〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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やっぱり人の居ない所はいい――新緑の装いに彩られた木々を見上げて、銀華は大きく深呼吸した。
人里離れた山の麓に結んだ小さな庵。そこが今の彼女の住処だった。
白い肌に白と言うよりは銀の長い髪。
この他者とは違った姿と、幾ばくかの力の為に幼い頃より、人からは奇異の目で見られ続けてきた彼女には、人の居ない環境は寧ろ、安堵出来るものだった。
これでも、人嫌いは改善されてはきたのだ――野に生えた一本の黒百合に目を止めて、彼女は苦笑した。そうでなければ、全く人の居ない世界を望んだかも知れない……。
見る者に更に彼女の色合いを印象付けるかの様な白い着物の袖で降り注ぐ陽を覆い、彼女はかつて会った人を思い出した。
彼女とは対照的な、黒い髪に黒い目、そして黒い着物を纏った人。会った当時は未だ少年だったが、先日再会した彼は立派な青年に成長していた。彼女よりは一つか二つ、年下の様だった。
そして、彼女以上の力を持っていた。
強い想いが時として実体を持つ――それがこの国特有の事象だった。
幽鬼と呼ばれる異形のものも、その存在を信じる者が多ければ多い程、その想いが強ければ強い程、存在感と力を持つ様になる。あるいは大勢の者が信じてしまえば、普通の人間を化け物とする事も……。
尤も、それらの現象の原動力が人の想いそのものだという、現実を知る者は少ない。その人々の無知が更に誤解や偏見を生み、新たに異形が造り出される。
その異形から他者を守る為と称している行者の中にも、その想いの力を利用している者は居た。自らにその力があると、先ず自身が思い込み、更にそれに他者の想い迄が加わると、そこに――見た目には――立派な行者が出来上がる。幽鬼や異形といった不安の種が、それらに対抗し得る力を持った者を望み、その存在を信じる想いが、彼等に力を与える。
不安から生まれたものを退治する為に、更に別の異形を生む――滑稽な話だと、銀華は思っていた。
だが、そうやって生じたのとは別に、力を持った者が存在する事も、彼女は知っている。何せ彼女自身もそうなのだから。幻覚を見せ、想いを変容させ得る力。
そして、あの黒い人も。
「異形を退治に来なさったの?」年頃の娘が住むには余りにも粗末な小屋の前で、当時の彼女は言ったものだった。「村人からお聞き及びではない? 白い化け物が居ると……」
その村は彼女の生まれた村ではあったが、故郷だと思った事はなかった。人々は生まれ付き銀の髪を持つ彼女を、奇異の目で見詰め、同じ年頃の子供達は決して彼女と遊ぼうとはしなかった。村長の血筋に連なる者でなかったなら、疾うに両親共々、村を追われていたかも知れない。それでも、十を数えた頃から彼女は村を嫌い、この小屋に住まう様になっていた。
その距離が更に彼女に対する偏見や憶測を助長したのかも知れなかったが、不快な思いをして迄それを正そうとも、銀華は思わなかった。幻覚に惑わされた世界しか見えない、愚かな人達――そう見下す思いが、彼女自身にもあった。
そこへ訪ねて来た見掛けない少年。彼は彼女を恐れる風もなく、さりとて只の好奇心に突き動かされているとも思えぬ風で、ふっと、微苦笑を浮かべた。
「何だ。普通の人じゃないか」
これに、逆に銀華は眉を顰めた。
これ迄普通の村人として扱われた事のなかった銀華だが、それを寂しいと思っていたのは、もう昔の事だった。人並みに扱われないのならそれでいい、自分には村人達に無い力がある。寧ろ、貴方達なんかと一緒にしないで――今思えば他愛のない、子供地味た意地を張っていたものだ。
「普通の人?」銀の髪を態と掻き上げ、銀華は失笑を洩らした。「そう見える?」
相手はこっくりと頷いた。
些かむっとした彼女の目を見詰め、彼はゆっくりと言った。
「普通の人だよ。普通、あるいは異形という一括りで他者を見て、解った気でいる。個々人なんて実は見てはいない――力がどうのじゃなく、それが普通の人。君が嫌っている村人達とどう違うんだい?」
「……」白い頬を紅潮させて、銀華はぎゅっと唇を噛む。
その上辺しか見ない所こそが、彼女が嫌う村人達の姿だった。自分に見えないものは無いもの、自分達と違う者は異形にして、悪。それを押し付ける村人達を、銀華は嫌い、そして軽蔑していた。
それと、同じですって?――銀華は相手の目を睨み据えた。こうなったら異形とされる力でもって、彼等との差を思い知らせてやろうか、そんな考えが頭を掠めたのだが……。
不意に、二人は揃って笑い出した。
互いに術を掛けようとしていた事――同種の力を持つ、似た者同士だと、銀華は気付いたのだ。相手はもしかしたら端から知っていたのかも知れないが。
「貴方もそうなのね? 人から追われた人……。でも、何だか私よりも深刻そう……それなのに、人を恨まずにいられるの?」
「恨んでどうなるものでもないだろう? それに、彼等が恐れているのは、異形じゃない――異形と近付く事で、自らが異形と呼ばれる事だよ。単に、怖いだけなんだ」
「とんでもないわね。人を異形呼ばわりしておいて、自分はそう呼ばれたくはないなんて。これだから……ああ、これじゃ、彼等と同じね。でもやはり……私は彼等が好きにはなれないわ」
笑いを治めて、銀華はそう宣言した。
「普通の人が?」
「いいえ、あの村の人達が」ゆるりと頭を振って、銀華は言った。「普通の人、なんて居ないのでしょう? 異形が一括りに出来ない様に。普通の人なんて括りも出来ない」
こっくりと、相手は頷く。
「普通の人という括りに、彼等も縛られているんだろうよ。そこから逸脱する事を恐れている。だから、その逸脱を誘発しそうな異形を恐れる。普通など無いのだと気付けば、楽になれるだろうに」
少なくとも、自分は楽になったと、銀華は笑った。
「私は普通でも、異形でもない――私の名は銀華。貴方は?」
至遠、と短く、彼は答えた。
その後は両親と村に別れを告げて、旅に出た。彼女自身の中にも、村人への偏見と嫌悪感が染み付いてしまっていた。いつかは許せる時が来るとしても、先ずは人間への嫌悪を払拭するべきだと、考えたのだ。
それでも時折、こうして人の居ない所を選んで住処としている――人々との安住の地はなかなか見付かりそうにはなかった。
「至遠さん……その名を与えられた貴方と、この姿を授かった私、どちらが先に見付けられるでしょうね?」黒百合を見詰めて、ふっと寂しげな笑みを浮かべた銀華だったが、心の休養は充分に取れたとばかり、明日にはまた旅立つ決意を、新たにしたのだった。
―了―
前回初出の銀華さんと至遠君の出逢いという事で(^^;)
幽鬼と呼ばれる異形のものも、その存在を信じる者が多ければ多い程、その想いが強ければ強い程、存在感と力を持つ様になる。あるいは大勢の者が信じてしまえば、普通の人間を化け物とする事も……。
尤も、それらの現象の原動力が人の想いそのものだという、現実を知る者は少ない。その人々の無知が更に誤解や偏見を生み、新たに異形が造り出される。
その異形から他者を守る為と称している行者の中にも、その想いの力を利用している者は居た。自らにその力があると、先ず自身が思い込み、更にそれに他者の想い迄が加わると、そこに――見た目には――立派な行者が出来上がる。幽鬼や異形といった不安の種が、それらに対抗し得る力を持った者を望み、その存在を信じる想いが、彼等に力を与える。
不安から生まれたものを退治する為に、更に別の異形を生む――滑稽な話だと、銀華は思っていた。
だが、そうやって生じたのとは別に、力を持った者が存在する事も、彼女は知っている。何せ彼女自身もそうなのだから。幻覚を見せ、想いを変容させ得る力。
そして、あの黒い人も。
「異形を退治に来なさったの?」年頃の娘が住むには余りにも粗末な小屋の前で、当時の彼女は言ったものだった。「村人からお聞き及びではない? 白い化け物が居ると……」
その村は彼女の生まれた村ではあったが、故郷だと思った事はなかった。人々は生まれ付き銀の髪を持つ彼女を、奇異の目で見詰め、同じ年頃の子供達は決して彼女と遊ぼうとはしなかった。村長の血筋に連なる者でなかったなら、疾うに両親共々、村を追われていたかも知れない。それでも、十を数えた頃から彼女は村を嫌い、この小屋に住まう様になっていた。
その距離が更に彼女に対する偏見や憶測を助長したのかも知れなかったが、不快な思いをして迄それを正そうとも、銀華は思わなかった。幻覚に惑わされた世界しか見えない、愚かな人達――そう見下す思いが、彼女自身にもあった。
そこへ訪ねて来た見掛けない少年。彼は彼女を恐れる風もなく、さりとて只の好奇心に突き動かされているとも思えぬ風で、ふっと、微苦笑を浮かべた。
「何だ。普通の人じゃないか」
これに、逆に銀華は眉を顰めた。
これ迄普通の村人として扱われた事のなかった銀華だが、それを寂しいと思っていたのは、もう昔の事だった。人並みに扱われないのならそれでいい、自分には村人達に無い力がある。寧ろ、貴方達なんかと一緒にしないで――今思えば他愛のない、子供地味た意地を張っていたものだ。
「普通の人?」銀の髪を態と掻き上げ、銀華は失笑を洩らした。「そう見える?」
相手はこっくりと頷いた。
些かむっとした彼女の目を見詰め、彼はゆっくりと言った。
「普通の人だよ。普通、あるいは異形という一括りで他者を見て、解った気でいる。個々人なんて実は見てはいない――力がどうのじゃなく、それが普通の人。君が嫌っている村人達とどう違うんだい?」
「……」白い頬を紅潮させて、銀華はぎゅっと唇を噛む。
その上辺しか見ない所こそが、彼女が嫌う村人達の姿だった。自分に見えないものは無いもの、自分達と違う者は異形にして、悪。それを押し付ける村人達を、銀華は嫌い、そして軽蔑していた。
それと、同じですって?――銀華は相手の目を睨み据えた。こうなったら異形とされる力でもって、彼等との差を思い知らせてやろうか、そんな考えが頭を掠めたのだが……。
不意に、二人は揃って笑い出した。
互いに術を掛けようとしていた事――同種の力を持つ、似た者同士だと、銀華は気付いたのだ。相手はもしかしたら端から知っていたのかも知れないが。
「貴方もそうなのね? 人から追われた人……。でも、何だか私よりも深刻そう……それなのに、人を恨まずにいられるの?」
「恨んでどうなるものでもないだろう? それに、彼等が恐れているのは、異形じゃない――異形と近付く事で、自らが異形と呼ばれる事だよ。単に、怖いだけなんだ」
「とんでもないわね。人を異形呼ばわりしておいて、自分はそう呼ばれたくはないなんて。これだから……ああ、これじゃ、彼等と同じね。でもやはり……私は彼等が好きにはなれないわ」
笑いを治めて、銀華はそう宣言した。
「普通の人が?」
「いいえ、あの村の人達が」ゆるりと頭を振って、銀華は言った。「普通の人、なんて居ないのでしょう? 異形が一括りに出来ない様に。普通の人なんて括りも出来ない」
こっくりと、相手は頷く。
「普通の人という括りに、彼等も縛られているんだろうよ。そこから逸脱する事を恐れている。だから、その逸脱を誘発しそうな異形を恐れる。普通など無いのだと気付けば、楽になれるだろうに」
少なくとも、自分は楽になったと、銀華は笑った。
「私は普通でも、異形でもない――私の名は銀華。貴方は?」
至遠、と短く、彼は答えた。
その後は両親と村に別れを告げて、旅に出た。彼女自身の中にも、村人への偏見と嫌悪感が染み付いてしまっていた。いつかは許せる時が来るとしても、先ずは人間への嫌悪を払拭するべきだと、考えたのだ。
それでも時折、こうして人の居ない所を選んで住処としている――人々との安住の地はなかなか見付かりそうにはなかった。
「至遠さん……その名を与えられた貴方と、この姿を授かった私、どちらが先に見付けられるでしょうね?」黒百合を見詰めて、ふっと寂しげな笑みを浮かべた銀華だったが、心の休養は充分に取れたとばかり、明日にはまた旅立つ決意を、新たにしたのだった。
―了―
前回初出の銀華さんと至遠君の出逢いという事で(^^;)
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Re:こんばんは
銀華さん目線だからね~。白陽はお休み☆
Re:こんにちは♪
はーい、相変わらず意味不明なのを書いてくれました(笑)
この二人、ある意味似た者なのかも。
この二人、ある意味似た者なのかも。
こんにちは
まるで暴走族と同じだね。
人と違うことに拘って、ハデな格好をして、態と嫌われるような行動をとって、去勢を張って人を近づけないようにしている。
その所為で却って余計な面倒を抱え込んで、去勢を張り合う。
幼稚なだけなのに。(笑)
とりあえず人に迷惑かけるなよ~。
人と違うことに拘って、ハデな格好をして、態と嫌われるような行動をとって、去勢を張って人を近づけないようにしている。
その所為で却って余計な面倒を抱え込んで、去勢を張り合う。
幼稚なだけなのに。(笑)
とりあえず人に迷惑かけるなよ~。
Re:こんにちは
普通に生活してても、人と違うと言われ続けるとね~。
あんた等と一緒でなくて結構!――って気分になる(笑)
髪の色なんて生まれ付いてのものだし~。今みたいに簡単に染められないし(笑)
あんた等と一緒でなくて結構!――って気分になる(笑)
髪の色なんて生まれ付いてのものだし~。今みたいに簡単に染められないし(笑)
Re:無題
生でって……(笑)
人はどうしても括りを求めてしまいますね。あるいは自分が所属する場所、と言うか。
でも、それを他者から押し付けられるのは……迷惑でしょうね~。
人はどうしても括りを求めてしまいますね。あるいは自分が所属する場所、と言うか。
でも、それを他者から押し付けられるのは……迷惑でしょうね~。
こんばんわぁ~
人は見た目で判断しますからね。
私も…人の事は言えないかも。
判断してしまうかも…う゛~ん…。
ダンナっちの両親から、私の見た目だけで
料理ができそうにないって勝手に思われてます>_<。
私も…人の事は言えないかも。
判断してしまうかも…う゛~ん…。
ダンナっちの両親から、私の見た目だけで
料理ができそうにないって勝手に思われてます>_<。
Re:こんばんわぁ~
第一印象が大事、とは言ってもね~。
一目で相手が解る程、皆自分の「人を見る目」に自信持ってるのかな?(苦笑)
見た目だけで出来なさそう、とか思われてもねぇ(--;)
一目で相手が解る程、皆自分の「人を見る目」に自信持ってるのかな?(苦笑)
見た目だけで出来なさそう、とか思われてもねぇ(--;)
Re:こんばんは♪
何処でしょうね?(^^;)
ある意味似た者~かも。
ある意味似た者~かも。