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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 月夜は緋(あけ)の色が欲しいな。
 罪も欲しいかな?
 
 歌う様にそんな事を呟かれながら、お嬢様は窓から暗い森を眺め渡されました。珍しく浮かれておられる御様子。
 それも無理はないかと私、カメリアは天空を見上げました。
 ぽっかりと浮かぶは綺麗な満月――それもうっとりする様な緋色です。
 吸血鬼であられるお嬢様の気分が高揚するのは寧ろ当然な程、妖しく美しい、緋。それは血にも似て……私達妖(あやかし)は気もそぞろ。
 それにしてもお嬢様、罪とは――?

 吸血鬼にとって人の血を求めるのは至極当然の事。人が食事をする様に。時にそれが人間からは忌み嫌われようと、私共から見ればそこに何の罪科もございませんし、無論そんな事を感じる筈もございません。
 では、お嬢様の仰せの「罪」とは?
 私は月を見上げるお嬢様の邪魔をしないよう気遣いつつも、お尋ね申し上げました。
「この緋い月……どうやら心動かされるのは私達だけではないらしい」お嬢様は笑って仰せになられました。「森に、血の匂いがする」
「それは……人の、でございますか?」私は訊き返しましたが、お嬢様が態々仰る以上、そうに違いない、と確信致しました。
「森の入り口辺り、狼どもに襲われたのでもないな。未だ新しい……」
 そしてお嬢様は私に供を命じ、森へとお出掛けになられたのでございます。

「おやおや、勿体無い事を」心臓を恐らくは鋭い刃物で一突きされ、自らの血に塗れて倒れ伏す若い女性を見ての、お嬢様の第一声でございました。「なかなか美味しそうな血の匂いだったのに」
 しかしそれはもう冷たく凝固を始め、食すには値しなくなっておりました。何しろ彼女は死んでおりましたから。
「誰がこの様な事を……」
「これ」お嬢様は遺体の手元を指差されました。「血で何か書いてる」
 遺体の指先にこびり付いた血。それは突き出た岩の表面の文字へと続いておりました。無論、夜の森は暗いのですが私達妖の目には眩む様な日の光より月明かり。はっきりと見えました。
 『13』と。
 これは……所謂ダイイング・メッセージというものでしょうか? 私達は顔を見合わせました。

 遺体の手持ちの荷物を調べた所――勿論、私達の痕跡を残すような真似は致しません――森に程近いアパートに住む女性だと解りました。
 お嬢様は――気分の高揚が続いておられるのか――妙に乗り気で、彼女のアパートを訪ねてみると仰せになられました。無論、カメリアもお供致します。
 一見瀟洒な二階建てのアパート。一階は管理人室と他五部屋。二階が六部屋。
 その一階の12号室が彼女の部屋だった様です。一人暮らしだったのか部屋には明かりも暖かさも無く、丸で主の死を知ってかの様に、静まり返っておりました。その隣のドアプレートの『13』の文字を見て、私ははっと息を飲みました。
 が、お嬢様は落ち着いた様子でそれを一瞥されると、何故か12号室のドアをノックし始めました。それも、結構強く。ドンドンと。
 私が呆気に取られる間にもそれは徐々に強さを増し、ドアが揺れる程。
 居ない事が解り切っているのにどうされたのかと、、私が差し出口をお許し願おうとした所、11号室のドアが乱暴に開かれました。
「煩いわね! 何時だと思ってるの? 隣なら帰ってないわよ!」きついウェーブの掛かった黒髪の女性。被害者と同年代と思われました。まぁ、この時間にこんな真似をされれば仕方ないかと思われますが、険しい表情です。
 が、お嬢様は意に介した風もなく。
「何時頃帰るか解ります?」と、お尋ねに。思わず私は隣で小さくなりながら頭を下げました。
「いきなり何なのよ!」それでも気分を害された様でした。無理もない事でしょうが。「あの子がいつ帰るかなんて知らないし、帰って来なくていいわよ!」
「仲が悪いのか……」
「関係ないでしょ!?」
 と、今度は13号室の扉が鬱陶しげに開きました。
 大変ご迷惑をお掛けしております。私は振り返り、シャワーを浴びたばかりなのか濡れた金髪を拭きながら出て来た女性に頭を下げました。訝しそうに眉根を寄せています。
「煩いわね。どうしたの?」彼女が尋ねたのは、私達を飛び越して黒髪の彼女にでした。棘のある声が彼女等の関係の悪さを物語ってはいましたが、それ以上に私達、怪しまれている様ですね。
「あの子に用だって」黒髪の彼女は12号室の扉を目で示し、当て付ける様に言いました。「いつ帰るか、知ってる? そう言えば夕方一緒に居なかったっけ?」
「帰り道が一緒になっただけ」不本意そうに、一言。12号室の彼女、余程嫌われていたのでしょうか。
 しかしあの『13』という数字、そして夕方とは言え一緒に居たという証言――気になる話です。シャワーを浴びていたのも、もしかしたら返り血を……私がそんな想像を巡らせていると、お嬢様は黒髪の女性に仰せになられました。
「彼女、森の外れで死んでいたんだけどね」
 二人の女性が息を呑む気配が、夜の冷たい空気の中に広がりました。

「彼女の手元に『13』という数字が書かれていた。彼女の血でね」お嬢様の言葉に13号室の彼女が声を上げます。
「だ、だから何なの? 真逆それが私の事を示してるなんて言わないでしょうね? 冗談じゃないわよ!」
「でも、仲は悪かったわよね?」と、黒髪の彼女。「ま、それは私も同じだけど……。口論にでもなってやっちゃったんじゃないの? グサッと」右の親指を立てて、それを刃物に見立ててか自分の胸を指し示しました。
「口も利かないのに口論になる訳ないでしょ! 馬鹿な事言わないで。そもそも、この人の話だって本当かどうか……。本当ならどうして警察に通報しないで此処に来たのよ?」お嬢様に詰め寄る金髪女性。当然私は割って入りますが。
 お嬢様はそれも意に介さず、黒髪の女性に話し続けます。
「何故彼女が刺されたと? 私は死んでいたと言っただけの筈だが?」
「え……。血で字を書いてたんでしょ? だから……」
「鈍器で殴られても出血はする。それと、今何故心臓を親指で差したのかな?」
「別に他意は無いわよ。心臓を突かれれば死ぬじゃない! 血も一杯出るし」
「但し、即死の可能性が高く、字を書く事など出来ない」
「……じゃ、じゃあ『13』って字が、あの子が書いたものじゃないとでも言うの?」
「真逆私に罪を被せる為に!?」13号室の彼女が声を荒げました。「そもそも、本当にあの子、殺されてたの? 悪い冗談なんじゃないの? あんた達と組んでの」
「生憎と」お嬢様は短く答えました。「今彼女がやった様に、心臓を一突きされて」
「……あんたがやったとしたら、随分とお粗末ね」黒髪の女性を見据えて、13号室の彼女は言いました。「即死して動かない指を使って岩に字を書いたの? 私の仕業に見せ掛ける為に。彼女の胸から出た血で」
 途端、お嬢様が初めて13号室を振り返られました。
「岩に書いていたなんて言ってないけれど?」
 金髪の彼女はあっと口を押さえましたが――もう遅いですね。
 12号室の彼女の言動位なら確かに想像でもあり得ます。けれどあの字が何に書かれていたかは、言われてない以上、その場に居た者にしか解りません。
 彼女、自分への疑いを逸らす為に態と「13」の字を残し、それが犯人の工作だと見破られる事によって罪を被せられそうになった無実の人という役割を演じようとしたのですね。
 でも、それが巧く行きそうになって、つい口が滑った様です。
「け、警察に……」通報しようとする黒髪の女性の目の前に、お嬢様の手。途端、彼女は妖術に掛かり眠りの底へ……。
「生憎警察に協力する気は無いの」お嬢様は仰って金髪の彼女を振り返り――緋色の月に負けぬ艶やかさで微笑まれました。「今夜、私が欲しいのは貴方の罪の味の血……」

 翌朝、呆然とした儘の女性が警察に自首したそうです。但し、黒髪の女性は全く昨夜の事を覚えておらず、金髪の女性も――何故か見事な迄の白髪になっていたと一頻り騒がれておりましたが――同様で、只事件の事だけを述べるだけだったそうですよ。

 そうそう、お嬢様はご機嫌で兄上様の黒猫を撫でてはご満悦の御様子です。
 あの夜の月に似た緋い唇で微笑んで。

                      ―了―

 長くなったー! 夜霧が真似っこするので月夜の方から。
 「月夜は呆気がほしいな。巽もほしいかな?」なんぞと申しておりましたので。

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こんばんは
カメリアさん人前に出てる!人形なのに驚かれてないって事は益々人間に近付いたって事!?
記憶消すから大丈夫だからかな?

ところで犯罪者の血は、無実の人間の血より美味しいのかしらね?
冬猫 URL 2008/05/04(Sun)01:50:49 編集
Re:こんばんは
美味しいと言うより、人だって偶には苦い物や酸っぱい物をを食べたくなる時、あるじゃないですか。そんな気分の問題。直接的にそんな味がする訳ではないと思うけど(笑)
カメリアさん、玄関先は暗いから大丈夫^^
いざとなったらお嬢様居るし。
巽(たつみ)【2008/05/04 14:40】
こんにちは
GWだからかなぁ。
訪問者減ったねぇ。
冬猫さんだけwww。
しかしなんちゅう単純な工作じゃ~。(笑)
afool URL 2008/05/04(Sun)11:58:52 編集
Re:こんにちは
GWって、遊びに行ってる人も居れば逆に仕事が忙しい人もいるからねぇ。意外と仕事忙しい派が多い様な……。
う~む、やっぱり工作練るには時間が要るな(--;)
巽(たつみ)【2008/05/04 14:43】
無題
こんにちわ(^o^)丿
お嬢様に血を吸われても
死なないものなんですか?
それとも金髪の彼女も半吸血鬼になっちゃったのかしら!?

満月って見るとムラムラしますよねー!
moon URL 2008/05/04(Sun)13:32:32 編集
Re:無題
ムラムラですか!(^^;)
にゃこたんと一緒に月に吠えますか?^^

死ぬか死なないかはお嬢様の加減次第(笑)
生命力吸い尽くしちゃうと死んじゃいます。
吸血鬼にはなってないです。お嬢様が認めないと駄目なので。
巽(たつみ)【2008/05/04 14:47】
こんにちわー
ハンチングとコート被ってパイプ咥えたお嬢の姿が目に見えるようでしたw
罪の味って・・・・背徳感・荒廃観がいいのですかねー。

そういえば月で思い出しましたけど、春と言えば朧月。
それに関する話を書こうと思っていたのに、全く手がついていなかった^^;
気温的にはもう夏ですよねぇ・・・・暑い暑い。。
らすねる 2008/05/04(Sun)15:41:52 編集
Re:こんにちわー
すっかり初夏……と言うより、気温は夏!^^;
まぁ、季節感無視は私もよくやるし(笑)
朧月の話、読んでみたいです~♪

お嬢様、やはり妖ですからね~。そういうものに惹かれる事もあるのかも。
巽(たつみ)【2008/05/04 20:57】
遅ればせながら
こんばんは。
フーダニットでしたか。今回のお嬢様は、月に導かれたのか、それともただ単にヒマを持て余してたのか…(苦笑)
二階建てのアパートに部屋が12室、でも13号室?としばらく途方に暮れましたが、アレですか、ホテルのように4号室が無かったのかな?
まだボケボケですね、ごめんなさい。

それと、大きなお世話ですが、本家にも遊びに行ってあげてくださいませんか?淋しがってはりますよ。
みけねこ URL 2008/05/04(Sun)21:10:15 編集
Re:遅ればせながら
月に導かれたのか、単にヒマを持て余してたのか……恐らく両方でしょう(笑)
部屋番号……あれ?^^;
あ、そうか、私1階の3号室みたいな付け方したんだった。だから2階は21から始まってます、このアパート。説明足りなかったですね(--;)

本家、余りの鯖の腐り加減に……(--;)
深夜3時頃に携帯で繋ごうとしても繋がらないってどんな鯖よ!? ってちょっとキレ気味ですねん。
巽(たつみ)【2008/05/04 22:23】
ついに
探偵になってしまいましたか?(笑)
私的にはこういう展開すごくスキです☆
月には妖しい力があるんでしょうか…ね?

お嬢様の絶妙な技がステキですねぇ(*^_^*)
つきみぃ URL 2008/05/04(Sun)23:52:39 編集
Re:ついに
有難うございますm(_ _)m
月はやはり何か妖しい魅力がありますねぇ。魔力かも?
巽(たつみ)【2008/05/05 00:45】
こんばんは~♪
おぉ!お嬢様♪良いですネェ♪
こういう妖って良いネェ!すごく惹かれます。
もし仮に生気を吸い尽くしたとしても、許せちゃうなぁ・・・・・

でも罪の味は、お通し程度で良いのかな?(笑)
クーピー URL 2008/05/05(Mon)00:08:36 編集
Re:こんばんは~♪
吸い尽くしちゃってもOKっすか^^;
お嬢様、量より質、なのかも知れません(笑)
巽(たつみ)【2008/05/05 00:48】
こんばんは
1日にして白髪になることはないってなんかでやってたけど、それだけのショックだったんだろうなぁ。吸血鬼…
なっち 2008/05/05(Mon)21:30:11 編集
Re:こんばんは
ああ、あれはショックで、と言うより生命力失った象徴として、白髪にしちゃいました(笑)
実際には一晩で白髪に……なんて事は起こらないけどね☆
巽(たつみ)【2008/05/05 22:51】
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