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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 月を見上げる――ゆっくりと流れる雲に遮られながらも、冴え冴えとした光で地上を照らしている。
 地を見下ろす――雲の影から出て、月光に照らされた森は、それでも尚、黒々としていた。
 その中間に当たる空中に身を置いて、黒衣の少女は黒い手帳を繰った。長い黒髪が風にたゆたう。
「こんな森の中でも、人は住んでるのね」風に紛れる程の、呟き。「まぁ、もう直ぐ、誰も居なくなる訳だけど」
 そうして少女は、丸で階段を一歩一歩降りるかの様に、地上へと降りて行った。

 黒い森の中、ぽっかりと開かれた空間に瀟洒な屋敷。
 こんな所でも、いや、こんな所だからこそ必需品なのだろう。車道は意外にも綺麗に整備されている。近くの街へと続く、たった一本の、迷い様もない道。
 だが、この家が建てられ、人が暮らすようになってから、この道を通る車は公用車を除いては幾らも無い。ここ数年に至ってはたった一台の車が往復しているに過ぎないのではないだろうか。
 そんな道を踏み締めて歩きながら、少女は考えた――此処に来るのは何度目だろう、と。
 死神としての役目を負ってから。

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「そんなに死にたいの?」非常に淡白な、しかしはっきりとした声音でただしたのは、黒衣の少女。長い真っ直ぐな黒髪が、四階建て校舎屋上の風になびいている。年の頃は十五、六と、この高校に通っていて不自然ではないのだが、制服姿でもなく、また実際に此処の生徒でもなかった。
 対して、その声に慌てて振り向いたのは制服であるブレザーを着込んだ女生徒。生まれ付きらしい縮れた髪を揺らしながら、驚いた顔で相手を見詰めている。しかし振り向きはしても放そうとしていないその手には、屋上を囲うフェンスがしっかりと握られていた。
「そんなに死にたい?」再度、少女の声が響いた。「どうして?」
「……だって、もう直ぐ学校が始まるんだもん」気圧される様に、制服の少女は答えた。
 早くも夏休みは残すところ後数日となり、生徒達は宿題に追われる者、遊び残した事は無いか情報誌をひっくり返す者、後僅かとばかりに朝の惰眠を貪る者など、様々だった。
 そんな日に登校して、部活に勤しむでもなく職員室から失敬した鍵を使って屋上に上がり込んだ少女。その目的はフェンスに張り付いている、この状況を見れば一目瞭然だった。
「学校が始まったら、また苛められるんだもん!」彼女は言い、誰しもが眉をひそめる様な自らの体験を、別れの駄賃とでも言う様に吐き出した。「だから……だから新学期なんて来なければいいのに!」

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「昨日、それが自らが犯した罪と、意識したの?」
「ああ。それでもなけなしの勇気で無明の闇みたいなこの気持ちを晴らすよう、集中したけれど……それは成功しなかったよ」
 最上階の明るい病室に差し込む日差しを浴びて、しかしベッドに上半身を起こした老人の表情は暗かった。目尻や口元には穏やかな笑い皺を刻んではいたが、その明らかに作られた笑みは、逆に見るものに痛ましい印象を与えた。
「仕方ないのだろう。それが罪に対する罰なのだろうから。例え、人間の法的に裁ける類のものではないとしても――私は娘を……お前の母親を殺してしまった」

 もう何十年前の事だろうかと、老人は過去を振り返った。
 決して娘を不幸せにする心算など無かった。それは神に誓ってもいい。
 だからこそ、家柄と真面目さと堅実が取り得の男を娘の婿に選び、当時娘が仄かな好意を示していた、決して仕事振りにも人格的にも問題は無いが、何の後ろ盾も無い男を地方に飛ばした。当時の彼にはそれだけの力があった。
 だが、娘を幸せにする力は、持っていなかった――元より、そんなものは誰も持ってはいないのだ。他人の幸せは、その本人にしか解らないし、掴み取れない。老人が押し付けた幸せは、只の自己満足という老人自身の幸せに過ぎなかった。
 望まぬ結婚生活の中、それでも娘は孫娘を産み、慈しんだ。自らの半身として。
 そして成長した孫娘にそろそろ相応しい相手を……と老人が口にした時、娘は絶望した。せめてこの娘だけでもと繋ぎ育ててきた望みが、断ち切られたのだ。
 老人には権力という力があった。対する自分には、その老人の娘という肩書しか無い事が、彼女にはよく解っていた。娘と二人、逃げ出したとしても、苦労知らずのお嬢様育ちの身。その過去をかなぐり捨てて死に物狂いで職を得、生きていく事は容易ではなく、また仮に出来たとしても、父の手からは逃れられない――この世では。
 だから彼女は、娘と二人、この世からの退場を選んでしまった。

「なのに一週間前、お前が現れた時は驚いたよ。心臓が止まるのではないかと思った」老人は苦笑する。「だが……あの当時と同じ姿。お前はやはり、この世の者ではないのだね?」
 今の老人から見れば曾孫と言ってもおかしくない様な、十五、六の姿をした少女は、こくりと頷いた。
「そしてお前はこう言った――自分の罪を思い起こしてみろ、と。それでも一週間近く考え続け、いや、自己正当化をし続けてやっと、気付き、認める事が出来たよ。待たせて済まなかった。それでお前はわしを……お迎えに来てくれたのかね?」
 年老いた老人の命はもう長くない。それは増える薬の量、点滴の回数、医師や看護婦のそれとない表情、それらから疾うに窺い知れていた。
 こうして自らの罪を静かに認め、孫娘の導きで黄泉路に旅立つ、それも悪くないではないか。
 老人は心の闇に、一筋の明かりが差した様だった。
 
 だが少女はきっぱりと頭を振り、宣言した。黒い手帳を開いて。
「貴方の死期は約一年後。私は仕事序でに来ただけよ。これから貴方は今言っただけじゃない、自分の罪の数々を走馬灯の様に思い起こしながら、過ごすのね。来年、私か他の誰かが、その命を狩りに来る迄ね」
 茫然とする老人を最早振り返りもせず、少女は黒い服を翻して窓へと向かい、赤々と燃える夕陽に解ける様に、消えて行った。
 慌てて窓辺にまろび転びつ近寄った老人の耳に、少女の声だけが届いた。
「死に物狂いならね、死神にだってなれるんだよ」

 孫娘を死神にしてしまった罪、とよろよろとベッドに戻った彼は指折り、数え始めた。それは決して明ける事のない無明の夜の始まり。

                      ―了―

 ねーむーいーよー!(駄々捏ね)
 老人の罪、ちょっとベタ過ぎたかなと思いつつ……そもそも、無明みたいな集中って何だ!? 夜霧!!

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