〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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やめたい、でもやめられない。そんな癖が誰にでも一つや二つはあるものだ。
それにしても二十歳近くにもなって、親指の爪を噛むっていうのは如何なものだろう――香苗は従兄達を見遣り肩を竦める。然も双子が共にだなんて。二人がそうやって向き合っている様は、まさに鏡の様だ。
「颯ちゃん、悠ちゃん、未だご機嫌斜めなの?」二人の癖が出るのは決まって気が昂ぶっている時と、香苗は知っていた。「私、先に行くからね。仏頂面治して来なさいよ?」
ああ、と二人の口から短い返事が同じタイミングで返る。と、それがまた気に食わないとばかりに、互いの眉間が険しくなる。
香苗は溜め息をつきつつ、歩を進めた。本家である祖父の館迄後少し。それだけにピリピリしているのだろうか。
祖父はどうやら孫達にそれぞれ遺産を分配する気は無く、各家に残す心算らしいと親戚筋で噂になっていた。だから双子はどちらが家を継ぐかで揉めている、とも。
罪作りだねぇ、お祖父様――ひとり娘の香苗はそう茶化す余裕があった。
「それにしても双子であれだけそっくりなのに、あれだけ仲が悪いなんてね」
颯太と悠太は事ある毎に対立してきた。あるいは姿がそっくりなだけに、他人に負ける以上の屈辱を感じるのか。極力、違う人間になろうと奮戦している。傍から見れば何もそこ迄、と思うが。にも拘らず二人が揃うと、鏡の様と言われてしまう。ある意味、不憫だ。
直、山間の隠居屋敷に着こうかという頃、背後から足早に追い付く気配がした。ようやく来たかと振り向けば、人影は一人。
「あれ? えーと、悠ちゃんは?」今日の服装を確認して、香苗は訊いた。
自分とは一緒に行きたくないと言って帰った、と彼は言った。只、別れた暫く後、悲鳴が聞こえた様な気がする、もしかしたら山道で足でも滑らせたのかも知れない。ざっと捜したが見当たらないので、館から人を出して貰う為に急いで来た、と落ち着きなく爪を噛む。
「……それは大変! 急ぎましょ。颯ちゃん」言って踵を返した香苗の肩に、背後から手。
「気付いたね?」暗い声に、脚が止まった。「香苗、俺の指を見てたね」
「だから何? それより急ぎましょ。やっぱり心配なんでしょ? 颯ちゃん、いつもそうやって右手の爪を噛むんだから……」そして鏡は左を。「だから早く館に助けを……」
「そう、いつも奴がやる様にやった。でも君が見てたのは元から噛み癖が付いている左の爪――迂闊だったよ。服迄替えたのにね。何で入れ替わったかって? 颯太が家を継ぐと決まったんだ。そうだ、香苗は誤魔化そうとする時早口になるんだね。気付いてなかった?」
―了―
無くて七癖と言いますが……自分でも気付いてない癖、ありませんか?
私? 気付いてない癖は自己申告出来ません(笑)
「颯ちゃん、悠ちゃん、未だご機嫌斜めなの?」二人の癖が出るのは決まって気が昂ぶっている時と、香苗は知っていた。「私、先に行くからね。仏頂面治して来なさいよ?」
ああ、と二人の口から短い返事が同じタイミングで返る。と、それがまた気に食わないとばかりに、互いの眉間が険しくなる。
香苗は溜め息をつきつつ、歩を進めた。本家である祖父の館迄後少し。それだけにピリピリしているのだろうか。
祖父はどうやら孫達にそれぞれ遺産を分配する気は無く、各家に残す心算らしいと親戚筋で噂になっていた。だから双子はどちらが家を継ぐかで揉めている、とも。
罪作りだねぇ、お祖父様――ひとり娘の香苗はそう茶化す余裕があった。
「それにしても双子であれだけそっくりなのに、あれだけ仲が悪いなんてね」
颯太と悠太は事ある毎に対立してきた。あるいは姿がそっくりなだけに、他人に負ける以上の屈辱を感じるのか。極力、違う人間になろうと奮戦している。傍から見れば何もそこ迄、と思うが。にも拘らず二人が揃うと、鏡の様と言われてしまう。ある意味、不憫だ。
直、山間の隠居屋敷に着こうかという頃、背後から足早に追い付く気配がした。ようやく来たかと振り向けば、人影は一人。
「あれ? えーと、悠ちゃんは?」今日の服装を確認して、香苗は訊いた。
自分とは一緒に行きたくないと言って帰った、と彼は言った。只、別れた暫く後、悲鳴が聞こえた様な気がする、もしかしたら山道で足でも滑らせたのかも知れない。ざっと捜したが見当たらないので、館から人を出して貰う為に急いで来た、と落ち着きなく爪を噛む。
「……それは大変! 急ぎましょ。颯ちゃん」言って踵を返した香苗の肩に、背後から手。
「気付いたね?」暗い声に、脚が止まった。「香苗、俺の指を見てたね」
「だから何? それより急ぎましょ。やっぱり心配なんでしょ? 颯ちゃん、いつもそうやって右手の爪を噛むんだから……」そして鏡は左を。「だから早く館に助けを……」
「そう、いつも奴がやる様にやった。でも君が見てたのは元から噛み癖が付いている左の爪――迂闊だったよ。服迄替えたのにね。何で入れ替わったかって? 颯太が家を継ぐと決まったんだ。そうだ、香苗は誤魔化そうとする時早口になるんだね。気付いてなかった?」
―了―
無くて七癖と言いますが……自分でも気付いてない癖、ありませんか?
私? 気付いてない癖は自己申告出来ません(笑)
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