〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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こんな夜霧の深い晩は月の運びも判らず、刻々と流れ行く筈の時さえ電池を抜かれた時計の様に止まったみたいだと……生き人形である私も、そんな妄想をした位です。
それでも、そんな夜に呪い事をしようと笑いながら屋敷を訪れたエーベルには辟易致しました。
いつぞやの訪問以来、もう随分と会っていなかったのですが――ああ、またお嬢様方の眷属に襲われて、あんなに血を絨毯に……!――何を思ったのか、今宵、霧に紛れる様に現れたのです。
「全く、懲りない……」大階段の上から、玄関に立つ血塗れの吸血鬼を見下ろして、お嬢様も呆れ顔で仰せになられました。「何をしに来た?」
「いや、連絡の蝙蝠は飛ばして置いたと思うんだけど? フィ」
本当に、懲りない方だと私も思います。それこそ呪いにおいても強い拘束力を持つとされる名を口にされる事を、お嬢様方は嫌うと知っている癖に。またお嬢様の眷属の蝙蝠に張り付かれて……。
「失礼、フラウ」蝙蝠を引き剥がして、通称に言い直しました。「うちの蝙蝠が先触れに来なかったかな?」
「ああ、魔女の真似事をしようなどという戯けた伝言を持って来た蝙蝠か。あれならもう帰ったぞ。飼い主も帰ったらどうだ?」冷たい表情の、冷たいお言葉。
しかし、確かに人に呪いを掛けようなどと言うのはお嬢様の嫌う所。冷たい対応も致し方ないと、私は内心、頷いておりました。
何しろこのエーベル、自分が血を吸い損ねたどこぞの美姫を、呪いで動物に変えようなどと笑いながら言うのですから。
「それこそほんの真似事だよ」へらへら笑いながら、エーベルは言います。「ほんの一日、蛙か何かに変えてやろうってだけさ」
「振られた腹いせにか? 情けない」お嬢様のにべもないお言葉。「仮にも吸血族ともあろうものが……」
「その吸血族を恐れもせず、振ったんだよ。その女は」忽ち不機嫌そうな顔になり、彼は言い募りました。「私の目を見ても怯みもせず、聖水をぶち掛けようとしたんだ! とんでもない女じゃないか!」
吸血族の皆様の視線には、相手を魅了する力があると言われております。それでなくても、姿形において魅力的な方々が多いのですが、人の身でこれに抗するのはかなりの意志力を必要とする筈です。
そして聖水やそれに類する、聖別された物は私達妖にとっては忌むべき物……。確かにそれを掛けられては、ダメージは避けられないでしょう。
さて、エーベルは憤慨の様子でしたが、お嬢様は話を聞いて、逆にその女性に対して賞賛の言葉を発せられました。
「人間にしては大したものじゃないか。仮にも吸血族のお前の視線が通じなかったと言うのだから」面白そうに、口元に笑みを刻まれて。
「仮にも仮にもって、引っ掛かる言い方をするなぁ」面白くないのは当然、エーベルです。「それは君の家程古い家柄でもないけれどね。それでも人間にしてやられるなんて、あるまじき事態だよ」
だから呪いを掛けてやるんだと、彼は不吉な笑みを浮かべました。
「只、私だけでは力が足りないみたいで……力を貸してくれないか? フラウ」
「つくづく……情けない話だな、エーベル?」溜め息を一つついて、お嬢様は仰せになられました。「力を使いながらも人間に振られ、その挙げ句に他者の力を借りて迄の嫌がらせとは……。その方が余程――誇り高き吸血族にあるまじき事態だろうが!」
お嬢様の一喝に、エーベルはびくりと身を竦ませました。
「それは……けど、馬鹿にされっ放しじゃあ、私の矜持が……」
「その矜持が少しでもあるのなら、子供の様な真似はお止め。何故視線を使っても、相手を魅了出来なかったのか、考え直してみるのだな」
エーベルは尚もぶつぶつと申し立てておりましたが、お嬢様は聞く耳持たぬという様子で、私に一言、お命じになられました。
「カメリア、そろそろ朝も近いだろう。戸締りを頼むよ――いつもの様に」
「はい」私は頷いて――愛用の箒から短い槍を抜き放ちました。
途端にエーベルが、先日の事を思い出したのかその場から飛び退きました。玄関からも出て、危うくポーチの石段を踏み外しそうになって、慌てて大きな蝙蝠へと変じました。
『だから、何で銀の槍なんか持たせてるんだよ! 物騒だなぁ!』そう文句を言いながら、蝙蝠は霧の中に飛び去って行きました。
息を一つついて、私は槍を戻しました。玄関を閉じ、きっちりと戸締り。もうあんな招かれざる客は御免です。
ああ、嫌でも絨毯の染みが目に付きます。
それにしても――と、私はお嬢様を振り仰いでお伺い致しました。
「本当にどうして、その女性には効かなかったのでございましょうか?」
「何、相手にも選ぶ権利はあるという事だ」お嬢様は肩を竦めました。「視線を合わせた時、その女性にはアレの本性が解ったのだろうよ。目は口程に……と昔から言うしな。勿論、並の意思では抗し切れんだろうが……自分を餌としか見ない男に、そんな女性が恋する筈もない」
確かに――と納得してしまったのは、一応、彼には内緒です。
―了―
遅くなった、遅くなった(汗)
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「振られた腹いせにか? 情けない」お嬢様のにべもないお言葉。「仮にも吸血族ともあろうものが……」
「その吸血族を恐れもせず、振ったんだよ。その女は」忽ち不機嫌そうな顔になり、彼は言い募りました。「私の目を見ても怯みもせず、聖水をぶち掛けようとしたんだ! とんでもない女じゃないか!」
吸血族の皆様の視線には、相手を魅了する力があると言われております。それでなくても、姿形において魅力的な方々が多いのですが、人の身でこれに抗するのはかなりの意志力を必要とする筈です。
そして聖水やそれに類する、聖別された物は私達妖にとっては忌むべき物……。確かにそれを掛けられては、ダメージは避けられないでしょう。
さて、エーベルは憤慨の様子でしたが、お嬢様は話を聞いて、逆にその女性に対して賞賛の言葉を発せられました。
「人間にしては大したものじゃないか。仮にも吸血族のお前の視線が通じなかったと言うのだから」面白そうに、口元に笑みを刻まれて。
「仮にも仮にもって、引っ掛かる言い方をするなぁ」面白くないのは当然、エーベルです。「それは君の家程古い家柄でもないけれどね。それでも人間にしてやられるなんて、あるまじき事態だよ」
だから呪いを掛けてやるんだと、彼は不吉な笑みを浮かべました。
「只、私だけでは力が足りないみたいで……力を貸してくれないか? フラウ」
「つくづく……情けない話だな、エーベル?」溜め息を一つついて、お嬢様は仰せになられました。「力を使いながらも人間に振られ、その挙げ句に他者の力を借りて迄の嫌がらせとは……。その方が余程――誇り高き吸血族にあるまじき事態だろうが!」
お嬢様の一喝に、エーベルはびくりと身を竦ませました。
「それは……けど、馬鹿にされっ放しじゃあ、私の矜持が……」
「その矜持が少しでもあるのなら、子供の様な真似はお止め。何故視線を使っても、相手を魅了出来なかったのか、考え直してみるのだな」
エーベルは尚もぶつぶつと申し立てておりましたが、お嬢様は聞く耳持たぬという様子で、私に一言、お命じになられました。
「カメリア、そろそろ朝も近いだろう。戸締りを頼むよ――いつもの様に」
「はい」私は頷いて――愛用の箒から短い槍を抜き放ちました。
途端にエーベルが、先日の事を思い出したのかその場から飛び退きました。玄関からも出て、危うくポーチの石段を踏み外しそうになって、慌てて大きな蝙蝠へと変じました。
『だから、何で銀の槍なんか持たせてるんだよ! 物騒だなぁ!』そう文句を言いながら、蝙蝠は霧の中に飛び去って行きました。
息を一つついて、私は槍を戻しました。玄関を閉じ、きっちりと戸締り。もうあんな招かれざる客は御免です。
ああ、嫌でも絨毯の染みが目に付きます。
それにしても――と、私はお嬢様を振り仰いでお伺い致しました。
「本当にどうして、その女性には効かなかったのでございましょうか?」
「何、相手にも選ぶ権利はあるという事だ」お嬢様は肩を竦めました。「視線を合わせた時、その女性にはアレの本性が解ったのだろうよ。目は口程に……と昔から言うしな。勿論、並の意思では抗し切れんだろうが……自分を餌としか見ない男に、そんな女性が恋する筈もない」
確かに――と納得してしまったのは、一応、彼には内緒です。
―了―
遅くなった、遅くなった(汗)
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Re:冬猫
人間でも妖でもやっぱりこういう男はね~。
絨毯、一時人間界で流行った小さいのを組み合わせるタイプにしないかと提案中だとか(笑)
絨毯、一時人間界で流行った小さいのを組み合わせるタイプにしないかと提案中だとか(笑)
Re:おはようございます♪
エーベル、どうも小物感が漂います(^^;)
誇りを持たんかー。
そして絨毯を汚すなー(笑)
誇りを持たんかー。
そして絨毯を汚すなー(笑)
Re:吸血族^^
ええ人……妖ですが(笑)
妖にも人間にも色んなのが居る様で……。然もエーベル、どこか上から目線な分、質悪いっす。
妖にも人間にも色んなのが居る様で……。然もエーベル、どこか上から目線な分、質悪いっす。
Re:こんにちは♪
有難うございます(^^)
電池も妄想とか言われた日にはどうしたものかと(苦笑)
エーベル君……問題児として目を付けられてたりして。
電池も妄想とか言われた日にはどうしたものかと(苦笑)
エーベル君……問題児として目を付けられてたりして。
Re:無題
エーベル……やっぱり小者だから?(笑)
やっぱり男女別にしてもあんな奴には惚れんでしょう(^^;)
やっぱり男女別にしてもあんな奴には惚れんでしょう(^^;)
こんばんわ
おぉ、カメリアさんだ^^
何だか小悪党な吸血鬼さんですね。嘘を吐いてもすぐにバレそうな・・・^^;
でもいいなぁ、こういう小者なキャラw
しかし・・・あの言葉の羅列から話が出来るとは、流石飼い主(?)ですね!w
何だか小悪党な吸血鬼さんですね。嘘を吐いてもすぐにバレそうな・・・^^;
でもいいなぁ、こういう小者なキャラw
しかし・・・あの言葉の羅列から話が出来るとは、流石飼い主(?)ですね!w
Re:こんばんわ
最早飼い主を困らせる事を趣味にしているんじゃないかと思われる夜霧サン☆
エーベルは……登場第一作よりレベルダウンしてる気が(笑)
エーベルは……登場第一作よりレベルダウンしてる気が(笑)