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そう、谷繁から電話が入ったのは、楡棗が祖父母の家の大掃除の手伝いを終え、ほっと一息ついた所だった。自宅の自分の部屋に引き続いての大掃除にややうんざりしていた棗は喜んでその事件に飛び付こうとした。
が、大晦日の雪深い田舎町は暮れるのも早い。午後四時半ともなれば薄闇と、足元から這い上る冷気が忍び寄っている。
今から子供が出掛ける訳には行かないだろう。
そう思いつつも話を聞くと、どうやら既に容疑者は幾名か判明している様子。ところがそこからが難航しているらしい。
『生憎その細工師は今日、朝八時から街迄買い出しに出ていて、二時頃迄帰らなかったんだ。どうやらその間に入られたらしいよ』繁は抑えた声で言った。例によって父達の話をそっと窺っていたのだろう。『ところが帰った時も鍵は掛かっていたし、窓も閉まっていた――勿論、割られていたなんて事も無くて。鍵穴周辺に傷はあったけど、鍵穴自体からは遠くって素人が鍵穴に傷を付けないようにしながら態と残した跡らしいって。だから犯人は鍵を持っているって事だよね?』
そして合鍵を預かっている三人に、容疑が掛かっているという訳だった。
「じゃあ、その三人の所を調べればいいじゃない」黒電話の横に座り込んで、棗は言った。
『家宅捜索? でも合鍵を持っているから、だけじゃ簡単には令状降りないんじゃないかな。それにもう売り払うとか、処分されちゃったかも』
「絞らなきゃ駄目って事? じゃあ……その三人はどうして、鍵を預かってるの?」
『細工師の人――栄さんっていうんだけどね、その人のお兄さんと妹さん、後、栄さん、高齢だから念の為に隣の人に渡してて、時々様子見て貰ってるんだって』
「お兄さんと妹さんもこの町の人?」
『うん。妹さんは嫁いでて、皆別々に住んでるけどね』
「アリバイは?」
『それが今日は皆大掃除で自宅に居たって証言してるんだ。最近は栄さんの家にも行ってないって』
「ずっと掃除してたの?」
『もう、家の隅々迄綺麗にしてたって。棗の所、済んだ?』
「やっと終わった所ー。でも大変だね、駐在さんも。大晦日迄事件だなんて」棗はこの雪の中、任務に駆け回る谷巡査に少し、同情した。「証言におかしな所は?」
『特に無し。念の為玄関周りを見たらしいけど確かに綺麗にしてあったって。でも、大掃除なんて予めやっておいても誤魔化せるし……。現場周辺、三人それぞれの自宅周辺も目撃者は無し。だから居なかったとしても判らないんだ』
「じゃ、やっぱり細工物の行方を追うしか無いんじゃない? 現場に遺留品とかも無かったの?」
『それが、今日帰ってから掃除する心算だったとかで、散らかった儘の作業場も、細工物が無くなっている以外は目立つ物は無し。鑑識さんも呼んでるんだけど、この雪で遅れそうだってさ』これだから田舎町は……と一頻り、繁の愚痴が流れた。
「三人の誰かを特定したいんだよね?」愚痴を聞き流しつつ、棗は訊いた。「まぁ、それでも直ぐに家宅捜索って訳には行かないかも知れないけど」
『そう。何か手が無いかな?』
そう言われても直接調べられる訳でもなく、情報も少ない。そもそも被害者や容疑者の人となりさえ知らない。
頭を抱えていると、繁が言った。
『庵さんは?』と。
やはり一仕事終えて本を読んでいた庵は、一旦電話を切った棗に先程の会話を事細かに聞かされる羽目となった。
「兄さん、何か手は無い?」棗は首を傾げて兄の顔を見上げた。
「鑑識が来れば何か出るだろう?」庵は弟の好奇心にほとほと困った表情を作って言った。
「でも、早く解れば細工物が売り払われていても追跡し易いだろうし、繁君のお父さんの手柄にもなるじゃない」
「じゃ、鑑識の手を借りなくても解りそうな手を一つだけ――これで解らなかったら、僕達にはどうしようもないよ。それでいいね?」
そう念押しされ、頷いた棗に庵は尋ねた。
何故大晦日に年越しそばを食べるのか。
「え?」棗は一瞬面食らう。「えーっと、細く長くで縁起がいいから……って、何でここでその質問?」
「こういう説もあるんだよ――昔はこの時期、金銀の細工職人の所では研磨の際に飛び散った金粉を集める為にそば粉を水で溶いて固めた団子みたいな物を用いた。指で摘めない程の細かい粒でもよくくっ付くと言うんだね。それで床や畳の上を転がしたり、叩いたりして金を掻き集め、団子を水で溶かせば金だけが下に沈んで集められる、と。だからそばで金が集まる、縁起がいいとなったという説」
「へぇ……」棗は一旦感心し、やはりまた首を傾げる。
「事件は今日。そして三人の容疑者の家は大掃除済みだと言うんだろう? なら、最近は訪れていないと言う被害者の作業場に散っている金粉が玄関先や、靴の裏、もしくは服の何処かに付着していれば……今の方法なら鑑識を待つ迄も無いよね」
バタバタと電話のある廊下に駆けて行く棗に「廊下は走らない」と一言だけ掛けて、庵は本に目を戻した。
その夜の内に、妹の靴と靴下、そして上着の袖から、細かい金粉がそば粉の団子から分離、検出された。金に困って兄を頼ろうとしたが生憎居らず、上がって待っている内に魔が差したのだと言う。
その報せを受けてから祖父達も揃った居間に戻り、棗は複雑そうな顔をした。
年越しそばを前にして。
しんと静まり返った雪の屋外から、除夜の鐘が何処からとも無く響き始めた。
―了―
大晦日でもこんなん書いてる阿呆は私です(笑)
えー、お越し頂いた皆様、本年はまことに有難うございました!
来年もどうぞ、宜しくお願い申し上げますm(_ _)m
なっちさんも良いお年を(^^)ノ
今日は読み逃げしませ~ん^^;
小説書ける巽さんが凄いっていつも
思ってる^^
来年もずーと書き続けてね(^^)♪
一体どんな頭の
構造してるんやろ・・(@ ̄□ ̄@;)!!
そそ^^
良いお年をお迎え下さい~♪
いつも怖い話でごめんね~(笑)
裕見子さんもよいお年をお迎え下さいね~♪
ズボン(スラックス)の裾は折り返しがないってのは、聞いたことあるよ~金粉なんかが入るらしいよね。。。
今年、お知り合いになれたことに感謝☆
そして、豆にコメありがとうです(#^.^#)
また来年(明日)からもどうぞよろしくお願いします☆
来年が巽さんにとってよい年でありますように~♪
こちらこそコメ有難うございます(^^)
来年も宜しくお願い致します♪
よいお年をお迎え下さいませ☆
明日も巽さんの所のお節に入ってるんだろうな…
まめに小説を書ける巽さんには、かないません。
私がした約束は守れませんでした。ごめんなさいm(__)m来年はもう少し成長して、巽さんに近付きたいものです…
とにかく…今年はお世話になりました。来年も宜しくお願いします。
私も豆を食べます。豆を…
黒豆はあるよー^^
こちらこそ、お世話になりました。
来年も宜しくお願いしますね♪
よいお年を~(^^)ノ
あー、やってるわぁって(^^;)
でもこの説は余り聞いた事無かったなぁ。
何か気になって調べた事が、直後に何かしらで出てくる事とか多かったりします。テストの時とか……。
「金」を目の前にして魔がささなかったり、極端な話、国が傾かなかった例は殆どありませんものね。エジプトのキンキラキンのマスクや人型棺も実際見ると凄かったし、インカ帝国の黄金に目が眩んだスペイン人がだまし討ちにしたのは周知のとおり。
人間は、金/黄金に何を見出すのでしょうか。
あ、私は金細工には全く興味がありませんです。
何でしょうねぇ? 金に対する欲というのは。
確かに綺麗だし、お金にもなりますが……。目が眩む程の金にはお目に掛かった事が無いです(笑)
何でも調べてみるもんです(^^)
最近は年越しそば食べる家も減ったそうですけれど、「金運招来!」とか付けたらまた増えるかも(笑)
私もテレビで見たんだけどねー。蕎麦を使うっての。でも小説にする事は出来なかったよ。
そこら辺の発想力が、書ける人間と書けない人間の差なのかしらん?
うらやましいー
と言うか、私の場合、ネタに飢えている?(^_^;)
調べて「お♪」と思ったら使っちゃう☆
やっぱり「細く長く~」説の方がよく聞かれるからかな。
それもそれで縁起物だし、OKだと思う♪