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そう言えば屋敷を囲む森の上空を徘徊する蝙蝠達が、一所に集まって鳴き交わしております。
何かあったのでしょうか?
この妖の住まう屋敷の周囲には深い森が広がっております。その中にはぽっかりと開いた草原や、藻で彩られた深い沼なども点在しているのです。その中には様々な妖の塒となっている場所もあったり、彼等独自の世界へ繋がっている所もあるとか無いとか……。
そんな沼の一つ、未だ森の入り口に程近い辺りに、蝙蝠が群れ集っているのでございます。蝙蝠は殆どがこの屋敷の主様達の眷属。門番の役目も仰せ付かっておりますから、これはやはり何事かあったのかも知れません。
私は些か不安げに、蝙蝠と視点を共有出来るお嬢様のお顔を見上げました。
お嬢様は吸血鬼たる自らの姿の映らない鏡の前に立たれ、そっと、その鏡面に指を触れました。私にも見えるようにとのお心遣いでしょう。
そして映し出されたのは、暗い表面に月を映す一つの沼と、数人の人間達。
その内一人がゆっくりと、沼の中へと足を踏み入れる瞬間でございました。
「一体何を……」私は呟きました。
人間達は皆、一様に暗い表情で、その目には只々、沼の表面の暗さが映るばかり。森の入り口に近いとは言え、普段は、然もこんな夜中に人が立ち入る様な場所ではございません。寧ろ日暮れて後、この森に近付く事を、人間達は忌み嫌っていた筈。
これはもしや……。
「集団自殺か」溜め息と共に、お嬢様が私の疑念をはっきりと言葉にされました。「迷惑な輩だな」
確かに迷惑な話ではあります。あれだけの人間が姿を消したとなれば、当然捜索もされるでしょうし、それぞれの背景からこの森に捜索の手が伸びる事も想像に難くはないですから。流石にこの妖の屋敷に迄、辿り着けるかどうかは兎も角。
大体、あれだけの人間が沼地で亡くなって、その魂が迷いでもしたら……また鬼火が増えるじゃありませんか! まぁ、灯には使えますけれど。
「如何致しましょう? お嬢様」私はお尋ね申し上げました。
基本的にはこの森に入って来た人間には――そんな事は滅多に無いのですが――不干渉です。こちらに関わる様な事をしない限りは。
今回も、彼等が勝手に自殺に踏み切るだけ……なのですが……。
私の様な生き人形と違って、ごく自然に賜った命を自らの意思で投げ出そうとする者に、私は何処かしら苛立ちを感じておりました。樹も石も、それぞれの生を持つ。けれどもそれらは自らの環境を選ぶ事も、本当に最低限しか出来ない――人間には足も手も、意思もあると言うのに、それを放棄するなんて。
しかし彼等にはそれぞれの理由もあるのでしょうし、況してや妖の私が説得出来るものでもないでしょう。力ずくで止められる程の力は、私にはございません。
私がやきもきしていると、ふとお嬢様が鏡の一点を指差されました。
見れば沼を見下ろす一本の大木。
その枝に、大き目の黒猫が一匹――普通の猫の姿を採ってはいますが、あれは……。
「ケットシー様?」私は先日お会いした長靴を履いた猫の妖の姿を思い描きました。
と、金色の目が一瞬こちらを見て笑った様な気がした後――人間が足を踏み入れていた沼から無数の蒼白い鬼火が立ち昇りました。
途端に悲鳴、水音、遽しい足音が、それ迄丸で何かの儀式場の様に粛々としていた沼地に広がりました。既に腰の辺り迄水に浸かっていた最初の人間も、慌てて方向転換し、藻に足を取られてもがきながらも岸に上がって行きます。
正直、私は呆気に取られました。
彼等――何しに来たんでしょう?
「自殺しようとしたものの、自らの行く末を目にして恐れをなしたか、それとも単に妖を見て呼びに来たかと恐れ、生き延びたいと思ったか……。どちらにしてももう来るまいな」お嬢様はそう仰って、お笑いになられました。「結局、未だ死ぬには覚悟が足りなかったという事だ」
「はあ……」私は曖昧に頷きました。確かに死の決意があれば鬼火如き、恐れるものではないでしょう。「それにしてもあの鬼火は……あら、もう消えてますね」
「あんなもの、ケットシーが一時的に呼び起こしたに過ぎん。用が済んだら、眠りの邪魔だろう。彼にとっては」
なるほど、道理でタイミングよく現れたものです。
見ればケットシー様は既に大きく伸びをして、大欠伸。
蝙蝠達も三々五々、散って行きます。
と、その中の一匹が降下してケットシー様の横に――と思ったら、先日ケットシー様の力で蝙蝠達と同じ羽を頂いた黒猫、フリューゲルではありませんか。どうやら蝙蝠達に交じって飛ぶ迄に上達した様子。
そしてケットシー様と鼻を突き合わせて挨拶した後、樹の上で寄り添って寝てしまいました。
いつもの様に、平穏な静けさを取り戻した森の中で。
―了―
ケットシー様再登場! 今回でか猫姿ですが(^^;)
おっちゃん特製鬼火は化け猫顔が付いている、とか(笑)
何にしてもそれで逃げる位なら未だ未だ本気じゃないわね。
ケットシーのおっちゃん、結構うろうろしてるみたい(笑)
集団自殺する位なら、その悩みを抱えた集団でお互いの悩みを話し合うとかした方が建設的ですよね(-.-;)
誰も自分を解ってくれないんだ! なんて言うのに限って周囲が解って上げられる程には自分を出してないとかね。
自殺、自己憐憫と自己陶酔は似ている気がします☆
集団自殺って、意味分かんないですよね。
みんなで死ねば怖くないのかしら・・・
今、夜霧ちゃんはお友達のところへお出かけ中みたいです。すごい可愛かったから記念写真とっときました♪
皆で死ねば怖くない、ならば皆で生きるのも怖くないんじゃない? って思う。
徘徊する心算だったのに門番にされたの?
うんうん、門番はじっとしてないといけないからね、共有は出来ないね。
はぁ~、訳解らん☆
まずかったらコメントごと削除お願いします。
PW入れてなかったので、消せないんです。
ごめんなさいm(__)m
無事、メールから見られました♪
やっぱり余所様にお邪魔しても訳の解らない事言ってますね、夜霧(笑)
ちょっとした事で、思い止まれるんだよねぇ。
実は私にも経験が・・・。
悩みで、何も食べてなかったから、お腹が鳴ったの、「ぐぅ~」って。
そしたらバカらしくなった。
蝙蝠・塒・眷属・遽しいは、ルビ振った方が良いかも~。
因みに、私は遽しいが読めませんでした~。(^_^;)
>冬猫さん
塒はねぇ、この前、『Qさま』出たばかりなの~。
因みに『とぐろ』とも読むんだよ~。漢検1級クラスの難漢字。
は~い、ルビ振りしときま~す。
難読漢字って、結構連想で読めてしまう事もあるけど……蝙蝠って何で虫……?(^^;)
凸凹黒にゃんコンビ結成?^^
私はお嬢様のファンで~す!
集団自殺ねぇ・・・・
皆一緒なら怖くないってやつかな?
死にたいと思った事は何度かあるけれど、なかなか踏み切れないもんだよね、残される人や猫の事考えたら出来なかったなぁ・・・・
送るべき人も猫も見送って、きちんと後始末つけてから死のうと考えたら死ねなくなっちゃうネ!
人間は集団になるとなかなか異を唱えられなくなるからねぇ。一人が思い留まっても引き摺られちゃう……。個人なら止められたかも知れないのに。それを狙っての集団なのかも知れないけど。
そんな仲間募集する位なら悩みを話せる友達を募集した方がマシですよね。ま、友達なんて募集や求人でなれるものでもないでしょうけど。