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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 宵の薄闇の中、十数人の小さな影がさんざめきながら街を横切って行く。
 手に手に持つのは、大小様々な袋と、懐中電灯。
 その電灯も必要無い程の月明かりが、一行の道行きを照らしていた。

 ハロウィンにしては早いけど――大志は二学期に入り再会して間も無い友人に尋ねた。
「ああ、大志は高校からの越境組だったっけ」敦司は懐かしげに一行を眺めて苦笑した。「ここらじゃ、毎年やるのさ。『満月様』って言ってな、収穫祭みたいな、ハロウィンみたいな……」
「へぇ、お菓子貰い歩いたりするのか?」
「ああ。そんなとこ」
「楽しそうだな」
「まぁな。ガキの頃は一大イベントだったよ。こんな暗くなってから外歩いてても、怒られなかったし」
 と、敦司は不意に含みのある笑みを浮かべた。
「でも、これには裏話もあってな……」抑えた声で、大志の興味を誘う。
「何だよ?」大志はそれに乗った。
「ああやって各家を回る間中、一人になっちゃいけない――迷って一人になった子は『影』に攫われる」
「影?」大志は眉を顰める。
「そう。月の『影』とも言われてるな」
「月の……」大志は呟きつつ、遠ざかって行く一行を見遣る。そう言えば手に荷物を持ちながらも、どうにかして手を繋ごうとしているリボンの女の子が居た。他の子達も、同様だ。敦司の代の裏話は、今でも未だ生きている様だ。
 しかし、実際に行方不明者が出た事があるのかと訊くと、敦司は肩を竦めた。
「都市伝説みたいなもんさ。昔あったとかいう話も聞いたけど、具体的にどこの誰とは……。大体本当にあったら、この行事、取り止めとかになってんじゃないか?」
 それもそうかと大志は頷く。
「大方、事故防止の為に大人が撒いた説教が元なんじゃね?」敦司は笑う。「それでもガキの頃はそれなりにびびってたけどな」
 今思えば笑える、と敦司は口の端を曲げた。

 角を曲がったからだろうか。いつしか子供達のはしゃぐ声も小さくなっていた。
 大志の家はその曲がり角の方、敦司はここから逆方向だった。また明日、そう言って軽く手を上げ、別れる。
 ちょっと歩くと、声には直ぐに追い付いた。じゃれ合いながら歩いている子供達の群れだ。なかなか進まないのも無理は無いだろう。
 それでも疲れたのかな、と大志は思う。声が小さくなっている――あるいは減っている?
 何となく胸騒ぎを覚えて、大志は脚を速めた。それとなく、先程見た時の記憶と比べてみる。

 ――減っている。意識して人数を数えていた訳ではないが、確かに、子供の数が減っていた。
 角を曲がってからは一本道。板塀の続く裏道だから、家々を訪ねているとも思われない。
 なのに――然も、子供達の誰も騒がない。さっき手を繋いでいたリボンの女の子も、その手の先の感触が無い事に気付かないかの様。
 当然の様に、大志の脳裏に先程の話が浮かぶ。
 しかし、あの話ならば攫われるのは「迷って一人になった子供」の筈――そう思う目の前で、先程から目を離さずにいた、リボンの子が、闇に滲む様に、消えた。
 それでも誰も騒がない。思わず「あっ」と声を上げた大志を、不思議そうな顔で振り返りはしても。
 何でだよ――薄ら寒いものを覚えつつ、大志は子供達に訊いた。
「なぁ……君等、これで全員か? さっき、もっと居なかった?」
 子供達は互いに顔を見合わせ、揃って首を傾げた。
『さあ?』
 それは判らないと言うよりも、どうでもいい、そんな響きだった。
 そして、さっさと踵を返して行ってしまう。そのはしゃぎ様は今迄と何ら変わりはないのだが……。

『さあ?』――その響きで解ってしまった。
 迷って一人になった子供、それは何も物理的にそうである必要は無いのだろう、と。
 繋がりの希薄な子供達、自分の居場所を見失った子供達、心が一人の子供達……それなら誰でも『影』に攫われ得るのだと。
 手を繋いだ位では、繋がりの取っ掛かりに過ぎないのだと。

 大きな月を見上げる。その強い光に、いつもより濃さを増した影がそこここに蟠る。
 あの子達はどこへ行ったのだろう? 一人で。
 敦司の頃には無かったと言う。それから何が変わってしまったのだろう?
 大志はいつしかぎゅっと握っていた手を開いて、携帯電話を取り出した。もう自分は子供ではない、そう思いながらも、彼は自宅に掛け……母の声に思わず声が掠れた。

 不思議がる母に回線を繋いだ儘、大志は残りの帰路を辿った。

                        ―了―

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無題
不思議な感じの小説ですね。
懐かしい匂いがすると言う感じかニャー?
冬猫 2007/10/06(Sat)01:56:38 編集
冬猫にゃん♪
巽です(返コメの仕方が変になってたの~☆)
懐かしい、ですか?^^
そちらには何か地域のイベントで面白いものとか、ありますか?
変わったものとか♪
巽(たつみ)【2007/10/07 14:25】
初めまして♪
こんにちは!
こういう感じの話,好きです!
これだけ短い話の中でもいろいろと考えさせられるところがあってすごいなー,と思います!
これからもガンバッテください~。
mad hatter URL 2007/10/06(Sat)22:50:54 編集
mad hatterさん♪
こんばんは。巽です。
有難うございます^^
そう言って頂けると励みになります♪
こういう奇妙な話系が多いですが、宜しかったらまた遊びにいらして下さいね♪ 頑張りますので^^
                   

巽(たつみ)【2007/10/07 14:22】
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