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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「やっぱり紗智子には無理だよ。此処で待ってるんだ」巨木の幹に手を掛けて、孝雄は妹にそう告げた。小学校五年生の自分でも、登るには苦労する樹だ。一年生の紗智子に登れる訳がない、と。
 しかし妹は地団太を踏みそうな勢いで、駄々を捏ねる。
「お兄ちゃん達だけずるい! あたしも木の上から下の街、見たい!」
「聞き分けのない事言うなよ」孝雄は溜息をついた。樹上では仲間が困った様な、苦笑を浮かべている。
 樹は高台の突端近くにあり、その上からは眼下に広がる住宅地がまさに一望出来るのだ。
 勿論、高台そのものからも充分にその眺望は堪能出来るのだが、此処は格別なのだ。紗智子は未だ登った事はないが、兄やその友達の話に、そこからの眺めにかなりの期待を抱いているらしい。
 しかし、そんな場所にあるだけに、危険でもあった。万が一足を滑らせて、高台の外側に落ちるような事にでもなったら……。本当は学校でも、登らないようにと指導されていたし、付近にも立て看板が――辺りの景観を壊さないよう、控えめに――注意を促していた。
 だから、自分達は自分達の責任で、その樹に登る事はしても、紗智子には登らせてはならない――それが彼等の中では暗黙の了解となっていた。
 孝雄と紗智子の両親は共働きで、彼は絶えず妹の面倒を見ていた。その分、友達との遊びにも制限を受けたけれど、彼らもいつも協力的に、紗智子も加わって出来る遊びを考案してくれた。
 それでも、此処だけは譲れなかったのだが……。
 いつ迄も、小さいから駄目だ、では通らないだろうな――孝雄は頬を膨らませた妹を見下ろして、一人ごちた。

 そんなある日、夜に、子供達だけであの高台に集まろうという話が持ち上がった。流星群を見に行こうというのだ。
 孝雄は迷った。かなり遅い時間だが、彼が行くと聞けば紗智子は仲間外れにするなと、意地でも付いて来るだろう。然も、場所が場所だ。友達と一緒に見たいのは山々なのだが……。
「早く寝かし付けて、そっと抜け出して来るのは?」仲間の浩太が言った。
「あいつ、僕が隣に寝てないと直ぐに目を覚まして、捜しに来るんだ。妙に勘がよくって困るよ」
「でも、その時間ならお父さんお母さん、帰ってるだろ?」
「二人ともご飯食べて、お風呂入ったら直ぐにぐっすり。紗智子と逆ならよかったのに」孝雄は肩を竦める。
「……紗智子ちゃんが、あの樹に登りたいと思わなけりゃあ、いいんだよな」
「まぁ、下で見る分には危険はないし……。何かいい案でもあるのかい?」
「うん。先ず、あの樹に登らせるのさ」
 事も無げに言う浩太に、孝雄は目を丸くして、驚きの声を上げてしまった。

「紗智子、ほら、この枝に足掛けて」翌日の昼、直ぐ後ろに付いて逐一指示を出しつつ、孝雄は樹を登っていた。足を滑らせやしないかとはらはらし通しだ。実際、枝の間隔が彼女には広過ぎる所など、危ない所はあったが、仲間達の助力もあって、どうにか、彼女は下の街に向かって張り出した枝の付け根迄到達する事が出来た。
 これで満足して貰おうって事なのかな――孝雄は浩太の考えを推測する。確かに一度登ってしまえば、満足するかも知れないが、逆に味を占める事にもならないだろうか?
 現に紗智子は自分の力――実際にはそれだけではなかったのだが――で登り切った事で、誇らしげにしている。
 そうして、楽しみにしていた樹上からの景色を味わおうと少し身を乗り出そうとした。
「あっ、危ないよ、紗智子ちゃん!」浩太が慌てて抱き止める。「この先の枝は細いからね。身を乗り出しちゃ駄目だよ。ほら、此処からでも充分、下の街は見えるからね」
「う、うん……」自分では危なかったという自覚は乏しいのだろう。紗智子はぼんやりと頷き、改めてその場から、下を見下ろした。
 しかし、孝雄はこの樹をよく知っていたから、内心、首を傾げていた。
 枝は確かに細くなるが、子供の体重を支えるには充分だった。そして今、紗智子が居る位置からでは、高台の突端が邪魔して下の街は外縁部の公園地帯位しか、見えないのだった。
 案の定、自分や友達の家が見えるかと期待していたらしい紗智子は、それでも暫く伸び上がって見たりなどしていたものの、やがて詰まらなさそうに、もう帰る、と言い出した。
 後はまた皆で力を貸して、安全に彼女を下に降ろしたのだった。

 そして問題の夜。
 流星群を見に集まった孝雄達はあの樹に登って、その光景を味わった。
 星が一つ、二つと流れる様に歓声を上げながら、時折孝雄は樹の下を見下ろす。そこにはやはり付いて来た紗智子の姿があった。彼女も――時に木の枝に遮られつつも――この天体ショーを楽しんでいる様だった。
 そして孝雄と目が合っては、不思議そうな顔をするのだった。
 あんな下の街も見えない所に登って、何が楽しいのかしら、と。
 孝雄達が居るのは、先日彼女が止められた枝の辺り。
 下の街が見下ろせないその枝は、しかし上には視界を遮る枝葉が無く、空を見上げるには絶好の場所だった。
 ごめんな、紗智子――内心で詫びつつも、孝雄達は手が届きそうな程の星空を、堪能したのだった。

                      ―了―

 ここの所、天気がイマイチ~(--;)

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良かった
誰も死ななくて

ドキドキしながら読んだよ
なっち 2009/10/24(Sat)02:37:26 編集
Re:良かった
今回は日常系にしてみました^^
巽(たつみ)【2009/10/24 21:34】
おはよう!
態と危なくないぐらいの高さから落させて、恐怖感を教えるのかと思ったよ。

上に兄ちゃんの居る女の子は、必然的にお転婆になり。(笑)

そういえば、仲間由紀恵さんも上に兄が居て、良く木登りしていたとか。
今からは想像できんけどね。(笑)
afool URL 2009/10/24(Sat)10:15:53 編集
Re:おはよう!
仲間由紀恵さん、それはなかなか想像出来ない(^^;)
やっぱりお兄ちゃんに付いて遊んでると……。でも、今の子は木登りとか、しないだろうなぁ。
巽(たつみ)【2009/10/24 21:37】
こんにちは♪
なかなか良い作戦ですなぁ
そして兄ちゃん優しい☆
こんな子ども達の「群れ」最近見ないですね…
ちょっと淋しいかもw
つきみぃ URL 2009/10/24(Sat)13:30:43 編集
Re:こんにちは♪
群れ(笑)
歳の違う子達が集まると、子供なりに小さい子に対する気遣いとか、付き合い方を覚えていく様な気がするんですが……。一人っ子が多い所為ですかねぇ。どうしても幼稚園や学校で会う、同い年の子との付き合いが多いみたいですねぇ、最近は。
巽(たつみ)【2009/10/24 21:41】
こんばんは
妹を枝から落として、『めんどくさい妹は、もういないから大丈夫…』って展開を想像しちゃったよ(;^_^A

小さい頃、姉について歩いてばかりだった私には、多少耳が痛い(笑)

冬猫 2009/10/24(Sat)19:27:12 編集
Re:こんばんは
>妹を枝から落として~

それも考えたけどね(^^;)
偶にはこういうお兄ちゃん達もいいかなぁ、と。
巽(たつみ)【2009/10/24 21:45】
こんばんは♪
浩太君!なかなか知能犯だねぇ~♪
でも良い友達だよネ!

皆が怪我もなく良かった!
流星群かぁ見たかったなぁ・・・・
クーピー URL 2009/10/24(Sat)20:00:42 編集
Re:こんばんは♪
こちらも生憎の曇り空(T-T)
浩太君、こういう子が仲間に居ると面白いかなぁって、考えてみました♪
巽(たつみ)【2009/10/24 21:48】
いまさらですが・・・
afoolさん、
上に兄ちゃんの居る女の子は、必然的にお転婆
ということですが、
「おとなしく、女の子の遊びしかしなかったです」と本人談(笑)

なっち 2009/10/28(Wed)17:32:16 編集
Re:いまさらですが・・・
だそうですよ、afoolさん(笑)
巽(たつみ)【2009/10/28 21:38】
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