忍者ブログ
〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin Link
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「あ、あれ、三上さんじゃない?」奈々美は高校からの帰路、今日転校して来たばかりの同級生の姿を見付けて、声を上げた。「こっちの方向だったんだぁ。声掛けてみようか? 一緒に帰らないかって」
 それ迄談笑していた、同じ方向に帰る友人数人が、ぴたりと話を止める。
 微妙な空気が流れた。
「どうか……した?」奈々美は首を傾げた。
「奈々美、あんたあの子の自己紹介、聞いてたよね?」顔を顰めて、春香が言った。
 こくり、と頷く奈々美。
「それでいて、声掛けてみようかなんて言う? 本当にお人好しなんだから!」
「そうだよ。『勉強しに来たのであって、オトモダチを作りに来たのではありません。懐かないで下さいね』なんて言う奴だよ!? 誰が懐くかっての!」
 異口同音、類似の言葉が次々に吐露される。
「うーん、確かにいい自己紹介じゃなかったとは思うけど……」奈々美は困った様に苦笑する。「三上さん、人見知りするのかなぁ?」
「人見知りとかいうレベル?」春香は呆れ顔で溜息をついた。「本当に、奈々美もどっかずれてるんだから」
「でもさぁ、本当に勉強する為だけだったら、今は学校に来なくったって出来るし、高卒相当の資格取る事も出来るよねぇ? なのに高校入るって事は口とは裏腹な思いもあるのかなぁって……思ったんだけど」
「なるほど……。そう言われればそういう事もあるかも知れないわね」春香は唸った。ぼうっとしている様でいて、色々考えてるんじゃないの、という驚きもやや、含んでいる。
「でしょ? だから」本当は鎌って欲しいのかもと奈々美が言うより早く、春香の言葉は続いた。
「そうかも知れないけど、やだ。声なんか掛けないからね」
「あらら」奈々美は力なく苦笑する。
「大体、懐かないで下さいって何よ。懐くって言ったら動物とか、子供が懐くもんでしょうが。誰が懐くかっての!」
 未だ未だ文句を連ねる友人達に、話題を繋ぐのに失敗したなぁ、と奈々美は溜息をついた。
 それにしても、三上京香の台詞、あれは本当に本音だろうか?

 駅前で春香達と別れ、自宅を含む住宅街へと足を踏み入れた奈々美は、またもや、件の転校生の姿を見付けた。
 道端で立ち止まり、野良なのか迷い犬なのか、未だ幼い白い子犬を見下ろしている。その横顔は教室で見た時よりもどこかしら柔らかな表情で……しかし、不意にそれは豹変した。
「しっ! しっ! あっちへ行きなさい! 私に懐いたって駄目なんだからね!」鞄を振って――当たりそうで当たらない、絶妙な振り方だ――子犬を追い払う。「ほら! 行きなさい!」
 途惑う様な足取りで、子犬は行ってしまった。ちょっと前迄、構ってくれそうな人と判断していたのだろう。何故怒られたのか、解らない様子だ。
 そしてそれは奈々美も同様だった。何故、三上京香が突然子犬を追い払ったのか、解らない。穏やかな表情に、実は動物好きの優しい人なのかも、と夢想していただけに尚更だ。
「三上……さん!」思わず、奈々美は声を掛けていた。反対する友人はこの場には居ない。
 驚いた様子で振り返った京香と目が合った。
「同じクラスの……」名前迄は覚えていなかったのか、言い淀む京香に、奈々美は改めて自己紹介した。
「木下奈々美。奈々美でいいよぉ」自然に、笑顔を浮かべる。
「……懐かないでって言ったでしょ」素っ気なく言って、京香は踵を返した。
「あらら」奈々美は力なく苦笑する。「でも、あたしがクラスメートだって、覚えててくれたじゃない」
「それは……休み時間に貴女達が騒いでいて、煩かったから、目に付いただけよ」
「それでも、なぁんにも興味がなかったら、覚えないんじゃないかなぁ? あたし、スポーツとか全く興味ないから、スポーツ選手の顔とか全く覚えられなくて、春香達にいつも呆れられてるんだぁ」
「貴女と一緒にしないでよ」京香はにべもない。
 流石に、奈々美も溜息をつく。話の接ぎ穂が見付からず、仕方なく、単刀直入に訊いてみる事にした。
「ねぇ、さっき、どうして急にあの子犬を追い払ったの?」
 見ていたのか、という咎める様な視線をほんの一瞬送ったものの、京香は黙って歩を進める。
「犬、嫌いなの? 寸前迄、何て言うか……穏やかな顔してたけど……」
 ぴたり、京香は足を止めた。唐突過ぎて、後を歩いていた奈々美は踏鞴を踏む。
「嫌いよ」京香は言った。「犬も、犬みたいに懐いてくる人も」
「あー、今のあたしみたいなの?」自分を指差して、奈々美は苦笑いした。
 こくり、京香は頷いた。黙った儘。
 それでも……。
「嫌いなら、最初からあんな表情、出来ないと思うよ?」
「……貴女もしつこいわね。さっさと行きなさいよ! 懐くなって言ってるでしょ?」京香は怒鳴った。「行きなさい! 早く! ほら、さっさと……行って頂戴!」
 怒鳴りながらも、彼女は自ら距離を取るべく、後退りした。何故か周囲に落ち着かない視線を飛ばしながら、顔を顰めて奈々美に離れるようにと言う。それは突き放す為の命令と言うよりも、懇願の響きを帯び始めていた。
「三上……さん?」彼女のおかしな振る舞いに、奈々美は寧ろ、足を踏み出した。
「行ってよ! 私から離れて! 奈々美!」

 奈々美――そう呼ばれた事に思わず顔を綻ばせたのと同時だったろうか。
 突然、右足に痛みを覚え、奈々美はその場に蹲った。何かに噛まれた様な、鋭い痛みに思わず悲鳴が漏れる。そして、それと同時に感じたのは、獣の臭い――犬だろうか? だが、先程の子犬などとは違う、もっと歳老いた、獣に近い臭いだ。
 だが、その姿は見えない。痛みを訴え続けている足にも、何も噛み付いてなどいない。只、歯型の様に、やや鋭い弧を描く赤い点がぽつりぽつりと、浮かび出していた。
「止めて!」奈々美の悲鳴と被さる様に、京香が、こちらもまた悲鳴の様な声を上げていた。「止めなさい! お願いだから、もう止めて!――シロ!」
 シロ――それがこの現象を引き起こした元凶だと、奈々美は瞬間的に察した。
 そして、怒鳴った。
「こぉら! シロ! 犬の幽霊だか何だか知らないけど、ご主人を困らせるんじゃない!」
 途端、怯んだかの様に傷みが退いた。ここぞとばかりに奈々美は言い募る。
「犬はご主人を守るもんでしょ? 心配掛けたり、困らせたりするんじゃないの!」
 
 ほんの僅かの間、何者かの気配を、奈々美は確かに感じた。それは途惑う様に彼女と京香を見比べて、やがて消えて行った。
 ぺろり――奈々美の足を済まなさそうに舐める様な感触を、そっと残して。

「シロは昔飼ってた犬でね……兄弟みたいに育ったんだけど、去年死んで……。それ以来なの。私が誰かと、あるいは何かと仲良くしていると、嫉妬なのか、心配なのか……。ああして邪魔するようになって」公園に移動して、濡らしたハンカチで奈々美の足を冷やしながら、京香は言った。
「だから、子犬も、人も懐かないようにしてたのね?」
「うん……」
「でも、ま、もう大丈夫なんじゃない?」奈々美は笑った。「多分、解ってくれたよ、シロ」
 だから、友達になっていいよね、と笑う奈々美に、京香は穏やかに頷いた。

                      ―了―


 長くなったー(--;)

拍手[1回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
おはよ!
嫉妬の表現の仕方が間違ってるのって
人間も。。。というか
人間の方が始末が悪いよねw

シロ、わかってくれて良かった(ノ_σ)
つきみぃ URL 2011/04/07(Thu)06:27:00 編集
Re:おはよ!
好きだからこその嫉妬なのだけど、表現を間違うと……ねぇ(^^;)
却って好きな人を遠ざける結果になる事もありますよね。
周りも迷惑だし(苦笑)
巽(たつみ)【2011/04/08 21:31】
こんばんわ~
シロもまだまだ一緒にいたかったんでしょうねぇ。
うちのお星さまになったワンコ達も
私を見てるかなぁ~と思っちゃいました。

巽さんお久しぶりです!
足が肉離れおこしちゃって
お休みしていました>_<。
ふわりぃ URL 2011/04/07(Thu)18:50:11 編集
Re:こんばんわ~
肉離れ(・_・;)
お大事にです。
巽(たつみ)【2011/04/08 21:32】
こんばんは
いろいろと思うところはありますが・・・とりあえず、話が何で通じるんだろうと。^^;

ところで、知らないから聞くんだけど・・・
>鎌って欲しい
って正しい用法なの?
afool 2011/04/07(Thu)22:28:49 編集
Re:こんばんは
とある武器屋にて。
「鎌って欲しい?」
「ううん、あんまり好みじゃないなぁ。やっぱり剣の方が……」
んな訳あるか(^^;)

慌てて書いたら、変換ミスった(--;)
巽(たつみ)【2011/04/08 21:36】
追伸
忘れた。^^:
今日結果が届いた。
アクセス1級の資格も合格したのだ。(^^)v
\(^o^)/
afool 2011/04/07(Thu)22:31:22 編集
Re:追伸
おめでとう\(^0^)/

って、どうせならツッコミを忘れて(笑)
巽(たつみ)【2011/04/08 21:37】
無題
京香に憑いていたのが犬でよかったですね。
江頭みたいなタイツ姿の中年のおじさんが足元にまとわりついていたら、と思うと噴いてしまいます(笑)
銀河径一郎 2011/04/08(Fri)23:52:42 編集
Re:無題
それは奈々美も説得を試みる事なく、逃げます(笑)
巽(たつみ)【2011/04/12 22:08】
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
フリーエリア
プロフィール
HN:
巽(たつみ)
性別:
女性
自己紹介:
 読むのと書くのが趣味のインドア派です(^^)
 お気軽に感想orツッコミ下さると嬉しいです。
 勿論、荒らしはダメですよー?
 それと当方と関連性の無い商売目的のコメント等は、削除対象とさせて頂きます。

ブログランキング・にほんブログ村へ
ブログ村参加中。面白いと思って下さったらお願いします♪
最新CM
☆紙とペンマーク付きは返コメ済みです☆
[06/28 銀河径一郎]
[01/21 銀河径一郎]
[12/16 つきみぃ]
[11/08 afool]
[10/11 銀河径一郎]
☆有難うございました☆
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
最新記事
(04/01)
(03/04)
(01/01)
(12/01)
(11/01)
アーカイブ
ブログ内検索
バーコード
最新トラックバック
メールフォーム
何と無く、付けてみる
フリーエリア
忍者アナライズ
忍者ブログ [PR]