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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「クローズド・サークルだよ!」
 深夜に人を叩き起こして開口一番そう宣った弟を、庵は布団――正確には自分の上――から蹴り落とした。
 起きつつ理由を訊くと、昨夜来の雪でこの山間の集落からも孤立した家が数件、完全に切り離され――弟はミステリー好きの血が騒いだ様だ。
「棗……。そもそも何でこんな時間に起きてるの? もう二時……八歳児が起きてる時間じゃないよ?」八つ上の威厳を精一杯滲ませ、言う。
「トイレ」やや不貞腐れ気味の声が返った。この祖父の家は古い造りで、厠は正直な処、暗い。長期の休みの度この田舎に来るのだが、なかなか慣れない。為に弟は祖母を起こしに行ったらしい。兄の所に来なかったのは寝起きの悪さを熟知しているからだろう。
 横長な造りの家の端の祖父母の部屋へ行く途中、玄関から話し声――祖父と男――隣の堺さんだと棗は思い出した。隣と言っても田舎の事、一度祖父に付いて行ってへとへとになった覚えがある。
 その堺さんが報せて来たのだ。道が寸断されて――彼の家で事件が起こったと。

「堺さんはどうやってここ迄来たって?」
 先ずそう尋ねた兄に訝しげな顔をしながらも棗は言う。
「スキーで来たんだって言ってた」
 堺家の方が山際の傾斜地にある為、下って来る分には大した苦労は無かったらしい。
 庵は険しい表情で弟と部屋を出た。
「事件っていうのは?」
「何か奥さんと堺さんの弟さんが喧嘩して、奥さんが突き飛ばされて頭打って怪我したんだけど、雪で電話も通じなくなってたんで、慌ててここ迄来たって」
「二人を残した儘?」
「そうみたい。小母さん大丈夫かな……?」
「……」
 黙ってしまうと、雪夜の静けさが沁みてくる様だった。
 風の音、近くを流れる川の音さえ、遠慮しているかの様な深い沈黙の夜……。

 居間の障子が灯に映えていた。
 中からは話し声。
 そっと窺うと、祖父が電話を掛け、祖母が凍え切った堺の世話を焼いている様子だ。電話の相手は医師か警官か……雪の為来られない、そんな雰囲気だ。
 祖父は溜め息をついて受話器を戻した。致し方ない、と腰を上げる。
「応急処置位なら何とか出来るかも……」祖父は支度を始めた。間に合えばだが――そんな言葉を声にせぬ儘。
 堺がスキーを使用してもここ迄一時間は経っているだろう。
 更に混乱した彼の話は理解を阻み、時間をロスした。これから急いでも登りは二時間近く掛かる。
「お前達、大人しく待っておいで」ばれていたのか、祖父の声が二人に掛けられた。仕方なく祖母と共に堺と祖父を見送りに玄関へ。
「気を付けて」庵は祖父に耳打ちする。「雪道もだけど……弟さんとか……」
 祖父は頷いて見せた。
「行って来る。家を頼むぞ。庵」
 
 そう言って家を出た祖父が堺と共に戻って来たのは四時間後。すっかり夜が明け、眩しく煌めく白い景色の中を降りる足取りは重い。
 眠気に勝てず眠ってしまった棗を起こし、庵は祖父を出迎えた。訊く迄も無く、間に合わなかったのだろうと思わせる疲れ切った顔。
 だが、それだけでなく――。
「弟さんも……亡くなっていた」堺を気遣い小声で言った。「奥さんは即死ではないものの、短時間の内に……。弟さんは……見た処、自殺か。風呂で感電死していた。コード式のデジタル時計を使ってな」
「……時間は? 止まってましたね?」
「一時二十八分。硬直度合いからも死亡時刻はその頃だと思う。彼女を弾みとは言え、殺してしまって発作的に自殺に逃げ込んだか……」
「……彼がこの家に来たのは午前二時頃だった……」弟に起こされた時の事を思い出しながら、、庵は呟いた。「スキーでなら約一時間……」
 未だ道半ばの筈。だが――。
「弟さんが自殺……ねぇ」
 自殺する様な人だったろうか、と庵と棗は顔を見合わせる。然も感電なんて方法を咄嗟に?
 女性に暴力を振るったと聞いても違和感の無い粗暴な男――それが彼のイメージだった。兄は若干理性的だったが……眼の奥には同じ色。

「お祖父さん、警官はいつ来られるって言ってました?」
「今日の日暮れ迄には」
「日暮れ迄……ですか。間に合うかなぁ……」
「何に?」
「昨夜から綺麗に凍ってる、山から流れ出る川の水が融ける迄――雪原でクロスカントリースキーをするよりも、天然のコースを利用したリュージュの方が断然速かったでしょうね? 堺さん?」庵は不敵な笑みを見せた。「でも冷たかったでしょ? スキー板の間に氷を張って作ったソリなんて」
 見抜かれて飛び掛って来た堺は祖父に投げ飛ばされ、庵の冷たい視線に射抜かれた。
「貴方のアリバイは、ありません」

                       ―了―

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季節感
季節感ありますね。
しかも、それがアリバイ作りの小道具になっていると・・・

このシリーズは何気にセピア色してますな。
いや、なんとなく。
ぷん URL 2007/10/20(Sat)00:46:48 編集
Re:季節感
有難うございます。
セピア色ですか。「bifore」は特にそうかも知れません。
十数年前の設定になりますので、携帯電話もネットも無く……クローズド・サークル作りたい放題です(←おい)
巽(たつみ)【2007/10/20 01:20】
ちびっこ兄弟♪
わーい、少年編だ~☆現在でも可愛い棗くんだけど、この頃はさらに可愛いですねぇ、やっぱり(*'-'*)
あすか 2007/10/20(Sat)19:53:44 編集
Re:ちびっこ兄弟♪
少年編、棗のお兄ちゃん子度が増してますからねぇ(^^;)
ああ、書き掛けの中編も書き進めないと……。

でも現在『女王国の城』の〈読者への挑戦状〉を前に苦悩中なので、暇掛かりそう。テープの移動は何時だったんだろう……?
巽(たつみ)【2007/10/20 20:37】
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