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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 夜の森に迷った旅人は、とある館に行き着いた。窓に、ぽっと明かりが灯っている。
「嘘だろう……?」彼は信じられない物を見る目で、闇に沈んだ洋館を眺め渡す。が、ふとある可能性に気付いて自分の狼狽え振りに苦笑した。きっとここがモデルだったのだ。
 遠い昔に見た、記憶の中の館はパステル画風に描かれた、それでいて陰を内包した不思議な姿で彼のお気に入りの絵本の中に存在していた。今では孫に渡った筈の本。  
 それにしても見れば見る程、そっくりだった。破風の数、窓の数、古びた瓦の傾き具合迄が。明かりが灯っているあの窓さえ、同じではなかったか?
「……」彼はゆっくりと息を吐き出すと、玄関へと脚を向けた。夜も遅く、月星の光すら届かぬこの森でこの明かりを無視して進める程、彼は若くなかった。

 明かりが点いているにも拘らず、館には人の姿は無かった。
 あの窓の部屋にさえ、やや大型のランプが一つ、取り残された様にテーブルに乗っているだけ。それでいて几帳面なハウスキーパーが居るものか、館には埃一つ、蜘蛛の巣一枚、ありはしなかった。それが自身の予想の範囲内である事に、彼は驚いた。
 丸であの絵本と同じだ――そして、絵本の世界の様に、どこか存在そのものが薄っぺらい。足を踏み入れた自分自身さえも。
 主の居ないランプを手にし、中央の大階段を上りながら、彼は記憶を呼び起こす。
「……行ってはいけないよといわれたお館に入りこんだぼうやは、探検するうちにあれほど立派だった玄関がいつのまにか消えているのに気付きました」絵本の一節が意外にもすらすらと口をついて出てくる。「でも、ぼうやは気にしませんでした」
 何故気にしなかったか、今の自分は知っている。ここには……。
「ここにはいなくなったおじいちゃんがいるよ。そう聞いていたからでした」だから、やっぱりこの館は普通じゃないのだ。普通じゃないなら亡くなった祖父と会えてもおかしくないんだ。絵本の中の子供はそう考えて、わくわくしていた筈だ――今の彼の様に。「ぼうやは階段をのぼったつきあたり、一番大きなとびらを開きました」
 描かれていた儘のドアノブを回すと、扉は重苦しい音を立てて開いた。一度だけ、肩越しに振り返ると玄関は消えていた――気にしない。
「お祖父ちゃん!」途端に駆け出して、その勢いの儘に抱き付いて来た小さな影を、彼は大事そうに抱き上げた。昔、居なくなった、彼の孫を。
 互いの肩越しに見遣ると、扉の向こうには鏡の様に、大階段が続いていた。
「ぼうやはおじいちゃんといつまでも楽しく暮らしました。おしまい」

                          ―了―


 楽しい館もの第一弾(笑)
 館と出題されただけで興奮するのはどうなんだ、私。
 でもやっぱりミステリーにもホラーにも使える、館ものは楽しい♪

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