『知っている？』

　にぎやかなパレードが大通りをやってくる。沿道の人々は歓呼で迎えた。その意味も知らないままに。

　高らかなラッパの音に応える様に沿道から投げ掛けられる花々、紙吹雪、色とりどりの紙テープ……私にはそれらが酷く色褪せて見えた。
　彼等はパレードの中心の一際豪奢な馬車に乗っているのが誰なのか、知っているのか？
　いや、その名を知ってはいるのだろう。
　頻りとその名を呼んでいるのだから。

「サリア様、万歳！」
「サリア様、どうぞお幸せに！」
　サリア様、サリア様……顔も碌に知らないであろう領主の娘。十三歳で、兼ねてより話のあった隣国に嫁ぐ、末の姫。
　当然、政略結婚に決まっていた。そこに馬車の中の彼女の意思は無く、只、人形宜しく飾られて、隣国へと帰れぬ旅に出されたのだった。
　そのせめてもの餞であろうパレードの余りの豪華さに、眉を顰める者も居たが――彼等は知っているのだろうか？　その彼女の犠牲あって、隣国からの支援が得られるという事を。隣国から良質の土を運び、肥沃な土壌を培う川の流れが堰き止められずに済んだ事を。
　中にはそうと察している者も居るのだろう。
　精一杯の笑顔の中に、涙を浮かべた者の姿もあったから。

　けれど彼等は知っているのだろうか？
　領主が隣国も、そんな彼等をも謀っている事を。
　
　私はパレードの見物を止め、その行き先にある森へと先回りする為に馬を走らせた。幸いこの辺りの地理には明るい。ゆったりと進むパレードの先手を取るのは容易だった。
　一行はそこで一時休息を取る予定だった。彼女の元へは最小限の護衛のみとなる筈だ。そして彼等には、既に手を回してあった。
　私が領主の娘サリアの名を取り戻し、溺愛する末娘の影として送られようとしている、私に似た孤児の娘を解き放つ為に。

　我が父は知っているのだろうか？
　領民の為と言いつつ、その領民を差し出すその行為に、私が憤っている事を？
　それが私の誇りを甚く傷付けた事を？
　そして彼女との入れ替わりが、この儘では隣国には必ず露見し、災いを招くという事を。

　何故なら溺愛の末に自由を与えられていた私は、夫となる方と既に相まみえ、互いに自らの意思で将来を誓っていたのだから。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―了―

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　寒っ！
　何でこんな話になったんや？（＾＾；）
　姫さん犠牲にするのもそれはそれで嫌やしなぁ。