『猫の木』（夢・一夜目）

　この三日間、夢を見た。どうやら続きものの夢らしい。いったい何を意味しているのか？

　そんな事をつらつらと考えながらぼーっとしていたら、横から頭を小突かれた。振り返ると飼い猫の「ワガハイ」と目が合った。どうやら俺は猫パンチを食らったらしい。雑種の雉猫、ワガハイは御歳十八歳……位。生後僅かと思われる頃、ある雨の日に俺が公園で拾ったんだ。その公園はもう無いけれど、こいつが雨宿りしていた老木だけは、今でも残っている。何でも伐ると祟られるとか……そこで爪とぎしてたこいつはいい度胸だ。
「な、ワガハイ。あの木、覚えてるか？」独り言代わりに、訊いてみる。
「にゃあお？」人語を解するには未だ年月が足りないのか、ワガハイは首を傾げる。
「お前が居た木だよ。ここ三日間、毎晩夢に出て来るんだ」
「にゃお！」思い出した！　とでも言いたげな反応……本当か？　ワガハイよ。

　一晩目――俺はあの木の下に居た。晩秋の風が吹き抜ける感覚迄残っている、妙にリアルな夢。空は薄暗く、今にも冷たい雨が降り出しそうだった。丁度、ワガハイを拾った日の様だと思った。只立ち尽くし、風のざわめきを聞いている内に、その夜は明けた。

　二晩目――やはりあの木の下。遂に雨も降り出した中、俺は傘も差さずに、立ち尽くしている。何かを見届けるかの様に。目覚め際、子猫の声が聞こえた……様な気がした。

　三晩目――より激しい雨と、嵐の様な風に俺は吹き飛ばされそうだった。なのに、何故かあの木の下から動こうとしない。夢の中とは言え、俺は一体何をやっているんだ？　やがて立っていられない程の風に、俺は腹這いになって地に伏し、年老いた木も遂に雷の様な音を立てて、その俺の上にと倒れ掛かる。あっと思ったその時、根元の洞に、金色の光が二つ、見えた。

「何なんだろうな？」という俺の呟きに、答える声は無かった。当然と言えば当然か、相手は猫。黙って夢の話を聞いていたと言っても理解している筈も無い。そう思って苦笑しながら見遣ると、さっき迄居たワガハイの姿が無くなっていた。「ワガハイ？」
　その夜ワガハイは姿を消し、俺は夢を見なかった。

　翌日、雨の中俺が捜しに行ったのは例の木だった。公園が無くなり遊歩道の真ん中にたった一本残された老木は……意外にも若返って見えた。晩秋にも拘らず青々とした若葉が目立ち、幹の苔さえ瑞々しい。
　かつてワガハイが居た洞を、俺は覗き込んだ。ワガハイは、そこで息絶えていた。不思議な事に、その身体には細い木の根が絡み付いていた。丸でワガハイの命を木が養分にした様で、俺はその根を乱暴に払った。
　だが、抱き上げたワガハイの顔はどこか満足気……お前は自らこの老木の命となったのか？　
　答える様に、洞の奥で子猫の声がした。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―了―

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　お題が続きものの夢だから、という訳でもないですが、今回は連作になっております。