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そんな事を呟きながらもいそいそと、硝子の小瓶を抱えて暗い道を辿る少女を見付けたのは、眷属の蝙蝠でございました。辺りは屋敷を隠す暗い森。
他にあるものと言えば、僅かに街から入った場所にある、墓地位のものでしょうか。
眷属からの報告を受けたお嬢様の眉間に、微かな皺が寄せられました。
人間にとって、それも見た所十一、二歳の少女にとってこんな夜中に墓地への道を急ぐなど、尋常な事ではないでしょう。
そしてその小瓶に、嫌な感じがするとお嬢様は仰せになられました。
お嬢様方はその眷属の目を通せば、直にその場に居る如く、様子を見渡せるそうなのですが、生憎只の生き人形の私、カメリアにはそんな力はございません。
それでも気になる私の様子を気遣われてか、お嬢様は自らが映る事の無い鏡に、眷属からの情報を、映し出されました。人間界で言う所の監視ビデオみたいなものでございますね。
大きな姿見の中で、少女は月明かりと小さなカンテラだけを頼りに、墓地へと辿り着きました。
そして向かったのは、二基の墓石。どうやら夫婦が睦まじく並んで埋葬されている様子。
『これを使えば……』鏡を通して、彼女の声が届きました。『パパとママは生き返る』
やはりそれ系か、とお嬢様は溜め息をつかれました。
人間の考えそうな事だ、と。
恐らくは幼くして両親を亡くした少女が、その復活を望んだという所でしょう。
只、問題なのはあの小瓶。
「お嬢様、あれは……?」
「恐らく魔女にでも用意させたのだろう。安いものでもないだろうに」
安い、と言うのは金銭的なものとは限りません。それは某かの犠牲であったり、制約であったり……。人二人を蘇らせる程のものとなれば、余程お人好しの魔女でもない限り、かなりの報酬を要求した事でしょう。こんな子供に……。そしてそれだけのものを払ったとしても……。
「あれは、本当に効き目があるのでしょうか?」
「真逆」お嬢様は言下に否定されました。「死んだ人間を人間の儘に蘇らせるなんて出来る筈もない。出来るとしたら生きている様に見せ掛けるだけ。恐らくは魔女の人形にされるのがオチだろう」
「人形……」私は複雑な思いで呟きました。前述の通り、私は生き人形。人に造られた人形でありながら、自らの意識を持ち、思いを持ち、動くもの。
けれども、恐らく魔女の人形となった人間には、それらは無いのでしょう。糸に縛られた操り人形の如く。
それでも、あの子は両親が蘇ったと、幸せに思うのでしょうか?
私が思い悩む間にも、少女は間だ掘られた跡の新しい地面を、木の板を使って掘り起こし始めました。この辺りは土葬。恐らくは埋葬されて間も無い遺体が必要なのでしょう。
そして掘り起こした遺体に、あの小瓶の中のものを、という事なのでしょう。
果たしてそれで例え仮にでも二人が起き上がるのか、彼女を娘として認めるのか。
心臓も無い身でおかしな事かも知れませんが、私はハラハラしながら、その様子を見ておりました。
そして――使用人としては非常に迂闊な事に、お嬢様がいつの間にか出て行った事に、気付いておりませんでした。
荒い息をつきながら、二人の遺体を掘り起こした少女。柩の中には間だ新しい遺体。
それを見下ろす少女の顔に、狂気を孕んだ笑みが広がっていきます。それは二人との再会への期待と、彼女等人間が信ずる神への背徳との狭間。
そして、彼女は小瓶の栓を抜き――背後からの声にぎくりと動きを止めました。
『お前は死を憎むか?』
「お、お嬢様!」申し訳ないと思いつつも打ち明けます。お嬢様がいらっしゃらない事に気付いたのはこの時点でございました。
少女はそろりと振り返り、お嬢様と向き合いました。
森が僅かに開けて、月明かり差す墓地の中、白い肌に亜麻色の髪、艶やかながらも凄みのある笑みを浮かべるお嬢様と、最早完全に気圧され、蒼白い顔で佇む少女。
『お前は永遠に生きたいか?』お嬢様は問われました。
少女はちらりと足元の両親を見下ろし――頷きました。
『パパとママと……三人でずっと一緒に居たい』
『その二人はもう死んでいる。その薬、大方魔女にでも作らせたのだろうが、お前の両親の魂は戻らぬぞ? お前一人なら……私が与えてやれる。永遠の生を』
『……』少女は暫し黙しておりましたが、不意に向きを変え、瓶の栓を一気に引き抜きました。『そんな事ないもん! 二人共生き返るもん!』
ばしゃり、と薬品が二人の遺体に掛けられました。
私が思わず鏡に掴み掛からんばかりに見詰める中、二人の遺体が身震いを始めました。それは、目覚めの予兆と取るには余りに禍々しい、蠕動。弛緩した身体の筋肉が、あり得ない順、動きで震え、蠢いています。
あれが、生きた人間の筈はありません。
眉を顰めるお嬢様の前で、二人は不自然な動きで立ち上がり――駆け寄った少女には目もくれず、墓地を去ろうとしています。恐らくは、魔女の所へ行こう、と。
『ど、どうして……?』少女の泣き声に、お嬢様の声が掛かりました。
『だから言ったろうが。魂は戻らぬと。まぁ、確かにあれなら不死にはなったかも知れんな。動かなくなる時は、死と言うより壊れる時、だからな。魔女に使われた後、廃棄処分にされる時、か』
『そんな……』少女は蹲ってしまいました。『だって、また三人一緒だって……』
『碌でもない魔女だな。だが……死を軽んじたお前も悪い』言って、お嬢様は彼女の背後に腰を落とし――その首に牙を。
そして身を離すと、茫然としている少女に笑いました。
『これでお望み通り、三人とも不死だ。お前を騙した魔女に仕返しするなり、両親の魂を取り返そうと無駄にもがくなり、好きにするがいい。何、時間だけはたっぷり、ある』
首筋から一筋の血を流し、茫然と見送る少女を余所に、お嬢様は蝙蝠へと姿を変え、墓地を後にされました。
「お嬢様……あの子はこれからどうなるのですか?」お帰りになられたお嬢様に、私は尋ねました。
「それはあの娘がどうしたいかによるだろうね」お嬢様の素っ気無いお返事。少々、気分を害されておられる様です。「少々の事では死ねない身体で、闇に生き続けるか、いっそ魔女にぶつかって玉砕でもするか……それはあの娘が選ぶ事だろう?」
「それはそうでございますが……些か酷な様にも……」
「カメリア。私はこれでも怒っているのだよ。この世のものとあの世のものとの間に厳然と横たわる死を、我等には縁遠い死を、軽んずるあの娘と、魔女に」
だから、とお嬢様は凄みのある笑みを浮かべられました。
「眷属をあの遺体につけておいた。魔女を探し出し――死を与えてやるようにとね」
魔女が死に、糸の切れた操り人形となった二人の遺体と、不死に近い少女。彼女は両親の魂の糸を手繰り寄せようと、足掻き続けるのでしょうか?
―了―
お。何か暗い話になったかも。
お嬢様は普通に死ねないだけに、逆に死を尊重しています。生死を軽んずる者が大嫌いです。
む。果たして妖は自然物なのか、自然ならざるものなのか?
取り敢えずゾンビは自然物じゃない気がする(--;)
(火村先生に似てるなあ、と思ったのは私だけかな…/苦笑)
永遠の生命を熱望する人間と、生命の刹那の輝きに憧れるヴァンパイア。お嬢様が牙を立てるのは人間に復讐する時というのが効いてますね♪
ちなみに、読んでる間からずっと頭の中で、M.じゃくそんの『スリラー』がエンドレスでぐるぐるしてます(笑)
永遠に生きられる者が果たして幸せか否か。まぁ、どう生きるかによるかも知れないけど。
「スリラー」……墓地に蘇った遺体だものねぇ^^;
言っても、十二、三でしょう。
まだ色々と人生の事に関して、正しい判断が出来る頃でもないしねぇ。←そう言う自分は出来るのか?^^;
生死って何だろうねぇ。
十二、三にもなれば知恵もついてるでしょう、と。本当に正しい事が解らなくても、取り敢えず間違っている事が解ればそれを避けなさい、と。
それでもやってしまうのが人間の愚かさであり、小説のタネですが……^^;
周りも含めてだった場合、人間関係なんかもずーっとその儘な訳で……何かやだ(苦笑)
自分一人だった場合、大事な人もそうでない人も自分を置いて、いつかは行ってしまう訳で……これもやだ(笑)
結論。私的には永遠なんか、要らん(笑)
私も父を亡くしております。私が何か訊くと「見て解らんものは訊いても解らん」とのたまう人でした。ええ、お陰様で訊くより先に推測する癖が付きました(笑)
大好きですが、生き返って欲しいとは思いません。夢に位出て来い、とは思いますが^^
お嬢様にとって逆に死は尊いものだったりして。
永遠の命なんてゾッ!とするよねぇ!
特に周りは普通に寿命が尽きて死んでいくのに、
自分だけ死ねないとしたら!これは絶対悲惨だよぉ~!何百年とかなら長期計画で!ってのもあるかも知れないが、何万年とか何千年となると!
辛いだけのような気がするねぇ~・・・・・
何事も終わりがあるから良いのかも知れないネ!
何千年、何万年ともなると……気が狂うかも。
やっぱり永遠なんて、要らん(苦笑)
不死にはしなかったけど。
いやいや、そんなに暗いとは思いませんでしたよ!!
お嬢様の怒りが少女に対してだけでなく、魔女にもってのが素晴らしいっす。
にしても…、眷属の蝙蝠が始末できるぐらいの魔女って、相当な下っ端ですよねw
例え下っ端魔女でも!(笑)
まぁ、そこはそれ、お嬢様の眷属ですから、蝙蝠と言えど……ねぇ?(笑)
寧ろお館に住まわせたい程気に入った人間は、噛まないかも? 少なくともその人に家族なり居る場合は。置いて行き、置いて行かれる事になるからねぇ、その人間は。