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「あ、あれ、三上さんじゃない?」奈々美は高校からの帰路、今日転校して来たばかりの同級生の姿を見付けて、声を上げた。「こっちの方向だったんだぁ。声掛けてみようか? 一緒に帰らないかって」
それ迄談笑していた、同じ方向に帰る友人数人が、ぴたりと話を止める。
微妙な空気が流れた。
「どうか……した?」奈々美は首を傾げた。
「奈々美、あんたあの子の自己紹介、聞いてたよね?」顔を顰めて、春香が言った。
こくり、と頷く奈々美。
「それでいて、声掛けてみようかなんて言う? 本当にお人好しなんだから!」
「そうだよ。『勉強しに来たのであって、オトモダチを作りに来たのではありません。懐かないで下さいね』なんて言う奴だよ!? 誰が懐くかっての!」
異口同音、類似の言葉が次々に吐露される。
「うーん、確かにいい自己紹介じゃなかったとは思うけど……」奈々美は困った様に苦笑する。「三上さん、人見知りするのかなぁ?」
「人見知りとかいうレベル?」春香は呆れ顔で溜息をついた。「本当に、奈々美もどっかずれてるんだから」
「でもさぁ、本当に勉強する為だけだったら、今は学校に来なくったって出来るし、高卒相当の資格取る事も出来るよねぇ? なのに高校入るって事は口とは裏腹な思いもあるのかなぁって……思ったんだけど」
「なるほど……。そう言われればそういう事もあるかも知れないわね」春香は唸った。ぼうっとしている様でいて、色々考えてるんじゃないの、という驚きもやや、含んでいる。
「でしょ? だから」本当は鎌って欲しいのかもと奈々美が言うより早く、春香の言葉は続いた。
「そうかも知れないけど、やだ。声なんか掛けないからね」
「あらら」奈々美は力なく苦笑する。
「大体、懐かないで下さいって何よ。懐くって言ったら動物とか、子供が懐くもんでしょうが。誰が懐くかっての!」
未だ未だ文句を連ねる友人達に、話題を繋ぐのに失敗したなぁ、と奈々美は溜息をついた。
それにしても、三上京香の台詞、あれは本当に本音だろうか?
駅前で春香達と別れ、自宅を含む住宅街へと足を踏み入れた奈々美は、またもや、件の転校生の姿を見付けた。
道端で立ち止まり、野良なのか迷い犬なのか、未だ幼い白い子犬を見下ろしている。その横顔は教室で見た時よりもどこかしら柔らかな表情で……しかし、不意にそれは豹変した。
「しっ! しっ! あっちへ行きなさい! 私に懐いたって駄目なんだからね!」鞄を振って――当たりそうで当たらない、絶妙な振り方だ――子犬を追い払う。「ほら! 行きなさい!」
途惑う様な足取りで、子犬は行ってしまった。ちょっと前迄、構ってくれそうな人と判断していたのだろう。何故怒られたのか、解らない様子だ。
そしてそれは奈々美も同様だった。何故、三上京香が突然子犬を追い払ったのか、解らない。穏やかな表情に、実は動物好きの優しい人なのかも、と夢想していただけに尚更だ。
「三上……さん!」思わず、奈々美は声を掛けていた。反対する友人はこの場には居ない。
驚いた様子で振り返った京香と目が合った。
「同じクラスの……」名前迄は覚えていなかったのか、言い淀む京香に、奈々美は改めて自己紹介した。
「木下奈々美。奈々美でいいよぉ」自然に、笑顔を浮かべる。
「……懐かないでって言ったでしょ」素っ気なく言って、京香は踵を返した。
「あらら」奈々美は力なく苦笑する。「でも、あたしがクラスメートだって、覚えててくれたじゃない」
「それは……休み時間に貴女達が騒いでいて、煩かったから、目に付いただけよ」
「それでも、なぁんにも興味がなかったら、覚えないんじゃないかなぁ? あたし、スポーツとか全く興味ないから、スポーツ選手の顔とか全く覚えられなくて、春香達にいつも呆れられてるんだぁ」
「貴女と一緒にしないでよ」京香はにべもない。
流石に、奈々美も溜息をつく。話の接ぎ穂が見付からず、仕方なく、単刀直入に訊いてみる事にした。
「ねぇ、さっき、どうして急にあの子犬を追い払ったの?」
見ていたのか、という咎める様な視線をほんの一瞬送ったものの、京香は黙って歩を進める。
「犬、嫌いなの? 寸前迄、何て言うか……穏やかな顔してたけど……」
ぴたり、京香は足を止めた。唐突過ぎて、後を歩いていた奈々美は踏鞴を踏む。
「嫌いよ」京香は言った。「犬も、犬みたいに懐いてくる人も」
「あー、今のあたしみたいなの?」自分を指差して、奈々美は苦笑いした。
こくり、京香は頷いた。黙った儘。
それでも……。
「嫌いなら、最初からあんな表情、出来ないと思うよ?」
「……貴女もしつこいわね。さっさと行きなさいよ! 懐くなって言ってるでしょ?」京香は怒鳴った。「行きなさい! 早く! ほら、さっさと……行って頂戴!」
怒鳴りながらも、彼女は自ら距離を取るべく、後退りした。何故か周囲に落ち着かない視線を飛ばしながら、顔を顰めて奈々美に離れるようにと言う。それは突き放す為の命令と言うよりも、懇願の響きを帯び始めていた。
「三上……さん?」彼女のおかしな振る舞いに、奈々美は寧ろ、足を踏み出した。
「行ってよ! 私から離れて! 奈々美!」
奈々美――そう呼ばれた事に思わず顔を綻ばせたのと同時だったろうか。
突然、右足に痛みを覚え、奈々美はその場に蹲った。何かに噛まれた様な、鋭い痛みに思わず悲鳴が漏れる。そして、それと同時に感じたのは、獣の臭い――犬だろうか? だが、先程の子犬などとは違う、もっと歳老いた、獣に近い臭いだ。
だが、その姿は見えない。痛みを訴え続けている足にも、何も噛み付いてなどいない。只、歯型の様に、やや鋭い弧を描く赤い点がぽつりぽつりと、浮かび出していた。
「止めて!」奈々美の悲鳴と被さる様に、京香が、こちらもまた悲鳴の様な声を上げていた。「止めなさい! お願いだから、もう止めて!――シロ!」
シロ――それがこの現象を引き起こした元凶だと、奈々美は瞬間的に察した。
そして、怒鳴った。
「こぉら! シロ! 犬の幽霊だか何だか知らないけど、ご主人を困らせるんじゃない!」
途端、怯んだかの様に傷みが退いた。ここぞとばかりに奈々美は言い募る。
「犬はご主人を守るもんでしょ? 心配掛けたり、困らせたりするんじゃないの!」
ほんの僅かの間、何者かの気配を、奈々美は確かに感じた。それは途惑う様に彼女と京香を見比べて、やがて消えて行った。
ぺろり――奈々美の足を済まなさそうに舐める様な感触を、そっと残して。
「シロは昔飼ってた犬でね……兄弟みたいに育ったんだけど、去年死んで……。それ以来なの。私が誰かと、あるいは何かと仲良くしていると、嫉妬なのか、心配なのか……。ああして邪魔するようになって」公園に移動して、濡らしたハンカチで奈々美の足を冷やしながら、京香は言った。
「だから、子犬も、人も懐かないようにしてたのね?」
「うん……」
「でも、ま、もう大丈夫なんじゃない?」奈々美は笑った。「多分、解ってくれたよ、シロ」
だから、友達になっていいよね、と笑う奈々美に、京香は穏やかに頷いた。
―了―
長くなったー(--;)
却って好きな人を遠ざける結果になる事もありますよね。
周りも迷惑だし(苦笑)
うちのお星さまになったワンコ達も
私を見てるかなぁ~と思っちゃいました。
巽さんお久しぶりです!
足が肉離れおこしちゃって
お休みしていました>_<。
お大事にです。
「鎌って欲しい?」
「ううん、あんまり好みじゃないなぁ。やっぱり剣の方が……」
んな訳あるか(^^;)
慌てて書いたら、変換ミスった(--;)
って、どうせならツッコミを忘れて(笑)