣味につっ走ってませんか?
ぷん URL 2007/11/11(Sun)10:13:34 編集
Re:おーっと
ちょっと遊んじゃいました(笑)
巽(たつみ)【2007/11/11 16:53】
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