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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 降りる駅を間違えた。そう気が付いた時、もう列車はホームを離れていた。
「参ったな」反射的にそんな言葉が口をついて出る。
 しかし内心では、あの殺人的な満員電車の中から解放されてほっとしていた。数駅前で駅員に押し込まれた、身動きはおろか呼吸さえも拘束するあの、群れ。
 毎日の事、慣れた事とは言え、決して望んで入りたくはない。

 それに引き換えこのホームの静かな事。地下鉄駅では新鮮な空気は望めないと知りつつも、私は思わず大きく息を吸って――その儘数秒、呼吸を止めた。
 人っ子一人居ないホームの薄気味悪さに。
 先程発車した列車の残響以外の音がしない。そう言えば平生降りる私を押し戻す奔流の様に乗車する客の姿も無かった。駅員のアナウンスさえ、そこには無かった。

 こんな駅があっただろうか? こんな時間にこれだけ空く様な駅が? ――私はいつも何気無く窓外に見送る駅名を順に思い出そうとした。駄目だ。トンネルの合間合間に現れる駅は、どれもこれも同じ顔に見えて、順になど思い出せない。
 それでも会社と自宅の最寄り駅を繋ぐ、乗り換え無しの一本線なのだ。
 偶々この近くで何かイベントでもあって、客足が空いているのだろう。駅員迄……しょうがないなぁ。そう無理に片頬に皺を寄せる私の耳に、残響とは違う、列車の音が聞こえてきた。私が来た方――後続車が到着したのだろう。アナウンスは無かったが。
 ともあれこれで帰れる、そう思って振り返った私は、更に眉を顰めた。
 乗客が、居ない。
 運転席は何故か黒いカバーガラスで、乗員の姿さえ視認出来ない。
 静かにホームに滑り込んだ列車は、私の前で口を開いた。
 天井から皓々と照らされた床、座席、向かい側の扉。そのどこにも、人の姿は無く、しかし使い込まれた残り香だけがあった。金属表面の微かな傷や、シミの浮いた座席や、やや不揃いな長さの吊り革に……。どこへ向かうと言うアナウンスも、行き先表示さえ無い。
 それでも私は、出発を知らせる甲高い笛の音に急かされる様に、列車に飛び乗っていた。
 ここは乗り換え無しの一本線――その日常の安心感と。
 先ずあり得る筈のない無人列車――その非日常の危機感、そして、長らく忘れていた期待感に後押しされて。

                       * * *

 ラッシュの最中、走行中の地下鉄の非常コックを捻った男の死体は、暗い線路に横たわっていた。

                        ―了―


 実は電車通学・通勤ってした事無いです(笑)
 降りる駅を間違えた――果たしてどんな駅だったのか? 
 ……終着駅だったのかも知れません。誰かの……。




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