〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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(敢えて二作とは分ける為にこのカテの例外として書き出しを変えます)
「あ、陣内先輩、あれ……」後輩の女子生徒が、ふと背後を指差した。
「八坂、そっちは立ち入り禁止だぞ」振り返り、よくよく見れば中庭の木立の間に紛れそうになった友人の姿があった。よく気付いたものだと後輩に感心しつつ、陣内は声を掛けた。
入園時の植樹の時以外、生徒が立ち入ってはならない奇妙な森。それがこの学園の広大な敷地の半ばを占めている。入った事が知れれば厳罰を受ける。それは生徒の誰もが知っている事。
況して学級委員長という役職を与えられた陣内は、その罰則をよく知っていた。だからこそ、ぎりぎり迄友人の背を追い、肩に手を掛けたのだが……。
「煩いよ」わざとらしい程の荒っぽい手付きで、八坂は彼の手を払い除けた。そしてさっさと歩を進め――翌日彼自身の樹に、大きな傷が付けられているのが生徒から話を聞いた教師達によって発見された。
「あ、陣内先輩、あれ……」後輩の女子生徒が、ふと背後を指差した。
「八坂、そっちは立ち入り禁止だぞ」振り返り、よくよく見れば中庭の木立の間に紛れそうになった友人の姿があった。よく気付いたものだと後輩に感心しつつ、陣内は声を掛けた。
入園時の植樹の時以外、生徒が立ち入ってはならない奇妙な森。それがこの学園の広大な敷地の半ばを占めている。入った事が知れれば厳罰を受ける。それは生徒の誰もが知っている事。
況して学級委員長という役職を与えられた陣内は、その罰則をよく知っていた。だからこそ、ぎりぎり迄友人の背を追い、肩に手を掛けたのだが……。
「煩いよ」わざとらしい程の荒っぽい手付きで、八坂は彼の手を払い除けた。そしてさっさと歩を進め――翌日彼自身の樹に、大きな傷が付けられているのが生徒から話を聞いた教師達によって発見された。
教頭の嫌味混じりの叱責に、だからやったのだと八坂は嘯いた。成績は良いが態度の悪い生徒に、教頭は頭を痛めている様だった。
「君は……あれに傷を付けるという事で、後々どうなるか、解っている筈だね? 昨年迄は生徒会にも在籍していたのだから」
「勿論です」その言葉に教頭の眉間の皺が深くなる。ならば何故、と。
入学の際に血での契約を果たした樹は生徒自らの分身であり、在学中の不手際は全て樹が被る。そして卒業と同時に契約は解かれ、樹が受けた傷は本人へと還元されるのだ。素行悪く、傷の多かった者の中には死者も出た。
しかし樹の傷と本人の傷、その因果関係を科学的に立証出来ない以上は、樹を傷付けるのは生徒に痛みを教える為……その言い分が通ってしまっているのだ。
「君は成績優秀だ。その素行さえ良ければ我が校としても一流の大学、企業に推薦してもいい。だが……」
そんなのは御免だ、と八坂は頭を振った。全身に震えが走ってさえいる様だった。
教頭の長い小言から解放された彼は、心配して廊下で待っていた陣内に言った。
「だからこそ、傷を付けたんだよ」と。
そして、一枚の写真を見せた。中庭の禁止区域に入った時に、撮ってきたものらしい。青々と葉を繁らせる、見事な樹。木肌には傷一つ無く、只所々、瘤の様なものが出来てはいる。
陣内は疑問符の浮かんだ視線で彼を見返した。これがどうかしたのかと。そんな樹はあの区域には幾らでもある筈だ。
「これ、去年卒業して、大学に進んだ三汐先輩の樹だよ」
「!?」陣内は改めて写真を見遣る。「この間……撮ったものなんだよね?」
高校卒業の際に契約は解かれ、樹はその儘枯れゆく筈……。現に周りの同窓生達の樹は既に朽ち掛かっている。
「何かの手違いで……」
「三汐先輩以外にも、卒業生の樹で何本か、今でも枯れていない樹を見付けたよ。その樹の主の誰もが、ここから特定の大学、特定の企業に進んでいた」
「それは……詰まり……」
「高校卒業は解放じゃないって事さ。只、篩(ふるい)に掛けられるだけだ。この学校の息の掛かった大学、企業に進ませたい程の成績じゃない者、扱いに困る者は契約解除。お役御免。あるレベル以上の者は……縛られた儘」
「……」陣内は蒼褪めた唇を動かして言った。「僕……大学への推薦を打診されてるんだ……」
「成績優秀、品行方正って事だ。良かったじゃないか」
揶揄する様な声音に、陣内はかっとする。
「冗談じゃないよ! 一生この学校に、あの樹に縛られた儘だなんて!」
翌日、陣内の樹に深い傷が刻まれた。この傷が自分に何を齎すかは解っていた。それでも、彼は自由を奪う蔓を斬り断つ様に、樹にナイフを突き立てた。何、どうせ一人ではないんだ……。
卒業式の後、寒風吹き荒れる植樹の森の中で、丸で樹から降りる際に足を踏み外し、運悪く樹の枝に切り裂かれた様になった死体が発見された。
一体だけ。
その傍らの樹には、選任の樹医が呼ばれたのだろう。傷は僅かに残るだけだった。
「何で……何で俺のだけ治されて……」
「君が自分の樹を傷付けた時……」教頭の声が忍び寄っていた。「教師にそれを話しに来た生徒が居た。点数稼ぎだとしても、ばれれば君がどうなるか、解っていたのにね――私達の学園に、口の軽い物は、要らない」
それより、と彼は言った。大学の件、君なら今からでも間に合わせるよ、と。返答がある迄は、樹の契約も解かない……と。
口が軽いと言うのなら、全てを語った自分はどうなのだ? もし彼が自らの行く末を知る事など無かったら……? それとも、自由を奪われた儘と知った彼はいずれ……?
それでも、自分一人残る事は、出来なかった。
数日後の夕方。逢魔が時、誰そ彼時。
八坂は後輩である一人の少女と共に中庭に居た。手にはシャベルを持って。
―了―
先輩サイド(?)
もはや番外なので規格内に収める試みは放棄!(開き直りとも言う)
あんまり怖くないね(。。)
「君は……あれに傷を付けるという事で、後々どうなるか、解っている筈だね? 昨年迄は生徒会にも在籍していたのだから」
「勿論です」その言葉に教頭の眉間の皺が深くなる。ならば何故、と。
入学の際に血での契約を果たした樹は生徒自らの分身であり、在学中の不手際は全て樹が被る。そして卒業と同時に契約は解かれ、樹が受けた傷は本人へと還元されるのだ。素行悪く、傷の多かった者の中には死者も出た。
しかし樹の傷と本人の傷、その因果関係を科学的に立証出来ない以上は、樹を傷付けるのは生徒に痛みを教える為……その言い分が通ってしまっているのだ。
「君は成績優秀だ。その素行さえ良ければ我が校としても一流の大学、企業に推薦してもいい。だが……」
そんなのは御免だ、と八坂は頭を振った。全身に震えが走ってさえいる様だった。
教頭の長い小言から解放された彼は、心配して廊下で待っていた陣内に言った。
「だからこそ、傷を付けたんだよ」と。
そして、一枚の写真を見せた。中庭の禁止区域に入った時に、撮ってきたものらしい。青々と葉を繁らせる、見事な樹。木肌には傷一つ無く、只所々、瘤の様なものが出来てはいる。
陣内は疑問符の浮かんだ視線で彼を見返した。これがどうかしたのかと。そんな樹はあの区域には幾らでもある筈だ。
「これ、去年卒業して、大学に進んだ三汐先輩の樹だよ」
「!?」陣内は改めて写真を見遣る。「この間……撮ったものなんだよね?」
高校卒業の際に契約は解かれ、樹はその儘枯れゆく筈……。現に周りの同窓生達の樹は既に朽ち掛かっている。
「何かの手違いで……」
「三汐先輩以外にも、卒業生の樹で何本か、今でも枯れていない樹を見付けたよ。その樹の主の誰もが、ここから特定の大学、特定の企業に進んでいた」
「それは……詰まり……」
「高校卒業は解放じゃないって事さ。只、篩(ふるい)に掛けられるだけだ。この学校の息の掛かった大学、企業に進ませたい程の成績じゃない者、扱いに困る者は契約解除。お役御免。あるレベル以上の者は……縛られた儘」
「……」陣内は蒼褪めた唇を動かして言った。「僕……大学への推薦を打診されてるんだ……」
「成績優秀、品行方正って事だ。良かったじゃないか」
揶揄する様な声音に、陣内はかっとする。
「冗談じゃないよ! 一生この学校に、あの樹に縛られた儘だなんて!」
翌日、陣内の樹に深い傷が刻まれた。この傷が自分に何を齎すかは解っていた。それでも、彼は自由を奪う蔓を斬り断つ様に、樹にナイフを突き立てた。何、どうせ一人ではないんだ……。
卒業式の後、寒風吹き荒れる植樹の森の中で、丸で樹から降りる際に足を踏み外し、運悪く樹の枝に切り裂かれた様になった死体が発見された。
一体だけ。
その傍らの樹には、選任の樹医が呼ばれたのだろう。傷は僅かに残るだけだった。
「何で……何で俺のだけ治されて……」
「君が自分の樹を傷付けた時……」教頭の声が忍び寄っていた。「教師にそれを話しに来た生徒が居た。点数稼ぎだとしても、ばれれば君がどうなるか、解っていたのにね――私達の学園に、口の軽い物は、要らない」
それより、と彼は言った。大学の件、君なら今からでも間に合わせるよ、と。返答がある迄は、樹の契約も解かない……と。
口が軽いと言うのなら、全てを語った自分はどうなのだ? もし彼が自らの行く末を知る事など無かったら……? それとも、自由を奪われた儘と知った彼はいずれ……?
それでも、自分一人残る事は、出来なかった。
数日後の夕方。逢魔が時、誰そ彼時。
八坂は後輩である一人の少女と共に中庭に居た。手にはシャベルを持って。
―了―
先輩サイド(?)
もはや番外なので規格内に収める試みは放棄!(開き直りとも言う)
あんまり怖くないね(。。)
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Re:無題
あー、あるでしょうねー。先生の樹。
問題教師は即伐採……恐怖政治だなぁ。
問題教師は即伐採……恐怖政治だなぁ。
Re:うんうんv
有刺鉄線……(^^;)怖いなぁ。
取り敢えず、行きたくない学校ですな。
あ、でも他人がレール引いてくれたら一番楽、ってタイプの人にはいいかも? それはそれで問題だけど☆
取り敢えず、行きたくない学校ですな。
あ、でも他人がレール引いてくれたら一番楽、ってタイプの人にはいいかも? それはそれで問題だけど☆
Re:ううう
大抵の子は委員長みたいに幼等部や小学部からなので……。
先生「さぁ、皆。皆と一緒にすくすく育つように、自分の樹を植えましょうねー」
生徒「はーい」
みたいな感じで嵌められてたり……。
どうしよう、変な設定がどんどん出来ていく(笑)
先生「さぁ、皆。皆と一緒にすくすく育つように、自分の樹を植えましょうねー」
生徒「はーい」
みたいな感じで嵌められてたり……。
どうしよう、変な設定がどんどん出来ていく(笑)
Re:無題
学園長ですら、どっかのお偉いさんに支配されてたりして……。
次代の優秀かつ反抗心の無い人材を育てるんだーとか言われて。
いかん、どんどん大規模に(苦笑)
次代の優秀かつ反抗心の無い人材を育てるんだーとか言われて。
いかん、どんどん大規模に(苦笑)
Re:皆さん!
そ、そうだったのか!(笑)
夜霧って一体……恐るべしっ!!(爆笑)
フフフ……シッテシマッタノデスネ?
夜霧って一体……恐るべしっ!!(爆笑)
フフフ……シッテシマッタノデスネ?

Re:確かに・・・
夜霧、つい本音が……?(^^;)
そうかー、夜霧だったのかー
追記:「学園の広大な敷地の半ばを与えられたとかいってみる」って言ってた。
やっぱり黒幕は夜霧か……。
そうかー、夜霧だったのかー

追記:「学園の広大な敷地の半ばを与えられたとかいってみる」って言ってた。
やっぱり黒幕は夜霧か……。