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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「眼が色違いの白猫って珍しいんすか?」いつもの様に麦酒のグラスを傾けながら、牧武は隣に掛けた瀧に尋ねた。
「眼が色違い?」訊き返されただけだった。「何だい、そりゃ?」
「片目ずつ色が違う猫っすよ。何て言ったっけな。ヘテ……何とかって聞いたんすけど」
 瀧はカウンター奥を見遣った。店主の楡庵がいつもの様に穏やかに口を開いた。
「ヘテロクロミア……もしくはオッドアイの事でしょう。金銀妖瞳、とも書き表しますね。遺伝的な原因で起こる現象です」
「……そのオッドアイがどうかしたのかい。タケ坊」一番簡単な呼び方を採択したらしい。目顔で庵に礼を示してから武に向き直って訊く。「あんまり見掛けた事は無いから、珍しいんじゃねぇか?」
「それを同僚の女の子が飼ってるんすけどね、ある写真家からモデルに貸してくれって頼まれたらしいんすよ」
「へぇ……。まぁ、珍しい猫ならそういう事もあるだろうさ」
「それが……何っか、その写真家、怪しい気がするんすよね」言って、武は眉を顰めた。

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 シャラーン、シャリーン……。
 手の中で振る度に、微妙に違う涼やかな音を奏でる銀色の球体。直径五センチ程だろうか。音はさして大きくない。しかし柔らかな音が耳に心地いい。
「椚さん、それ何すか?」似合わない物を持っている、という台詞を表情で言い足して、牧武は常連仲間に尋ねた。「何で音がするんすか?」
「鈴みたいな穴も無いしなぁ……」と、瀧。
「……何とかボールって……何だっけ?」音に聞き入っていたのか、考え事でもしていたのか、椚要の反応は鈍かった。「楡、知ってるか?」カウンター奥に声を掛け、問題のボールをカウンターに転がす。金属が板にぶつかる音に、シャラシャラという音が続く。
「オルゴールボール、もしくはハーモニーボール……他にも呼び名はある様ですが、そういった類の物ですね」拾い上げて、店主の楡庵は言った。
「それ、何で鳴るんすか?」武はそこが気になるらしい。確かに見た目は只の銀の球体なのだ。
「中が空洞でしてね、球体に沿う様にしてオルゴールの櫛の様な物が並んでいるんですよ。そこに中に入れた金属片が当たって音を立てるんです。空洞中で鳴る分、音が反響してこういう音になるそうですよ」
「へぇ……。女性に喜ばれそうっすね。でもそれを何で椚さんが?」心底不思議そうに、武は尋ねた。

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「おかしな向き?」
 庵はマドラーを刃物に見立てて棗に向けた。

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 珍しく残業も無く仕事を終えた佃(つくだ)の脚は、自動制御でもされているかの様に、馴染みの店へと彼を運んだ。

 『Ringwanderung』

 見上げた看板に、ふと違和感を覚える。秋の夕方の陽に朱く照らし出されたその文字に。
 だが、正体が掴めぬ儘に、佃は「気の所為」と割り切って扉を開けた。いつも来るのはもっと暗くなってからなのだ。違って見えるのは当然と。
「いらっしゃいませ」聞き慣れた心地好い声が二人分、彼を迎えてくれると、最早先程の感覚など霧散してしまった。
 開店時間は通常六時。自分が今日の一番客かもと密かに思っていた佃は、おや、と眼を丸くする。
 カウンター席の端の方に女性客が一人。六十前後だろうか。女性としてはやや大柄で、延びた背筋には凛とした品と、同時に力強さがあった。
 初めて見る客だった。
 
 少し離れた席に座り、それとなく、女性客を観察する。無論この店にも女性の客は少なくない。だが大概は若い女性――それも複数――で、もっと華やいだ雰囲気なのだ。中にはたった二人の従業員目当ての客も……。
 ある若い男性の常連は「悪いっすけど此処だけはデートコースには入れないっすから」と宣言したとかしないとか――因みに彼にそんな相手が居る兆候は無い、とはやはり常連の好事家の談。
 ともあれ、年代を考えれば無理も無いかとも思えたが、それにしても……否、それでいて、兄弟を見詰める眼は優しい。
 初見とは思えない――佃の推測は正しかった。
 年齢以上に皺の寄った口元が微笑み、こう言ったのだから。
「よく覚えていてくれたわね。あれから二十年……こんなお婆さんになったのに。庵君、棗君との約束も果たせない儘……」

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「やれやれ、最近暖かいからかねぇ」いつものカウンターで、瀧は嘆息する様に言った。
「何すか?」隣でやはりいつもの様に麦酒を啜りながら、牧武が訊く。
「新聞読んでないのか? 『吸血鬼』だよ」
「え?」武は暫し考える。「暖かいからって、もう蚊が出ましたか? 新聞に載る程?」
「……お前さんは相変わらずだねぇ」瀧は大きな溜め息を漏らした。「本当に新聞位読みなよ。『吸血鬼』って呼ばれてる変質者の事だよ!」
「え! そんな奴が居るんすか! 止めて下さいよ、俺、お化けとかはもう……」
 その様に瀧は三度の溜め息をつき、他の常連達も思わず失笑を漏らす。
「大丈夫ですよ。牧さん」流石に微苦笑しながらも穏やかに、カウンター奥から店主・楡庵が最近の新聞を差し出す。「お化けではなく変質者……椚巡査にお任せしておきましょう」
「大体この『吸血鬼』好き嫌いが激しいらしいですよ」店主の弟にしてこのバーの店員・棗が言った。「牧さんは多分外れてます。安心して下さい」
 それはそれで何やら複雑そうな顔で、武は新聞を覗き込んだ。そして詳細を読んで納得した様子で頷いた。確かに外れている、と。
「被害者はいずれも十代半ば、か」実年齢より若く見られがちな武だが、それでも十代には見えない。「でも、男女の区別は無し……美女に拘らないんすね」

 被害者は皆、塾帰り等夜に襲われており、犯人の顔をまともに見た者は居ない。それと言うのも犯人は何やら薬品を用いているらしく、不意に妙な匂いを嗅いだと思ったら気を失っていた――そんな証言が大半だった。どうにか振り返った者も、目深に被ったフードや顔の上半分だけを隠した仮面に阻まれ、顔を検めるには至っていない様だ。

「えーと、昏睡から醒めた被害者には、右肩に鋭い何かで付けられたと思しき傷跡が二つ並んでおり、これが『吸血鬼』と呼ばれる所以である……か。真逆本当に血を吸ってるなんて事、無いっすよね?」おどけと幾分の怯えを含んだ武の言葉は瀧に一笑に付された。
「続き読んでみな。被害者はいずれも軽傷、出血もごく僅かと思われるってあるだろ?」
「それどころか傷口からは唾液も検出されていない様ですよ。ですから噛み付いてもいないんです」と、棗。「その分血液型も判らないって椚さんがぼやいてました」
 庵が横で溜め息をついている。どうも彼の旧友は警官にしては守秘義務というものを心得ていない。聞いてしまう好奇心旺盛な弟も弟だが。
「えーと、ていう事は完全に只の人騒がせの悪戯……って事っすか?」
「そうとも言えないかも知れませんよ?」笑ったのは棗だった。


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「ここだけの話、販売店の経営者が怪しいと思うっすよ」声を潜めて言ったのは牧武だった。「高額の当たりくじが来たもんだから、欲を出して……」
 いつもの行き付けのバー。すっかり馴染んだカウンターには並んだグラス。
「客をやっちまったってのかい?」些か呆れ顔で応じたのはいつもの様に瀧だ。「確か店は商店街の中にあったろう? 人通りもあるのにどうやって昼日中、人を消せるって言うんだい」
「そこはそれ。高額当選者用の手続きをしますから中に入って下さい、とか言って誘い込んで……」がつん、と殴る振り。
「窓口の姉ちゃんだかおばちゃんだって居たろう? その従業員が手続きをしようとしている間に居なくなったって言うんだから」
「じゃ、口止めするとか。共犯に仕立てるとか」
「そう巧く行くかよ。大体それなら何で警察に届けを出したりするんだい」
「そりゃ、届けを出しておけば当たりくじは遺失物で、半年経てば自分の物になるんすから」当然の事の様に武は言ったが、瀧は苦笑する。
 それならそもそも自分が買い求めた物だと言えば済む事じゃないか、と。寧ろ、話が広まって、行方を晦ませた本人の家族や知人がもしかして、と名乗り出て来たら薮蛇もいい所だ。
「それは……そうっすねぇ」武は肩を落とした。「でも、それじゃ、どうしてこの当選者は居なくなっちまったんすか?」

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「この処こんな物が毎日届くんだがね」そう言って紙の束を取り出したのは、美術評論家の丙忠(ひのえ・ただし)だった。
 カウンターに並んだ馴染みの連中が顔を寄せ合う。

 ・ 丙 † 忠

 白地に黒の縦書きで、そう印刷されたB5サイズの紙が十数枚。
 いずれも郵便受けにその儘入っていたらしい。
「どれも同じ文句だね」瀧が見比べて言う。「あ? いや……何か周りに書いてあるな。これだけが毎日違うみたいだが……?」
 瀧の言う通り、件の文字の上に先ずは点。着順に並べてあると言うそれを順に見ていけば、その点が翌日には線になり、翌日には更に延び……といった有り様が見て取れる。その変化に気付いた為に危うく屑篭に入っていた一枚目もゴミの日を直前に回収された様だ。
 そしてそれが十数日分集まったという事か。

 丙の名を中心にして先ずは右へと緩やかに弧を描きながら下り、不意に途中から真横に延びて、やや行くとまた今度は小さく弧を描いて名前に近付いていく。そして先に曲がった真下辺りで今度は下へと方向転換。その先でまた弧。上がってまた下がり、更に弧を描いて今度はまた延々上がっていく。そして左に直角に曲がって……後はほぼ左右対称な形でもう直ぐ線は元の点に届こうという所迄来ていた。

「人型……?」瀧は一見間延びした星の様なその形が簡略化された人型である事に気付いた。左右対称に大の字を描いた人型――それがもう直ぐ完成しようとしていた。
「面白いだろう?」丙が笑う。「丸でぱらぱら漫画みたいじゃないか」
 確かに、端を持ってぱらぱらと流して見ると、人型が描かれていく様子がアニメーションの様に瀧の目にも映った。
 しかし、一体誰がこんな物を毎日、届けに来るのだろう? 何の意図があって?

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