〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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固定されているらしいビデオカメラの映像。その画面の中を、数人の男女の姿、そして声が往来して行った。
「え? プレゼント、ピンブローチにしたの?」若い女の声。画面内には居ない様だ。
「え、何か拙かった?」画面端の若い男が狼狽している。「美奈子さん、薔薇が好きだって聞いてたから、丁度いい感じのがあったんで……」
「ああ、美奈子さんのか。それなら問題ないわ。美和子さんにかと思った」
「美和子さんにはネックレスを用意したよ。彼女、ブローチとかしてるの普段から見た事ないし」
「あら、よく見てるわね」男の肩に白い肘が圧し掛かる。「ま、正解よ。美和子さんは薔薇も嫌いだしねぇ」
「そ、そう……。それにしても双子でも好みが違うよね。美奈子さんと美和子さん。ところで遅いよね、二人共。今日の主役なのに」
「いつもの事でしょ。ドレスだピアスだイヤリングだとコーディネートに暇掛けてるんでしょ」
「折角伯父さんの家を会場に借りたのにね」男は肩を竦めた。「彼女等の誕生パーティーの会場としては申し分のない大豪邸をね」
そんな彼等の前に、二人の主役が現れたのはその直後だった。
「え? プレゼント、ピンブローチにしたの?」若い女の声。画面内には居ない様だ。
「え、何か拙かった?」画面端の若い男が狼狽している。「美奈子さん、薔薇が好きだって聞いてたから、丁度いい感じのがあったんで……」
「ああ、美奈子さんのか。それなら問題ないわ。美和子さんにかと思った」
「美和子さんにはネックレスを用意したよ。彼女、ブローチとかしてるの普段から見た事ないし」
「あら、よく見てるわね」男の肩に白い肘が圧し掛かる。「ま、正解よ。美和子さんは薔薇も嫌いだしねぇ」
「そ、そう……。それにしても双子でも好みが違うよね。美奈子さんと美和子さん。ところで遅いよね、二人共。今日の主役なのに」
「いつもの事でしょ。ドレスだピアスだイヤリングだとコーディネートに暇掛けてるんでしょ」
「折角伯父さんの家を会場に借りたのにね」男は肩を竦めた。「彼女等の誕生パーティーの会場としては申し分のない大豪邸をね」
そんな彼等の前に、二人の主役が現れたのはその直後だった。
美奈子は赤、美和子は黒。同じ型のシンプルなドレスはしかしその対照的な色と相俟って彼女等を引き立てていた。顔立ちは瓜二つ。鼻筋の通った白い顔に切れ長の目。薄い唇には艶やかな紅。髪をアップにしている為に同じデザインの耳飾りも鮮やかだった。
胸元には美奈子は白い薔薇、美和子は白い百合を飾っている。いずれも彼女等にとってはかすみ草程度のものだったが。
そして――そこでビデオは一旦切られた。
早回しの後に映し出された彼女等は、お色直しとばかりに違うドレスを身に着けていた。レースをたっぷりと使った真紅のドレスにウェーブの掛かった髪を垂らした美奈子。髪型はその儘に、ゆったりとしたドレープが優雅な白いドレスの美和子。アクセサリーもドレスに合わせて、今度は全く違うものを着けている。
そしてまた、ビデオは止められた。
脚本家見習い、椿霞(つばき・かすみ)の手によって。
「それでですね、この後この豪邸で事件が発覚するんですよ」楽しげに、霞は語った。「豪邸の目玉だった、伯父さん自慢のダイヤが無くなるんです」
「それで犯人はこの二人のお嬢さんのどちらか、という話なんですか?」やはり楽しそうに、棗が応じた。「どうやら謎解きものみたいですね」
バー『リングワンデルング』のとある深夜、最近度々来るようになった彼女は、自らの考えたネタを持ち込んだのだった。此処なら巡査も立ち寄るし、何かと意見を聞ければ、という目論見もあったらしい。
そんな訳で椚巡査もカウンターに着いているのだが――余り真剣に見ている様子はない。仕事以外で謎解きなんてしたくない、とぼやいている。そのぼやきに店主が小さく肩を竦めていた。
「宝石の盗まれた部屋の中にね、耳飾りが落ちていたんだけど、それが何で、そしてどちらが犯人でしょう? っていうのが本題なんですよ」と、霞は椚に言った。
「耳飾りが何で、犯人がどちらか?」目を丸くして、椚が反問した。「耳飾りが何かは明かされないのか」
「それを明かしちゃうと、多分直ぐばれるんで……」霞は小さく舌を出した。「ごめんなさい。苦肉の策です。でも、ビデオをよく見てたら解ると思います」
椚は――何だかんだ言いつつも――再度ビデオを回して、唸り出した。
「因みに宝石ってどの位の大きさなんですか?」唸り始めた椚を余所に、楡棗が尋ねた。
「これ位」と言って彼女が指で示したのは縦横各一センチといった所。「大きさはそれ程じゃないけど、色が珍しいダイヤって設定で……」
「じゃあ、隠そうと思えば隠せなくもないんですね。まぁ、身体検査されたら一発でしょうけど」
「まぁね」
と、椚の唸りが止まった。顔を上げた彼に、霞の緊張した視線が注がれる。
「楡、頼んだ」椚は言った。
「ええっ!?」霞は拍子抜けした様な、素っ頓狂な声を上げた。仮にも巡査に解らなかったというのは、謎を仕掛けた本人としては嬉しい筈だが――「投げるの早くないですか? 本気で考えました!?」
「考えた考えた」面倒臭そうに、椚は手をひらひらさせる。その手はその儘、グラスに伸びた。
「もうっ!」霞は膨れ面を作る。が、微妙に頬が緩んでいる。「マスター達、解ります?」
悪戯っぽいその台詞に、棗が反応した。
「先ず仕掛けとして、お色直し後のドレスに合わせた耳飾りを含むアクセサリーでは直ぐにばれてしまう。だから、椿さんが言う耳飾りとは最初の、同じデザインのものという事で相違ないですよね。同じデザインのものが落ちていて、それで尚且つその持ち主がどちらか当てろ、と」
「まぁ……そうね」
「そして耳飾りという言い方。ビデオの中では女性が『ピアスだのイヤリングだの……』といった言い方をしています。これはどちらかがピアス派、どちらかがイヤリング派という事でしょうね」
「最近では着けている状態ではピアスの様に見えるイヤリングもある様ですけれどね」店主であり、棗の兄でもある庵が穏やかに言う。「品物を見れば一目瞭然。そして耳に穴を開けているかどうかでどちらを着用しているかもまた然りです。明らかにしてしまうと直ぐばれるとおっしゃるのも、その所為でしょうね」
「そ、それでどちらだと思います?」追い詰められた様な表情で、霞は言った。
「美奈子さんは薔薇が好き。美和子さんは薔薇が嫌いで、ブローチ類も身に着けないんでしたね?」棗が確認する。
霞の首肯を待って庵が続ける。
「そして先の女性は美和子さんにピンブローチを贈る事を問題だと思っておられました。美和子さんはある種の特徴のある物を避けていたんじゃないですか? 例えば……先端恐怖症というのは如何です?」
霞は完全に顔色を無くしていた。
「先端恐怖症の人に、耳に穴を開ける必要のあるピアスは不向きでしょうねぇ」と、棗。「詰まりは美奈子さんがピアス派、美和子さんがイヤリング派だった、と」
「そして今度は問題となるのは宝石の隠し場所です。大して大きくないとは言え石を何処に隠すか……。此処で気になるのですが、お色直し後、美奈子さんは髪を下ろしておられました。美和子さんは態々ドレスもアクセサリーも変えながら、髪形はその儘でしたね。もしかして、変える事が出来なかったのではありませんか?」
「アップにした髪の中に石を隠していたので、ね」棗が笑う。
「詰まり答えとしては落ちていた耳飾りはイヤリングで、犯人は美和子だったという事か」最後だけちゃっかりと、椚が纏めた。
霞は三人を見比べて、完敗とばかりにお手上げポーズを取った。
「また考えて来ます。今度は……マスター達宛てに!」
椚は対象から除外された様だったが、結局彼女は此処の常連になりそうだった。
―了―
またもかなりお久の『リングワンデルング』です。簡単過ぎたかな~☆
胸元には美奈子は白い薔薇、美和子は白い百合を飾っている。いずれも彼女等にとってはかすみ草程度のものだったが。
そして――そこでビデオは一旦切られた。
早回しの後に映し出された彼女等は、お色直しとばかりに違うドレスを身に着けていた。レースをたっぷりと使った真紅のドレスにウェーブの掛かった髪を垂らした美奈子。髪型はその儘に、ゆったりとしたドレープが優雅な白いドレスの美和子。アクセサリーもドレスに合わせて、今度は全く違うものを着けている。
そしてまた、ビデオは止められた。
脚本家見習い、椿霞(つばき・かすみ)の手によって。
「それでですね、この後この豪邸で事件が発覚するんですよ」楽しげに、霞は語った。「豪邸の目玉だった、伯父さん自慢のダイヤが無くなるんです」
「それで犯人はこの二人のお嬢さんのどちらか、という話なんですか?」やはり楽しそうに、棗が応じた。「どうやら謎解きものみたいですね」
バー『リングワンデルング』のとある深夜、最近度々来るようになった彼女は、自らの考えたネタを持ち込んだのだった。此処なら巡査も立ち寄るし、何かと意見を聞ければ、という目論見もあったらしい。
そんな訳で椚巡査もカウンターに着いているのだが――余り真剣に見ている様子はない。仕事以外で謎解きなんてしたくない、とぼやいている。そのぼやきに店主が小さく肩を竦めていた。
「宝石の盗まれた部屋の中にね、耳飾りが落ちていたんだけど、それが何で、そしてどちらが犯人でしょう? っていうのが本題なんですよ」と、霞は椚に言った。
「耳飾りが何で、犯人がどちらか?」目を丸くして、椚が反問した。「耳飾りが何かは明かされないのか」
「それを明かしちゃうと、多分直ぐばれるんで……」霞は小さく舌を出した。「ごめんなさい。苦肉の策です。でも、ビデオをよく見てたら解ると思います」
椚は――何だかんだ言いつつも――再度ビデオを回して、唸り出した。
「因みに宝石ってどの位の大きさなんですか?」唸り始めた椚を余所に、楡棗が尋ねた。
「これ位」と言って彼女が指で示したのは縦横各一センチといった所。「大きさはそれ程じゃないけど、色が珍しいダイヤって設定で……」
「じゃあ、隠そうと思えば隠せなくもないんですね。まぁ、身体検査されたら一発でしょうけど」
「まぁね」
と、椚の唸りが止まった。顔を上げた彼に、霞の緊張した視線が注がれる。
「楡、頼んだ」椚は言った。
「ええっ!?」霞は拍子抜けした様な、素っ頓狂な声を上げた。仮にも巡査に解らなかったというのは、謎を仕掛けた本人としては嬉しい筈だが――「投げるの早くないですか? 本気で考えました!?」
「考えた考えた」面倒臭そうに、椚は手をひらひらさせる。その手はその儘、グラスに伸びた。
「もうっ!」霞は膨れ面を作る。が、微妙に頬が緩んでいる。「マスター達、解ります?」
悪戯っぽいその台詞に、棗が反応した。
「先ず仕掛けとして、お色直し後のドレスに合わせた耳飾りを含むアクセサリーでは直ぐにばれてしまう。だから、椿さんが言う耳飾りとは最初の、同じデザインのものという事で相違ないですよね。同じデザインのものが落ちていて、それで尚且つその持ち主がどちらか当てろ、と」
「まぁ……そうね」
「そして耳飾りという言い方。ビデオの中では女性が『ピアスだのイヤリングだの……』といった言い方をしています。これはどちらかがピアス派、どちらかがイヤリング派という事でしょうね」
「最近では着けている状態ではピアスの様に見えるイヤリングもある様ですけれどね」店主であり、棗の兄でもある庵が穏やかに言う。「品物を見れば一目瞭然。そして耳に穴を開けているかどうかでどちらを着用しているかもまた然りです。明らかにしてしまうと直ぐばれるとおっしゃるのも、その所為でしょうね」
「そ、それでどちらだと思います?」追い詰められた様な表情で、霞は言った。
「美奈子さんは薔薇が好き。美和子さんは薔薇が嫌いで、ブローチ類も身に着けないんでしたね?」棗が確認する。
霞の首肯を待って庵が続ける。
「そして先の女性は美和子さんにピンブローチを贈る事を問題だと思っておられました。美和子さんはある種の特徴のある物を避けていたんじゃないですか? 例えば……先端恐怖症というのは如何です?」
霞は完全に顔色を無くしていた。
「先端恐怖症の人に、耳に穴を開ける必要のあるピアスは不向きでしょうねぇ」と、棗。「詰まりは美奈子さんがピアス派、美和子さんがイヤリング派だった、と」
「そして今度は問題となるのは宝石の隠し場所です。大して大きくないとは言え石を何処に隠すか……。此処で気になるのですが、お色直し後、美奈子さんは髪を下ろしておられました。美和子さんは態々ドレスもアクセサリーも変えながら、髪形はその儘でしたね。もしかして、変える事が出来なかったのではありませんか?」
「アップにした髪の中に石を隠していたので、ね」棗が笑う。
「詰まり答えとしては落ちていた耳飾りはイヤリングで、犯人は美和子だったという事か」最後だけちゃっかりと、椚が纏めた。
霞は三人を見比べて、完敗とばかりにお手上げポーズを取った。
「また考えて来ます。今度は……マスター達宛てに!」
椚は対象から除外された様だったが、結局彼女は此処の常連になりそうだった。
―了―
またもかなりお久の『リングワンデルング』です。簡単過ぎたかな~☆
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Re:ほんとお久やね。
そうかも知れない(笑)
でもちょっとお久^^;
でもちょっとお久^^;
なるほど
とりあえず何も考えずに最後まで読んじゃったから…
自分で謎解きしてない(笑)
アップにした髪型の中にってのも自分でしないから(ショートですからね私)考えつかなかった(^^ゞ
そういやぁ私の弟先端恐怖症だったな~(^^ゞ
自分で謎解きしてない(笑)
アップにした髪型の中にってのも自分でしないから(ショートですからね私)考えつかなかった(^^ゞ
そういやぁ私の弟先端恐怖症だったな~(^^ゞ
Re:なるほど
や、問題部分と謎解き部分分けて前後編のクイズにしようかとも思ったんですが……それにはちょっと短いし簡単過ぎるかな、と^^;
そうか、髪型か……☆私はそろそろアップにしたいような陽気になってきたな~という、暑がりなロングヘア(笑)
そうか、髪型か……☆私はそろそろアップにしたいような陽気になってきたな~という、暑がりなロングヘア(笑)
Re:こんばんは♪
先端恐怖症です。はい。
痛覚恐怖症でもよかったかな。要はピアス穴開けられなければいいんだから。でも、ヒントが出し難いか(笑)
ピンブローチが駄目だったり、棘のある薔薇が駄目だったりはそのヒントでした☆
痛覚恐怖症でもよかったかな。要はピアス穴開けられなければいいんだから。でも、ヒントが出し難いか(笑)
ピンブローチが駄目だったり、棘のある薔薇が駄目だったりはそのヒントでした☆
Re:こんばんは
深夜に謎解き(笑)
眠いってば(^^;)
眠いってば(^^;)
こんばんわ★
わ~い♪
モアイネコの推理も当たっていました(^^)
なんか、正解すると嬉しいですね!
モアイネコも常連になれるかな?
でも、先端恐怖症、っていうのは出なかった…
バラが好きな派手っぽい人のほうが、ピアスをするかな、みたいな~(^^;)
イマイチ、論理的になりきれないモアイネコのようです…
モアイネコの推理も当たっていました(^^)
なんか、正解すると嬉しいですね!
モアイネコも常連になれるかな?
でも、先端恐怖症、っていうのは出なかった…
バラが好きな派手っぽい人のほうが、ピアスをするかな、みたいな~(^^;)
イマイチ、論理的になりきれないモアイネコのようです…
Re:こんばんわ★
お~、推理的中しましたか~^^
って、派手だからですかい!(笑)
常連さんには大歓迎ですが♪未成年者は居ませんよ?^▽^
って、派手だからですかい!(笑)
常連さんには大歓迎ですが♪未成年者は居ませんよ?^▽^
Re:犯人当てだー
はい、久し振りです~(^^)
偶には謎解きも書かないとね~☆
偶には謎解きも書かないとね~☆
きゃあ♪
お久しぶり~の楡兄弟ですね♪
せっかくの犯人当て、もうちょっと体調の良い時に読みたかった…(泣)、考えるだけのしゃっきり感が無い~!
でも、それはそれとして面白かったです。やっぱり好きです私、フーダニットって。
(でも、兄弟を試すような霞さんのお気楽さはちょい苦手…ごめんね)
せっかくの犯人当て、もうちょっと体調の良い時に読みたかった…(泣)、考えるだけのしゃっきり感が無い~!
でも、それはそれとして面白かったです。やっぱり好きです私、フーダニットって。
(でも、兄弟を試すような霞さんのお気楽さはちょい苦手…ごめんね)
Re:きゃあ♪
霞さん、元々は(一応警官の)椚に意見貰いたかったんですが、あっさり! 丸投げされてしまったので(笑)
椚って頭使ってるのかな?^^;
椚って頭使ってるのかな?^^;
Re:無題
先端恐怖症の人が病院に行ったら大変かも……(^^;)
注射がより怖い(苦笑)
アップにした髪の毛、小さい石位なら隠せそうかな~と(笑)
然も意外と気付かれなさそう(^^;)
注射がより怖い(苦笑)
アップにした髪の毛、小さい石位なら隠せそうかな~と(笑)
然も意外と気付かれなさそう(^^;)
Re:こんにちは
有難う(^^)
双子が入れ替わってまた入れ替わって……あれ? どっちだ!?(笑)
双子が入れ替わってまた入れ替わって……あれ? どっちだ!?(笑)
Re:無題
は~い、久し振りです☆
睡眠充分ですね!(^^)
睡眠充分ですね!(^^)