〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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「昨日、それが自らが犯した罪と、意識したの?」
「ああ。それでもなけなしの勇気で無明の闇みたいなこの気持ちを晴らすよう、集中したけれど……それは成功しなかったよ」
最上階の明るい病室に差し込む日差しを浴びて、しかしベッドに上半身を起こした老人の表情は暗かった。目尻や口元には穏やかな笑い皺を刻んではいたが、その明らかに作られた笑みは、逆に見るものに痛ましい印象を与えた。
「仕方ないのだろう。それが罪に対する罰なのだろうから。例え、人間の法的に裁ける類のものではないとしても――私は娘を……お前の母親を殺してしまった」
もう何十年前の事だろうかと、老人は過去を振り返った。
決して娘を不幸せにする心算など無かった。それは神に誓ってもいい。
だからこそ、家柄と真面目さと堅実が取り得の男を娘の婿に選び、当時娘が仄かな好意を示していた、決して仕事振りにも人格的にも問題は無いが、何の後ろ盾も無い男を地方に飛ばした。当時の彼にはそれだけの力があった。
だが、娘を幸せにする力は、持っていなかった――元より、そんなものは誰も持ってはいないのだ。他人の幸せは、その本人にしか解らないし、掴み取れない。老人が押し付けた幸せは、只の自己満足という老人自身の幸せに過ぎなかった。
望まぬ結婚生活の中、それでも娘は孫娘を産み、慈しんだ。自らの半身として。
そして成長した孫娘にそろそろ相応しい相手を……と老人が口にした時、娘は絶望した。せめてこの娘だけでもと繋ぎ育ててきた望みが、断ち切られたのだ。
老人には権力という力があった。対する自分には、その老人の娘という肩書しか無い事が、彼女にはよく解っていた。娘と二人、逃げ出したとしても、苦労知らずのお嬢様育ちの身。その過去をかなぐり捨てて死に物狂いで職を得、生きていく事は容易ではなく、また仮に出来たとしても、父の手からは逃れられない――この世では。
だから彼女は、娘と二人、この世からの退場を選んでしまった。
「なのに一週間前、お前が現れた時は驚いたよ。心臓が止まるのではないかと思った」老人は苦笑する。「だが……あの当時と同じ姿。お前はやはり、この世の者ではないのだね?」
今の老人から見れば曾孫と言ってもおかしくない様な、十五、六の姿をした少女は、こくりと頷いた。
「そしてお前はこう言った――自分の罪を思い起こしてみろ、と。それでも一週間近く考え続け、いや、自己正当化をし続けてやっと、気付き、認める事が出来たよ。待たせて済まなかった。それでお前はわしを……お迎えに来てくれたのかね?」
年老いた老人の命はもう長くない。それは増える薬の量、点滴の回数、医師や看護婦のそれとない表情、それらから疾うに窺い知れていた。
こうして自らの罪を静かに認め、孫娘の導きで黄泉路に旅立つ、それも悪くないではないか。
老人は心の闇に、一筋の明かりが差した様だった。
だが少女はきっぱりと頭を振り、宣言した。黒い手帳を開いて。
「貴方の死期は約一年後。私は仕事序でに来ただけよ。これから貴方は今言っただけじゃない、自分の罪の数々を走馬灯の様に思い起こしながら、過ごすのね。来年、私か他の誰かが、その命を狩りに来る迄ね」
茫然とする老人を最早振り返りもせず、少女は黒い服を翻して窓へと向かい、赤々と燃える夕陽に解ける様に、消えて行った。
慌てて窓辺にまろび転びつ近寄った老人の耳に、少女の声だけが届いた。
「死に物狂いならね、死神にだってなれるんだよ」
孫娘を死神にしてしまった罪、とよろよろとベッドに戻った彼は指折り、数え始めた。それは決して明ける事のない無明の夜の始まり。
―了―
ねーむーいーよー!(駄々捏ね)
老人の罪、ちょっとベタ過ぎたかなと思いつつ……そもそも、無明みたいな集中って何だ!? 夜霧!!
「ああ。それでもなけなしの勇気で無明の闇みたいなこの気持ちを晴らすよう、集中したけれど……それは成功しなかったよ」
最上階の明るい病室に差し込む日差しを浴びて、しかしベッドに上半身を起こした老人の表情は暗かった。目尻や口元には穏やかな笑い皺を刻んではいたが、その明らかに作られた笑みは、逆に見るものに痛ましい印象を与えた。
「仕方ないのだろう。それが罪に対する罰なのだろうから。例え、人間の法的に裁ける類のものではないとしても――私は娘を……お前の母親を殺してしまった」
もう何十年前の事だろうかと、老人は過去を振り返った。
決して娘を不幸せにする心算など無かった。それは神に誓ってもいい。
だからこそ、家柄と真面目さと堅実が取り得の男を娘の婿に選び、当時娘が仄かな好意を示していた、決して仕事振りにも人格的にも問題は無いが、何の後ろ盾も無い男を地方に飛ばした。当時の彼にはそれだけの力があった。
だが、娘を幸せにする力は、持っていなかった――元より、そんなものは誰も持ってはいないのだ。他人の幸せは、その本人にしか解らないし、掴み取れない。老人が押し付けた幸せは、只の自己満足という老人自身の幸せに過ぎなかった。
望まぬ結婚生活の中、それでも娘は孫娘を産み、慈しんだ。自らの半身として。
そして成長した孫娘にそろそろ相応しい相手を……と老人が口にした時、娘は絶望した。せめてこの娘だけでもと繋ぎ育ててきた望みが、断ち切られたのだ。
老人には権力という力があった。対する自分には、その老人の娘という肩書しか無い事が、彼女にはよく解っていた。娘と二人、逃げ出したとしても、苦労知らずのお嬢様育ちの身。その過去をかなぐり捨てて死に物狂いで職を得、生きていく事は容易ではなく、また仮に出来たとしても、父の手からは逃れられない――この世では。
だから彼女は、娘と二人、この世からの退場を選んでしまった。
「なのに一週間前、お前が現れた時は驚いたよ。心臓が止まるのではないかと思った」老人は苦笑する。「だが……あの当時と同じ姿。お前はやはり、この世の者ではないのだね?」
今の老人から見れば曾孫と言ってもおかしくない様な、十五、六の姿をした少女は、こくりと頷いた。
「そしてお前はこう言った――自分の罪を思い起こしてみろ、と。それでも一週間近く考え続け、いや、自己正当化をし続けてやっと、気付き、認める事が出来たよ。待たせて済まなかった。それでお前はわしを……お迎えに来てくれたのかね?」
年老いた老人の命はもう長くない。それは増える薬の量、点滴の回数、医師や看護婦のそれとない表情、それらから疾うに窺い知れていた。
こうして自らの罪を静かに認め、孫娘の導きで黄泉路に旅立つ、それも悪くないではないか。
老人は心の闇に、一筋の明かりが差した様だった。
だが少女はきっぱりと頭を振り、宣言した。黒い手帳を開いて。
「貴方の死期は約一年後。私は仕事序でに来ただけよ。これから貴方は今言っただけじゃない、自分の罪の数々を走馬灯の様に思い起こしながら、過ごすのね。来年、私か他の誰かが、その命を狩りに来る迄ね」
茫然とする老人を最早振り返りもせず、少女は黒い服を翻して窓へと向かい、赤々と燃える夕陽に解ける様に、消えて行った。
慌てて窓辺にまろび転びつ近寄った老人の耳に、少女の声だけが届いた。
「死に物狂いならね、死神にだってなれるんだよ」
孫娘を死神にしてしまった罪、とよろよろとベッドに戻った彼は指折り、数え始めた。それは決して明ける事のない無明の夜の始まり。
―了―
ねーむーいーよー!(駄々捏ね)
老人の罪、ちょっとベタ過ぎたかなと思いつつ……そもそも、無明みたいな集中って何だ!? 夜霧!!
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Re:無題
あはは(^^;)
普通にお迎えになんて来ないのだ(笑)
普通にお迎えになんて来ないのだ(笑)
Re:こんばんは♪
普通ならそれ迄に悔いているだろう事を全く気付かずにいた祖父さんな訳で……一生分を一年ならって思っちゃう私は鬼?(笑)
Re:こんばんは~
色々やってたんでしょうね~。指折り数えちゃう程。指足りるんかな?(苦笑)
うーむー
やり方は、どーであれ娘の幸せを爺さん願っていたのは間違いないのにね。死に神になる必死さがあるならば、いくらお嬢様育ちと言っても、母親(娘)は爺さん(父)説得するか、何か出来たんじゃ無いかな?って気がするのよね~
死ぬよりは難しい事だけどさ。なんかね。
死ぬよりは難しい事だけどさ。なんかね。
Re:うーむー
死神になったのは母親(娘)じゃないですよ~?
ある意味母親の分も含めて恨み募ってる孫娘☆
人を傷付けていると気付かない、詰まり自分が全て正しいと思っている人の説得は、はっきり言って困難を極めます。然も権力持ってるから質悪いや。
ある意味母親の分も含めて恨み募ってる孫娘☆
人を傷付けていると気付かない、詰まり自分が全て正しいと思っている人の説得は、はっきり言って困難を極めます。然も権力持ってるから質悪いや。
Re:安易に
幾ら権力があっても、人に押し付けられた幸せなんてものは幸せじゃないんだよ、じーさん。
例え苦労が無くても、自分が選ぶ事を禁じられた道が気になるんだよね。況してそれをまた唯一の望みである我が子に手を出されるとなると……殺すか殺されるか?(怖)
例え苦労が無くても、自分が選ぶ事を禁じられた道が気になるんだよね。況してそれをまた唯一の望みである我が子に手を出されるとなると……殺すか殺されるか?(怖)
Re:おはよう!
どうしても原因(じじい)の方に向かっちゃうんですよね~。
寧ろ母親の恨みも加わってる様で……。
孫娘が現れる迄、過去を悔いる事もしなかった爺さんだからねぇ。他にも色々恨まれてる?
寧ろ母親の恨みも加わってる様で……。
孫娘が現れる迄、過去を悔いる事もしなかった爺さんだからねぇ。他にも色々恨まれてる?
Re:死神ですか・・・
寧ろ怖いのはこれ迄悔いる事を知らずに権力振るってたじじいじゃないかと。
迷惑千万。
迷惑千万。
ん?
なんか後味悪い~。
最後、脅しみたいになっちゃってるよ
権力を振りかざして娘を自分の思うとおりに
動かし、孫にまで思うとおりに動かそうとする・・・
自分の二の舞にはしたくないと、恐れたのは解らないでもないけど、娘(孫)を道連れにするのは大きな間違い。
じじぃの自己中ぶりも勝手やけど、
娘も自己中すぎ!(やはり遺伝なのか!!)
最後、脅しみたいになっちゃってるよ

権力を振りかざして娘を自分の思うとおりに
動かし、孫にまで思うとおりに動かそうとする・・・
自分の二の舞にはしたくないと、恐れたのは解らないでもないけど、娘(孫)を道連れにするのは大きな間違い。
じじぃの自己中ぶりも勝手やけど、
娘も自己中すぎ!(やはり遺伝なのか!!)
Re:ん?
他に逃げ場が思い付かなかったんですよ。自分だけ行っても孫娘はそれこそ、自分以上に不自由な事になるだろうし。
人が選ぶ権利を奪った罪にこれ迄気付かなかった様な、自分が全て正しいと勘違いしているじじいに、説得は効かなさそう。
人が選ぶ権利を奪った罪にこれ迄気付かなかった様な、自分が全て正しいと勘違いしているじじいに、説得は効かなさそう。